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    somakusanao

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    somakusanao

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    「リング」パロディみたいなものです。貞子は出てこないので、怖くはないと思います。

    #ココイヌ
    cocoInu

    「リング」パロディ 呪いのビデオがある。

     情報は金になる。黒龍の資金集めを一手に担っている九井にとって、情報収集は仕事の一環のひとつだった。とはいえ、呪いのビデオはさすがに範疇外だ。
     初めて聞いたときは信じていなかった。どうせ作り話だろう。ガセネタだろう。胡散臭すぎる。信じてはいなかったが、資料は取り寄せた。九井はそういう性分だった。なるほど女子高生が三人死んでいる。三人は横浜の女子高に通っており、親しい間柄にあり、頻繁にお泊り会をしてした。その時に呪いのビデオを見た。ただしくはビデオではなく動画だが。と、SNSにあげている。そして三人なかよくお陀仏。原因不明の心臓発作だった。親しいだのなんだのは主観によるが、心臓発作は診断があるので正しい情報だ。ふぅん、なるほど、健康優良な女子高生が三人同時に原因不明の心臓発作。たしかに呪い云々という噂が出てくるわけだ。
     二度目に聞いたのは、それから一週間後のことだった。亡くなったのは七名。二つの家族は地元サッカーチームに所属しており、親しくしていた。父親が横浜の女子高生の父親と兄弟で、つまり叔父と姪の関係にある。死因はこちらも心臓発作。こちらも気味の悪い動画を見たと言っていたという隣人による証言がある。
     なにやらきな臭いものを感じた九井はひそかに調査をした。これは九井に限ったことではなかったようだ。警察やら医師やらがすでに動いており、調査がされていた。死因は細胞に肉腫ができたことによる欠陥閉塞から心臓発作。おそらく女子高生の心臓発作も肉腫が原因ではなかったか。ただし女子高生はすでに火葬されているため、不明である。
     三度目は二日後だった。原因不明の心臓発作があったら、すぐに連絡が来るようにしておいた。サッカーチームでコーチのアルバイトをしている大学生だった。インターハイ出場経験のある彼は、もちろん健康優良であった。なにやら気味の悪いビデオを見ていたという情報が友人から寄せられた。

     インターネットは、すでに呪いのビデオの話でもちきりだった。
     ××の大学生が死んだだとか、呪いの原因は××であるだとか、呪いのビデオは○○が持っているだとか、情報に溢れている。動画までアップされていた。さすがにこれは偽物で、すぐに炎上した。

     九井は呪いを信じたわけではない。信じたわけではないが、用心に越したことはないと考えた。アジトに寄って、乾に話があると切り出した。
    「イヌピー、変な動画は絶対に見るなよ。ネットで挙げられている出どころがわからない動画は見ないようにしろ」
    「なんだ急に」
    「呪いのビデオっていうのがあるんだよ」
     差し入れを物色していた乾が不機嫌そうに顔を上げる。さすがの乾も、飲み食いをしながらする話ではないと思ったらしい。
    「なんだよ、呪いのビデオって」
     ネットでは話題だったが、情報にうとい乾は知らなかった。これは予想の範疇である。
    「呪いのビデオを見たら、一週間後に死ぬらしいぜ」
    「ああ、死者から電話がかかってくるってアレか」
    「そう、そう……ってなにそれ」
     ノリで答えそうになったが、寸前で堪える。死者からの電話? それは聞いていない。
    「ビデオを見たら、電話がかかってくるだろ」
     乾はネットで話題の呪いのビデオの噂を知らなかった。しかし呪いのビデオは知っている。
    「呪いのビデオっていうネタが他にもあるのか? イヌピーはいつ誰に聞いたんだ」
    「八代目黒龍の先輩。聞いたっていうか、見た」
    「え?」
    「呪いのビデオをそこで見た」
    「は?」
     乾は「そこ」と言って九井の背後を指さした。振り返えったそこには、モニターがあり、ビデオデッキがあった。アジトには用途不明のガラクタが山のように持ち込まれていた。アジトに寝泊まりしたことはなんどもあったが、ビデオデッキの存在にはじめて気づいた。とうぜん使ったことはない。故障品じゃなかったのか。
    「先輩がどっからか呪いのビデオを手に入れたらしいんだけど、デッキがなくて見られなかった。イザナがここにデッキがあることそいつらに教えたらしく、持って来たんだ」
     五人ほどの先輩がやって来たのだと乾は言った。招待したわけではない。先輩に逆らえなかっただけだ。
    「なんだ。みんなで見たなら偽物だったんだ」
     乾が黙る。嫌な予感がした。おいおい、イヌピー。悪い冗談はやめてくれよ。乾が重い口を開く。
    「先輩たちは死んだ、らしい。オレは見てないから知らねぇけど、イザナが愚痴を言っていた」
     さすがの黒川イザナもいちどに五人の死者が出て、困惑していた。結局のところ、イザナは五人を殺したのは自分だと言いだして、恐怖をあおるのに利用したらしい。
    「その呪いのビデオはどこに行った?」
    「イザナが持って行ったと思う」 
     イザナの本拠地は横浜だ。女子高生は横浜の学校に通っていた。三人のうちふたりが横浜に住んでいた。手段はわからないが、なんらかの方法で手に入れたと思っていいだろう。いや、所持した経由などどうでもいい。問題は。
    「呪いのビデオは本物ってことなのか?」
     ならば
    「なんでイヌピーは生きてるんだ?」
    「イザナも不思議がっていた」
     結局のところ、原因はわからなかった。イザナも乾もそこまで本気で真相解明に努めたわけではない。
    「まさか今になってあのビデオが出てくるとはな」
     

