好きだと言えない一人の富K「K、好きです」
最近の富永はよく好きだと口にする。以前からもたまに言っていたが、実家から戻ってから特に頻度が増えたように思う。
ベッドの中だけでなく、就寝の挨拶の時や外出の見送りが俺たち以外にいない時など日常に溶け込むように好意を口にする。
そういう時はきっと、俺もだ、と返すのが良いのだろう。それは事実なのだから。けれど一人はいつも、あぁ、だとか、うんだとかの短い肯定の呟きを返すだけで、それすら憚られてただ頷くだけの時もあった。
付き合い初めは言い慣れない気恥ずかしさから、そして今は別の理由で一人は言葉に出来ないでいる。
態度では伝わっているはずだ。他の誰にも許さないほどの距離感で、どこへでも触れることを許しているのだから。それでもきっと富永は言葉を欲しがっている。
彼は一度はここを離れると決めたのだ。今はまだその時期じゃないとしても、明確に自分の居場所を定めたなら、いつまでもこの生活が続かない事がより現実味を持ったはずだ。
物理的な距離が二人の間に横たわる時、この関係はどうなる?
その時が来たら富永を言葉で縛ることだけはしたくなかった。もちろん、恋人と一緒に居たいからずっとここで働く、などと思うような男では無い。ただ、少しの憂いにもなりたくはない、自由に好きなところで好きに生きてほしいと思う。
だから一人は俺も好きだ、と返すことが出来ない。たとえシーツの上で、少し意地の悪い指先が懇願も虚しく敏感な内部をもどかしく刺激し続けて、理性を快楽でぐずぐずに溶かしても、それでもまだ唇を噛み締めて富永の腰を引き寄せるに留める。
「っ、ふっ……K、すきです、けぇ……」
熱い吐息が耳朶を掠める。俺も好きだ、富永。
「んっ、うっあぁっ、とみなが、早く…」