犬飼先輩お誕生日おめでとうございます! 今年の犬飼先輩の誕生日は、今までとは違って少しくらい特別なことをしようと考えていた。それは、俺が高校を卒業して大学生となり立場が変わったことや、近界遠征が一段落したことも関係していた。去年は新学期前に遠征選抜試験があったし、合格を告げられてからも通常の防衛任務に加えて特別な訓練もあったし、あっという間に大型連休を迎え、夏になってしまった。犬飼先輩の誕生日もそうだけれど、俺の誕生日も遠征で曖昧なかんじになってしまって、二宮さんの誕生日に三人まとめてお祝いし直したんだ。もちろんそれはそれで嬉しかったし楽しかったけれど、犬飼先輩とボーダーの同僚や学校の先輩後輩という関係を越えて付き合うようになったのだから、少しくらいは特別なことをしてみたいと、そう思った。ただ、残念なことに俺にはサプライズを企画出来るほどの知識もセンスも無かったから、これは予定を組まれる前に聞くしかないと、ストレートに尋ねることにした。犬飼先輩、次の先輩の誕生日はきちんとお祝いしたいので、何か欲しい物や行きたい場所があれば今から教えてください。だって、犬飼先輩の誕生日は大型連休の期間中にあるから、家族旅行の予定を入れてしまう可能性だってある。だから急がないといけないと、俺は半年前の十一月に切り出したんだ。さすがに早すぎる自覚はあったけれど、犬飼先輩のきょとんとした顔を見たら急に恥ずかしくなってしまった。辻ちゃん、自分の受験よりもおれの誕生日のこと考えてくれてるの? 揶揄うような声色だというのに、その目はひどくあまくて、細められた空色の三日月に俺はやっぱり赤くなってしまった。そして、犬飼先輩にしては珍しく長い沈黙の後、聞いたことのない振り絞るような声でこう言ったんだ。
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