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    はんちょー

    らくがきだったりいろいろ

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    アンマッチ・スタンバイズ進捗その②

    #FGO

    アンマッチ・スタンバイズ エントランスの受付でアポイントメントを確認し、ふたりはすぐに待合室に通された。
     白壁に囲まれたこじんまりとした内装は、簡素ながら清掃が行き届いていた。
     二人掛けのソファーに隣り合い、出された煎茶を飲んで待つこと、数分後。
     軽いノックの後に、ガチャリと正面の扉が開いた。

    「いやー、どうも。お待たせしてすんませんね」
     顔を覗かせたのは、スーツ姿の長身の男性だった。後ろ手でドアノブを閉め、青灰色の短髪をかきながらへこっと会釈をする様は、軽薄ながらもどこか親しげな雰囲気を纏っている。
     入室するなり、彼はジャケットの内ポケットから名刺入れを取り出した。無造作に抜いた一枚の名刺を、慣れた手つきで金時の前に差し出す。
    「本日はお越しいただいて、どうもありがとうございます」
    「えっ、ああ、ハイ! こちらこそ!」
     ババっと席を立ち、金時も慌てて名刺を探す。わたわたとポケットを叩いて回る巨漢を、琥珀色の目はじっと待つ。かと思えば、隈の目立つ目頭がふっと和らぎ、やれやれと苦笑した。
    「知り合いだからって油断するなよ、坂田くん。お互い仕事に来てるんだから」
    「うぐ、すま……失礼しましたっ」
     首をすぼめながら引っ張り出した名刺を両手で差し出すと、彼は「はいどーも」と受け取ってくれた。
    「いいねえ新社会人、初々しくて。市村くんが来たときを思い出したわ。坂田くんでも案外こうなっちまうもんなのね」
     名刺を裏返しては見回し、ヘラヘラと笑う顔に怒気はまったくない。しかしその微笑ましいとばかりの言い草は、かえって金時の頬を羞恥で染め上げていった。
    「まあでも、次渡すときには失礼のないようにね。心配ないとは思うけど」
    「兄貴に負けねえくらい厳しいよなァ……斎藤サンもさ」
     ぶつくさ呟きながら、金時は交換した名刺に並ぶ『警視庁猟奇殺人課』の文字を黙読した。
     そうかい?と笑う刑事――斎藤一は、名刺をひらひらとさせた。
    「僕ぁ、君のお兄さんよりはマシだと思うんだけど。あ、これ本人にはナイショな」
     あの人怒ると怖えんだよ、と首を竦めてみせる斎藤に「知ってらあ」と、金時は実感をもって返した。
    「言わなきゃいいジャン。兄ィも心が読めるわけじゃねえんだしさ」
    「まあまあ。あ、オベさんにも渡しとこうか? 名刺」
    「あいにく返すものもないし、気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとう」
     にこやかにきっぱりと断られるも、斎藤は「あっそう」と気にもせず名刺入れを引っ込めた。銀髪の彼に特に反応しなかったのは、以前に見たことがあるからなのだろうか。もしかして自分だけ知らなかったのでは…と、さりげない疎外感を覚えてしまった金時であった。
    「あーそうだ、こっちの方も一応ね」
     ふと、斎藤が思い出したように取り出した別の名刺には、名前以外は違う肩書が刻まれていた。
     ――『宮内庁及び警視庁管轄 共同事例対策室 第一号』と。

     三年前に発足した、とあるプロジェクト。宮内庁と警視庁が手を結び、魔性の起こす刑事事件の対策に当たる部署の設立。
     その成功例として二庁のパイプ役となり、魔性案件の前線に立つ、若干二名の構成員。
     そのうちの一人、警視庁側の人間が彼、斎藤一。
     対する宮内庁側に属するのが、渡辺綱である。
     そして彼ら、共同事例対策室こそが、金時がバディに憧れを持つに至った、大きな大きなきっかけでもあった。

