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    onsen

    @invizm

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    ドラスタ仲良し
    グラブルコラボイベでお空にいるときのドラスタ3人の話。グラブルがまだアルビオンをクリアしたぐらいのところなのでちょっとグラブル側の設定がよくわかっていないかもしれません。
    腐向けではたぶんありませんがドラスタが仲良しです。
    お空で魔物との戦闘で大怪我を負った翼を心配する薫先生と輝。

    初出 2015/10/24 支部

    ##SideM

    冷たい空に誓いを「桜庭、そろそろ寝ろ。おまえも限界だろ」
     天道が声をかけても、桜庭は小さく首を振るばかりだ。その怜悧に整った顔は今憔悴に染まり、その細い腕は、指先は、微かに震えながら、動かない柏木の微かに上下する胸に添えられていた。
     先ほどまでの苦しげな呻きは治まり、今はその呼吸は穏やかだ。危機は脱した、とは桜庭が言ったことだしそれならば間違いないのだろうと思う。けれど、その顔に安心した様子は微塵もない。
     いつもの彼らの日々の中でならば、想像さえしないような怪我をした。動物園やアフリカですら出会うことはありえないだろう奇怪な獣のおぞましく歪んだ大爪が、柏木の胸を抉った。
     噴き出す赤。悲鳴さえなく崩れ落ちる仲間。狂ったようにその名を呼びながら、それでも自動化されたように、その身体は柏木の命を繋ぎ止めるべく動く、桜庭。自分ができたことは、はじめは動揺して動けずいた桜庭に声をかけ、ほんの僅か、頭のごく一部の落ち着きを取り戻させたことだけだった。
     そして今、やはり普段の世界ではあり得ない治療技術で、柏木の傷は痕も残らずに塞がり、仰々しい治療機器などない極普通のベッドの上で、ただただ眠っている。ただ失血量を考えると、しばらくは動けないだろうというのが治療に慣れた面々の共通見解だった。大丈夫、とは言うけれど。
    「……輸血でも出来ていれば良かったんだがな。血液不足が、主要な臓器にどれほどダメージを与えたのかがわからない。この設備じゃ精密な検査もしようがない。アイドルとして体表に傷が残らなかったのはせめてもの幸いだが、正直なところ何が起こるかわからない。いざというときすぐに対処できるよう、僕は、柏木が目覚めるまでは、主治医として付き添う」
     いつものように淡々と告げる。その手は、相変わらずどういう理屈で発動しているのかよくわからない不思議な技で以て、柏木の身体を癒し続けている。それが無茶なことぐらい、普段の桜庭なら、あるいは現在の桜庭でも、わかるはずだった。もとより普通の、平和な日本での生活の中でだって体力があまりなく疲れやすいほうなのだ。ましてや、こんな世界レベルで慣れない環境で、普段ならば経験するはずのない戦いの日々の中で、桜庭の身体だって傷ついている。
     それでも、指摘したところで桜庭が素直に休まないことぐらいわかっていた。以前ほどは頑ではないとはいえ、頑固でこうと決めたら譲らないところはおそらく生来のものなのだろうし、今ここにはいないプロデューサーを含めた自分たちDRAMATIC STARS、特に柏木に対してはかなり心を開いてくれたけれど、それが現在のような状況では逆に、桜庭から冷静な思考を奪ってしまうことも、天道は見てきている。
    「なにか甘いの持ってきてやるよ」
     だから、そうとだけ告げると、ちらりとこちらへ視線を向け、少し掠れた声で、ああ、頼む、と言い、そしてまたすぐにその目は柏木へと戻った。

