ようこそはばたき市へ!20周年アニバーサリー わたしがはばたき市に生まれて今日で二十年になった。人生の一つの節目となったその日、わたしは純白のドレスに身を包んでいた。
「あっ……」
後ろから声がして振り返ると、幼馴染の玲太くんがいた。
「玲太くん……」
玲太くんも純白のタキシードに身を包んでいて青いタイがアクセントになっている。
「本当に綺麗だよ、おまえ……」
二年前の高校の文化祭の時のように玲太くんは息を呑んでわたしのウエディングドレス姿を見つめている。
「玲太くんもすごく素敵だよ」
「そ、そうか……おまえがそう思ってくれてるなら、良かった」
照れくさそうに玲太くんは頬をかく。お互い、人生の晴れ姿にどこかくすぐったい気持ちもあるが、それ以上に大きな喜びと幸せに満ち溢れている。
「ふふっ、本当に夢みたい……あの時の玲太くんの言葉が本当になるなんて」
「当たり前だろ? おまえと約束したんだから」
玲太くんは二年前のあの日と同じようにふっと笑った。
二年前の高校三年生の文化祭、所属していた手芸部のウエディングドレスショーでもこのドレスを着た。しかし、折角の晴れ舞台なのに、緊張のあまりわたしはステージで派手に転んで失敗してしまった。ショーを見てくれた玲太くんにも大丈夫かと心配されたが、失敗して落ち込むわたしに玲太くんはこう言ってくれた。
――俺が近いうちに、またそのドレス着せてやる。
玲太くんのその言葉が嬉しくて「……いつ?」と聞いたら「……ったく、せっかちなんだよ。だから転ぶんだ」と笑われてしまった。それでもわたしが三年間頑張ったことは褒めてくれて、これもいい思い出になるよと言ってくれた。
「それが今日だったんだね」
「ああ。おまえの二十歳の誕生日。一生の思い出になるように」
家族や友達の前で結婚式を挙げるのは大学を卒業してからでまだ先になりそうだが、あの時の約束を守るように玲太くんはわたしの二十歳の誕生日にウエディングドレスの写真を撮ろうと言ってくれたのだ。
「俺の方こそ夢なんじゃないかと思ってる」
玲太くんはわたしの頬に手を伸ばす。
「えっ……?」
「でも、夢じゃないんだよな。おまえはもう俺のお嫁さんなんだよな」
と、玲太くんは目の前にいるウエディングドレス姿のわたしを確かめるように触れてきた。そして、キスをしようと顔を近づけてくる。
「玲太くん……」
ドキドキしながら玲太くんからのキスを受け入れるように目を閉じる。すると――。
「はいはーい、お二人さん! 誓いのキスはまだまだ!」
「カメラマンさん、とっくにスタンバってるから」
「本多くん、七ツ森くん!」
「……ったく、いいところで」
高校の友達である本多くんと七ツ森くんがやって来た。玲太くんにキスをされる直前だったので、わたしは恥ずかしくなり、玲太くんは不機嫌になる。
「カザマ、折角俺の知り合いのカメラマンに頼んだんだぜ」
「そそ! それに、オレたちも早くリョウくんたちの晴れ姿見たいからね」
「……分かってるよ、感謝してる」
「うん、ありがとう、二人とも」
今日のことを本多くんと七ツ森くんに話すと、二人とも是非見に行きたいと言ってくれて、七ツ森くんが知り合いのカメラマンさんに写真を頼んでくれたのだ。
すると、七ツ森くんがスタンバっていると言っていたカメラマンさんから声がかかった。
「あっ、そろそろOKみたいです。お願いします」
「二人とも、早く早くー」
本多くんと七ツ森くんが撮影場所の教会の前へわたしたちが来るように促す。そんな二人の様子に玲太くんは「……ったく」と息をつくと、わたしに手を差し出した。
「ほら、行こ」
小さい頃から何度も差し出された手。小さい頃はほとんど同じくらいの大きさだったのに、今やその手はわたしの一回り以上はある。その手でいつもわたしを色々なところへ連れて行ってくれた。
「はい……!」
そして、今日は新しい二人の門出へ連れて行ってくれる玲太くんのその手に自分の手を重ねた。