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    あおい

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    あおい

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    ショウエル/ショウ⇢エルの告白話
    だらだら長い。ショウくん17歳設定

    #ショウエル
    shol

    ショウエル告白話とある島に停泊しているグランサイファーに、ある日シェロカルテが訪れていた。
    「この島はですね~ 現在、各島のさまざまな名産品、特産品を集めた大きな市場を開催しているんですよ~ そこで~商人の魂を持ったショウさんに、せっかくなので案内も兼ねてご一緒に見て回らないかと思いまして~」
    「わぁ~名産品ですか~楽しそうです!」
    「いろんな島のりんごがあるかもしれねぇのか?」
    「ふふふ~ 食べ物から工芸品、武具などさまざまな物が集まるんですよ~ 有力な商会も多数参加していますので、ショウさんにはとても勉強になると思いますよ~」

    そんな誘いを受け、二つ返事で返す。
    団長にルリア、ビィも同行することになり、あとは……と考えて、マナリア学院のケッタ仲間たちに声をかけると、興味津々といった様子で誘いに乗ってきた。
    ここまで来たら、やはりエルモートにも声をかけようと思ってしまう。
    普段も艇の中で、学院から出された課題をこなす時に、結局エルモートが教師のようになって教えているので、なんだかんだと言ってもいつまでも身近な教師という感覚なのだ。

    「ガキどもの引率をしろってかァ?」
    文句のような台詞だが、ハッキリと断らないので了承の意味だ。

    そんなわけで昼食を摂った後、皆で集まり市場へ向かおうとすると、団長が単車に乗せて欲しいと言い出した。
    トカゲが単車を乗り回していたのを見て密かに憧れていたらしい。
    団長とトカゲがツバサに、ルリアがタイガに、シェロカルテがリンタロウに、俺がエルモートを乗せて行くことになった。二ケツできるのか?というような単車もあったはずだが、「こんなこともあろうかと、ってヤツッスね!」と自慢げに改造を加えたシートを見せられた。

    初めて単車に乗る者たちのはしゃいだ声を聞きながら、市場へ到着する。単車を降りて、連れだって歩く間も皆楽しそうだ。その空気に染まってわずかに心が浮き足立ってくるが、よく考えなくても俺は仲間と一緒にShoppingなんて記憶がない。宿命夜想曲の奴らと居る時の雰囲気とも違う。どういう態度でいればいいかわからず、そわそわしてしまう。
    「わ~~~ 人がたくさんです!」
    「すげぇ広い市場なんだな! 店の続いた先が見えねぇよ」

    家族連れ、友人同士、商人の集まり、いろんな人間がそこかしこを行き来し、蒼空の下にたくさんの出店が旗を出し、店員が呼び込みをしている。

    「うまいりんごを売ってる店を探そうぜ!」
    「特産品が集まっているということは、フートン焼きなんかもあるかもですね!」
    「おーい、出店の地図あるみたいだぜ」
    「俺、そういやあんま金持ってねぇべ」
    「お前らはしゃぎすぎんなよォ」

    仲間たちの声も、大勢の人々のざわめきに紛れてしまいそうだ。本当に活気のある市場なんだな。
    「ではでは~ショウさんは私が案内しますよ~」
    「ああ」

    次々に品物に目を向けてどんどん進んでいくビィとタイガに団長やツバサたちが続き、俺がシェロカルテの簡単な解説を聞きながら歩き、その後ろをエルモートがゆっくり周りに目を配り、なんとなく皆を見守るような形になる。
    少しずつお互いの距離が開き始め、それぞれの姿が目で追えなくなりそうな、その時。


