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    046hanken

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    046hanken

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    稲荷の狐のビリー
    グレビリ

    稲荷神社の狐ビ

    りん、と鈴の音が鳴ったと思えば生温い風がぶわりと吹き抜けた。耳鳴りのような音が真後ろから聞こえているようで、僕は動く事が出来なくなる。ごくり、と生唾を飲む音が妙にはっきりと聞こえた。俯いたままの僕の前に誰かが立つ気配がする。ぽたりと落ちる汗の向こうで草履を履いた誰かの足が見えた。
    逃げなくちゃ、と咄嗟に思ったのは何故だろうか。りん、とまた一つ鈴が鳴って、弾かれたように顔を上げる。
    「あれ…?」
    目の前には誰もいなかった。古い境内と賽銭箱の錆び付いた鈴が風に揺られてがらんと鈍い音を立てる。気の所為だったのだろうか。最近疲れていたのかもしれない。見れば夕暮れがもう沈む頃だった。夕暮れの赤が黒に飲み込まれていく。帰ろう、と思った瞬間だった。後ろから伸びてきた手が僕の顔を掴んでぐっと上を向かせる。ぱちりと目が合ったのは青空の色を映した知らない瞳。
    「ねぇ、俺っちが君の願いを叶えてあげる。」
    にっと笑った口からちらりと見えた八重歯を赤い舌がなぞった。ふわりと揺れた大きな耳と、僕の足を撫ぜる柔らかな尻尾。一目で人ではないのだと分かった。
    「今時珍しいお百度参り。今日が丁度百日目って知ってた?」
    つっ、と冷たい指が頬を滑って僕の唇に触れた。どきりと心臓が跳ねて、呼吸が止まってしまうのだと思った。もしかすると、彼は多分、いやきっと神様なのだろう。
    「何でもいいヨ。でも願い事は一つ。」
    はっ、と短い呼吸が漏れ出る。願い事、そう、僕は願ったんだ。毎日苦しくて、辛くて、死んでしまいたいとすら思って、神様にだって縋った。だけど、不思議と願いは出てこない。喉の奥、或いは本能から吐き出した言葉は一度たりとも願っていない願い事。
    「き、みの、名前が、知りたいです…」
    神様はぱちりと目を丸くした。ああ、なんて綺麗なんだろう。神様は僕の思いなんて知ってか知らずか目を細めてくすくすと笑い出す。ぐっと鼻先が触れるくらいの近さまで顔を近付けられて、ふわりと香った甘い匂いに頭の中が痺れたみたいにくらくらした。
    「ビリーだヨ。ねぇ、今のは願い事に数えないであげる。オイラはネ、グレイ。君の奥の欲望が知りたいんだ。」
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