     24時間営業の現代日本とは違い、こんな真夜中にぱっとコンビニでケーキを買ってきてやることなんかできない。ありもので目一杯甘くしたホットミルクを持って行ってやっても、桜庭は先ほどと変わらない様子で、柏木の傍に佇んでいた。
    「ほら、これ飲め」
     差し出されたマグを素直に受け取り、聞こえるか聞こえないかぐらいの声で、感謝する、と呟いたのを天道の耳は確かに拾う。空腹だったのかそれをごくごくと飲み干した後、しかしマグを突き返してくるわけでもなく、両手で大事そうにそれを撫でている。その様子が気にかかって、その袖口から覗く細い手首に触れて、ぞくりとした。到底人間の身体とは思えないぐらいにそれは、冷たくて、まるで。
    「……なにをするんだ、天道。離せ」
     その眉を不快げに歪め、思わず掴んでしまったその手を振り払おうとする動きに、いつものような力はない。受け入れられているとは思っていない。だから、
    「おまえ、本当にもう限界なんだろ。なんだよこの体温。こんなんじゃおまえまで死んじまうぞ……!」
     まるでその温度が、この世界で桜庭が操るものと同じようで。元の世界では使い得ない能力や、こちらの世界にしたって無理のある行使での治療が、桜庭の身体にも無理をかけているのかもしれない。
     ひたすら冷たい手首から伝わってくるのは、確かな震えで、それは天道の手の熱を奪っても猶、治まりはしない。
    「おまえ『まで』だと? ふざけるな。元弁護士のくせに日本語の使い方がおかしいんじゃないのか。……柏木が、目覚めないはず、ない、だろう。そう簡単にいなくならないと、言ったのは君だろう……?」
     そう言って、きっと睨みつけるその目には、はっきりと不安が見て取れて、その指先は、まだ温かいままの空っぽのマグを、ぎゅっと握り締めている。
    「……そうだな。俺も翼も、おまえよりは頑丈だからな。おまえを置いていなくなったりなんてしないさ」
     ―—だからおまえも、いなくなってくれるなよ。その言葉の代わりに、自分の上着を桜庭の肩にかけてやった。
    「何のつもりだ」
    「まだ起きてるつもりなんだろ。俺はもう休むからこれかぶってていいぞ。この空は、夜はどうにも冷え込むからな。おまえが風邪引いたら、誰が翼の面倒を見るんだよ」
     脱ごうとするその手を押さえつつ一息に言い切ると、渋々、といった様子を隠しもせずに、それでも大人しく首もとを締めた。そして代わりにマグカップを天道に手渡すと、その細長い指はまた、柏木に触れた。先刻大きな魔物の爪が抉った箇所を癒すようにか、或は呼吸を確かめるためなのか、胸の上に置かれた掌は、柏木の呼吸と共に上下する。
    「……それなら君は一刻も早く休め、天道。起きていたところで君にできることは特にない。患者の数をこれ以上増やされたら困る」
     相変わらず刺の多い言い方だけれど内容は間違いなく正論で、技術的に天道が桜庭と柏木にしてやれることはなにもない。だから。
    「わかった。それじゃちょっと休むな。おやすみ桜庭」
    「って、おい。そんなところで何をしている」
    「何って、寝ようとしてるんだけど」
     空いているけが人用のベッドに横になろうとすると、桜庭は眉を吊り上げた。
    「君の部屋は別にあるだろう。そんなところで寝られては落ち着かない」
    「あー、悪い悪い。でもな」
     言葉の足りない桜庭の言わんとしていることは、長くはないが濃い付き合いの中で、天道や柏木、そしてこの場にはいないが担当のプロデューサーはある程度理解できるようになってきていた。ここで落ち着かないのは桜庭にとってもそうだけれど、横で重傷者の治療なんかされていたら、気になって天道がよく眠れないのではないか、という気遣いだ。多分。
    「万が一おまえが倒れたら、すぐに気づいてやることぐらいはできるぜ。眠たくなったらここ代わるから遠慮しないで叩き起こしてくれよ」
     そう言うと、やや小振りな苦虫をかみつぶしたような顔をして、「……せめて寝間着に着替えてこい。ベッドが汚れるし、疲労が取れにくい」と言って、またその視線を柏木へと戻した。

