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    milk04coffee

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    体調不良(リクエスト)
    ついったにあるもの+おまけ
    2021-4-24(まとめた日)

    その病は治らない いつも通りの朝だった。目覚ましをかけた時間に起きて、身支度をして、しっかり朝食もとって家を出た。一緒に登校していたらしい類と寧々と偶然合流し、他愛のない話をしながら学校へ向かって……その時は本当にいつもと変わらなかったのだ。教室に着いたあたりで微妙に体が重いような気こそしたものの、それだけだったのに。
     違和感が急激に強まったのは、四時間目の最中だ。薄らと感じていた体の重さがいきなり強くなり、目の前がふらつきだす。背をなぞられるような嫌な寒気に軽く身を震わせた。
     ……これは、まずいんじゃないのか?
     靄のかかった頭で考える。時計を見る限り授業の終わりまであと十五分だ。幸い生徒をあまり当てない先生の教科だし、これが終わったら昼を摂る前にまっすぐ保健室へ行こう。ぐらつき歪む視界に耐えながら、背を曲げてノートの真ん中を見つめた。板書なんてひとつも取れないまま、ただじっと耐える。あと、すこし。常よりもずっと長く思える十五分間が終わる頃には、ひどい寒気がするにもかかわらず、服の下にじっとりと嫌な汗をかいてしまっていた。
     時計の針がガチリと動き、学校中に終業のチャイムが響く。授業が長引くこともなく、先生は時間ぴったりにチョークを置いた。

    「今日はここまで。それでは日直──おい天馬、顔色真っ青だぞ、大丈夫か。保健室行くか?」

     こちらを振り返った先生が、心配そうに声をかけてくる。しまったな、と、そう思った。顔色にまで出ているとは。

    「あ……大丈夫です。自分で、行けます……」
    「……無理はするなよ。では号令」

     気をつけ、礼。その指示には従えないまま片手で頭を抱える。声を出したことで、余計に頭がぐらついていた。

    「天馬くん、大丈夫? 保健委員だし、あたし着いてこっか」

     すぐには動けないな。そう判断して座っていると、保健委員の女子が近づいてきてそんなことを言う。しかし、少し待てば立って歩くくらいはできそうだ。昼休みを削ってもらうのも悪いからと断ろうとしたところで、友人が横から声をかけてきた。

    「女子じゃなんかあっても支えらんねーだろ。司、肩貸すか?」
    「ん、いや、大丈夫だ。……なんとかいける」
    「なんとかってなあ」

     話しかけられるうちに、体調が少しはマシになってきた気がする。今のうちに動いた方がよさそうだ。友人のぼやきを聞きながら、机に手をついて立ち上がった。
     そのはずだった。
     ぐるり、と視界が大きく回る。ガタガタとという激しい音と誰かの悲鳴が聞こえた。どこかに打ちつけた肩と足が痛い。なんだ、何が起きている? 自分がどこにいるのかもわからなくなって、机を見ていたはずが誰かの爪先を見ている。

    「なに、どうしたの?」
    「天馬が倒れた!」
    「近くに先生いないの」
    「おい司、しっかりしろ!司!」
    「え……ぁ、大丈夫、だ。大丈夫だから……」
    「いやどこがだよ」

     いっとき和らいでいたはずの具合の悪さが、倍になって戻ってきたみたいだった。頭も体も痛い。重い。くらくらするし、ひどく寒い。倒れた……オレが?
     呼びかけられる声に反射的に大丈夫だと返事をしたものの、自分でも状況がわかっていなかった。でも、大丈夫なんだ。意識はハッキリしてる。うまく言葉を選び出せず、声を出すのがやけにつらいというだけで。
     先生の言葉に甘えておけばよかっただろうか。それとももっと早く席を立って保健室に向かっていれば。友人たちの焦った声が頭に響いて気持ち悪い。心配を、迷惑を、かけてしまっている。早くなんとかしなくてはと思うのに、体は少しも動いてくれない。