     気味の悪いビデオだった、と乾は言った。
    「ぜんぶで三十秒もなかったと思う。ほとんどが真っ暗だ。声も入っていたけど、訛りがきつくて、なにを言っているかわからなかった」
     ではなぜ呪いだと分かったのか。
    「最後に文字が出てきた。一週間後に死ぬ。次のやつに見せろ。他にもあったかもしれねぇけど、オレが覚えているのはそのくらいだ」
     なにせ見たのは一度きりだった。もういちど見ようという者はいなかった。ビデオテープは先輩が置いて行った。先輩は死に、乾だけが生き残った。話を聞いたイザナがビデオテープを回収した。イザナのことだから慈善からではないだろう。彼がなにを思ってビデオテープを回収したのかは不明だ。
     その後のことはわからない。そのままイザナが所持していたかどうかも乾は知らなかった。ともかく「呪いのビデオ」は一度は収まった。だが再び呪いは現れてしまった。
    「ココ、オマエはビデオを見るなよ」
    「……わかっている。イヌピーもな」
     呪いのビデオを本当に信じたわけではない。疑う気持ちもある。なにせ乾は生きているのだ。だが不気味さはぬぐえない。ゆえに用心に越したことはない。そのはずだった。


     信頼のおける取引相手だった。この場合の信頼とは、金に切れ目がない限り、裏切らないという意味だ。離反する意味がない。パソコンに来たメールの内容は「裏切者がわかった。画像を送る」というものだった。じっさいに裏切者がいたのもタイミングが悪かった。事務所の部屋付きの部下が淹れたコーヒーを飲みながら画像を開く。画質が荒いのは隠し撮りだからだろうと思った。おかしいと気づいたのは、しばらくしてのことだ。
    『×××なぁしぃ、…………ごら、……る、……じゃ、×××きいとけぇ、……………がまあないがよ』
     おそらく老婆の声だ。音声もきれているのかよくわからないが、訛りがきつい。
     どっと汗が出てきた。悪寒がする。手が冷たい。オレはこれを知っている。この話を知っている。
     そうだ。イヌピーが言っていた。訛りがきつくてよく分からなかった、と。
     ではこれが呪いのビデオか。火山だの井戸だの意味不明の画像がつづく。意味わからないが、気味が悪い。おぞけがする。
     最後に文字が浮かぶ。手書きのような細い文字で「この画像を見た者は一週間後に死ぬ。死にたくなければ次のものに画像を見せろ」と出て、画像はぶつりと切れた。
     決りだ。呪いのビデオだ。ビデオじゃなくても画像に気をつけろと乾に忠言したというのに、九井が見てしまった。
    「くそっ……!」
     取引相手はなんでこんなことをしやがった。いや、あいつは生きているのか。携帯を手に取ったその時、携帯が鳴った。慌てて手をはなす。そのまま無視していると、別の携帯が鳴った。しつこく鳴り続けるので、九井はとうとう電話に出てしまった。
    「…………」
     電話は無言だった。何者かの気配を感じる。土の匂い。水の音。何者かの息遣い。気のせいかもしれない。気味が悪くてしかたない。
     ぶつっと電話は切れた。
     九井が椅子に座りこむ。どうしろっていうんだこれ。髪を掻きむしったその時、声があった。
    「ココ……」
     乾だった。
     乾の背後には部下がいて、こちらを伺っている。九井の異変に気づいた部下が乾を呼んだ。気の利く部下を部屋付きに配置したのが裏目に出た。
    「見ちまったよ、呪いのビデオ」
     誤魔化そうとすればできたのに、それをしなかったのは、動揺していたからだ。乾が大股でこちらに寄って来る。こんなときばかり勘がよく、乾は開けっ放しだったパソコンの前に立った。画像を開いた。
    「おいっ」
    「死ぬときはいっしょだ」
     こんなときなのに、うれしいと思ってしまった。
    「……さすがイヌピー、ぶっとんでるぜ」
     苦し紛れの声に、乾は小さく笑った。 