     常と違う物音が絶え間なく響く騎空艇の夜にももう慣れて、魔物が襲ってきてもなお熟睡できるようになった。
     それでも、こんな状況であるからか、よく見知った人物の発した音だからか、すぐに目を覚まして顔を上げれば、桜庭が立ち上がりざまに椅子を倒してしまったところだった。先ほど貸してやった上着もばさりと落ちる。
     柏木の容態になにかあったのか、と一瞬血の気が引いたが、それで寝起きの頭は急速に覚醒する。そして桜庭の様子から、おそらくは逆のことだろうと気づいて、一度全身から力が抜けた。
    「目を覚ましたか。ここが、……いや」
     そこで言葉を切り、桜庭がじっと柏木を見つめていた。
    「君が誰か、僕が誰か、……僕たちが何者か、ちゃんとわかるか」
     少しほっとしたような、けれど切実な声は、天道が眠る前に聞いたものよりもさらに掠れていて、あれから何時間経ったのだろうと思う。そしてその問いかけに、少しだけ間があってから、ふたりが切望していたやわらかな高い、けれど常になく弱々しい声で、応えがあった。
    「オレは柏木翼で、貴方は桜庭薫さん。オレたちと、輝さんは、DRAMATIC STARS、です」
    「そうだ。脳に異常はなさそうだな」
     そう言った声は、柏木だけではなく桜庭自身にも言い聞かせているようで、気づいてはいたけれど、このわかりやすくてわかりにくい男が、心の底から柏木を心配していたのだと改めて確信した。
    「ごめんなさい薫さん。オレ……魔物にやられて倒れちゃったんですよね? 薫さん、きっとずっとオレの手当てしてくれてたんでしょ……?」
    「元医者として当然のことだ。幸い、この世界で僕が得た力には、傷の治療に役立つものもあったしな」
    「……ありがとうございます、助かりました」
    「礼を言われるようなことじゃない。ただ」
     そこで、喉が詰まったみたいな音が、聞こえた、のは、多分気のせいじゃない。
    「君が……君が、生きていてくれて、よかった」
     その声音は、いつもこの男がまとっている、硝子で出来た膜のようなものの罅割れから、こぼれ落ちたかのように響いた。
     立ち上がって、駆け寄ってやろうとして、身体が動かなかった。その声に、呼吸に、やっと今何が起きていることの意味を理解できた自分の鈍さを呪う。
     柏木翼が大怪我をしたこと、命が危なかったこと、死ぬかもしれなかったこと。その、意味。
     思えば今回のことが、撮影なんかではないと、現実だと、一番最初に気づいたのは桜庭だった。剣も魔法もある異世界に迷い込むだなんてファンタジーにもほどがあることを、よりによって一番非現実的なことを信じなさそうな彼が真っ先に受け入れたのだ。それは、桜庭はその剣で切り裂いたものの感触を、その行為の意味を、知っていたからかもしれない。
     だからきっと、柏木の命の実感も、それが失われる可能性の実感も、天道にとってと桜庭にとってでは全然違ったものだったのだろう。
     切れば血が出る。命は失われる。そしてそれは戻らない。そのことを実感として知っているのは、自分たちの中では桜庭だけだった。勿論、自分たちだって大切な存在を亡くしたことはある。それでも、それは「大切な存在が永遠にいなくなってしまうこと」についてだけの実感であって、命そのものに触れること、与えること、守ること、奪うこと、その意味を考える機会はなかった。文系である天道にはカエルの解剖の経験すらなく、せいぜい料理で魚を捌いているぐらい、それもまだ生きている魚を切ることなんてない。或は、幼い頃の残酷な行為だとか、大人になってからも害虫をスリッパで叩き潰すことだとか。何が違う、と言われてしまえばそれまでかもしれないけれど、けれど、命を奪っているという実感はなく、自分たちは日々を生きている。けれど、おそらく桜庭は違う。直接その手で、生命に触れる行為の意味を知っている。どこか現実感のないままだった自分たちとは違う。
     そしてその彼が、扱いに慣れているからと、直接相手に触れる、切り裂く武器を得物として選び、振るっている。その細い腕で、自分が斃した命の存在を感じながら。自分が生きるために、仲間を守るために。
