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    ユノスケ

    @iaosngn_dcst
    多分千ゲの小話しかないです。

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    ユノスケ

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    雨がすごかったので。
    突然始まり突然終わります。

    曇天がどこまでも広がっていた。
    独特の湿気た匂いがゲンの鼻を掠める。
    村の住人は外での作業をやめ、足早に屋内へと入っていく。
    賑やかだった音がひとつまたひとつと消え、やがてひとりの男だけが残された。
    間もなく降り出した雨は、地面を黒く染め上げていった。

    柔らかく落ちていく霧雨に包まれる感触は悪くない。
    どうせ手に入らない温もりを待っているよりは余程マシだと思った。
    さらさらと心地のいい雨音だけが広がり、世界にひとりだけしかいないような気持ちになる。寂しさを感じると同時に、不思議と気持ちが高揚する。
    いつもよりも広い歩幅で、踊るように足を踏み出せば、湿り出した地面は体の重みを受け止めきれずに少し沈んだ。

    そうして吸い寄せられるようにゲンが向かった先は、灯りが漏れていた。
    後頭部を掻きながら、紙に筆を走らせている音が耳へ届く。
    霧雨はやがて重みを増し、地面を叩き白く跳ねた。

    髪を伝う水滴を気にも止めず、ゲンはその後ろ姿を見つめていた。
    人類を救い文明を復興させると豪語する背中は、か細く幼い。
    本当だったらまだ守られていたはずなのに、とてつもなく重い荷物をひとりで背負っている。
    そう思うと胸の奥がどうしようもなく軋んだ。

    雨音が高くなる。雫が伝い落ち、服は重みを増し、指先は冷えていった。
    抑えていた言葉が心から溢れていく。
    今なら声を出しても気付かれないと思った。

    「…好き」

    小さな背中にもう一度呟く。

    「千空ちゃんが、好きだよ」 

    想いのかけらが雫と共に頬を伝い落ち地面を叩いた。
    聞こえていないことを願うのに、聞こえて欲しいと思う。
    気づいて欲しくないのに、振り向いて欲しい。
    我ながらめちゃくちゃだ。ゲンは嘲笑しながら静かに踵を返した。

    「おい」

    歩き出そうとした瞬間、手首を掴まれ、強く引かれる。突然のことでバランスを崩したゲンは後ろへよろめいた。
    雨はますます強くなり、白く飛沫をあげている。それなのに冷たい感触がないことで、部屋へと引き摺り込まれたのだとゲンは気づいた。
    手首は離されないままだ。荒れた指のざらついた感触と、燃えるような熱がゲンを逃してくれない。

    「言いたいことがあるなら目を見てはっきり言え」

    低い声が耳へ届いたのとほとんど同時に、もう一度強く手を引かれてお互いの身体がぶつかる。

    「千空ちゃん、濡れちゃうよ?」

    薄い笑顔を貼りつけてそれだけ告げる。
    赤い瞳はゲンの瞳を睨みつけた。

    「誤魔化すな」

    怒りの色が混じっている。それを感じ取って、ゲンはどうしたらこの場を切り抜けられるか考えを巡らせるが、強い視線に耐えきれずついに下を向いた。
    それさえも千空は許してくれない。すぐに顎を掴まれ、向かい合う形へ引き戻される。
    鼻先が触れそうな程近い。瞬きをするのも忘れて、息を飲む。千空の瞳に身体中を焼き尽くされてしまいそうだった。

    「す、き」

    発した音は、迷子になってしまった子供のように弱々しい。卑怯者の自分が、まだ「頼むから聞こえてくれるな」と叶いもしない願いを込め、いるはずのない神に祈っている。

    「とっくに知ってる」

    千空はそう言ってニヤリと笑う。
    ゲンは震えた声で言葉を続けた。

    「好き」
    「知ってるっつーの」
    「千空ちゃんが、好きだよ…」

    ごちゃ混ぜになった感情でどうしたらいいかわからずゲンが目を閉じた瞬間、またひとつ雫が伝い、冷たくなった唇に温かいものが触れた。

    「は、え?」

    思わず間の抜けた声を上げ、今度は目を見開いたゲンの表情を見て、千空は可笑しそうに目を細める。

    「耳の穴かっぽじってよーく聞いとけ」

    頬に張り付いた髪の毛を掌で撫でられて、ゲンは耳たぶが熱くなるのをはっきりと感じた。

    「ゲン、好きだ」

    いつの間にか雨音は止み、洗い立ての空が2人の上へ広がっていた。
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    ユノスケ

    DONE汁フェス2021開催おめでとうございました!