     取引先の男はすでに死んでいた。理不尽な死をちらつかせられて、ビデオの指示に従って画像をばらまいだのだろう。その気持ちは分からなくもない。
    「イヌピー以外の生存者がいないかどうか探ってみた。いるにはいるけど、たぶんビデオを見ていなさそうなんだよな」
     ビデオ上映の場に居ても、見ていなかった場合は助かっている。なにせ三十秒ほどしかないので、ちょっと目を離しているあいだに終わっている。彼らが生存者になって呪いのビデオの存在を広めているのだろう。
    「八代目の先輩たちにも聞いてみた。最後にビデオを持っていたのはたぶんイザナだ。倉庫の契約期間が過ぎて、管理人がビデオを持ち出したんだろう」
    「次のやつにビデオを見せれば死なずに済むなら、取引先のやつは死んでないはずなんだよな」
     取引先の男は九井の他に何人もにメールを送っていた。その中には男の生前にメールを受け取っている者もいた。メールを受け取った者は彼を問いただしたが、怯えきっていて話にならなかったそうだ。
    「なんでイヌピーは生き残っているんだろうな。お祓いにでも行った?」 
    「……」
     乾が黙る。心当たりはあるが言いたくないという顔だ。
    「イヌピー」
    「……赤音のところに行った」
     乾の死んだ姉の名だ。姉のところとは墓参りだろう。
    「……赤音がなんとかしてくれたとは思えねぇけど」
    「まぁ、行ってみる価値はあるか。仕事はキャンセルしたから暇だしな」
     急なキャンセルに係わらず、芝大寿からの連絡はなかった。通常であれば、なにかしらあるはずだ。大寿にも何らかのトラブルが発生したということか。心当たりは特にない。強いて言うならば、妹の柚葉が女子高生であることくらいだ。死んだ女子高生が通っていた学校は横浜で、柚葉の学校は東京だ。だが、東京と横浜は存外近い。女子高生ならではのネットワークがあってもおかしくはない。
    「……花でも買っていくか?」
    「あのときは手ぶらだった」
    「じゃあ、おなじように手ぶらで行くか」
     乾はだまって頷いた。
     

     九井は今まで一度も彼女の墓に行ったことがなかった。いくら親しくさせてもらっていたとはいえ、弟の友人は他人だ。そう言い訳をしていた。九井は彼女の死を見ていない。乾赤音は重傷で、見舞いができるような状態ではなく、葬式は家族だけで行われた。乾に聞くなり調べるなりすれば簡単に知れただろうに、墓の場所さえ知らなかった。彼女の死をつきつけられるのは恐ろしかった。
     乾家の墓は東京ではなく、横浜の外れにある寺の奥にあった。それでも電車に一時間も乗ればついてしまうのだから、近い方だろう。いかにも先祖代々といった古びた墓は、きれいに清められてはいたが、明るく可憐な少女だった赤音にはふさわしくないように思えた。
    「動物がくるから、食い物とかのお供え物はしちゃいけねぇんだって」
    「うん」
    「でも、なんもねぇのはかわいそうだろ」
     乾はそう言って墓石の前にキャラメルの箱を置いた。
    「あのビデオ、女が映ってただろ」
    「え?」
    「白い服の女。先輩たちは見てねぇって言ってたけど」   
     九井は女の姿を見ていない。ビデオを見たのは一度だけだから、見落としている可能性はある。たぶんあいつがこの世を恨んでいる奴だろうな、と乾は言った。
    「イヌピーは彼女を見たから見逃されたのか?」
    「さぁ。死人の考えることはわかんねぇよ」
     乾は供えていたキャラメルの封を切って、口の中に放り込んだ。続いて九井の口の中にも入れる。あまい。
    「駅前でラーメンを食ってアジトに帰った。オレがあの日にしたのはそれくらいだな」
    「そっか」
     赤音さんがイヌピーを守ってくれたのだろうか。そうだったらいいな。
     九井の視線を感じたのか、乾が顔を上げた。
    「だいじょうぶだ。ココはオレが守る」
    「鉄パイプで?」
    「釘バットもある」
    「それ、オレが使う分もある?」
     乾ははっとした顔をしたが、すぐに「作ればいい」と頷いた。呪いのビデオを見て逃亡する者、お祓いする者、豪遊する者などがいるらしいが、釘バッドを作ろうとしているのは九井たちくらいなくらいだろう。
    「さすがイヌピー。頼りにしているぜ」
     ふたりならば怖くないというのは嘘だ。死にたくはなかった。


