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    moku_amekaru

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    moku_amekaru

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    お題「悪趣味」
    鍾タルの2回目の話
    1h+30m
    ⚠️ガッツリ事後、R-15程度
    #鍾タルワンドロ·ワンライ

    お互い様の話 眼下には、溺れる男。小刻みで荒い呼吸に唇が揺れ、肌はしとりと艶のある湿りを帯びている。命からがら漆黒の海から這い出てきたような姿だが、男が鍾離と泳いでいたのは波のように皺を帯びたシーツの上だ。
     真白い肌は霜焼けのように赤らみ、朽葉の髪は雪解けのように潤う。常よりもさらに色濃く腫れた唇を親指でなぞり、そのまま頬に手を添える。温度差が心地いいのか、気まぐれに甘える猫のように、一つ擦り寄られた。いじらしい仕草に誘われて、離したばかりの身体を寄せる。背に腕を回し、ぴたりと胸を合わせる。どちらの鼓動も妙に早く、落ち着きがない。擦り寄せた首筋から汐の匂いがした。
     
    「はあっ、なあに、もう一回、する?」
     
     耳に注ぎ込まれる揶揄の声。乱暴な手が鍾離の枝毛のない髪を乱す。強者を挑発するときと同じ調子だ。魅力的な誘いであるが、その声音はすり減って掠れ、確かな疲労が滲んでいる。逆境を得意とする男はこんな時でも侮られるのを嫌がるのか。呆れと感心の半々を添えて、赤らむ目尻に唇を寄せた。

    「いいや……これ以上は公子殿の身体に障るだろう」
    「あんたに付き合うだけの体力がないって、バカにしてるの?」
    「全て悪い方に捉えるな。どうしたって受け手側の負担が大きいんだ。本来の用途でないのに、無理に暴いているのだから」
     
     顔を上げて髪を撫でた。男——公子の髪は、鍾離のそれよりもずっと柔らかで癖がある。幕のように下りた、鉱石を織り交ぜて紡いだような剛直な鍾離の髪と少しだけ重ねて梳いて身体を離す。不満げに唇を尖らせていたが、抵抗はなかった。
     余裕なふりをしているが、鍾離だって困っている。芳香に煽られて、頭が莫迦になってしまわぬように必死だった。
     公子はまるで飲み慣れない酒だ。以前味わったときも未知の味に心が躍ったが、初めてだからのめり込みすぎてはいけないと自制できた。だが、二度目は。味を知っているからこそ、舌に馴染みかけているからこそ、飲み過ぎてしまいそうなのだ。まだ足りない、もっと寄越せと、湧き上がる衝動を抑え切れる自信がないのだ。それこそ公子が意識を失うまで事を続けてしまいそうで、どうにも恐ろしい。
     臥牀横の棚に置いていたタオルを取り公子に手渡す。鍾離が清めてやろうかとも思ったが、その姿を見たらまた押し倒してしまいそうで無理だった。のろのろと身体を起こした公子は鍾離の背に寄りかかる。真新しい背の傷に皮膚が当たって少しだけ沁みたが、何も言葉にはしない。公子の顔も姿も見えないが、少しして肌を拭く音が聞こえてきた。汗と精の香りと公子の扱う布の音だけが淡い洋灯のともる部屋に満ちている。
     
    「……ねえ、先生」
     
     不意に公子が口を開いた。頭だけ振り返るが、その表情は見えない。体勢を変えようとしたが、そのままでいいと制されてしまった。
     
    「二回目、しちゃったね」
    「……一度目とは違うのか?」
    「う、いや騙されて抱かれたあれも癪だけど……一回目は冗談や勢いでも出来る。でも二回目は相手と身体を重ねるのがどんなことかわかるから、理由がなきゃできない。そんな話を前に聞いたことがあるよ」
    「ふむ、なるほど……そういうものなのか、人間は興味深いな」
    「ハハッ、元神様はまだまだ凡人のお勉強が足りないね。……ともかく。まさか、先生から直球のお誘いが来るなんて思わなかったし、俺もなんでか応じちゃったけど、理由はわからない。だからきっとさ、俺とあんたは間違えちゃったんだ」
    「間違い?」
    「うん、そう。一回目のときに中途半端に気持ちよくなれちゃったから。もしかしたら相性がいいのかも〜なんて、勘違いしちゃったんだよ」
     