    「放火魔エルモートじゃねぇか」


    その声は、周囲の空気を切り裂いて一直線に飛び込んできたかのようだった。何のことか理解できず、思わず身体が固まる。無意識のまま糸に引かれるようにゆっくりと後ろを振り返る。
    すると、少し距離の開いた場所で、1人のエルーンの男がエルモートの腕を掴んで立っていた。瞬間何もわからないまま怒りがこみ上げて、その2人まで早足で距離を詰める。エルモートの傍まで来ると、彼の瞳は光を失い、感情が抜け落ちたような顔をしていた。
    「……」
    ニヤニヤした顔でエルモートに絡んでいるエルーン男を睨む。さっきの不穏な言葉はこの男のものなのだろうか。状況を整理しようと周囲を確認すると、後ろに仲間のような態度をした男があと2人いる。
    「手を離せ」
    「なんだァ……お前は?」
    「なんだぁ? コイツ」
    後ろの2人も前のめりになって言葉を投げてくるので、若干、場が混乱し会話が混迷する。
    「何なんだこいつらは」
    埒があかないので今度はエルモートに話しかけるが、彼は少し目を伏せて黙ったままだった。いつも掴み所のない態度で、無駄に飄々としている彼のこんな様子を見るのは初めてで、途端に心が狼狽えた。

    「お前、島から逃げたって本当だったんだな~ 急に居なくなったから、死んだのかと思ってたぜ」
    エルモートに絡んだ男がニヤついた顔のまま吐いた台詞に目を見開く。後ろにいる男たちも、ギャハッハッハと下卑た笑い声を上げた。
    自分の眉間にしわが寄り、こめかみの血管が浮き出ているのがわかる。なんだこいつらは……!
    エルモートの様子を窺っていた目を見知らぬ3人の男に向け、はっきりと敵意を表すと、今度は俺と目を合わせてきた。
    「お前、今のこいつと知り合いなの?」
    「だったらなんだ」

    「こいつはな~昔俺たちの島の放火魔だったんだよ」

    「こいつのいる所にはいっつも火事が起きてなぁ」

    「……Hell No あり得ない」

    絶対にあり得ない。
    あるとすれば、冤罪しかない。身に覚えのない罪をきせられた己の過去を思い出す。エルモートが、自分を「放っておけない」と言っていた言葉の意味を今知った気がした。
    「ちゃんと正当な捜査はされたのか? 事故の可能性は? 事故と放火は違う。被害の規模は? 人的被害はあったのか?」
    「あァ……? 何言ってんだお前」
    そんなことはどうでもいい、といった態度に、こいつらはただエルモートを馬鹿にし、見下したいだけなのだと感じる。……許せない。

    「お前どっかの艇に連れ去られたんだよな~? こんな所に居るなんて、奴隷商人にでも買われたのか?」
    「……こいつ、そういえばいい身なりしてるな。もしかしてこれがご主人様なのか?」
    俺とエルモートを見比べて、気に障る気色悪い声で男たちが喋る。
    「……黙れ」
    「お前、こいつの慰み者になってるのか?」
    「黙れ」

    人の話を聞かず、エルモートに対する度重なる侮辱・侮蔑の言葉に血が煮えたぎる。
    ……これまでの人生で、自分は幾度となく憤怒してきたが、それは怒りだけではなく、悔しさや戸惑い、憤り、泣きたいほどの感傷、羨望、無力感、いろいろな感情が含まれていたと思う。
    今、これほどに純粋な怒りに染まるのは初めてだと感じた。……頭の中で、ドラムロールが鳴り響く。

    「ショウ、やめろ」
    最初にエルモートに絡んだ男をぶちのめす思考で埋め尽くされ、ゆらりと身体を動かした俺の前に、瞬間エルモートが身体を割り込ませた。
    未だ血の気が失せた能面のような顔をエルモート。アンタにそんな顔をさせた人間を絶対に許さない。
    「どけ」

    なに? 喧嘩? というざわざわした人々の声が周囲にさざめきのように広がっていく。例の男どもは「お、やんのか?」と笑いながら挑発してきた。上等だ……

    「2人共、どうしたの」
    暫く前からの異変を察知したのか団長が傍まで駆けてきた。
    「ど、どうしたんですか みなさん!」
    「おいおい……何やってんだよお前らぁ」
    「それが~~エルモートさんが絡まれてしまったみたいなんです~~」
    「どしたどした?」
    団長の後を追ってきたルリアとビィ、少し離れた場所に居たシェロカルテの声が、さらにその後にやってきたツバサたちの声が聞こえる。
    「やめろ、ショウ」
    先ほどよりは幾分か感情の戻ったエルモートの声で強めに制止される。この場に集まる人間の数が増えたせいで、騒ぎが大きくなりそうだが、例えどんな大騒ぎになろうと絶対に奴らをぶちのめす。

