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    SS供養

    過去に書いたSSを一部修正して再掲しています。

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    SS供養

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    蘭マサ
    腐注意、素直になれないマサと鈍い蘭。

    部活が終わり、着替えながら考え事をしていた。

    「はぁ……」

    「霧野、どうした?」

    ため息をついていると神童が声をかけてきた。

    「あぁ、ちょっとな」

    「狩屋のことだろ?」

    さすがは昔からの付き合いだ。聞かずとも分かるんだろう。

    「お前に隠し事はできないな」

    「ずっと狩屋のことを気にかけているから、そのことだと思って」

    ワイシャツのボタンをとめながら神童が言った。

    「お前はどう思う?」

    自分で考えてもどうも上手くまとまらない。
    友人であり、キャプテンでもある神童にそう問いかけた。

    「そうだな。ちょっとラフプレーだけどセンスは持ってると思う」

    「そのラフプレーが問題なんだよ」

    意欲があるのは認める。けれどラフプレーは相手に隙を与えてしまう。

    神童の言う通り、センスはあるのだからそれを生かせるプレーをするべきなのだ。

    「変わってないな」

    「え?」

    「そうやって周りを気にかけてる。昔から」

    懐かしそうに神童が言う。

    「そ、そうだったか?」

    なんだか照れくさいような気がする。

    「とりあえず、まだ狩屋も慣れていないだろうしもう少し様子を見てみよう。困ったらいつでも話を聞くから」

    「あぁ、ありがとう神童」

    やはり良き相談相手だな、そう改めて実感した。



    翌日、部活が終わった後に狩屋を呼びだした。

    「狩屋、どういうつもりだ」

    「どういう?あぁ、もしかしてさっきのこと怒ってるんですか?」

    先ほどの練習で狩屋が足を踏んできたのだ。

    「すみませんね、不注意で」

    謝罪の気持ちなど全くこもっていないような口調で狩屋が言った。

    「お前はどうして俺にばかりそういう態度をとるんだ」

    ポジション的に近いのもあるかもしれないけれど、狩屋はどうも自分ばかりにつっかかってくる気がする。

    「どうしてでしょうね。なんか先輩見てるとイラついてくるんです」

    「な……っ」

    とても後輩が先輩に言う言葉じゃないだろう。呆気にとられて言葉も出ない。

    「もういいですか?俺忙しいんで」

    狩屋が去った後も俺はしばらく動けずにいた。



    “なんか先輩見てるとイラついてくるんです”
    狩屋のその言葉が頭から離れない。俺はあいつに相当嫌われているのか。

    「……りの、霧野!」

    「っ、え?」

    「大丈夫か?ぼーっとしてるみたいだけど」

    神童が心配そうにこちらを見つめてくる。

    「……なぁ神童。俺、狩屋に嫌われてるみたいなんだ」

    急にそんなことを言われても神童だって困るだろう。でもどうしていいか分からず思わず口にした。

    「狩屋に?どうしてそんな風に思うんだ」

    「実は……」



    「そんなことがあったのか…」

    昨日のことを話すと、神童は腕を組んで何かを考える仕草を見せた。

    「よし、分かった。俺が狩屋と話をしてみる」

    「神童……」

    「気にするな。俺だってあまり狩屋と話していないし、いい機会になるかもしれない」

    そう言って神童が笑った。



    「あ」

    「なに霧野、どうかした?」

    浜野が振り向く。

    「部室に忘れ物してきた。もう鍵って返したか?」

    「あー、どうだっけ。ちゅーか俺が部室でるとき速水がまだいたからなぁ。おーい速水、部室の鍵知らない?」

    浜野が少し離れたところにいた速水に呼びかけた。

    「鍵ですか?それなら神童くんが持ってますよ」

