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    turb_shirotae

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    turb_shirotae

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    闇堕ちファ先が見たいという欲求に負けて「ファウスト先生はこんなことしない!!!」って叫びながら書きました。ファウ晶要素あり、死ネタあり、解釈違いあり。なんでも許せる人向け。

    眠り姫と獣 ヒースクリフとシノが互いに呪文を唱える。
     家を覆っていた蔦が一気に枯れ、地へと落ちる。それをシノが集めて一気に燃やし尽くした。灰と化したそれらは、風に舞って、大地へと還る。そんな光景を見ながらヒースクリフは黙って俯いた。
    「……やっぱり、ファウストも賢者も帰ってきてないみたいだな」
     シノの小さな呟きは、木々のざわめきで掻き消された。

     嵐の谷。今や誰も住んでいないこの場所に、ヒースクリフとシノは定期的に訪れていた。もしかしたら、彼らの恩師がここに帰ってきているかもしれない。そんな微かな希望を抱いて。
     けれども、誰かが立ち寄った気配はない。ファウストが暮らしていた家は掃除もされず荒れ果てる。その都度、ヒースクリフとシノは彼の家を掃除して立ち去るのだ。

     あれは一体何年前の厄災だっただろうか。ヒースクリフは二回目の戦いで、シノは初めての厄災戦だった。力を増した月は恐ろしいほど大きくて。ヒースクリフもシノも、必死で戦った。
     そんな時、ある噂を聞いた。
    ──魔法舎が人間に襲撃された。
     彼らは慌てた。なぜなら、魔法舎には賢者である晶が残っている。彼女の身に危険が迫っている、と判断したヒースクリフは箒を飛ばした。

     彼が辿り着いた時には悲惨な状況だった。
     どこもかしこも燃えている。炎に巻かれた人間だろうか。顔も分からないぐらい黒くなった何かがあちらこちらに倒れていた。肉の焼けるような独特の嫌な香りにヒースクリフは吐き気を堪えながら賢者を探した。
    「っ、賢者様……!?」
     賢者は談話室にいた。全身を血で濡らし、意識を失った賢者と、そんな彼女を抱きかかえながら鋭い視線でこちらを睨みつけるファウストが。
    「ファウスト先生、」
    「《サティルクナート・ムルクリード》」
     ファウストが鋭い声で呪文を唱える。攻撃魔法だ。思わずヒースクリフが身構えると同時に、彼の背後にいた人間が甲高い悲鳴をあげた。慌てて後ろを振り返ると、恐らくヒースクリフを背後から斧で切りつけようとしたであろう人間が燃えていた。
     まるで、地獄のような業火で。人が燃えていく。凄惨な光景に、ヒースクリフは悲鳴もあげられなかった。
    「《サティルクナート・ムルクリード》」
     ファウストの呪文が聞こえた。ハッとヒースクリフが振り返る。
    「……ファウスト先生?」
     そこには誰もいなかった。地獄のように燃える魔法舎と、地面を彩る赤い血痕を残して。

     それが、最後に見たファウストと晶の姿だった。

     あれから、ファウストと晶は行方不明となった。いくら魔法使いたちが二人を探しても見つからない。彼らは生死もわからず、どこかへ消えてしまった。
     けれども新たに賢者や賢者の魔法使いが召喚される気配もなかった。だから、きっと今でもどこかで生きているはず。そう、ヒースクリフは小さな希望を抱いて彼らを探し続けていた。
    「もう、やめようぜ」
     そうネロに声をかけられるまでは。

     ヒースクリフは驚いたようにネロを見つめた。カウンター越しにキッチンに立つ彼はどこか寂しそうに笑っていた。
     彼はファウストと仲が良かった。魔法舎にいる頃はよく二人で談笑しているところも見かけていたし、行方知れずとなったファウストを心配しているうちの一人だった。
     ネロはヒースクリフから視線を逸らした。何かを誤魔化すように、彼は洗ったばかりのフライパンを布巾で拭う。
    「あれから百年経った。……少なくとも賢者さんはもう死んでいると思う」
     その数字に、ヒースクリフは頭を殴られた気分だった。彼の時間はずっとあの瞬間から止まっているのに。もう、百年も経ってしまったというのか。
     ヒースクリフの隣でパイを食べていたシノが静かにフォークを置く。普段ならすぐに完食しているのに、今日は食欲がないらしい。まだ半分ほど残ったパイが静かに熱を失っていく。
    「……でも、ファウストは?」
    「……生きているとは思うけど。でも、オズが探して見つからねぇんだ、正直どうかね」
     ネロの言葉は残酷だった。ヒースクリフもシノも内心わかっている。もう会えない可能性の方が高い。
    「もうかれこれ店の移転をもう四回は繰り返してる。俺が魔法舎を出てから、あの厄災戦から、それぐらいの時間が経ってるってことだ」
    「……わかってるよ」
     ヒースクリフが絞り出すように声を出した。そんな震える声に、ネロはそっと視線を落とした。
    「……諦めるしかないのかな」
     諦めたくない、でも疲れてしまった。そんなヒースクリフの小さな思いに、ネロもシノも答えられなかった。