    「団長サンよ、とりあえずショウとこの場を離れたい。この後すぐ、待ち合わせ場所で落ち合うように全員に言ってくれねェか」
    「わかった。皆が待ち合わせ場所に行けばいいんだね」

    「オイ、ショウ! 行くぞ!」
    「……!」
    臨戦態勢だった俺の腕を掴み、加減を知らない強さで引っ張られる。エルモートが走るので、転げたくなければ走るしかない。
    「…………ッ」
    目の前に沈めたい相手がいたのに、敵前逃亡を強いられ歯ぎしりする。人をかき分けて進むエルモートに引きずられ、敵はすぐに見えなくなっていった。


    ❇︎ ❇︎ ❇︎ ❇︎ ❇︎


    四方に長く伸びた市場の中にある広場。
    中心に大きな植木があり、その周りをぐるりとベンチが囲んでおり、すぐ傍に時計台のある待ち合わせにうってつけの場所。
    それぞれの市場の中で見て回りたい物が違うだろう、すると自然と皆が離ればなれになるだろうから、ということで事前に決めていた待ち合わせ場所に、今皆が集まっている。……約束の時間よりはずいぶんと前だが。
    皆の顔を確認して一息ついた団長がこちらに向き直る。
    「エルモートとショウ、なんかトラブルになってたよね? 何があったの?」
    当然の疑問。だが俺の口から皆に詳細を話せるような内容ではなかった。エルモートにしたって、わざわざ人に話したい内容とはとても思えないし、……話してほしくない。
    そもそも俺は、奴らに言いたい放題言われただけで、何もやり返せなかった状況が非常に不満だ。口を引き結び、組んだ自身の腕をギリギリ握りながら、無言で不機嫌を主張する。

    「…………いちゃもんつけられたんだよ。俺たちが悪人面だから。」
    「えええ……」
    エルモートが適当言ってごまかそうとしている。
    「そんんんなことあるッスかァ? ……って思うけど、今のショウの顔見たらあり得るッスねぇ……」
    「お前顔ヤベーぞ?」
    「人殺してくっぞ!ってくらい気合入った顔してんべ?」
    「目が狂人のそれ」
    リンタロウとツバサが、うわっと言いたげな顔で引いてみせる。うるせェな! ……今日のメンバーの中で俺とエルモートが悪人面ツートップ……?なのか、適当な言い訳が信憑性をおびているらしい。
    「私も最初から見ていたわけではないので詳しくはわからないですが……エルモートさんが突然絡まれたのは本当のようです~ エルモートさんが何かしたわけじゃ絶対にないと思います~」
    「はわわ……ひどいです……」
    「災難だったなぁお前ら……」
    口々に同情され、若干いたたまれない気持ちになってくる。騒ぎ一歩前で迷惑をかけてしまったのは事実か。

    「エルモートとショウは、今日はもう帰った方がいいかな? またさっきの人たちに会ったら嫌でしょ?」
    「……だな……俺は今日は帰るぜ。時間食わせて悪かった。……ショウは居ろよ。市場まわるんだろ」
    「…………心穏やかに市場をまわれるような気分じゃない」
    「ショウの今の顔じゃムリッスよ」
    「ショウこそ、さっきの人たちとまた会ったら喧嘩になっちゃうんじゃない?」
    「……せっかくシェロと回るんだったのに?」
    きっと予定を合わせて誘ってもらった手前、あまり勝手なことはできないのだが。
    「……市場は逃げませんし、まだまだ期間もありますので~ また今度仕切り直しといきましょうか~」
    「……悪い」
    エルモートが申し訳なさそうに俺たちに謝るが、アンタが悪いわけじゃねェだろ。
    「……Sorry,また今度、頼む」