    「分かった、ありがとう速水」

    速水にそう言って俺は部室へ向かった。

    部室に入ろうとすると中から話し声が聞こえてきた。この声は神童と狩屋だ。
    神童は狩屋と話をしてみる、と言っていたから、話をしてくれているんだろう。

    「好きなんですよ」

    「なら、どうして……」

    「だって俺は霧野先輩に嫌われてますからね」

    その前後の会話が聞こえなかったから何について話しているのか分からない。
    俺が狩屋を嫌いだと何か都合が悪いのか。狩屋にとって俺はよくない存在なんだろうか。

    忘れ物を取りに来たことなどすっかり頭から消え去ってその会話の内容の意味だけをずっと考えていた。



    昨日のあの会話の内容を自分なりに整理してみる。
    狩屋は誰かを好きだけど、俺に嫌われていてその人に近づけないから俺にあんな態度をとる、と。

    ということは俺と普段一緒にいる人が狩屋の好きな人。そう考えるのが自然なんじゃないだろうか。
    そうなると、俺といつも一緒にいると言ったら神童だろう。

    「狩屋は、神童が好きなのか」

    ぽつりと呟いてみたけれど自分が今それをどう感じているのかはよく分からなかった。



    次の日から俺は、狩屋がいる時は神童と距離を置くことにした。
    神童が狩屋のことを受け入れるかどうかどうかは分からないけれど、狩屋にとってはこの方が都合がいいだろうと思った。

    「霧野」

    窓の外の景色を眺めながらそんなことを考えていたら神童が声をかけてきた。

    「昨日、部室まで来たのか?」

    「えっどうして知って……」

    神童はずっと狩屋と話していたしドアも開けていなかった。

    「浜野が、霧野が部室の鍵を探していたって言ってたんだ」

    「あぁ。ちょっと部室に忘れ物したんだけど、お前と狩屋が話していたから入らない方がいいかなって」

    そういうと神童の表情が険しくなった。

    「……俺たちの会話、聞こえていたか?」

    「すまない、盗み聞きするつもりは……」

    「いや、いいんだ。ただお前はどう思っているんだ?」

    おそらく狩屋が神童を好きなことについてだろうけどなぜ自分に聞くんだろう。

    「……よく分からない」

    「そうか。すぐに答えができるようなことじゃないしじっくり考えればいい」

    「?……あぁ」

    神童の言葉に少し疑問を感じたが問い返しはしなかった。



    放課後になり部室に行くと神童と狩屋が何かを話していた。二人はこちらに気付くと会話をやめて離れて行った。

    「霧野先輩、どうかしたんですか?」

    天馬が俺の顔を覗きこんだ。

    「天馬、お前は狩屋と神童をどう思う?」

    「狩屋とキャプテンですか?そういえば最近よく話しているのを見かけますね」

    やはり他からもそう見えるらしい。

    「狩屋は入部したばかりだから馴染めるか少し心配でしたけど、俺としては安心してます」

    嬉しそうに笑いながら天馬がそう言った。要するに俺が二人から離れれば何の問題もないのだ。
    けれどそれを素直に受け入れたくない自分がいる。

    「混乱してきた」

    「何か言いましたか?」

    「いや、何でもない」

    不思議そうに俺を見る天馬に力なく首を横に振った。



    結局練習にも集中できずもやもやしたままだった。

    「これじゃいけないよな……」

    思わずそんな声がもれる。神童は大切な友人だから狩屋にとられるのが嫌なんだろうか。

    狩屋が嫌いなわけじゃない。ただ気になっているだけで、でも狩屋は俺が嫌いで。
    あぁなんだもうややこしい。

    「いつまでそんな格好でいるんですか先輩」

    背後から聞こえてきたその声に振り返るとそこに狩屋が立っていた。
    周りを見ると他には誰もいない。みんな帰ったんだろう。

    「お前には関係ないだろ、早く帰れよ」

    「関係あるんだよ……ったく」

    ぼそっと狩屋が呟いたが何を言ったのかは聞き取れなかった。

    「先輩、もう少し自覚したらどうなんですか」

    「は?」

    自覚?俺がお前に嫌われている?

