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    浬-かいり-

    @Kairi_HLSY

    ガルパ⇒ハロハピの愛され末っ子な奥沢が好き。奥沢右固定。主食はかおみさ。
    プロセカ⇒今のところみずえなだけの予定。

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    ここみさ

    #ガルパ
    galpa
    #ここみさ

    眠れない夜の訪問者 深夜、閉め切った窓の外からは何も音は聞こえない。それは家の中も同じで、既に寝静まった屋内から何かが聞こえて来る訳でもない。
     ただ、一つの部屋は例外であった。電気を消して真っ暗になった部屋の中、ベッドの上の膨らんだ毛布が落ち着きなく動く。

     ベッドで横になる奥沢美咲は、眉間に皺を寄せながら寝返りを打った。もぞもぞと落ち着く体勢を探して、見つからなくてまた寝返り。固く目を瞑っても、眠気が訪れる気配は一向に無い。


    「んんんん……」


     呻き声に近い声を上げながらのっそりと起き上がり、枕元に置いていたペットボトルの水を一口。ついでにスマホで画面を見てみれば、時刻は深夜2時を示していた。
     なんだか、今夜はやけに寝付きが悪い。別に睡眠を取りすぎた訳でもない。普通に学校で授業を受けて、部活に参加して、バンドの練習をして、寧ろ身体は疲れているはずだった。それでも、目は冴えて脳は忙しなくぐるぐると回る。頭の中では新しい歌詞が浮かんではこれでは無いと消え、鼻唄が頭を過ってはそこへドラムやベースの音が足されていく。

     いっそ、パソコンを開いて曲作りの作業でもしたら捗りそうだ。……そう一瞬考えて、すぐに首を振る。
     明日も普通に学校だ。ここで徹夜で作業なんかしてしまえば、明日に響いてしまうことは確定だろう。それは避けたかった。
     だからこそさっさと休みたいのに、そう思えば思うほど目は冴えていく。気持ちとは裏腹にちっとも休みたがらない自分の身体に腹を立て始めた頃、部屋の中にノック音が響いた。ドアからではない。……窓からだった。


    「……?」


     窓に虫でもぶつかったのか。そんな風な音ではなかったように思いながら、美咲は恐る恐るカーテンを開けた。
     窓に張り付いていたのは、暗い空の下では目立ちそうな、輝く月のような金髪。カーテンを開けた美咲と目が合うと、嬉しそうに手を振ってきた。


    「こ……っっ!?」


     驚きのあまり叫びそうになって、今の時間帯を思い出してなんとか両手で口を抑える。深呼吸して気持ちを落ち着かせてから、そっと窓を開けた。近所迷惑にならないくらいの小さな声で、美咲は溜息混じりに文句を吐き出す。


    「……何してんのさ、こころ!」

    「こんばんは、美咲!」


     その文句に答えることもなく、屋根の上の弦巻こころは美咲とは対照的に楽しそうに笑った。コートにマフラー、手袋とばっちり防寒着に身を包んだこころは、悪びれる様子もなく空を見上げる。


    「今夜は星がとっても綺麗だから、美咲に教えてあげようと思ったの」

    「……それで、こんな真夜中に?」


     こころらしいと言えばそれまでだが、あまりにも突拍子もない訪問に美咲は呆れたように肩をすくめた。部屋に入ってくる外の空気が冷たくて、毛布を被る。
     道路の方へ視線を落とせば、見慣れた黒い高級車が停まっていた。まあ、流石に一人で来た訳ではないらしい。黒服さんたちも大変だな、なんて苦笑いをする。


    「今日は、なんだか美咲も起きているような予感がしたの。正解だったかしら?」

    「まあ、起きてはいたけど……」

    「ふふ、なら来て良かったわ。この星を、美咲と一緒に見たいと思ったの」


     どうして彼女は、こういう時に変に勘がいいのか。そしてどうしてそういう台詞を恥ずかしげもなく吐けるのか。少し癪で、美咲は言い澱みながらも頷いた。


    「ほら見て、美咲」


     微笑んで上を指すこころに釣られるまま、美咲は空を見上げる。そこには満天の星空があった。
     新月の深夜は、星の光を妨げる月明かりも街明かりも何も無い。まるで東京の一角ではないみたいに、無数の星が瞬いている空はいつもより近い場所に感じられた。


    「すごい……」

    「そうでしょう?」


     星空に圧倒された美咲がそう零せば、こころは得意顔で笑った。二人きりで星空を見上げるのは、これで何度目だっただろうか。
     夜の空を見上げる美咲のブルーグレーの瞳は、いつもより暗い青色のように感じられた。けれどその瞳には星が煌めいていて、まるで瞳が小さな星空になってしまったようだった。


    「……ふふっ」

    「なに笑ってんの、こころ。楽しそうだね」

    「ええ、今とっても楽しくて、嬉しいの」


     そんな小さな星空を見ることが出来ているのは、自分だけだということ。それが“特別”ということなのだと、こころは胸が弾むのを感じた。


    「こんな風に星を見られるのは、あたしと美咲の二人だけね」

    「そりゃ、真夜中に突然人んちの屋根に登って窓叩くのはあんただけでしょ」


     呆れ顔で笑う美咲も、声は楽しそうだった。空高くでは風が吹いているのか、少しばかりの雲が急ぐように流れている。
     雲の流れは忙しそうなのに、それを眺めているとなんだかひどく時間がゆっくりに感じられた。


    「……あーあ、明日も学校あるのにこんな夜更かししてどうするのさ」

    「でも、美咲もどうせ眠れていなかったのでしょう?」

    「まあ、そうだけど」

    「そしたら、また一緒に中庭でお昼寝をしましょう! 一つ楽しみが増えたわね!」


     楽しそうに宣言する満面の笑顔は、満天の星空とは真逆に太陽みたいだった。そうだね、と美咲は微笑む。その笑顔には敵わないことは、とうに分かってる。


    「なんだか、早く明日になって欲しくなっちゃったから、今日はもう帰るわね」

    「なにそれ。もう日付変わってるから今日だけどね」

    「おやすみなさい、美咲」

    「……うん。おやすみ、こころ」


     よく晴れた星空の日に嵐のようにやって来た訪問者は、嵐のように帰っていった。
     走る車を見送ってから窓とカーテンを閉め、美咲は再びベッドに横になって目を閉じる。なんだか、今度はよく眠れそうだった。
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