    ❇︎ ❇︎ ❇︎ ❇︎ ❇︎


    じゃあまた艇で、と言葉を交わして、市場に残る組と別れる。
    俺はエルモートと二人で並んで、乗ってきた単車を駐めてある場所まで歩く。なんとも言えない空気。

    「さっきの連中は、元いた島の連中か」
    訊かれたくない話だろうとは思うが、あそこまで中途半端に聞いてしまった以上、心の整理がつきそうになかった。
    「……ああ」
    「クソみてェな奴がいる島だったんだな」
    「……人の出入りの少ない、閉鎖的な島だったんだけどな。こんなところで会うとはな……」
    「あんな奴のいる島なんて、出て行って正解だ」

    ……放火魔と言われていた。絶対に誤解だ。何かの間違いだ。自在に火を操るエルモートを見て、誰かが決めつけてそう言い出したに違いない。それとも、なにか事故に発展したようなことがあったんだろうか?
    訊きたいけれど、果たして訊いていいものかとぐるぐる考えていると、少しうつむいたままエルモートが口を開いた。
    「……ありがとな。庇ってくれて」
    「……庇ったというつもりはない。あいつらが、あまりにもクソだったから腹が立っただけだ。」
    エルモートが放火犯ではないと心から信じているので、庇ったというより当然の主張をしただけという気持ちが強い。

    「…………、……あのな。例えば、庖丁を持った母親がキッチンに立ってる姿と、見るからに荒くれ者の男が外でナイフを持ってる姿だったら、明らかに周りの人間は緊張度が違うだろ? それは、外見とか、そいつとの関係性とかをひっくるめた、信用度の問題だ。あいつらにとっちゃ俺は、後者だったんだよ。……信用がなかったんだ」

    進行方向を向いたまま話すエルモートの顔はフードと髪に隠れてよく見えない。感情のない声、しかしハッキリ言い切った彼はどんな表情をしているんだろう。のぞき込むのも無粋な気がして、彼がこちらを向いてくれないかと心で請うていると、ふっとエルモートと口元を緩ませた。

    「お前が庇ってくれたのは、俺がお前の信用を得られてるってことだ。団長も、騎空団の奴らもそうだ。昔の島に居た時とは違う。だから、もういいんだよ」

    ……そんなふうに諭されたって、じゃあよかったよかった、なんて思えるわけがない。何でもないような声でこちらを慰めるような言葉に、もの哀しくなってしまう。彼の心中が計り知れない。


    その後はお互い言葉少なに単車の場所まで歩く。エルモートを愛車の後ろに乗せ、火の魔法を起こして発進させる。響く走行音と、爽快な走り心地とは裏腹に、心はまったく晴れない。……むしゃくしゃする。
    元々市場と近いのもあり、あっという間に船着き場まで戻り、騎空艇の前で停車すると、エルモートが「どうも」と言って単車から降りた。

    「……なぁ、ちょっと疾風ってきていいか」
    このまま艇に戻っても胸中に渦巻く怒りや悲しみ、悔しさがない交ぜになった感情を消化できそうにない。
    艇の中に入ろうとするエルモートが振り返る。
    「……安全運転しろよ?」
    「約束しかねる」
    「人に迷惑かけンなよ?」
    「それは当然」
    「………迷子になんなよ?」
    「ああ」


    市場から離れるような、人の気配のしない方向へ向かって単車を爆走させる。周りの景色が高速で後ろへスライドしていき、風だけを肌に感じて感情を振り落とす。


    ❇︎ ❇︎ ❇︎ ❇︎ ❇︎


    ある程度気の済むまで疾風らせて、単車の速度を緩める。道がなくなりそうな場所まで来て、少し小高い丘になった場所の、山道に入る前の休憩所のような場所で単車を停める。木陰に入り、単車の横にドカッと座り、丘から下の景色を眺める。自然に吹く風と日の光で穏やかな場所だった。
    ……どれだけ速く疾風っても、頭の中を回る思考を止められない。