     自分が、そして柏木が、桜庭にとってそれをするだけの価値がある存在だという、その重さ。
    「な、泣かないでください薫さん」
    「泣いてなど」
    「泣きそうな声、してます……」
     此処からでは、見えるものはいつの間にか崩れ落ちるように膝をついてしまった桜庭の喉に伸ばされた、柏木の手だけだ。
    「泣きそうな、顔も。目、真っ赤です」
    「……寝不足なだけだ」
     喉に触れた手は、続いて顔に伸びる。桜庭がそれを振り払う様子はなく、大人しく、目元を触らせていた。
    「だったら、休んでください。薫さんの身体、氷みたいに冷たくなっちゃってる……。オレはもう大丈夫ですよ。……ちゃんと薫さんが寝て起きても、オレはいますから」
    「だが」
    「平気です。薫さん、オレと違って繊細なんですから、ちゃんと寝てください。それに、オレたちには薫さんがついてくれているでしょ。だから死んだりしませんよ。ずっと、あなたのそばにいます」
     その言葉の重さに、唐突に、天道は気づいてしまった。発した柏木は知っているのだろうか。そして、言われた桜庭も。
     それは呪いじゃないのか。
     幼い頃とは違い、無力ではない桜庭にそれを告げることは、もしも柏木や自分になにかあったら、それは、桜庭の罪となってしまうことを意味してしまう。少なくとも、桜庭はきっと自分を責めるだろう。守れなかった、救えなかった、自分が救わなければならなかったのに、と。
     翼が体調不良で倒れたときに動揺する桜庭に自分も似たようなことを言ってしまったことがあった。その時は不安がる桜庭を元気づけたい一心だった。けれど、柏木が実際に死の淵に瀕し、同じ瀬に佇んで必死で救い上げようとする桜庭を見てしまった今、また同じ言葉を言えるだろうか。言っても、良いのだろうか。
     そんなことを考えていると。
    「柏木」
    「はい」
    「……DRAMATIC STARSには、僕がいる。君も、天道も、決して死なせなどしない。絶対に」
     そう、いつものような澄んだ声で、力強く答えた、次の瞬間。
     くしゅん、とくしゃみをひとつして、少し喉に痰が絡んだような呼吸をした。
    「か、薫さん、あったかくして寝てください。本当にオレはもう大丈夫ですから!」
    「だがしかし今は誰も手が空いていないし、君をひとりで置いておくのは……」
    「それならそこのベッドに寝ればいいですよ。具合が悪くなったら起こしますから」
    「そこは今天道が寝ている。あの男も君や僕を心配していたからな、相当疲れているはずだ。寝かせておいてやりたい」
     その言葉に、意識せず頬が緩んだ。他人に対して基本的に言葉足らずで辛辣な桜庭だが、柏木に対してはそれが多少和らぐようで、ある意味ゲヘナ語以上に難解な桜庭の真意を理解できるようになったのは、柏木のおかげだ。だからいつもの言い草でも理解はできる。それでも、直接的な労いや優しい言葉を聞くのは悪い気持ちはしない。
     が。言いながらこちらを振り向いた桜庭と、
    「あ」
    「あ?」
     うっかり目が合った瞬間、その眉間にみるみる盛大な皺が刻まれていく。
    「盗み聞きなど悪趣味だな。起きていたのなら言えばいい。そのつもりがないなら寝たふりを貫け」
     その言葉は半分は本音で、半分は照れ隠しだろう。馴れ合いたくない、などと言ってわざと他人を遠ざけるような言葉を選ぶくせも完全になくなってはいないけれど、本当はもうそれなりに自分や柏木を頼りにしていることも、……失いたくないと強く願っていることも、もう知っているから。
    「なんだよ。いつもは俺がしゃべるとうるさそうにしてるくせによ」
    「だったら寝ていろ。まだ夜も明けてない。君は明日も団長達と一緒に出かけるんだろう。寝不足で足を引っ張るようなことがあっては僕らの名誉に関わる」
    「ああそうするよ。じゃあ俺は部屋に戻って寝るから、ここはおまえが使え、桜庭」
     そう言うと、きょとんとしたようにその青みがかった目が開かれた。
    「翼についていてやりたいんだろ。ここで寝てればいいじゃねえか」
