めんどうくさいおとこ ウワー!ココとやっちまった!
というのが、朝起きたオレの感想だった。なにをしたかはご想像にお任せするが、ご想像通りだ。まぁ、あれだ。一夜の過ちだ。酒も入っていた。
別にオレはいいのだが、ココは後悔するだろう。オレの初恋はココだが、ココの初恋は赤音だし、その後も女の切れなかったやつだ。
昨日のことはあんまりよく覚えていないが、たぶんオレが乗っかるか何かしたのだろう。きっとそうだ。
やっちまったことはしょうがない。問題はこれからどう乗り切るかだ。
痛む腰をおさえつつ、ココを見ると、ココはもう起きていた。すごい顔をしてこっちを見ていた。すごい顔というのは、「テメェ、ごまかそうったってそうはいかねぇぞ」という顔だ。なぜバレたし。
オレはちょっと咳払いをした。
「ココ、昨日実は抗争があったんだ」
「ベッドの上で?」
ココは意外とオヤジギャグを言う奴だった。
「ベッドの上じゃねぇ、そう、横浜県でだ」
ぐふっ、とココがむせた。なんでかわからないけど、うけた。よし、これなら誤魔化せるはずだ。
「イヌピーがかわいいのは昔からだけど、じゃあ、なんでイヌピーは裸なの?」
「えっ、あっ、服が汚れたから?」
「なんでオレは裸なの?」
「えっ、腹筋に自信があるから?」
「ねぇよ」
「自信持てよ」
オレの励ましにココは笑いをこらえている。このまま誤魔化せねえかな。殴ったら記憶喪失になってくれねぇかな。ひそかにこぶしを握っていたら、ココに「殴って解決しようとするのはやめろ」と言われてしまった。くそう。なんでバレたんだ。
「既成事実まで作ったのに、イヌピーはなんでオレの彼氏になってくれないんだ」
「めんどくさくせぇから」
「確かにオレは面倒くさい奴だけどね」
「いや、ココじゃねぇ。オレがめんどくせぇ」
え、とココが顔をあげる。ココが素の顔を見せるのは珍しい。ときどきそういう顔を見せるから、昨日のオレは図に乗ってしまったんだ。
「オレはココに女がいるかとかいないとか、灰谷とかとなかよくつるんでたのかとか、すげー気にしてる。心が狭いやつなんだ。おまえとつきあうようになったら、もっとひどいことになる」
「それ、ふつうのことだと思うけど。オレだってイヌピーと松野が仲良かったの、すげぇ気になってるし」
「松野は後輩だろ」
「灰谷はただの馬鹿だよ」
「どっちの灰谷が?」
「どっちの灰谷も」
オレがちょっと笑ってしまったからか、ココがほっとした顔をする。オレなんかの挙動でココが一喜一憂するのが意外だった。最近のココは一皮むけたような気がする。たぶん関東卍會を抜けたからだろうけど、そのきっかけがオレだったらいいのにな。
「ココはオレのことが好きなのか」
「昨日もそう言ったはずだけど」
「オレがむりやりココに乗っかったのかと思った」
「なにそれ最高じゃん」
ココが笑った。今までみたいなすかした笑い方なんかじゃなくて、なんというか、オレのことが好きみたいな顔をしている。
「え。ほんとにオレのことが好きなのか?マジで?」
「……イヌピー、いまから天国を見せてやろうか」
意外とココはオヤジギャグを言う奴だった。オレが天国を見たかどうかはご想像にお任せするが。
「なんで彼氏になってくれねぇの」
「めんどくせぇから……」
「イヌピー!」
オレは面倒くさい奴だって言っただろ。一日で彼氏になれるなんて図に乗るなよ。毎日好きだって言ってくれたら、考えてやってもいいけどな。