    エルモートの過去。
    彼は、今信じてくれる人がいるから、いいんだと言っていた。
    その気持ちが、俺にはわかる。今周りにいる人間に対して心から感謝しているだろうことも。
    でも、だからといって過去の傷ついた心がなかったことになるわけじゃないだろう、ということも、俺にはわかるのだ。
    彼の過去のほんの片鱗しか見ていないけど、もしかしたらエルモートは本当に自分と同じような経験をしてきたんじゃないのか?
    市場で絡んできた奴に、何を言われてもただ黙っていた姿を思い出す。
    過去の俺は、キレて周りを切りつけながら生きていたが、エルモートは本当にただ黙って耐えて生きていたんじゃないのか?

    一人になって、火を噴くような怒りが萎むと、どんどん思考が泥沼に落ちていくように沈んでいく。
    自分に光を与えてくれた人が、過去にそんな仕打ちを受けていたかもしれないと思うと、胸が苦しくてたまらない。できることなら過去に行って救い出したいくらいに。
    それなのに、……何もできなかった。彼に何もしてあげられない。抱えた片膝に額を乗せて項垂れる。
    子供の頃、友達だと思っていた人間からの虐めに耐えていた時のような無力感が蘇る。俺は何もできないのか。

    「…………………………」

    違う。
    俺は、もうあの頃とは違う。
    単車を走らせるために火の魔法を起こすことができる。目的のために正当な手段を選ぶことができるようになったんだ。キレて暴れなくても、心を満たせることを知っている。
    俺は何が気に入らない。何をどうしたいんだ。
    膝に顔を埋めたまま、今日の出来事を振り返って自問自答する。

    エルモートの過去を少しだけ暴かれて、動揺した。
    ……あんなクソ野郎共に絡まれたあの人を、一人置いていくことにならなくてよかった。
    そこで、はたと顔を上げる。
    俺は見知らぬ土地を一人単車で疾風ってここにいる。……今、あの人は一人になってるんじゃないのか?
    感情が抜け落ちて、心がその身体からなくなってしまったような顔をしたあの人を一人にしていたくない……!
    「……しまった……」
    暴れる感情に操られ、大事なところで判断を誤ってしまった。
    速く、エルモートのところへ戻りたい。そばにいなくてはいけない。そして、ちゃんと彼の顔色を確かめなければ。


    ❇︎ ❇︎ ❇︎ ❇︎ ❇︎


    「Hey Boy」
    のんびりと道を歩いている2人組の男子へ声をかける。少し年下くらいだろうか。
    「ボーイ……って俺たちのこと?」
    「そうだ。俺は乗ってきた騎空艇の船着き場まで帰りたい。どの道かわかるか」
    「えっ……どの船着き場まで?」
    「どの? とは?」
    「この島はいろんな商品と商人が集まる島で、大きな市場もよく開かれる人の出入りが多い島だから、船着き場もたくさんあるんだよ」
    「」
    そういえば、エルモートが「迷子になるなよ」と言ったあと、「ここは、――っつー港だから……」と、港の名前を言っていた気がする。だが覚えていない。
    「~~~~~! 迷子になるなってそういうことか……!」
    道を尋ねた男子たちが、困ったような表情で顔を見合わせる。
    「えーっと、お兄さんはお客さんとしてこの島に来たんだよね?」
    「そうだ」
    「商人専用の港とか、荷物専用の港とかを除いて、自分の着いた港の特徴を教えてくれたら、少しは絞り込めると思うよ」
    停泊している港を特に気にしていなかったし、特徴という程の記憶もないが、市場との位置関係や、ここに来るまでどれくらい走って来たかを話す。彼らは地面に小石で大まかな地図を描き、指で場所を示してくれた。
    「……たぶん、この港か、この港じゃないかな。それにしてもずいぶん遠くまで来たんだね。こんなとこまで、何しに来たの?」
    「……気分転換だ」
    「ねぇねぇこのケッタギアでここまで走ってきたの? かっっっこいいね~」
    「 そうだろう!」
    いいな~と単車に見入っている男子に気分を上げられ、急ぐ気持ちを抑えて話す。
    「お前たちは商人としてこの島にいるのか?」
    「そうだよ、見習いだけどね」
    「荷物の積み込みと輸送を手伝ってるんだ。市場をやってる間はヒマしてるんだ。毎日市場を回るのも飽きるからね」