    エロくないけどべっとりしてます。色々変だけど雰囲気で察してください。
    全年齢のえちおねを目指した…つもり…
    漫画史に残る名台詞、これが言えるのはゲンしかいないと思った。笑
    「千空ちゃん、ちょっと休憩しない?」

    そう言って姿を現したゲンの手には鮮やかな橙色のオレンジが2つ。
    千空はまじまじとそれを見た。

    「オレンジなんて生えてんのか。3700年の間で色々おかしくなってんな」
    「まあまあ、そういうことは置いといて。スイカちゃんが採ってきてくれたの」

    「これ、頑張ってる千空に差し入れなんだよ~!」と喉に手を当てて声を変えたゲンに、「声帯模写やめろ」と千空が眉を寄せる。ゲンはお構いなしに隣へ腰を下ろし、1つを千空へ手渡した。手のひらに収まるくらいの大きさだが、ずしりと重い。
    親指に力を入れて皮を剥くと、一気に柑橘の清々しい香りが漂った。

    「ん~ゴイスーいい匂い!美味しそう!」

    そう言ってゲンはオレンジを丸かじりした。ぐじゅ、と実が押し潰されてはじける音がする。
    持っていた手に汁が纏わりつき、指が光で反射して白く光沢を帯びていくのを千空はじっと見ていた。ゲンはその視線に気づいて小首をかしげる。

    「なに?」
    「…いや、不味かったら食べたくねーから、テメーの反応見てから食おうかと」
    「俺に毒見させたってわけね…大丈夫、フツーに美味しいよ」

    ゲンは苦笑して 2080

    ユノスケ

    TRAINING好きと言って欲しいゲンの話

    ワンライ(という名の1時間半)そして一人称練習。
    かっこよく好きという千空は居ない。全体的に薄い。ただのバカップル風味。
    「はぁ〜」

    今日も今日とて地獄の地道ドイヒー作業中。俺は深い溜息を零した。
    もちろんこの尋常じゃない単純作業の応酬に対してもそうなのだが、どちらかと言えばもう一つの悩みに関してだ。

    「言葉が欲しい…」

    千空ちゃんとお付き合いを始めてからそれなりに月日が経った。
    俺自身は早い段階から自分の気持ちに気づいていたからコントロールはしていたと思うけど、千空ちゃんから同じ想いを伝えられた時にはついに都合のいい幻覚を見るようになったのかと自分の精神状態を心配したほどだ。
    しかし、どうやらそれは真実らしかった。それは幸せなことではあるんだけど。
    隣でしかめっ面をしながらロードマップを書いている千空ちゃんを少し睨んでみる。俺の視線に気づいたのか、千空ちゃんの強い瞳がこちらを向く。

    「なんだ」

    言って欲しい。

    「好きって言って欲しい」

    そう、千空ちゃんに言われたことがないのだ。好きだと。

    「いきなり何言ってんだテメーは」

    千空ちゃんは思いっきり怪訝そうな顔をして、それだけ言って視線をロードマップへと戻す。わかってたけど、ジーマーでどうでもよさそうだね。

    「千空ちゃん、俺と一応 2277

    ユノスケ

    MOURNINGとにかく甘やかされてる千空と甘やかしてるゲンです
    ゲン視点。内容はない…
    ここ数日、どうやら千空ちゃんは寝ていなさそうだった。
    若いから何日か寝なくても平気なのかもしれないけど、昼はカセキちゃんやクロムちゃんと科学工作してるし、夜は設計図に書き込んだり計算したりしてるし、ずーっと何かしている。
    日に日に目の隈ができていく様子をただ見ているのも、流石に辛くなってきた。
    と言うわけで、ちょっと息抜きしたら?と天文台へ半ば強引に連れてきたのだけど、案の定目の前の科学少年は不機嫌そうだ。