     桜庭は小さく首を振り、目を逸らした。
    「僕はまだ平気だ。疲れて寝ている人間を起こして移動させるなど、元とはいえ医者のやることじゃない」
    「じゃあこのベッドで一緒に寝るか?」
    「………………何?」
    「俺のカラダで温めてやるよ、さ・く・ら・ば・ちゃん」
     ぺろんと布団を半分捲り上げ、極まれにくるグラビア仕事で身につけた流し目をしつつ、一番上のボタンを外し、ついでに投げキスのひとつも飛ばす。その途端、折角の綺麗な肌に刻まれた眉間の皺がみるみる深くなったのを見て、さすがに調子に乗りすぎたかと天道は気づいた。
     照れ隠しではなく、本気で機嫌を損ね始めている。何があっても離れようとしなかった柏木のベッドの横からこちらへとずかずかと歩み寄り、布団を引っ剝がすと、
    「ふざけるのもいい加減にしろこの下品な中年が。そうだな年寄りは朝が早いものな。だったら遠慮なく君を叩き起こしてここを譲ってもらおう!」
     そう低く言い、普通生きた人間ではありえないほどに冷たくなってしまった痩せた手で、天道をベッドから引き摺り落とそうとしてくるものだから、慌てて起き上がってその場所を譲った。
    「ったく! そんなにしなくたってむしろ譲らせてくれって言ってるだろうが!」
     その言葉には返さず、ただふんと鼻を鳴らすと、まだ天道の体温が残っているだろうベッドに腰掛け、靴と上着を脱ぎ、首元を緩める。その様子を頭を起こして見ていた柏木が、ほっとしたように笑った。
    「柏木、本当に大丈夫か? 絶対に無理はするな、気になることがあったら今のうちに言え」
    「大丈夫ですよ、本当に。薫さんと輝さんがいてくれたからです」
    「少しでも異常を感じたら遠慮などせずに僕を起こすんだぞ」
    「はい」
     少し苦笑しながら答える柏木の声は、いつもともうあまり差がないように聞こえて、天道もやっと少し安心する。
    「天道、君もさっさと自分の部屋に帰って寝ろ。今ならまだ出発まで何時間か寝れるだろう」
    「わかったよ。ちゃーんと団長達の役に立って、みんなで無事に帰ってくるから心配するな」
     柏木が倒れたときみたいな顔を、あんな思いを、させたくない。もう二度と、少なくとも自分のせいでは。
     そう言うと、少し困ったように目を伏せてから、桜庭は小さく頷いた。
    「大丈夫だって。そんな顔しなくたって、ちゃんと俺はおまえらが待っているところにお土産持参で無事に帰ってくるさ」
    「君に心配されるような顔など、別にしていない」
    「安心しろ。俺は絶対おまえより長生きして、おまえの葬式で弔辞を読み上げてやるつもりでいまから最高に笑いも涙も取れるやつを考えているんだぜ」
    「はっ、僕より年上の中年が、何を言う。だいたい僕の葬式で君のくだらない駄洒落を披露してみろ、末代まで不幸が訪れるような下準備をしておくからな」
    「中年ってな! 俺とおまえは二歳しか違わねえんだ。体力は俺の方があるから絶対おまえより先に死んだりしないからな」
    「じゃあ、オレも薫さんより長生きして、喪主を務めますね!」
    「おい柏木、喪主の意味わかっているのか?」
    「え?」
     いつものようなわかっていて言っているのかわからないのかが見た目からはわからない調子で言うものだから、すっかり毒気を抜かれてしまって、桜庭がほんの少し、口元だけで笑ったのに天道は気がついた。
     桜庭を置いていなくなったりしない。
     その言葉を、呪いではなく誓いにできるのならば。そう、強く願う。
     たまにしか笑わない、たまにしか願わない桜庭が、それでも、いつかすべてが終わるその時には、自らの役割は果たしたと笑っていられるように。
     願わくばその時まで、ずっとみんなで共に在るように。
     少しだけ気を抜いたような表情で、漸く眠ろうとする桜庭と再び寝付いた柏木の間で、天道は小さく祈った。
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    Replies from the creator

