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    浬-かいり-

    @Kairi_HLSY

    ガルパ⇒ハロハピの愛され末っ子な奥沢が好き。奥沢右固定。主食はかおみさ。
    プロセカ⇒今のところみずえなだけの予定。

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    かおみさ
    「焼くは嫉妬、焦がすは想い」の瀬田視点

    #ガルパ
    galpa
    #かおみさ
    loftyPeak

    身を焼き、胸を焦がす 気象予報士が暫く猛暑続きだと、今日も熱中症には注意してください、と確か言っていた。そんな炎天下の中を歩いていれば、隣の美咲が溜息を零した。額には汗が滲み、顔も少し赤くなっている。


    「……あっついね」

    「今日は猛暑日だと言っていたね」

    「その割には薫さん、涼しい顔してるけど」

    「そう見えるだけさ。こんな日に付き合わせてすまなかったね」


     美咲は首を振る。今日は夕方からバンド練習の予定だ。ところが午前の自主練中に弦が切れてしまい、不幸なことに予備も無い。その為、楽器店に向かっていた。
     一人で行っても何ら問題もないのに美咲を誘ったのは、彼女と少しでも多く居たかった……という理由が一番大きい。バンドしか接点が無い中、一緒に居るには積極的に誘うしかない。そんな邪な気持ちを正直に美咲に白状したら、彼女はなんて言うだろうか。


    「薫さんに結構難しいパート当てちゃったからね……。昨日の時点で結構形になってたから、沢山練習したでしょ」

    「ふふ、美咲が私のことを信用してあのパートを任せてくれたのだと思うと、嬉しいよ」


     しかし、こんな暑い中連れ回すのは悪手だったか。何か飲みながら向かおうと、美咲に声を掛けて公園へと入る。
     自販機へ向かう最中、声を掛けられた。薫先輩、と呼ぶその子達は、何度か演劇部の公演に来てくれた羽丘の後輩だ。校内でも声を掛けてくれるので、よく覚えている。


    「やあ、子猫ちゃんたち。こんなに暑い日にお出掛けかい?」


     そう応えれば、彼女達は嬉しそうに本日の予定を話し出した。駅前のカフェに向かっている最中らしい。私の予定も聞かれたので、ギターの弦を買いに行くことを伝えた。そこから次のライブの話になり、つい話に花が咲く。

     ちらりと美咲の方を見れば、彼女は木陰のベンチに座って此方をじっと見ていた。
     美咲はこういう時、何も言わない。早く行こうと急かすことも、またですかと呆れて溜息を吐くこともない。ただ知らぬうちに、黙って自ら蚊帳の外へ行くだけだ。遠くから眺めているその瞳には色が無いように見えて、私はそれを見る度に何とも言えぬ不安に駆られる。

     最初は放っておけない子だと思っていた。口では大人ぶって一線引いたような態度を見せるのに、人の為に一生懸命になれて、時には自分を顧みないほどにのめり込んでしまう。その姿が危なっかしくて、けれど魅力的に見えて。
     その気持ちが“恋”であると気付いてから結構経つが、私は未だに彼女に気持ちを告げられずにいる。

     ライブの話から、話題は次の演劇部の公演の話へ。もう一度美咲の方を盗み見れば、ベンチにぐったりともたれかかっているのが見えた。嫌な予感がして、子猫ちゃん達に別れを告げて駆け寄る。


    「美咲?」


     寝ているだけであって欲しかった。けれど顔は先程よりも真っ赤になっている。名前を呼んでも反応はない。今度は肩に手を置き、軽く揺すってみる。


    「……美咲、大丈夫かい?」

    「……ん、」


     反応はあるが目は開かない。頰に手を添える。……熱い。私は急いで自販機から飲み物を買って帰って戻る。ゆっくりと身体を横たわらせ、頭は私の膝へ。その首元、血管のあたりに冷たいペットボトルを充てた。
     その間も何度か名前を呼ぶが、返事はない。本格的な熱中症だと確信した私は、スマホを取り出す。


    「……ぅ、」

    「っ! 美咲!」

    「……え?」


     美咲が身動ぎし、目がうっすらと開く。強く呼び掛ければ、表情を歪めながらも私を視界に捉えてくれた。ほっとしたのも束の間、


    「えっ!? なんで!?」

    「うぐっ!?」


     勢いよく起き上がった美咲の額と私の額が勢いよく衝突する。正直かなり痛かったが、その衝撃で美咲が後ろに倒れそうになったので慌てて支えた。


    「ふふ……元気なお目覚めだね、子猫ちゃん」

    「いや、あの、すみません……。ていうか、なんで、」


     何はともあれ、目を覚ましてくれて良かった。額はかなり痛むが。首元にもう一度ペットボトルを充ててから、経緯を説明する。どうやら、本人に熱中症の自覚は無かったようだ。


    「美咲がベンチでぐったりしているのに気付いたんだ。名前を呼ぶと反応はするが起きなかったし、顔も真っ赤だったから、熱中症だと思ってね」


     美咲がゆっくり身体を起こしてベンチに座り直したので、ペットボトルのキャップを外して手渡す。それをゆっくりと飲む美咲はまだ顔は赤いままなものの、意識もしっかりしているようで安心した。
     救急車を呼ぼうと思ったことを話せば、申し訳なさそうに美咲の眉が下がる。嗚呼、違うんだ。そんな顔をさせたい訳じゃないのに。


    「あれ、薫さん、さっきの人達は?」

    「美咲の具合が悪そうだったからね。先に帰ってもらったよ」


     美咲が驚いたように目を丸くした。ファンの子猫ちゃん達は一様に大事だけれど、今まで“全員大事”だったのに美咲だけは“一番大事”にしてあげたくて。


    「……あ、えと、ありがとうございます。すみません、楽器店行きましょう」

    「え!? いや、何を言ってるんだい!?」


     立ち上がった美咲の手首を慌てて掴む。まだ真っ赤な顔は本調子では無さそうだし、少しの間とは言え気を失っていたんだ。もう今日は安静にしておいた方が良い。


    「今日はもう帰ろう。練習もやめた方がいい。こころには私から言っておくから」


     そのまま手を取って歩き出す。拒否されたらどうしようかと思ったが、大人しく後を付いてきてくれることが、こんな状況なのに嬉しく思ってしまう。


    「え、いや、いいですよ、お陰で良くなったんで、」

    「ここからだと私の家の方が近いから、少し休んでいくといい。その後で家へ送ろう」


     微笑めば、美咲は黙り込んでしまう。責任感の強い彼女のことだ。バンドの練習を休むことや、私に世話になることに抵抗を感じているのだろう。木陰から出たせいか、顔がまた赤くなっている。


    「美咲?」

    「……ぁ、う、わかりました」


     絞り出したような声でも納得の言葉を吐いてくれたのを確認してから、ゆっくりと歩き出す。
     握った手をきゅっと控えめに握り返してくれたこと、以前よりも素直に甘えてくれるようになったこと。それが嬉しくて仕方ない。

     君を一番大事にしてくて、君が一番甘えられる存在になりたくて。それでも臆病な私は、未だにその気持ちを告げられずにいる。
     嗚呼、早くこっちを向いて。私が君を好きなことに、どうか気付いて。
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