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    蒼hsoratokoh

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    蒼hsoratokoh

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    以前ツリーにしてツイート(ポスト?)した、富永のことが好きだけど、富永のタイプに自分が全然当てはまらないと思っている一人先生の話を大幅(当社比)加筆しました。
    富Kです。

    #富K

    好きになった人が好きなタイプ 最近のKは元気がない。例えばふとした瞬間に考え込むようにわずかな時間動きを止める。その伏せられた瞳に浮かぶ憂いの色。微か、聞き間違えかと思うほどに小さなため息。そんな様子のKはこれまで見たことが無かった。
     もちろん仕事中にはまったくそんな様子はない。もし迷っていることがあったとして、村の患者さんだけでなく外に出た時のことだったとしても、誰にも相談しないとは考えられない。まして何日も気にするほどだ。だからもし何か悩みがあるのだとすれば、それはプライベートなことなのだろう。そう推理した富永には易々と踏み込むことが躊躇われた。そっとしておこう、時間が解決するかKから話してくれるまで待とう。一旦はそう決めた。
     けれどそんなKを見ていると、富永は胸がざわついた。妙に守ってあげたいという気持ちが擽られる。自分よりも背が高く、腕っぷしも強い男に対して何をと思う。思うが実際そうなのだから仕方がない。
     また今も、食後の片づけを分担してこなしながら、心ここにあらずなKを富永は何にも気が付いていない振りをしてそっと横目に見てしまう。長い睫毛は影を作ってしまう程だし、細い眉は切れ長の目をよりシャープに際立たせ、すっと伸びた鼻筋に形の良い唇、すっきりとした輪郭。はっきり言ってKは美人だ。その上、最近はどこか影があって儚げにさえ見える。だから、守ってあげたい。
    「こっちは終わりました。お茶入れますね。飲みますよね?」
    「あぁ、頼む。俺ももう少しで終わる」
     熱くなった湯呑を丸い漆塗りのおぼんに乗せてテーブルに運ぶ。椅子に座り、向かい側にKの湯呑を置いた。程なくして片づけを終えたKが用意された椅子へと座った。
    「ありがとう」
    「いえ、どういたしまして。あー、その、言いたくなかったら別に良いんですけど、最近何か悩んでたり、しません?」
     さすがに唐突過ぎただろうか。けれどいつまでも何もしないでいるのは限界だった。お節介だと思われてもいい。
     Kのすうっと見開かれた瞳が驚きを伝えてくる。そしてきゅっと唇が引き結ばれて瞳はゆっくりと閉じられた。迷っているのだろうか。反射的な拒絶は無かったが、踏み込んでいいような話題では無かったのかもしれない。
    「好きな人の」
     ん? 富永は我が耳を疑った。いま好きな人って言った?
    「好きなタイプが、自分とまったく違っていたら……」
     え? えぇ? Kの悩みって恋バナなの? Kって好きな人がいるの⁉
    まったくその方面は想像していなかった富永は大いに混乱した。そして何よりショックだった。なぜなら、富永はKが好きだから。
     驚きで言葉が出ない富永に加え、Kのほうでも誰かにその話をしようなどと夢にも思っていなかったのだろう。口にしてみたは良いものの、何と言っていいか途中でわからなくなったようだ。言葉は中途半端に途切れ、黙ってしまった。沈黙が重い。
    「えっと、その人のタイプってどんな……?」
     聞きたいような、これ以上聞きたくないような。複雑だ。でも、タイプじゃないということは、脈が無いということだろう。少なくともKはそう思っている。だったら、まだ俺にもチャンスがあるんじゃないか⁉ いや、いやいやいや、ダメだろ……好きな人が振られることを望むなんて。
    「それは……いや、いいんだ。どうしようも無いこともある。相手のタイプに自分を合わせようという話なら、それは無理なんだ」
    「無理……ですか」
     どういうことだろう。相手が女性を好きな男性とか、年齢や身長などの変えられないことだろうか。そもそも無理して自分を変え、偽って振り向いてもらったとしても長続きするかどうかは難しいところだろう。仮にそんな提案をしてもKが呑むとも思えない。アドバイスをするつもりはあるが、半分は相手を知りたいという興味から出た質問だったことを富永は少し反省した。
    「富永はもしタイプではない相手から告白されたらどうする?」
    「え? 俺ですか? うーん、そうですねぇ。タイプかどうかは関係無いんじゃないですかね。要は関係性ですよ。どんなにタイプの相手でも初対面で告白されたって付き合いませんし。確かに好きなタイプってありますけど、ほらよく言うじゃないですか、好きになった人が好きなタイプって」
    「そういうものか」
    「Kとその人がどういう関係かはわからないですけど、好意を伝えてみても良いんじゃないでしょうか。そうしないと何も始まりませんよ。普段から何かアピールってしてます? 今は意識していないだけで、伝えてみたら何か変わるかもしれませんよ」
     結局、富永は背中を押すようなアドバイスを選んだ。そんなやつ止めて俺にしません? なんて言えるわけもなかった。ここ数日のKの様子を見てきたから。彼はきっと本気なのだ。
    「アピール、か。特には、していない。そもそもタイプではないとわかったから気づかれないほうがいいと考えていた」
    「その人って恋人はいないんですよね?」
    「いや、わからない」
     意外だ。好きなタイプの話はしたのに恋人の有無はわからないのか。一体どんな相手なのだろう。直接的に聞いてもいいが、やはりその勇気は出なかった。俺の知ってる人っすか? レベルの軽口も叩けない。Kが本気で恋しているというだけでもショックなのに、その相手まで知ったらおかしくなりそうだ。
    「富永は恋人や好きな人はいるのか?」
    「いやー、最近フラれちゃって」
     急に話題がこちらに飛んでドキリとする。一瞬迷ったが、いませんとは言えなかった。例え振られたって今も好きなことに変わりないのだから。富永は精一杯なんてことないという態度でへらりと笑って見せた。
    「そう、なのか……」
     Kの表情が曇る。しまった、と思っても遅い。ちょっと卑屈な気持ちから出てしまった言葉だが、告白を控えている相手に振られた話は縁起でもなかった。
    「俺のことはいいんですよ。話してくれてありがとうございます。また何かあったら遠慮なく言ってくださいね!」
     これ以上、相手のことを想って表情を変えるKを見ていられなかった。
    「あぁ、ありがとう」
    「じゃあ僕はそろそろ寝ますね」
     立ち上がり、湯呑を洗うためシンクに向かおうとすると後ろからKの声がかかる。
    「俺が洗っておこう。まだ残っているから、これを洗うついでだ」
    「良いんですか? ではお言葉に甘えて、おやすみなさい」
    「あぁ、おやすみ富永」