    「ひいじいさま! お帰りなさい!」
     気を落としつつもブランシェット城に戻れば、ヒースクリフの愛しい曾孫が駆け寄ってきてくれた。ついこないだ五歳になったばかりのこの子は好奇心旺盛な子に育っているようで、何かとヒースクリフの元へと質問に訪れる。
    「ねね、ひいじいさま、眠り姫ってなに?」
    「眠り姫?」
     いつも答えられることには答えていたが、今日はヒースクリフも聞いたことの無い単語だった。困惑しながら曾孫の純粋な視線を受け止めた。そんな彼らの元へ一人の女性がやってくる。ヒースクリフの孫娘だった。
    「ごめんなさい、お爺様。この子ったらまた変なことを聞いて……」
    「構わないよ。ところで、眠り姫って?」
    「最近話題になっているんですよ。東の国の、わりと北の方の洞窟に眠り姫がいるって」
     初めて聞いたな、とヒースクリフは首を傾げた。現役を引退してから長いというのもあるのかもしれない。世の中の出来事に疎くなってしまったことをヒースクリフは恥じた。
    「なんでも、死んでいるのにまるで生きているように美しい少女がいるとか。まるで寝ているだけのようだから、眠り姫と呼ばれているらしいんです」
    「葬儀とかは? 死んでいるのなら丁寧に葬ってあげたほうがいいと思うけど……」
    「それが、その少女に触れようとすると突然体が痺れてしまうんですって」
     まるで、魔法のように。そう告げる孫娘に、ヒースクリフは黙りこんだ。
    ──今日は初歩的な結界のやり方について教える。大事な物を守ったりするのに使えるから、覚えていて損は無いよ。
    「……その少女って、どんな見た目をしてる?」
    「とはいっても、噂で聞いたぐらいですよ。確か──」
     孫娘の話を聞いて、ヒースクリフは今すぐ飛び出していきたくなるのを堪えた。

     孫娘と曾孫に挨拶をして、城を出る。シャーウッドの森に箒で飛び込めば、驚いたようにシノが顔を出した。あまりに焦った様子のヒースクリフを宥めようと名前を呼んだ瞬間、ヒースクリフが叫んだ。
    「──賢者様が見つかった!」
     その瞬間、シノもまた箒を取りだしてヒースクリフと共に空を飛んだ。

    「本当に賢者が見つかったのか?」
    「いや、噂でそれっぽい人を見つけたってだけなんだけど……」
     けれども、ヒースクリフの直感が告げる。きっと、その眠り姫は晶だと。そうであってほしい。あの二人とまた会いたいのだ。ヒースクリフとシノは肌寒い空気の中、件の洞窟の前で降りた。ほんのり中から感じる魔力に、二人は唇を噛み締めた。
    「…………行くぞ」
    「…………ああ」
     きっと、この奥に答えがある。彼らは足を踏み込んだ。