    「──司くんッ!」

     耳に入ったのは、一際よく通る声。類だ。なぜA組にいるんだろう。「すまない、通してくれ」と鋭い声がする。パタパタと足音が響いて、止まった。

    「司くん、聞こえる? 意識はあるかい?」
    「う、ぁ……るい、すまん」
    「いいから。頭は打ってない?」
    「ああ、……目、回って、立てなくて。それだけだから、わるい、さわがせて」
    「……目を閉じて。保健室まで運ぶよ」

     言葉に従って目を閉じる。腕を取られてどこか──感触からして恐らく類の肩であろう場所に乗せられた。そのまま体の下に指先から手、腕が入り込む感触がして、最後にぐっと体が浮く。抱き上げられている。相当重いだろうに。

    「体、こっちに預けられる?」
    「……、……すまない」

     薄く目を開いて、類の体に寄りかかる。肩に頭を預け、やはりぐるぐると回り続ける視界に耐えられず目を閉じた。
     あたたかい。体の芯から凍えていくような感覚は止まないままだが、体温を分け与えられ、幾分かマシになったような気がする。

    「歩くから揺れるけど、少し我慢できそうかい」
    「ん……」

     類が話すたびにその喉が動くのがわかった。小さく頷きながらオレのものとは違うにおいを感じ取って、類だ、とわかりきったことがもう一度頭に浮かぶ。普段ふと距離が近づいたときにする、あのにおいだ。分け与えられた温もりも、体を支える腕も、見えなくてもちゃんと類のものだ。
    類が歩き出したのか、体が少し不安定に揺れる。でも、恐怖はどこにもなかった。類なら、大丈夫だ。
     大丈夫だと思った途端、どうにも起きているのがつらくなってしまった。抗い難い眠気に襲われ、オレは類に身を預けたまま、眠りの中に落ちていった。



     ふっと浮き上がるような感覚がする。抱き上げられた時とは違う、体は重いまま、意識だけがどこか軽くなるような感じだ。
     抱き上げられた時……そうだ、たしかオレは倒れて……。
     瞼を持ち上げようとしたが、それはかなわなかった。体全体が重く、怠い。それは瞼も同様で、上瞼と下瞼が貼りついてしまったみたいだ。さっきよりは楽になった気がするものの、体調が悪いことには変わりがない。
     いくらか回るようになった頭に後悔がなだれ込む。やってしまった。横たわっているような感覚があるから、どこかのベッドに寝かされていることは間違い無いだろう。類があのまま運んでくれたのだろうか。友人たちを心配させてしまったし、類にも迷惑をかけてしまった。もしも体が動くのなら、頭を抱えたい気分だった。
     あれだけの大騒ぎになってしまったんだ、先生方にも話は伝わっているだろうし、家族にもまず間違いなく連絡が行っている。両親もまさかオレが倒れるとは思っていないだろうから、きっと驚かせてしまうことだろう。心配もかけてしまうに違いない。……気にしないで、ほしいのに。きっとそうはいかない。
     考え込んでいると、ガラガラ、と遠くから音がした。引き戸の音だ。

    「失礼します。つか……天馬の荷物持ってきました」

     聞こえてきたのは友人の声だ。ここは保健室だったらしい。わざわざ荷物を持ってきてくれたらしい友人に礼を伝えたいところだが、今は何もできない。治り次第何か奢りでもするか、と頭の中にメモを書く。
     友人の声に応えたのは、「おや」という類の声だった。

    「A組の……。ありがとう、預かるよ」
    「神代? 保健の先生は?」
    「今はいないけど、すぐ戻るそうだ。司くんはその間僕が見てることになっているよ」
    「ふーん、じゃ、長話はまずいな。とりあえずこれ渡しとくわ」
    「ありがとう」
    「いーって、礼は司に貰うし。じゃあな」

