MCアフターに寄せて、あるいは天使墜落「名乗らなくていい」
ニコルズ様はそう仰られた。母国で犯罪を繰り返し二十でヴィンウェイに逃げ込んだ私のことを、紫水晶の如き瞳で一瞥して。ビスクドールのように表情を変えず、金糸の髪のみを僅かに揺らし。
「名前を覚えられたければ――相応の働きを」
玉座めいた椅子に抱きしめられ座る、彼はまだ十五歳だった。
産まれながらにして知的犯罪の天才。美貌、頭脳、人心掌握、神があらゆる才能を与えた暗黒の奇跡。ニコルズ様は噂されるそれらの「伝説」を上回る、生きた芸術作品だった。彼の采配で全てが変わる。あらゆる暗殺者を近づけなかったフリオ・ファミリーのドンをたった一人の田舎者で殺し、表の新聞社と繋がったゲオルギウス派を情報戦で乗っ取り、金の亡者である豹牙組を経済戦で下す。
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