ミニスカサンタ着てくれる人先生「お前が俺を好いているのはわかっている。リクエストを聞くとも言った。だがこれはどうかと思うぞ。本来こういった物は俺のようなガタイの良い男が着るものではない」
好いている、というのは彼らしく奥ゆかしい表現である。要は、これでお前は興奮するのかと聞いているのである。
ホテルのバスルームにて、手渡された衣服を広げて難色を示す神代に富永は飄々と答えた。
「わかっている、本当にそうかなぁ。俺は大丈夫だと思うからお願いしたわけですが、しかしあなたが不安に思う気持ちもわからなくは無いです。そこで、これです」
富永は足元に用意しておいた紙袋を手渡した。神代は広げていた真っ赤なワンピースを小脇に抱え、受け取った紙袋を覗き込む。
「ブーツ、か?」
「ええ、それなら露出を抑えられるでしょう?」
にっこりと富永が微笑む。
「しかし、靴を履いたままというのは……」
「わかります。抵抗がありますよね。でも新品ですし、どうしても気になるならまずはソファで見せてください。さ、俺は向こうで待ってますから。まぁ、どうしても出来ないっていうのなら構いませんけど」
さっと横目で流し見てから富永は背を向けてバスルームを後にした。先ほどの言葉に従ってソファに腰かける。しばらくして勢いよくシャワーが流れる音が聞こえてきた。
「なんっ、だ、これは……」
耳を澄ませながら待っていた富永は戸惑う恋人の小さな呟きに頬を緩ませた。彼はどうするだろうか。身に着けないか、それとも持ち前の身体能力ですぐに順応するだろうか。正直なところ、どちらでも良かった。別に、手渡したものすべてを拒否しても構わなかった。ちょっとした悪戯心とスパイスに下心を混ぜての提案だ。ただ会えるだけでも僥倖なのだから。
パタン、とドアを開閉する音が聞こえた。ソファは少し奥まった場所に設置されていたので身を乗り出さなければバスルームのドアは見えない。あえてゆったりと座り、正面を向いて待つ。
コッ……コッ……と抑え気味な靴音が近づいてくる。ここの床には絨毯が敷かれている。もしこれがロビーのように大理石なら、もっと小気味良い音が聞けたことだろう。すこし残念だが仕方がない。
長い足がすうっと伸びて視界に入った。その靴の形状をものともせず、まるでモデルのように美しい足さばきであった。
「さすがですね」
「富永っ!」
「ふふっ、似合ってますよ」
目の前で少し足を広げ、腕を組んだ仁王立ちの神代を富永は座ったままうっとりと眺めた。隈なく全身を。熱っぽく。その視線に神代の険も緩む。
富永のリクエストに応えて神代が身に着けているのはベルベット生地の真っ赤なワンピースだった。チューブトップタイプで、胸元はふわふわの真っ白なファーで縁どってあり、肩から先は惜しげもなく晒されている。いつものリストバンドをつけているのが彼らしくて富永の熱はぐっと上がった。
スカートは当然ミニ丈で、こちらも裾をファーで縁取りされている。ふんわりとフレアのある形が、神代の引き締まったウエストをより強調していた。
際どい丈のスカートから伸びた露出した太ももは途中から真っ黒なレザーに包まれる。商品名は確か、サイハイブーツだったはずだ。伸縮性のある柔らかなレザーは逞しい神代の脚にも難なくフィットしたようだ。すらりと伸びて、その足元はいつもと違ってさらにすっと細く感じる。実際、つま先立ちをしているのと形は同じだ。靴底は幅の細いハイヒールになっている。
歩きにくいだろうと思ったが、神代はすぐにコツを掴んだようだ。立っているだけの今は不安定さも無く、堂々としてさえいる。ヒールの分高くなった背でいつもよりさらに迫力があった。
恥ずかしさか、期待か。軽く頬を染め、むっと尖った唇にかじり付きたい衝動を覚えた。片手を伸ばせば、神代も腕組をほどいて同じように手を伸ばしてくる。指先を絡め合わせ、幾度か握っては緩めてを繰り返したあと、富永はぐっとその腕を引き寄せた。
どさりと富永の上に跨るように神代が座る。
「危ないだろう」
「大丈夫ですって。こっち向いてください」
富永は神代の首筋を掠めながら後頭部に手を沿える。するすると髪を弄びながら引き寄せて深く唇を重ねた。