     扉の閉まる音。それに数秒遅れて、類のため息が聞こえた。
     きっと、疲れさせてしまったんだろう。倒れた人間を介抱するなんて、類は不慣れなはずだ。重い体を遠くまで運ばせもした。
     ……呆れさせてしまったかもしれないな。健康体であるにも関わらず体調管理の一つもできずに、ここまでの迷惑をかけてしまった。ネガティブな思考が戻ってきて、体の芯がまた冷えていく。
     早足に歩いてくる音が聞こえて、さっとカーテンが開かれる音がした。すぐに同じ音がもう一度。閉め直されたらしいカーテンの内側に、人の気配がする。足音はベッドの脇までやってきて、止まった。

    「司くんは、まだ寝てるか……」

     目はまだ開きそうにない。体全部が重くてどうにもならないんだ、不甲斐なくてすまない。伝わりもしない謝罪を頭の中で繰り返す。
     人の──類の気配が、さらに近づいた。ぎし、と頭の横でスプリングが鳴る。頭の横に、手をつかれている……?
     何をしているのだろうかと思っていると、こつんと額に固いものが当たり、肌の上を細く滑らかな感触が滑っていった。至近距離で声がする。

    「代わってあげられたらよかったのに」

     滑り落ちた感触と入れ替わるように、少しかさついた何かが頬を覆った。
     手、だろうか。親指と思しきものが頬骨の上を往復するように優しくなぞる。鼻先が、どこかの皮膚にぶつかった。そんなところに触れる必要はどこにもないはずなのに。

    「熱い……」

     小さな声と共に吐き出された息が、唇に触れる。
     自分の息と類の息が混ざっていくのがわかる気すらした。このまま唇同士まで触れ合ってしまうのではないか。見えないけれど、そう思ってしまうほど近くに、類がいる。
     熱い、だ、なんて。
     さっきまで感じていた寒さはどこへやら、全身がかっかと熱くなっている。熱くしたのはお前だろうと言ってやりたかった。お前がそんなに近くにいるから。優しく触れて、切なげに声をかけてきたりなんかするから!
     目を開けられない。瞼を上げられたとしても、そんなことできそうにない。もしも目を開けて、それで類の顔を見てしまったら、自分でもどうなってしまうかわからなかった。何もしようがないのに心臓だけがやたらめったら暴れ回って、これではまるで拷問だ。体調の悪い人間を拷問にかけるやつがあるか。
     早く離れてほしい。起きていることにも気がつかないままでいてほしい。ばくばくと音を立てる鼓動を隠しながら寝たふりを続けるのも、もう限界だ。いつ脈打つ心臓に引き摺られて呼吸が乱れてしまうかわからない。

    「はやく元気になって。……君の元気がないと、調子が狂ってしまうよ」

     それだけを小さく囁いて、類は離れていってしまった。何かが軋むような音が近くでしたから、ベッド脇に置かれた椅子に座りでもしたのだろう。体温が遠ざかって、冷えた空気が顔を撫でる。
     ……狂いすぎだ、バカ。普通、仲間に対してそんなに近づいたりはしない。まさか誰にでもやっているわけじゃないだろうな。
     見られているのが気まずいような、見守られているのが安心するような、奇妙な沈黙が続く。ほんの数十秒しか経っていないのか、それとも何十分も経ったのかもわからないまま横たわっていると、ガラガラとまた引き戸の音が鳴った。

