深夜にて。玉狛支部はまだ「玉狛支部」と呼ばれてなく、住んでいる人は今より多い時、彼らは共に猫を飼っていた。厳密に言えば、猫を飼ったではなく、猫がここを一つの拠点として見ていたようなものだ。遠征中、小さな国で物資を補給する感じと近いかもしれない。
最初は城戸正宗が猫を見つけたーー今の顔から、あの時は小動物好きだどとても見えない。その猫は肉へ近づき、少し匂って、舌で舐めた後、歯で肉を齧ってた。城戸は少し遠いところから猫を見て、なるべく声を出さず、猫を近づくが、そのふわふわの毛を触る前、他人の影が現れた。猫はびっくりしてすぐ逃げて、何も知らない空閑有吾と忍田真史が見えたのは、しょんぼりした城戸だけだった。
旧ボーダーはたっだ19人あり、こういうことを全員に知らせるのは半日もかからない。子供が多い旧ボーダーで、みんなが猫が見たいと騒いでた。結局、林藤匠と最上宗一が一つの案を出した。みんな一人一人で時間帯を選んで、ドアの前で猫を探す。一番早い人はご褒美があると。小南や他の人がやけに興奮していたが、迅はただソファで座り、ぼんち揚げを食って、少し瞬きした。
ほどんとの人が選び終わった後、迅はようやく自分の時間帯を選んだ。最上が彼を見つめ、「ぷは」と笑った。
「何か見えたんじゃないか?」
「うん。でもお褒美はいらない。だって最上さんが絶対サングラスをあげないから。ケチ。」
未来視は知らない人に作用できないが、知ってる人の景色で何かを見える。数多くルートの中で、次の深夜で猫が現れるのを見た。迅がその時を選び、猫缶を持って(これもまさかの城戸からのもの)外に出た。彼はただ待って、待ち続けて、トリオン体すら少し寒さを感じた時、猫の声を聞こえた。
「こんにちは。」
猫と挨拶して、迅は猫缶を開けた。猫がゆらりと歩み寄り、猫缶を食べながら、背中を迅に見せた。迅はふわふわの毛を少し触って、笑った。
「明日も来て。食べものはいっぱいあるから。」
次の日の朝当番が城戸であり、その猫もこうやって時々来るようになった。その時、彼らはまだ木剣で訓練することがあって、猫は時々隣でみんなを見て、蝶々を掴んでたり、お菓子を食べてたり、昼寝をすることがあった。その生活が続いて、あの日ーーアリストラを支援する日が来るまで平穏だった。ネーバーへの遠征前、猫に最後の餌をあげたのは城戸と最上だった。迅は自分の部屋で荷物をまとめ、窓から外へ見ると、猫だけが見える。最初の時と比べて、猫は既に少し太っており、彼の師匠と仲間は同じく平穏な顔をしていた。これがただの旅行のように、危ないことがないように。
たくさんの人が死んだ。そして、何人がここから出ていった。葬式、文書、ネーバーの侵攻、未来の映像。ボーダーが本部を建てるから、俺たちも手伝うに行くぞ。しばらくここに戻れないかもな。林藤がそう伝えた。迅がようやくその猫のことを思い出し、そして、もう何ヶ月あの猫を見ていないと思い出した。
その猫の身に、人が勝手に乗せた美しき、けれど去っていた記憶がある。しかし猫はいつも自由で、食べものがないと、そこを拠点としない。人だってそうだ。家族が、仲間がもういないから、その方針も当然必要としない。
整理するとき、迅は旧ボーダーの写真を見つけた。城戸はその写真を持ち出していない、林藤もただ写真を引き出しの中に戻した。過去の時間は砂のように流れ行き、未来の時間は波のように流れ込む。迅はただそれを見つめていた。いつのまにか、彼らには暗黙のルールがあった:その過去を決して言わないように。その猫も、もう話さないように。
未来視の対象は人だけであり、自分にも作用できない。……だから、そう、だから。迅は思った。こういう偶然も予知できないし、こういう状況も全く思いつかない。