    onsen

    DONEクラファ仲良し
    クラファの3人が無人島で遭難する夢を見る話です。
    夢オチです(超重要)。
    元ネタは中の人ラジオの選挙演説です。
    「最終的に食料にされると思った…」「生き延びるのは大切だからな」のやりとりが元ネタのシーンがあります(夢ですが)。なんでも許せる方向けで自己責任でお願いします。

    初出 2022/5/6 支部
    ひとりぼっちの夢の話と、僕らみんなのほんとの話 --これは、夢の話。

    「ねえ、鋭心先輩」
     ぼやけた視界に見えるのは、鋭心先輩の赤い髪。もう、手も足も動かない。ここは南の島のはずなのに、多分きっとひどく寒くて、お腹が空いて、赤黒くなった脚が痛い。声だけはしっかり出た。
    「なんだ、秀」
     ぎゅっと手を握ってくれたけれど、それを握り返すことができない。それができたらきっと、助かる気がするのに。これはもう、助かることのできない世界なんだなとわかった。
     鋭心先輩とふたり、無人島にいた。百々人先輩は東京にいる。ふたりで協力して生き延びようと誓った。
     俺はこの島に超能力を持ってきた。魚を獲り、木を切り倒し、知識を寄せ合って食べられる植物を集め、雨風を凌げる小屋を建てた。よくわからない海洋生物も食べた。頭部の発熱器官は鍋を温めるのに使えた。俺たちなら当然生き延びられると励ましあった。だけど。
    12938

    onsen

    DONE百々秀

    百々秀未満の百々人と天峰の話です。自己解釈全開なのでご注意ください。
    トラブルでロケ先にふたりで泊まることになった百々人と天峰。

    初出2022/2/17 支部
    夜更けの旋律 大した力もないこの腕でさえ、今ならへし折ることができるんじゃないか。だらりと下がった猫のような口元。穏やかな呼吸。手のひらから伝わる、彼の音楽みたいに力強くリズムを刻む、脈。深い眠りの中にいる彼を見ていて、そんな衝動に襲われた。
     湧き上がるそれに、指先が震える。けれど、その震えが首筋に伝わってもなお、瞼一つ動かしもせず、それどころか他人の体温にか、ゆっくりと上がる口角。
     これから革命者になるはずの少年を、もしもこの手にかけたなら、「世界で一番」悪い子ぐらいにならなれるのだろうか。
     欲しいものを何ひとつ掴めたことのないこの指が、彼の喉元へと伸びていく。

     その日は珍しく、天峰とふたりきりの帰途だった。プロデューサーはもふもふえんの地方ライブに付き添い、眉見は地方ロケが終わるとすぐに新幹線に飛び乗り、今頃はどこかの番組のひな壇の上、爪痕を残すチャンスを窺っているはずだ。日頃の素行の賜物、22時におうちに帰れる時間の新幹線までならおふたりで遊んできても良いですよ! と言われた百々人と天峰は、高校生の胃袋でもって名物をいろいろと食べ歩き、いろんなアイドルが頻繁に行く場所だからもう持ってるかもしれないな、と思いながらも、プロデューサーのためにお土産を買った。きっと仕事柄、ボールペンならいくらあっても困らないはずだ。チャームがついているものは、捨てにくそうだし。隣で天峰は家族のためにだろうか、袋ごと温めれば食べられる煮物の類が入った紙袋を持ってほくほくした顔をしていた。
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