「え、ケンカ売ってるなら買うけど」
「あ、ごめんなさい! そういうつもりじゃなかったんです」
本当かよ。
めっちゃニコニコしてるので、怪しい。
「それで、ですね。私と友達になってもらえませんか?」
頭のおかしい女の子に友達になってほしいと言われた。こわ。
「ならない」
「そうですか……」
しょんぼりしてしまった。まあ、別にいいか。
……私と、頭のおかしい女は二人で並んで歩く。無言。
ちらっと横目で見ると、頭のおかしい女はずっと俯いている。
なんなんだこの状況。
私、何か悪いことしたかな。
「……てかさ」
「あっ! はい!」
私が声をかけたら、急に元気になった。そんなに私のこと好きなの? 怖いなー。
「いつまでついて来るの。違う学校でしょ」
「それは……友達になっていただけたら、すぐ自分の学校に行きます」
やっぱり怖い……。
なんか、このノリだと学校に入ったら、普通に教室までついてきそう。
今日は学校行くのやめるか。
私はくるりと後ろを向いて、逆方向へ歩きはじめた。
変な女もあわててついてくる。
「どこへ行くんですか?」
「サボる」
「いけないですよ、サボりは」
「そう? 別に私が学校からお金貰ってるわけじゃないし。いいんじゃない」
「でも、授業を飛ばすとついていけなくなっちゃいませんか」
「知らん」
授業中は大体寝てるから、サボっても出ても大して変わらない。
なんで自分が学校行ってるのかよくわからなくなってきたな。たぶん惰性で行ってる。
変な女は呆れ顔だ。お前そんな顔する資格あんのか。
「将来が心配じゃないんですか?」
そっちの将来のほうが心配だけど?
「お金はあるから平気」
両親からいっぱい貰ってるのでなんとでもなる。月に一億くらい。
「へえ……」
「え、なに。興味あるの?」
「うーん、将来がどうとでもなるくらい持ってる、って言われたらちょっと気になっちゃいますね」
「あげないよ」
「お金が欲しいわけじゃないです。友達になりたいんです」
……やっぱり気持ち悪いんだけど、さすがに気になってきた。
普段はカケラも持ちあわせてない、他人への興味を振り絞ってみるか。
「なんで私と友達になりたいの」
「え……」
うーん、と腕を組んで考え込む。
散々友達になりたいって言ってきてそれ? なんなんだこいつは。こわ。
「なんででしょう……。私、通学途中にたまに貴女のことを見かけてたんです」
「へえ」
私は全然変な女には気が付いていなかった。一方的に見られていたらしい。
それは仕方ないか。私は美人だからね。
「それで、綺麗なのにいつも一人なんだな、友達いないのかな……って思って」
「ぶつぞ」
「ぶたないでください」
こいつ私を煽りに来たのか。
……あれ、これが煽りに聞こえるってことは、私、もしかして友達とか欲しかったのか。まさか?
「そう考えてたら、友達になりたくなったんです」
「つまり、友達がいないやつの友達になってやろうって哀れみ?」
「いえ、そういうわけでもなくて。うーん、なんとなくです」
「なんとなくか……」
なんとなくと言われると弱い。
私もなんとなく生きてるからだ。
なんとなくより切実な理由は、たぶんない。
「なんとなくなら、しかたないな」
「…………」
「なんか奢って」
「え」
「友達なんでしょ」
笑顔のような呆れたような、複雑な顔になる変な女。
「……将来がなんとでもなるくらい、お金があるんじゃありませんでしたっけ」
「それとこれとは別」
変な女は、財布を取り出してのぞきこむ。千円札が二枚。
「ええと、あまり高いものは無理ですけど……」
「じゃ、ラーメンだ」
私は背の低い彼女の腕に手を回し、むりやり引き寄せる。
「わっ」
「今日から私たち、親友ね」
「え、えっと……はい」
「よろしくね、鉄花」
私は笑って、彼女の顔を見た。
不安げな顔が、ぱっと明るくなる。
こうしてみると結構かわいいじゃん。私ほどじゃないけどね。
「はい! あの、お名前を教えていただいてもよろしいですか」
「くもり。雨上(あまがみ)・くもり。そっちは?」
「はい。歌島(かしま)・鉄花(てつか)です」
「OK。そんじゃ、駅前のラーメン屋行こうか。あそこはもう開いてるから」
「私たち、制服ですけど……」
「私は気にしないから大丈夫」
何が面白いのか、鉄花はふふっと笑った。
「くもりさん、すごいマイペースですね」
「……うわ。それ、鉄花が言うの怖いなー」
続く