七海さんは、美味しいお食事処、本当によくご存じですよね」
恒例となった食事会の後、七海の自宅のソファで寛ぎながら。伊地知は以前からずっと疑問に思っていたことを口にする。いくら一般社会での経験があったとはいえ、七海の食に関する知識は群を抜いているように思える。食事処に関しても、自炊で作るものに関してもだ。七海の薦めてくれる食の関連のものには外れはなかった。
「そうですかね? 割りと普通だと思いますけど」
「いや、食べたい物の傾向と予算を聞いてすぐに『ここはどうです?』とか勧めてくれるじゃないですか」
それはあまり普通ではないのでは? と、伊地知は苦笑する。
「私はそういった情報に疎いので助かってるんですけどね。どうしてかなぁと思ってまして」
「気になりますか?」
「えぇ、まぁ」
高専時代の七海とグルメはあまり結びつく要素がなかった、というのも大きいだろう。食べ盛りの学生時代は質より量だから仕方のないことではあるのだけれど。伊地知の知らない四年間の出来事であるのには間違いなかった。
「なるほど。そういう訳ですか」
より私の事を知りたい、と言う事でよろしいですか? とフフっと七海は笑う。
「でも本当に大した理由などないんですがね」
あまり面白みがない話ですよ? と前置きをした後、七海はゆっくりと話し始めた。