トリオン兵の信号も既に消え、迅の手前の残骸が最後だった。警戒区域の廃墟で、一匹の猫が座っていた。猫は決して痩せていない、腹には血が見え、コンクリートの色と混ぜ合った。迅がトリオン体を解除し、少しつづ猫へ近づく。猫は逃げることも、動くこともなく、ただ迅を見つめて、にゃーーと鳴いた。
「……。」
その猫を抱きつくと、血がすぐ迅の服を染め上げた。柄の特徴とその時と同じだから、同じ猫だろう。迅はそう思った。五年ぶりで、猫はすっかり成長しており、なぜか酷く重く感じる。迅が少し猫を触れて、猫も、何か知っているようで、ただ迅の腕で寝込んで、にゃ、にゃと鳴き続いた。
少し座ると、猫の声も徐々に弱まっており、その綺麗な瞳も閉じた。迅は猫を抱きしめて、ずっと心の中にある黒い何かが噴き出しそうで、月の明かりで少しつづ消えた。時間は既に深夜で、これも本来の防衛任務と違って、緊急任務の一つだ。早く帰らないと小南が怒りそうだな……。そう考えて、迅は少し笑ってた。
「ごめんね。」
誰に、何のためにも知らず、どうしてこの子の遺体を持ち帰ろうとしたのも知らず、迅はただそう言った。他のみんなはもう忘れたかもしれない、じゃあこの行動果たして意味あるだろうか。迅は夜道に歩いて、橋を渡って、川の近くに歩いた。玉狛の建物は五年前と同じ、何も変わっていない。迅はそれを見て、何か違うものを見えた。
「……。」
「……ヒュース?」
支部の前、寝たはずの捕虜が立っていた。ヒュースは迅を見て、迅もヒュースを見た。そうやって見つめあっているうちに、迅は自分の笑顔を取り戻し、普段通りの声で話した。
「こんな時間で何するの?」
「散歩するだけだ。」
「捕虜が勝手に出て行くのはあまりないと思うけど……まぁいいか。早めに休めよ。」
「お前こそ何してた?」
「俺?防衛任務が終わったばかりでーー」
「惚けるな。」
そういえば、まだあの子の遺体を持っていた。迅はようやく思い出し、少し黙り込んだ。ヒュースも何も言わず、ただ迅を見ていた。深夜の静寂は決して優しいではない、ヒュースがついに視線を逸らし、一人で出ようとした時、迅は自分の声を聞いた。
「なぁ、ヒュース。俺と一緒に散歩しないか?」
*
ヒュースはただ迅の側で歩き、迅もまた話す意思がなかった。二人の間で、友達も、知らない人も言えない、少し気まずい距離を保ってた。ヒュースは気になっているが、聞く必要もないと思った。彼らは元々親しいとは言えない。迅は賭けの約束を守り、ヒュースに機会を渡した。その後はヒュース自身の仕事だ。迅はこれ以上の助けがしていない。この間もまた暗躍だの何だのとコソコソやっている。多分また何かを企んでいるだろう。自分の入隊もまたその一環なのかもしれない。でも別にいい。主のもとに帰れば、ヒュースも利用できるものを全て利用する。迅と同じように。
じゃあ今はまた何を企んでいるだろう。仲良くしたいのか、それとも未来の一環なのか?いや、多分どっちも違うだろう。ヒュースはそう思った。いくら相手を理解していないと、その疲れ切った顔から、これはただの迅の気まぐれだとわかる。二人は川を渡って、本部と真逆の方向に進む。歩き続くと、ついに商店街と公園も見えなくなった。ここはあまり光がいない郊外地。ここに何しに来るだろう。ヒュースが惑って、聞くべきかどうかを考えてるうちに、迅はようやく止まって、小声で話した。
「着いたよ。」
そう言って、迅は入り口で少し考え込んだ後、ゆっくり入った。ヒュースはその場所の中に覗き、ひたすら並んだ石板だけを見たーーそっか、ここは墓場という場所なのか。ヒュースが迅の後ろ姿を見て、同じ幅でついで行く。何回も来たように、迅は真っ直ぐで一番後ろの場所に行き、ある墓の前で止まった。ここはかなり特殊なスペースみたいで、十枚の墓がある。迅は猫を抱き、その中の一つの前でしゃがんでた。
「俺の師匠だ。」