    「神代さん、ごめんなさいね。待たせちゃって」
    「いえ、大丈夫です」

     保健の先生が戻ってきたらしい。カーテンが開かれて、数歩ぶんの遠ざかる足音の後、もう一度閉めなおされる。閉じられた空間を出ていった類は先生と何やら話をしだした。息が少し忙しなくなっていたから、熱が上がってきてしまったのかもしれないだとか、なんとか。心配してくれるのはありがたいが、それは絶対にお前のせいだ。
     さっきよりも僅かに軽くなった瞼を薄く持ち上げる。これが最初からできていれば、こんなにどぎまぎする羽目にはならなかったのに。
     視界はもうぐらついたりなんてしなかった。合わさった額が、頬を撫でた指が、つらさを取り払ってくれたみたいに……何を考えとるんだオレは! ああ、もう!
     ──気がつかなかったふりを続けていたかった。でも、もう、無理だ!
     離れてくれと願いながら、いざ離れられたときに感じたのは寂しさだった。
     誰にでもやっているわけじゃないだろうなという疑念の裏にあったのは、オレだけだったらいいのにという欲だ。
     胸の内が落ち着かなくて、口元がむずむずして、無性に叫びたくなってしまう。涙が出そうだった。頬は真っ赤に染まって、目も潤んで、唇を噛んで。今のオレは、カッコいいとは程遠い、たいそうみっともない顔をしているに違いない。ああ、なんてものを暴いてくれたんだ!

    「るいのばか……」

     外から聞こえる二人の話し声に隠れるように、ちいさくちいさく呟いた。口の中にこもった声は、誰にも知られないまま消えていく。
     一番のバカは、きっと、オレだった。








     天馬が倒れた。壁ひとつ隔てた教室からその言葉が聞こえて、頭が真っ白になった。ひどく混乱していたのだと気がついたのは、保健の先生から天馬さんは大丈夫だと言われ、宥められた後のことだったけど。
     ベッド脇に立てば見えるのは、青褪めた顔と、そこだけ不思議と紅潮した頬だ。

    「…………」

    司くんの顔の横に腕をつき、前腕をベッドに寝かせる。額同士をこつんと合わせた。このまま互いの熱を、半分に分け合えたらよかったのに。
    いいや、それより。

    「代わってあげられたらよかったのに」

     体を支えるのとは逆側の手で、頬を染める赤を優しく拭うように撫でる。よく手入れされているのだろう、滑らかな感触が指先に伝わった。
     鼻先が触れる。吐息が混ざる。

    「熱い……」

     司くんの口から吐き出された息が、形を持っていればよかった。そうしたら、それを僕が食べて、呑み込んで、君から奪ってしまえたのにね。
     ……なんて、馬鹿馬鹿しい話だけれど。
     唇に感じる吐息は、さっきよりも少しだけ忙しなくなっている。熱が上がってしまったのかもしれない。それとも、目を覚ますのが近いのか。

    「はやく元気になって。……君の元気がないと、調子が狂ってしまうよ」

     眠る君から、返事はない。それがなんだか寂しくて寝顔をぼんやりと眺める。戻ってきた先生に声をかけられるまで、そうしていた。




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    milk04coffee

    DONEセカイの少し不思議な話(リクエスト)
    セカイの不思議な、キラキラ綺麗な存在に囲まれて現実にいるときより少しまったりしている二人

    まったりしすぎて寝てしまいました。
    大変遅くなったもの。申し訳ありませんでした…!
    2021-11-07
    その想いはまだ、曖昧なまま 想いの曲を再生してセカイへと訪れたのは、夕飯時を少し過ぎ、そろそろ眠る準備でもしようかという時刻だった。特に誰かと何か約束していたわけでもなければ、相談があるわけでもない。少し落ち着いて考え事をしたかったというだけだ。リビングの音が筒抜けの自室はひっそりと思考に耽るにはあまり向かないものだから、セカイの隅でも借りようと考えたのである。
     考え事というのは、ほんのちょっとしたことだ。最近心の内側を擽られるような、なんだかそわそわと落ち着かなくなる感じがすることがあって──そしてそれが落ち着かないだけではなくて奇妙な心地よさを伴っているのが不思議で、その感覚をゆっくり見つめてみたくなったのだ。
     静かな自室から賑やかなセカイへと移動して辺りを見渡すと、はしゃぎながら戯れるぬいぐるみたちが遠目に見えて、思わず頬を緩める。現実世界は夜を迎えていても、ここの住民はまだまだ元気らしい。
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