    「俺の名前はショウ。この先、全空の商会をまとめるKingになる男だ。今日の恩は忘れない。次に会うことがあれば必ず恩を返そう」
    俺の言葉に圧倒されたようで男子は目をぱちくりさせている。
    「Thanks,boy. 気をつけて帰れ」

    一際大きな排気音を上げ、彼らに目星をつけてもらった船着き場を目指して風を切る。

    結局グランサイファーの停泊場は、彼らに言われた候補の港のあとに「さすがに遠いから違うと思うけど……」と付け加えられた最後の場所だった。
    距離から考えて俺の単車のスピードがそれだけ速いということだと思うと誇らしいではないか。
    だが候補だった港で、見覚えがあるような無いようなという状態のせいで、いちいち艇を確認などして、かなり時間が経ってしまった。立派な迷子だった。早く、早くあの人に会いたいのに。
    ようやく馴染みの艇を見つけた時は、黄昏時になっていた。


    ❇︎ ❇︎ ❇︎ ❇︎ ❇︎


    「先公!」
    グランサイファーに戻って、いの一番にエルモートの部屋へ向かう。
    鍵のかかった扉の前で、戸を叩きながら呼びかけるが、無音のまま。
    「先公! いないのか!」
    ……もしかしたら、2人で艇に戻った後、出かけていて今部屋に居ない可能性はある。だが自分の経験からして、ああいう状態の時は出かける気にもならず1人でベッドの中で丸まっているのが常だった。
    心を守るように、物理的な防御を求めていた気がする。
    「先公」
    ドンドンとうるさい音を立てて続けていると、部屋の中で人が動く気配がした。思わず音を潜めて中を窺う。
    「…………うるせェな……」
    怒気をはらんだ最高に不機嫌といったエルモートの声が聞こえた。
    「先公! 開けてくれ!」
    「……ンでだよ」
    「なんで……て、その、会いてェから」
    「はァ~~……? 寝てたんだが……?」
    「会いてェ。顔が見たい」
    「……俺は今、気分悪ィんだよ……今度にしろ」
    「今会いてぇんだ」
    「何言ってンだお前……?」
    同じ応酬が繰り返されて、扉が開かれる気配はない。

    「だから……」
    「……どうしても嫌なら、部屋の前に居る。気が向いたらドア開けてくれ」
    「……は~~~~???」
    エルモートの部屋の前の廊下に座り、扉の向かいの壁に背を預ける。
    「調子悪いなら、なにか持ってきてやろうか。なんでも言ってくれ」
    「……あのなァ……一人にさせてくれって言ってんのわかんねェわけじゃねェだろ? 一人にしてほしい時があることがわかんねェ奴じゃねェよな?」
    それはわかる。けど、そういう時、一人にしてほしい気持ちと、心のどこかで誰かがそばに居て欲しい気持ちもあるもんじゃないか? いや、それよりももっと。
    「……Sorry, でも、俺が、アンタを一人にしたくないんだ」
    俺のわがままだ。気長に待つ。扉越しでも、そばにいたい。

    「…………ンな廊下にテメェみてェなでかいのが居座ったら、迷惑だろォが……」
    しょうがねェな……という言葉が聞こえてきそうな溜息と共に、ドアノブが動いた。思わず立ち上がる。
    ――黎明。
    薄暗い室内へ扉が引かれていく様が、まるで希望の扉が開いてくようだった。エルモートは寝起きの目に廊下の光を眩しげに、怪訝さと面倒くささを合わせたような表情をしていた。
    「ンだよマジで……」
    エルモートの姿が半分見える程度に開かれた扉をさらに押して室内に入る。
    高揚と衝動のままに彼を抱きしめた。