これは誰に紹介しているだろう。ヒュースはただ側に立てて、迅も見ていた。トリオン体の視覚から、迅の青い目が見える。懐かしい、優しい、けれど途方もない切ないも感じる。迅は言い続けた。今日はあの猫ともう一度会った。あの子が死んだ、今日の緊急任務の原因で。この任務は元々誰かの死を防ぐためなのに、まさかあの子と出会った。まさかあの子が俺のせいで死んじゃうなんて。……いや、俺が間に合わないかもしれない。
猫の命まで背負うなんて、いささか自分を責めすぎ、もしくは傲慢すぎじゃないか。ヒュースは思ったが、すぐこの考えを否定した。三門市でよくあることだ、この男は今日だけ感傷に沈んだかもしれない。あるいはこの猫も迅の言う通り、思い出を乗っていたあの子かもしれない。突然の別れは誰でも感傷する。ヒュースは自分の主を思い、幼い頃参列した葬式を思い、墓から一歩引いた。
迅の言葉は既に聞いた。この人たちはネーバーとの戦いで死んだと。自分もネーバーはともかく、彼はただ付き添いでここに来るから、当然この場所と、話し続いている迅も、聞いている墓たちも少し相応しくない。三門の道も知らないし、迅を待つしかない。
ヒュースはもう少し距離を引いて、それでも、迅の声だけがやけに聞き取れる。今の本部、昔のボーダー。砂で積み上げ、アンバランスで揺れて、あの日ほぼ破壊された土台の上、この墓石たちがもっとも残酷な、けれど安定な新しい土台を作り上げた。ヒュースはただひたすら待っている。迅が「過去」から、「未来」から今へ戻り、ほんとにやりたいことへ戻るのを待っている。
「ごめん。待たせた。」
「……ねこはどうする?」
「うん?あぁ……帰ったらどこかで埋めるかな。」
その答えなぜか本心ではないと感じる。何を考えている?明らかに未来と無関係なことで、躊躇して必要あるか?迅は理解できない男だ、なら自分がしたいこと、自分が言いたいことを言えばいいだろう。ヒュースはそう思って、見つけたものを差し出した。
「え、スコップ?」
「そのためにここに来るだろ。」
「……。」
「お前たちが共に世話した仲間なら、こういうことじゃないのか。」
迅の表情が変になる。余計なことを言ったか、それとも最初からついてくるべきじゃないのか。
「……ふ、はは。うん、そうだよな。そのためにここに来るんだ。」
ヒュースが少しため息して、帰ろうとする時、迅が急に笑った。霧が出る真夜中で、その笑顔もなぜか切なく感じる。迅がスコップを取り、穴を掘り始めた。猫の体型が少し大きい。ヒュースが側で少し見て、やがてもう一つのスコップを持ち、手伝うようにした。穴がする出来上がり、迅が丁寧に猫の遺体を運んで、手を合わせた。これがミデンのやり方か。ヒュースは迅と同じ動きをして、スコップで穴を埋めた。
その猫は野良猫で、当然名前も、墓もいない。迅は何個の小石を穴の前に積み上げ、簡単な墓を作った。ヒュースはそれを見て、アフトの礼法で、お辞儀をした。
スコップを元の場所に戻そうとする時、迅はまだ墓の前に立っていた。彼は何か言ったように見えるが、何も言ってないのも見える。ここには、ただ風の音が聞こえる。
「帰ろう。ありがとう、ヒュース。」
「別に。」
俺は何もしていない。ヒュースはそれを口にせず、もう一回迅の顔を見た。気のせいなのか、その表情が少し鮮やかになった気がする。二人は深夜の道に歩いた。何かがこの夜で葬り、何かがこの夜で咲き始め、蕾の色が、微かに見えるようになった。
おしまい
あとがき:
なんか元ネタと全然違う話になってたがほんとにごめんなさい……
個人的に旧ボーダーも大好きなのでこういう話を書いた。迅がようやく過去から歩き出し、ヒュースへの気持ちの始まりという感じです。
ガバガバな日本語になっていてほんとにごめんなさい。日本語難しい。ほんとにわからない。