     掠れた声で、しかし迷いなく。公子は笑って言い放った。鍾離を置いてけぼりにして、勝手に書き上げた脚本を読み上げるように言い切られてはあまりいい気はしない。
     公子は理由がないと二回目の逢瀬を求めないと言うのに、鍾離が望んだのは間違いだという。鍾離が公子に手を伸ばすのに、快楽を求めた以外の理由がないという。勝手に欲情の神にでも仕立て上げられた気分だ。
     不快を隠せず、柄にもなく舌打ちが漏れた。ぎょっと振り返った公子を背中から抱きしめ、そのままシーツに身体を倒す。

    「せ、先生……舌打ち、するんだ」
    「公子殿の言葉があまりに解せなくてな」
     
     後頭部に額を寄せて押し付ける。逃すまいと腕ごと抱きしめ腹部で指を組む。聞き逃されぬように耳の間近に唇を置いた。
     
    「……初めは、隙のない若者で、油断のできない悪名高きファデュイの一人でしかなかった」
    「おお、光栄だね」
    「だから、不思議だった。神の座を降りた俺にもう大した価値もないだろうに、なぜか公子殿は俺との時間を求めてくれる。気まぐれに酒に誘っては仕事の愚痴を溢してくれるし、金を持たずに会計に臨む俺に呆れつつ財布を開いてくれる。旅人の任務を手伝うときには背中を預けてくれる。そうと思えば手合わせに付き合えと対峙してくる。極め付けに……共に寝ることを選んでくれた。これは流石に想定外だった」
    「いや、財布は持ち歩いてよ。というか持ち金に合わない買い物はしないようにしてほしい」
    「まあそれは置いておこう」
    「置くな」
     
     ぶつくさと続く公子の抗議はもっともだが今の本題とは異なるため気にしないでおく。耳殻に口付けたら少しおとなしくなった。
     
    「話を戻すが。共に寝ることを許してくれるならどこまで許してくれるのか、少し興味が湧いた。だから公子殿の悪戯を逆手に取って事に及んで見たのだが……これがいけなかった」
    「なんで、さ」
    「全てが全て、変質してしまったんだ。乱れる姿も、辿々しく俺を呼ぶ声も、そうして終わった後でも共に食事をすることを許してくれることも。全て、愛しくなってしまった。俺の日常に公子殿が溶け込んでいて、神であったことなど関係なく人として接してくれているのが……とても、心地いいことに気づいてしまった」
    「え、っと」
    「一度目は勢いでできるといった。悪いが、その通りだ。ただの好奇心、それだけだった。だが、今日は間違いなどとは思わない。誰かで欲を満たしたかったのではなく、公子殿と、身体を重ねたかった。ただお前の体温を求めてしまった」
    「鍾離先生、もういい、わかった」
    「いや、お前が逃げ場を作れぬようにはっきりと言ってやる。俺は一度目でお前に惚れた……いや、惚れていたと気づいてしまったから、お前を何度も求めたくなってしまった。だから、このまま。ずっと絆され続けてくれないか?」
     
     わざと音を一つ低くして。吐息ごと注ぎ込むように、公子に囁いた。表情は相変わらず見えないが、朱に染まった耳と頬に当たる頸の拍動が伝えてくれる。おそらく感触は、悪くない。
     公子は振り返らず、ただ鍾離の組んだ手の甲に手のひらを重ねて。独り言のようにつぶやいた。
     
    「くそ、悪趣味だ。先生…………も、俺も」
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