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    秋の犬辻のぶつ切り。文化祭について。

    「みなさんお疲れさまでした、次で六頴館高校文化祭も遂にフィナーレになります!」
    第57回六頴館高校文化祭は、次のブラスバンドの演奏で幕を閉じようとしていた。校庭に作られたステージには、吹奏楽部がぞろぞろと入場して、拍手が沸き起こっている。
    ボーダー隊員も、学生は修学旅行や文化祭など、学校行事には参加できるよう配慮して任務が組まれているので、文化祭も一日楽しむことができる。クラスの出し物の片づけも終わった俺は、人気のない空き教室のベランダから校庭のどんちゃん騒ぎを眺めていた。
    「あれ? 辻ちゃんだ。何見てんの?」
     振り向くと、廊下から犬飼先輩がこちらを覗いていた。お、辻ちゃんとこのクラTよく見たら結構可愛いじゃん、なんて茶化してくる。
    「あ、先輩。お疲れ様です。まだ学校残ってたんですね。今からフィナーレなんですよ」
    「一人だったんだ、連絡すればよかった」
    「さっきまでは奈良坂と一緒だったんですけど、奈良坂は那須隊の弟子の子と練習の約束があるみたいで」
    「文化祭当日にまで訓練入れてるなんて、さすがだねえ奈良坂くんは」
     先輩もベランダにやってきて、俺の隣でブラスバンドの演奏を眺め始めた。
    「辻ちゃんのクラスが売ってたカレー結構おいしかったよ。お肉大きくて食べ応えあった」
    「本当ですか? よかったです」
    「辻ちゃんはカレー作り手伝ったの?」
    「いえ、俺はレジ担当でした」
    「辻ちゃん、料理下手そうだもんね」
     先輩が意地悪そうに言う。
    「失礼ですね、人並みにはできますよ。先輩はいろいろお店回れましたか?」
     三年生は受験勉強がある関係で文化祭には参加せず、店や出し物を回るだけらしかった。実質、文化祭に本格的に参加できるのは二年で最後、と言うことになる。
    「色々回ったよ~、菊地原くんと歌川くんがお化け屋敷やってたの辻ちゃん行った?菊地原くん、死ぬほど脅かし役のやる気なくて超おもしろかったよ」
    「それ、奈良坂も言ってたんですけど俺が行ったときはちょうど交代してたみたいなんですよ。見たかったなあ」
    「ほんと笑っちゃったよ。ひゃみちゃんのクラスはアイス売ってたね。食べた?」
    「食べましたよ。イチゴ味食べました」
    くだらないやり取りをしていたら、突然、校庭から閃光が上がった。ひょろひょろと小さな火の玉が上がり、パンと空中で弾ける。校庭の生徒たちから驚きと歓声が上がる。騒ぎが起きている方に目を凝らすと、どうやら男子生徒数人が何かに火をつけているらしかった。
    「あれ、家庭用の打ち上げ花火ですかね?」
    「そうなのかな? ああいうの上げてるとこ初めて見た」
    「あれ、多分勝手に上げてますよね? 大丈夫なんですかね」
     そう話している間にも花火は数発上がり続け、そのたびに拍手も起きていた。秋になり、すっかり日が落ちるのが早くなった。暗くなりかけた空に、花火の閃光はキラキラと瞬いては消えていく。
    「あ、あれ上げてんの多分三年のやつらだ。うち進学校なのに、馬鹿なことする奴がいるんだねえ」
     先輩は下を眺めながら、あきれたように言う。
     教師たちが出てきて、花火が上がっている方へ駆け出していくのが見えた。歓声が上がって賑やかだった校庭に教師の怒号が飛び交う。花火を打ち上げていた生徒たちが散り散り逃げ出していくのが見えた。やはり学校で火を使って花火を上げるなんて、今のご時世では許されないのだろう。小説や漫画ではよく後夜祭にキャンプファイヤーをやったりしているが、あれも所詮空想上か大昔の話だ。
    「みんなさ、高校最後の思い出作ろうって必死なんだよ。」
     先輩が唐突に言った。
    「受験勉強は切羽詰まってくるし。高校生活は終わりに近づいてるし。だからあんな馬鹿なことやっちゃうんだ」
    「まあ、俺たちだって夜中のプールに飛び込んだりとか、馬鹿な事しましたしね」
     俺が言うと先輩はえ~、まあそうだけどさ~、とケラケラ笑った。
    「でもいい思い出になったでしょ?」
    「まあ、いろんな意味で記憶には残ってますね」
    「え~酷い言い方!」
     先輩はまた笑った。
    「でもさ、そういう馬鹿なことしたくなるんだよ。なんかもう、残り時間ないんだな~って思っちゃうの。残り時間は少ないのに毎日毎日勉強と模試ばっかりだし。やってらんないよね」
     校庭の馬鹿騒ぎを眺めながら、先輩が言う。教師に追われながら、最後の花火を上げた生徒がいたらしい。先輩の青い瞳に打ち上げ花火の閃光がキラキラ反射していた。
    「先輩は、」
     俺はゆっくり口を開き、ずっと心に残っていたことを聞いた。
    「先輩は、俺との思い出、ありますか?」
    「え、」
     先輩はぽかんとこっちを見つめた。
    「俺はちゃんと、先輩の心に残ってますか?」
    先輩が口を開けてこちらを見つめる…かと思うと、呆れたような、でも、優しい顔で笑った。
    「当たり前じゃん」
     先輩は指折り数えながら、思い出すように話し始めた。
    「教室でこっそりちゅーしたのも、夏にプールに忍び込んだのも、それだけじゃなくて、ボーダーまで一緒に行ったり、辻ちゃんが体育してるの教室から見守ったり、移動教室ですれ違ったり、購買で偶然会ったり、全部辻ちゃんとの思い出だよ。全部忘れない」
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