    (いいよな~、バディ……やっぱゴールデンだぜ)
     金時は羨みの嘆息とともに、その象徴たる名刺をいそいそと仕舞いこんだ。

     場が落ち着いたところで、一同はローテーブルを挟んで向かい合うように着席した。
    「さてと、本題といきましょうかね。例のウワサ話は聞いてきてる?」
     口火を切ると同時に、斎藤の纏う気配はわずかな鋭さを帯びた。つられて背筋が伸びる金時に比べ、オベロンはゆるりと足を組んだまま尋ね返した。
    「『お守りの夢』ってやつだろう?」
    「そうそれ。いつの時代も流行るもんだね、マユツバもののおまじないってのは」
    「けどよ、マユツバってわけじゃなかったんだよな? 何か起きたんだろ、事件が」
     金時が身を乗り出し、オベロンも彼の返答を傾聴する構えを取る。
     しかし。
    「いや? 起きてないよ」
    「はあ!?」
    「詳しく言うと、起きてすぐに解決しちゃったんだよね」
     声を揃えてつんのめった二人をヘラヘラと見比べ、斎藤は緩い口調で続けた。
    「概要としては、未成年の失踪未遂事件になるのかな。つい二日前だ。とある女子学生が真夜中に、急に家を飛び出してったんだと。ふらふら~っとね。んで、家族が偶然見つけて追っかけようとしたけど、玄関口に出たところで見失った」
    「見失う? 家から出たところでか?」
    「そう、まあそこも変なんだけど今は置いといて。それでご家族が、娘が居なくなったって警察に捜索依頼を出した。けど娘さんは次の日の朝になって、ひとりでにひょっこり戻ってきたんだわ、何事もなく。外傷もないし、何かされた形跡もないってんで、事情聴取の後はすっかり元の生活に戻ってるよ」
     なるほど、確かに『失踪事件』としては解決していることになる。だがそれ以前に、今の話には不可解な点が多すぎた。
     金時ですらそう思うのだ。目の前に座る切れ者の刑事が、怪しまなかったはずがない。
    「その聴取って、斎藤サンがやったのか?」
    「昨日ね」
    「だからウチに話が回ってきたんだな」
     そういうこと、と斎藤は背もたれに体重を預けた。彼が不可解に思ったからこそ、渡辺を通じて宮内庁に報告が行き、こうして調査の手が伸びることになったのだろう。迅速な連携は、まさしく彼らの遂げるべき本懐に沿った成果であったというわけだ。
    「てこたぁ、斎藤サンよ。その失踪未遂事件に、例の『お守りの夢』のウワサが関わってるんだな?」
     金時の確認にも、斎藤は鷹揚に首肯した。再び体を起こし、懐を探る。
     間もなく取り出された小さなジッパーバッグに、金時とオベロンの視線が集まる。透明なビニール越しに納まった品は、ふたりが道中で見合わせたばかり資料にも頒布されていた。
    「この『お守り』、失踪しかけた子の持ち物なんだわ」
     ひらひらと振り回したそれをテーブルに置き、ふたりの方へと滑らせる。魔性の存在を認知しているとはいえ、斎藤はその専門家ではない。故に、真に詳しい側である金時とオベロンの見解を聞きたいのだろう。
     すぐには手を触れず、身を屈めて近づき観察する金時。その一方で、オベロンは『お守り』を袋ごとひょいっと持ち上げた。危機感の薄い行動に金時が口を開けるのも無視して、目と鼻の先にぶら提げてじーっと見つめる。
    「まさか、押収? ひどいことするなあ、おまわりさん」
    「貰ったんだよ人聞き悪い」
    「貰った?」
    「そう、貰った。……聴取の時にな」
     話を続ける斎藤の顔に、不意に深く影が落ちた。
    「その子、おまじないを試してたんだよ。それでその夜……失踪した夜には『夢を見てた』んだと。

     ――そのお守りに、自分の望みを叶えてもらったんだとさ。夢の中で」
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