次から飲み会は保護者同伴で(モブ視点) とんでもないことになってしまった。私は頭を抱えていた。
自分が所属しているサークルでの飲み会。いかにも陽キャ達の飲み会って感じで本当は乗り気ではないのだけど、いつも断っているから流石にたまには行かなければと思って出席しますと先輩に伝えた。そこで参加者が何人かキャンセルになってしまって、サークル外の人でもいいから代わりを呼んで欲しいと言われた。……数回バックれていた身としては、無下にはできない。
そこで白羽の矢を立てたのが、今日の講義でノートを見せた、大学入ってから知り合った奥沢美咲という子だった。
前回体調不良で欠席していた彼女にノートを見せる代わり……というと聞こえは悪いけど、気が乗らなそうな彼女になんとか頼み込んで付いて来てもらうことになった。
やめとけばよかった。別の人を当たれば良かった。そもそも「あたしお酒弱いから飲めないよ……?」と言われた時点でお断りすればよかったんだ。
目立たない端の席へ逃げ込んだ私は、少し離れた席に座る美咲へと恐る恐る視線をやった。
「美咲ちゃん、これも美味しいから飲みな? あとこの卵焼きも」
「んぇ……? えへへ、ありがとございます」
両サイドを男性の先輩に陣取られ、その真ん中に顔を真っ赤にした美咲が座っていた。
へらへら笑って機嫌の良さそうな美咲は、普段自分が知る彼女とは余りにも掛け離れている。
弱いけど流石に全く飲まないのは……とチューハイを頼んだのは美咲らしいとは思う。けれどグラス半分で顔を真っ赤にしてしまい、何を話してもニコニコしている。
そんな美咲を大変気に入った先輩が、ああやって酒や料理を勧めている。
美咲はもう意識がふわふわしているのか、貰ったものをただただ受け入れるばかりだ。まさか美咲がこんなに酒に弱いとは思わなかった。知ってたら連れて来なかったのに。
「もう美咲ちゃん大分酔ったでしょ? 家まで帰れる?ってか家どこ?」
「いえ……ん、……ふわ、」
欠伸までしている。
やばいぞこれは、もしかしてお持ち帰りコースって流れなのではないのか?
間に入って助けたいのは山々だが、それが出来る性格だったらそもそも美咲はあんなことになっていない。ちくしょう、陰キャな私の馬鹿。
飲み会が一旦お開きになる。まだ残って飲む人もいるみたいだし、二次会に行く人も帰る人も居るみたい。
あああどうしよう、先輩が美咲の手を引いて立ち上がらせた。上着まで着せてもらって、献身的に世話を焼く先輩に美咲はされるがままだ。あんた普段絶対そんなこと許さないでしょうが。
そのまま手を引かれて一緒に店を出ようとする。待って待って!? 止めるならもう今しかない。慌てて追いかけて店を出て、
「美咲」
店を出てすぐ、顔の良い女の人が居た。
語彙力の欠片も無いけれど、本当にそうとしか言いようがなかったから仕方ない。
キリッとした顔で長身だけれど、線の細さは明らかに女性だった。その長身美形が美咲を呼んでいる。
「んぇ……? あ、かおるさんだ」
「えっ、美咲ちゃん知り合い?」
「こんばんは。うちの美咲がお世話になりました。おいで美咲」
「えへへ、はぁい」
戸惑う先輩に長身美形が頭を下げる。口調と身振りは丁寧なのに、“うちの”が強調されているような気がして、なんというか、威嚇しているみたいな。そんな印象を受けた。
次いで刺すような鋭い視線が先輩に向けられる。なのに美咲を呼ぶ声は凄く優しい。
へらって笑った美咲が、素直に彼女の胸へと飛び込んだ。
にこにこ嬉しそうなレアな表情の美咲と対照的に、美形の彼女は溜息を吐いて呆れ顔だ。
「……だから私は行くのは反対したんだよ」
「かおるさん ごにんいる」
「いないよ。……ああ、フラフラじゃないか。タクシーを呼ぼうか」
「かおるさん おんぶ」
いつもよりちょっと高めの甘えた声になっているのは、酔っているからなのか、それとも。
兎に角これを機に、私はもう二度と数合わせで美咲を誘うことはなかったし、翌日平謝りしてきた美咲も、もう二度と飲み会に顔を見せることは無かった。
……で、めでたしめでたし、なのだろうか。