Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    蒼hsoratokoh

    @hsoratokoh

    @hsoratokoh

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 12

    蒼hsoratokoh

    ☆quiet follow

    夕暮れ時に何か見ちゃう富永先生と全然気にしない一人先生

    #富K

    夕暮れ時に「富永、これから日が落ちるのが早くなる。往診の帰り、特に夕陽が沈み始めてから完全に暗くなるまでは◯地区から△地区に抜ける一本道では足元に気を付けろ。ただし、何か落ちていても気にするな。絶対にじっと見つめないように。もし困ったことになったら……何事もなかった振りをして振り返らずに帰ってこい」
    「へ?」
     本日の割り振りを説明したあとに付け足された言葉の非日常感にワンテンポ返事が遅れた。その間に神代は言うべきことはもう無いとばかりにくるりと背を向けて部屋を出ていってしまった。
     本日は富永が往診の当番であり、先ほど言われた一本道も通る予定だ。なんか嫌だなぁ、とは思ったが仕方ない。富永は気持ちを切り替えて診療所を後にした。

    「うわぁ……」
     暗くなる前に帰ろうと、最後の往診先を出てから急ぎ足で診療所に向かっていたが、件の一本道に差し掛かったとき、視界が鮮やかなオレンジに染まっていた。両側を田んぼに囲まれた車一台分ほどの長い一本道は緩やかなカーブを描きながら前方の山に吸い込まれていく。ぱっと見渡す限り誰もいない。青々と繁ったまだ背の低い苗が風に揺れている。
     この状況で思い出さないほうが難しい。自然と速足になる。なぜだか走るのは憚られた。
     道も半分ほど来たところで、ふと視界の右端に人影が見えた。
     歩きながら顔を向けた富永がその影をしっかりと捉えた瞬間、ぶわっと全身の肌が粟立った。それは人の形をした影でしかなかった。腕をだらりと垂らして田んぼの向こう端に立っている。輪郭はぼやけており、真っ黒だが、ぞわぞわと蠢いているように濃淡が変わる。
     これはヤバイ、慌てて顔をそらし、きつく目をつぶった。時すでに遅く、脳裡にはオレンジ色を背負った黒い人影が焼き付いてしまっている。今朝の神代の言葉を思い出す。見なかったことにして振り返らずに帰る、だ。
     意を決して恐る恐る目を開け、視線を上げた。思わず悲鳴をあげそうになったが、なんとかひゅっと息をつめるだけに堪えた。視界の端にあの影が見えた。先ほどより少し近くに。
     何事もなかったふり、ということはここで駆け出すのは良くない。気のせいだ、見えない、見えない、と己に強く言い聞かせ、前を見据えて歩く。診療所までは振り返らない。それと、たぶんだが完全に日が沈んでしまえば大丈夫、そんな気がした。神代は完全に暗くなるまでは気をつけろと言っていたはずだ。

    「た、ただいまもどりましたぁ……」
     診療所の中に入り、戸を閉めると緊張の糸がほどけて富永はへたりとしゃがみこんだ。しばらく動けずにいると、いつまでも奥へ来ないのを不思議に思った神代が様子を見に来た。
    「富永、大丈夫か?」
    「Kぇ……大丈夫じゃないっすよぉー。」
     神代の姿を見て安堵の涙をうっすらと浮かべた富永は先ほどの体験を説明した。
    「そっちか……」
    「えっ!?」
     富永は予想外の答えに一瞬、意識が遠のくのを感じて慌てて頭を振った。
    「ちょっ、ちょっと、どういうことですか? そっちってなに? ねぇ!」
    「気にするな。そうあることでは無いし、そのうち慣れる」
     サァーっと血の気が引いていく。そういえば、神代は足元がどうとか、落ちているとか言っていた気がする。先ほどの体験とは結びつかないではないか。
    「いや! いやいや! 気にしますって!」
    「ほら、立てるか?」
     神代が手を差し伸べるのでしゃがんだままだったことに気が付く。大人しく手を取り、立ち上がらせてもらう。
    「え、待って、どこいくんですか!」
    「風呂だ」
    「僕も! 一緒に入れてください! あと部屋行っていいすか、ねぇ、一緒に寝て、K! 待って!」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤💙💙💙💙👥🙏🙏🙏☺☺💯💯💯💯🙏🙏🙏🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works