    「好きだ」


    「…………………、…………?」
    「…………!」

    エルモートは何がなんだかわからないといった顔をしているが、自分でも驚いてしまった。
    頭で考える前に心から言葉がこぼれ落ちた。
    「………、…アンタが好きだ。……I love you.」
    「…………ハ……え……??」
    抱きしめた身体はそのままに、顔を少し離して今度は瞳を真っ直ぐに見つめて告白する。
    「……な、に言ってる? 何を言ってるんだ?」
    THE 混乱といった体のエルモートがだんだん警戒を露わにし始め、ビンと立った耳がこちらの言葉に反応して動く。
    「ど、……どういう意味だ……」
    「もちろん特別な意味だ……I love you.と言っているだろ?」
    目を見開いて絶句、といった様子に、ようやく伝わったのを読み取る。
    「な……なんで、どうしてそんな話になった 意味がわからねェ! 突然なんなんだよ ……っ…好きとか……テメェそんな素振り一切なかったじゃねェか ……俺は、人のそういう機微に鈍い方じゃねェぞ!」
    「……アンタがこの部屋のドアを開けてくれた瞬間に、心が勝手に囁いた。それを聞いて、俺もそうだったのかと思ったところだ」
    「ざっっっけンな 意味わかんねェことちょっと詩的なかんじで言ってンじゃねェぞ」

    ……一般的には、人は無条件で存在を許されてるものだ。家族や、友人や、社会から。
    でも俺はある時から、許されなくなった。
    父親に泣いて帰ってくることも許されなかった。喧嘩をすればネンショーに入れられた。
    でもアンタは、俺が泣くことも、せっかく退学を免れたツバサと喧嘩をすることも、許してくれた。
    この部屋に入ることを、許してくれた。
    世界のどこにも居場所がなくなった人間にとって、自分を許してくれる存在が、どれだけ……どれだけかけがえのないものか。
    この扉を開けてくれた瞬間なんだ、想いが溢れたのは。でも、きっと想いは前からあった。
    今日一日、ひいてはこれまでの感情の集大成のような結論に、一種の陶酔感と全能感すら湧き上がる。喜怒哀楽の極限まで感情の針が振れたような一日だった。

    未だに頭から?のマークが出ている状態のエルモートへ酔ったような感覚で話しかける。
    「……で、返事は? つきあってくれるのか?」
    「本気で言ってんのか んなモン、却下だ却下」
    「……ちゃんと考えてくれたのか?」
    「テメェェェェェェ 自分は何も考えてねェくせに」
    ぎゃんぎゃん声を張る様子に、昼間とは打って変わって元気になってくれて嬉しい。いやそうじゃない、と頭の隅で声が聞こえるが、ダメだ、ふわふわしてまともな思考ができない。
    エルモートの腕が俺の身体を離そうとしているのだろうが、力が入っていないのでただ俺の服を掴んでいるだけになっている。
    「アンタ気分悪いんじゃなかったのか?」
    「気分は悪かった! 今も悪いが! お前がそれ以上の爆弾投げてきたんだろーが!」
    「ちゃんと考えてくれ」
    「無茶言うな……! こっちは予備動作なしで刺されたようなもんだぞ…… クソが……急すぎて受け身を取ることもできなかったじゃねェか……」
    俺が自分の気持ちに気づいてそのまま過ごし、それをエルモートに察されていたら、適当に躱されていたんだろうか? それなら間髪入れずに告白が最適解だったのではないだろうか。
    「まぁ……でも確かにちょっと急だったか……俺も自分で驚いているくらいだからな」
    「………………お前こそよく考えろよ……考え直せよ……」
    「頭で考えてない分、この気持ちにウソは全くない。考え直すことはない。でもアンタの返事は待ってやる」
    「何だその上から目線 断ってるだろーが!」
    「アンタがつきあってくれるまで、俺はアンタを口説き続けることにする」
    「、 つきあうまでって……」
    人の話聞けよ……と項垂れる人を腕に抱き込む。

    ああそうだ。

    諦めないさ、アンタが俺の想いを許してくれるまで。



    (終)
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