     呪いのビデオが「死にたくなければ次のものに画像を見せろ」と指示をするのはどうしてだろう。つまりビデオは死にたくないのだ。ただしくは乾が見たという白い服の女かもしれない。イザナがしたように、封印されては困るのだ。つまり生存したいということだ。ネットの力で彼女のおおよその素性は明らかになっている。不幸があって若くして死んだ女。簡素に言いきってしまえば、そんなところだ。
     死にたくないと思うのは当然のことだ。九井だって死にたくない。どうにかして生き延びたい。そのためには何でもする。九井になにができるだろう。芝大寿のようにカリスマがあるでもない。腕力だって、ちょっと人より優れているくらいなものだ。
     ただ、九井には天才と称されているところがあった。金稼ぎだ。死人に金は必要ないか。そんなことはないだろう。
    「とりひきがしたい」
     彼女とのコンタクトの方法はわからなかった。ただ、彼女はどういった方法でかはわからないが、電子機器を使う。九井は新規メールに文章を入力していた。宛先はない。彼女が読んでくれるかは、完全に賭けだった。
    「あんたに投資をする」「資金を出す」「金ならいくらでも出す」「ビデオデッキが必要なら、用意する」「再生を手伝える」
     だから
    「イヌピーを見逃してほしい」
     すこし考えて追加した。
    「イヌピーとオレを見逃してほしい」
     もちろん送信の方法はない。ただの茶番かもしれない。
     九井と乾が動画を見てから、六日。明日で一週間。つまり死の期限だった。


     街が死者で埋め尽くされているかと言えば、そうではなかった。彼女の拡散方法である画像は確かにネット上に存在している。画像を見た一定数が死ねば、そのあとはぱたりと再生する者はなくなった。当たり前だ。死ぬと言われて見る者は少ない。物好きな者は皆いなくなった。そんな状況下で動画を見る者はゼロではなかったが、ゼロに近い数だった。
     他の方法で増えてはいるかもしれない。けれどそれは微々たる数だ。どうせ次の者に見せても死ぬならば、見せなくてもいい。そう思うものがいても不思議ではない。
     最後の日、九井は乾と一緒にマンションに静かに過ごしていた。特にしたいことはなかった。乾もおなじだと言う。
    「イヌピー、生き延びたらなにがしたい」
    「バイクに乗りてぇ」
    「はは、オレは温泉に行きてぇな。うまい刺身と天ぷらが食いたいから、海の近くがいい」
    「旅館の料理は多すぎて食いきれねぇ」
    「オレがイヌピーの残した分は食ってやるよ」
     いつもそうだろ。そうやってオレたちはいっしょにいた。小学校の頃から、ずっと。赤音さんが死んでから、ずっと。いままで、ずっと。そしてこれからも、そう共に生きていく。
     乾が九井を見る。僅かに笑う。
    「……そうだな。オレたちはマブだからな」
     彼女の買収がうまくいったかなんて誰にもわからない。 
     ビデオを見てから七日。死へのカウントダウンが始まる。どちらからともなく手を握り締める。さいごに乾を余すところなく脳裏に焼き付けて、目を閉じた。まだ未練はある。むしろ未練ばかりだ。

     次に瞼をあける時、最初に目にするのが乾でありますように。乾と共に生きていけますように。これからも、ずっと。九井は手を握り続けた。








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