    「そんなに俺が邪魔ならそう言えばいいだろう」

    そう言うと狩屋は途端に不機嫌そうな顔になった。

    「……なんだよ、それ」

    狩屋の声が僅かに震えていた。

    いつもと違う狩屋の様子に思わず体が強張る。

    「狩、」

    ダンッという音がして背中が壁にぶつかる。

    「……っ!」

    「霧野先輩、キャプテンのこと恋愛対象として好きなんですか?」

    急にそんなことを聞かれ一瞬、体の動きが止まる。

    「何を言ってるんだ。神童は大切な友人だけどそういう風には見ていない」

    確かに付き合いは長いけれど、神童をそのような対象に置いたことはなかった。

    「……本当ですか?」

    「嘘をついてどうする」

    「キャプテンも先輩と同じこと言ってましたよ。恋愛とかそういうのじゃないって」

    あの日部室で二人が話していたのはそういう内容だったのか。

    「じゃあ二人の間には何もないんですね」

    「だからそうだと言っているだろう」

    「……」

    狩屋は少し黙りこんでしばらくしてから視線を俺に向けた。

    「先輩、さっき俺が霧野先輩のこと嫌いなんだろうって言いましたよね。何でそんなこと思うんですか」
     
    俺のワイシャツを掴んでいる狩屋の手に力がこもる。

    「だってお前は神童のことが好きなんだろう?」

    「……、はぁ?」

    狩屋はぽかんと口を開けて目をぱちぱちとさせている。

    「いつも神童といる俺が邪魔で、だから俺にああいう態度を……とったんじゃ……、」

    狩屋の顔色がだんだん悪くなっていくように見えて言葉を途中でつまらせた。

    「どうしたらそんな勘違いするんですか」

    狩屋はそう言ってため息をつき、掴んでいたワイシャツから手を離した。

    「だってあの日、お前が神童と放課後に話してた時、“好きなんですよ”って言ってたじゃないか」

    「それ、霧野先輩のことですよ」

    さらりと答える狩屋に今度は俺がぽかんと口を開けた。

    「は?俺?でもお前、俺に嫌われてるからって」

    「俺は霧野先輩のこと好きですけど、先輩は俺のこと嫌いだってことです」

    つまり、狩屋は俺のことが好きで、でも俺は狩屋を嫌いだと……。

    「あんな態度とられて好印象は持たないぞ、普通」

    軽く睨むように言った。

    「だって普通に入部したんじゃ先輩、俺のこと見てくれないでしょう?だから反抗的な態度とったら少しは見てくれるかなって思ったんですよ」

    「……」

    「先輩?」

    俺は立ちあがり、そして中指で思い切り狩屋の額を弾いた。

    「いってぇ!何するんですか!?」

    狩屋が額を押さえて数歩後ろへ下がる。

    「俺がどのくらい悩んだと思ってるんだ」

    「わ、悪かったと思ってますよ。俺もまさかそんな勘違いされるなんて思ってなかったし」

    狩屋はそう呟くと視線を床に落とした。

    「……まぁ、確認しなかった俺も悪かったな」

    やはりあの時、神童に問い返すべきだったと後悔した。

    「あの、それで。どうなんですか?」

    「どうって?」

    「だ、だから、さっきのやつの返事ですよ!」

    狩屋の顔が赤い。

    「あぁ、そうだな……」

    そう言いながらそちらを見ると狩屋は黙って俺を見つめていた。

    「お前がもう少し素直になったら考えてやる」

    笑いながらそんなことを言ってやると、狩屋は一瞬固まった後に、はぁ、と深く息をはいた。

    「先輩、いじわるですね」

    「あぁそうだな。ありがとう」

    「いや褒めてないです」

    ここ数日モヤモヤしていたけれどやっと胸の内がスッキリした。
    最初はどういう奴なのか分からなかったけど、ようやく狩屋を少しは理解できたような気がする。

    学ランを着て荷物を手に取り狩屋を振り返る。

    「狩屋、帰るぞ」

    「……先輩は着替えるのが遅すぎるんです」

    狩屋は嬉しそうに笑いながらそう呟いた。
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