    「用があるならさっさと言え」
    「そう言うと思った。じゃあ望遠鏡覗いてみてね」
    「さぞかしいいモンが見れんだろうなぁ?」
    「さぁ、どうかな〜?」

    言われるがまま、千空ちゃんは望遠鏡を覗いた後、小さく肩を揺らした。

    「おー、銀河か。まあ冬は見えにくいんだが。今日は新月だからよく見えるな」
    「天の川ってきれいだよね〜。俺こんなの見たことなかったよ、ここに来るまでは」
    「こっちは100億回見てるわ」

    ぶっきらぼうに話すけど、望遠鏡から目を離さない。まるで新しいおもちゃを貰った子供みたいだな、と思う。

    「今日はここから更に、綺麗なものを見せちゃうよ」
    「そら大層なこった」

    ククク 2064

    ユノスケ

    MOURNING雨がすごかったので。
    突然始まり突然終わります。
    曇天がどこまでも広がっていた。
    独特の湿気た匂いがゲンの鼻を掠める。
    村の住人は外での作業をやめ、足早に屋内へと入っていく。
    賑やかだった音がひとつまたひとつと消え、やがてひとりの男だけが残された。
    間もなく降り出した雨は、地面を黒く染め上げていった。

    柔らかく落ちていく霧雨に包まれる感触は悪くない。
    どうせ手に入らない温もりを待っているよりは余程マシだと思った。
    さらさらと心地のいい雨音だけが広がり、世界にひとりだけしかいないような気持ちになる。寂しさを感じると同時に、不思議と気持ちが高揚する。
    いつもよりも広い歩幅で、踊るように足を踏み出せば、湿り出した地面は体の重みを受け止めきれずに少し沈んだ。

    そうして吸い寄せられるようにゲンが向かった先は、灯りが漏れていた。
    後頭部を掻きながら、紙に筆を走らせている音が耳へ届く。
    霧雨はやがて重みを増し、地面を叩き白く跳ねた。

    髪を伝う水滴を気にも止めず、ゲンはその後ろ姿を見つめていた。
    人類を救い文明を復興させると豪語する背中は、か細く幼い。
    本当だったらまだ守られていたはずなのに、とてつもなく重い荷物をひとりで背負っている。
    そう思 1593

    ユノスケ

    DONE千ゲばれんたいんねた
    こんな話100億万回見た…
    「千空ちゃんみーっけ」

    雪がちらつく冷え切った夜。
    ラボで作業をしている千空の耳に、ゲンの軽い声が届いた。
    千空は特に反応もせず薬品をフラスコへ入れて混ぜている。
    ゲンは千空の隣へするりと滑り込むように来てその様子を見ると、唇を尖らせた。

    「なんか言ってよ〜」
    「生憎反応してる暇もないもんでな」

    千空は仏頂面でそれだけ伝えるが、ぶっきらぼうな態度に慣れっこのゲンは意にも介さない。

    「今日はバレンタインだよ〜?」
    「ドラゴは溜まったか?」
    「順調に儲かってまーす」
    「そこは抜かりねぇな」
    「もちろん」

    悪い顔をした2人の目が合う。
    ゲンは何もないことを証明する為に両手を千空へ広げて見せ、くるりと手首を回し、また手を開いた。その瞬間、紙幣が両手いっぱいに溢れ出し、床へひらりひらりと舞い落ちる。

    「クク、テメーならインチキで大金持ちになれそうだわ」
    「ゴイスー人聞き悪いなぁ」

    クスクスと笑いながら、ゲンは落ちた紙幣を拾い服の袖にしまった。
    イベント独特のふわふわとした高揚感は、この空間においては微塵も感じられない。ゲンは無色透明な液体がフラスコの中で渦を作っている様子を見ながら 2532