ペルセポネの帰還「……おかえりなさい。ご飯、すぐできますけど、食べますか」
扉を開けるとそこには伏黒恵が少しだけ驚いた表情で立ち尽くしていた。がらんとしたワンルームの部屋は、昔と変わらない物への執着の少なさを感じさせる。それでも部屋の中心にあるダイニングテーブルと、ダブルベッドからはかろうじて生活感を感じた。
「……うん、いただこうかな」
五条は部屋の中心へとずかずかと足を踏み入れ、ダイニングテーブルの椅子を引いた。そして、ニィと唇の片方を吊り上げ伏黒を挑発するようにガンをつける。
「恵の手料理なんて久しぶりだね。少しはレパートリー増えた?」
伏黒は五条の宙のような瞳を真正面から受け止めた。
「アンタの口に合うかは分かりませんが、一応、新しいものを作ってみようかと思います」
「へぇ、楽しみだね。じゃあお手並み拝見させてもらおうか」
伏黒は席に着いた五条を確認した後、部屋の片隅のキッチンへと向かった。
すぐにキッチンからはいい香りが漂ってきた。五条は上機嫌に鼻歌を歌っている。
「お待たせしました」
よほど入念な準備がなされていたのか、程なくしてテーブルの上には伏黒が作ったとは思えない料理がズラリと並んだ。
ルッコラ、フェタチーズ、オリーブの実、クルミ、ザクロの粒が混ざり合ったサラダ。
ミートソースやホワイトソース、ジャガイモ、ナスなどを重ねて焼いたムサカ。
白インゲン豆をメインんいセロリやタマネギ、トマト等で作られたスープ、ファソラーダ。
「へぇ、洒落たモン作るようになったじゃん」
向かいに座った伏黒はいつも以上に寡黙に、もとい言葉に詰まったように眉間に皺を寄せている。
「……最初の食事は大切にしたいと思って」
ぽつりとこぼした伏黒は、苦しそうに、それでも嬉しそうに、珍しく笑みを浮かべた。
「他の奴のところじゃなくて俺のところに来てくれて、嬉しいです」
熱烈な愛の言葉と、食事の提供という行動に五条は堪えきれず腹を抱えて笑った。
「ハデス様の監視から逃れられる術があったら教えてほしいね」
五条はザクロを数粒指でつまみ口に含んだ。
「僕は数カ月しか滞在しないなんてことないから、安心しなよ」
ペルセポネの帰還
(ヨモツヘグイ)