     酷く湿った洞窟を進む。意外と道は複雑になっておらず、彼らは無言で足を動かした。進めば進むほど懐かしい魔力を全身で浴びて、ヒースクリフは目の奥が熱くなりそうなのを必死で堪えた。
    「……いた」
     シノがポツリと言葉をこぼした。洞窟の開けた場所。天井の岩が崩れ落ちており、外の光が木漏れ日のようにあたりを照らしていた。そこに横たわる一人の女性。ヒースクリフは思わず駆け寄った。
     チョコブラウンの長い髪。白くて若い肌。最後に見た時と変わらないその人こそ、ヒースクリフの探し求めてた人だった。
    「賢者様……!」
     触れようとした瞬間、電気が走る。思わずヒースクリフは顔を顰めて彼女から手を離した。触れてはならないという何者かの強い意志が伝わってくる。まるで、彼女を守る獣に威嚇されたような感覚だった。
    「ファウスト、俺だ、シノだ! ヒースもいる! だから早く出てきて、」
    「シノ」
     シノの叫び声が響く。それをヒースクリフは静かに制した。黙って彼は晶を指さした。シノがゆっくりと近づいて、それを確認した瞬間口元を抑えた。
    「……これ……」
    「ファウスト先生だよ」
     透明な石。青とも紫ともとれる石が晶を守るように散らばっている。シノもヒースクリフもすぐに分かってしまった。二人はきっと、あの後ここに来て朽ち果てた。その際に晶を守るように魔法を残したのだろう。もう二度と彼女が人間に害されないように。
     ヒースクリフはゆっくりと膝をつく。祈るように手を組んだ。
    「お久しぶりです、ファウスト先生。ヒースクリフです。会いに来るのが遅くなってすみませんでした」
     シノもまた、そんなヒースクリフを真似る。彼の隣で指を組んで目を閉じた。
    「ファウスト先生、賢者様をきちんと埋葬してあげたいです。ダメでしょうか……?」
     ヒースクリフの言葉に答えるように風が吹く。ヒースクリフの頭を撫でるように優しく吹いた風は暖かかった。きっと許されたのだ。彼がそっと晶に手を伸ばせば、今度は拒絶がなかった。
     生きていると錯覚するほど綺麗な彼女は、随分とヒンヤリとしていて。生きていないことをヒースクリフは痛感させられた。そっと彼女を抱える。
    「……ヒース、ファウストも一緒に埋めよう」
     シノがゆっくりと透明な石を拾いあげる。丁寧に一つ一つ集めた。
    「ファウストは賢者のこと大切に思っていただろ。……来世なんてそんなもの信じちゃいないけど、もし来世があるのなら」
     二人で、幸せになってほしい。そんな言葉に、ヒースクリフは頷いた。
    「二人がずっと一緒にいられるようにしよう。それで、俺とシノと、ネロでみんなで墓に結界をはろう」
     もう二度と誰にも邪魔されないように。二人を抱えたヒースクリフとシノは来た道を引き返した。


     不意に目が覚める。カーテンの裾から漏れる光に男は身じろぎをした。そろそろ起きないと心配性の連中が訪室するだろう。倦怠感の残る体を引き摺って、男は身支度をした。
     食堂からいい香りがする。今日の朝食はなんだろうか。男は小さな期待をしながら食堂を覗き込んだ。
    「あ、おはようございます、ファウスト」
     目が合った。嬉しそうに挨拶をする女に、男も思わず笑みがこぼれた。
    「《サティルクナート・ムルクリード》」
    「わ、なんですか?」
    「加護の魔法。……なんか、君の顔を見たらかけなきゃいけない気がして」
    「はは、いつも心配かけてすみません」
    「まったくだ」
     そんな冗談めいた言葉に、女もまた冗談めかして笑った。ああ、そうだ。
    「いい夢は見ましたか?」
     女の問いかけに、男は硬直した。今まで忘れていた何かを思い出しそうになって──首を横に振った。
    「いいや、特に何も」
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    Replies from the creator

    turb_shirotae

    DONEマフィひすが本編軸ひすを煽り散らかすだけの話。どうせイベント始まったら大量に解釈違いが生えてくるだろうからポイピクで供養(ヒス晶)
    まずは手を繋ぐところから「好きな女性にまともにアプローチもできないだなんて、こっちの俺は随分と可愛らしいんですね」
     自分と同じ顔が綺麗に口角を上げる。俺はその言葉の意味を瞬時に理解して、かぁっと頭に血が上るのがわかった。そんな様子すら目の前の男は楽しげに見つめる。――正直、悔しかった。

     俺と同じ顔の、俺とは異なる人物。この不思議な男が現れたのは昼もだいぶ過ぎた頃。俺は魔法舎で賢者様とのんびり三時のお茶をしていた。お気に入りの美味しい紅茶が手に入ったから、と賢者様を誘ってみれば彼女は嬉しそうに頷く。そんなところも可愛らしくて、俺はほんのりと早くなる脈を感じながらこの時間を堪能していた。……のだが。
     この幸福の時間を誰にも邪魔されないように。そう思って魔法舎の裏でひっそりとお茶会を開いていれば、ふと人の気配がした。魔力は感じられない。なんでこんな所に人間が? 俺は賢者様を不安にさせない程度に気配を警戒する。あ、まずい。こっち来る。そう思ったと同時に草むらの影から一人、人間が現れた。
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