     布団の中、富永は眠れない頭を持て余して何度目かの寝返りを打った。先ほどのKとの会話を何度も反芻してはため息をついて落ち込んでいる。
     いつ告白するんだろう。幸せになって欲しい、好きだから。うまくいかないで欲しい、好きだから。好きな人の恋路も応援もできない、俺はなんて心の狭い男なんだ。
     何を偉そうにアドバイスなんかして。伝えなければ何も始まらないだって? そっくりそのまま俺のことじゃないか。モタモタしてるからこんな事になる。後悔したってもう遅い。
    「Kの好きな人って誰なんだろう」
     一番近いところでは麻上さん? それとも村の誰か、村外に住むその家族とか? 外の病院で知り合った人かもしれない。
    よく考えたら、俺はKについて知らないことばかりだ。治療の一環で紹介される専門家や意外な相手に驚かされたことがこれまで何度もあった。交友関係は意外にも広いのだ。一緒に暮らしながら、些細な癖や好き嫌いを知ってはいても、どこか踏み込めなさを感じていた。俺たちの関係は少し難しい。上司と部下でもないし、師弟というのも違う気がする。もちろん尊敬しているし、目標ではあるけれど、師弟というのはKと一也君のような感じだと思う。俺たちは何なのだろう。友達というのもしっくりこないのだ。それは俺がKを好きだから、という面も少なからずあるだろうが。
     だけど俺だったらKにあんな顔させないのに。だってKは美人だし、ちょっと影があって儚げで守ってあげたいって思う、俺のタイプにど真ん中なんだから。悔しい。Kにあんな顔をさせる相手がムカつくし羨ましい。だってそれだけ想われてるってことじゃないか。
     そういえばKのタイプはどんな人なのだろう。好きな人はそれに当てはまっているのだろうか。俺は? それに当てはまらない? あの場でそう聞けたらどんなに良かったか。


     あれから一週間、気になって気になって若干の睡眠不足だ。覗き込んだ鏡の自分は目の下に少し隈が出来ていた。洗面所でぼうっと歯を磨いてるとKが入ってきた。
    「おはよう」
    「はよーございまふ」
    「今日の夜、時間があったら少し話せるか?」
     あぁ、ついに来た。富永は途端に目が覚めた。きっと好きな相手との進展を報告してくれるのだろう。律儀で真面目なKらしい。そういう所が好きで、少しつらい。口の中が泡だらけなのでコクコクと頷くことで了承の意を伝えた。
     相談に乗る前までのKは元気がないという表現にぴったりだった。ここ数日はその様子も消えてはいないが、コーヒーを飲んでいるときや本を読んでいるときに、ふっと微笑むとまではいかない柔らかな表情をすることが増えたように思う。初めは告白がうまくいったのかと思ったが、相変わらずため息をついていることもあるからどっちなのかわからない。それが余計に富永を悩ませるのだ。
     そして迎えた夜の10時。全ての片づけを終え、麻上さんも村井さんも帰宅し、一也君とも就寝の挨拶を交わした。
     あの日と同じようにふたりの間には湯呑が置かれ、中で熱いお茶が湯気を立てている。富永は手持無沙汰なので何か手にしたいのに熱すぎて持つことも出来ない。そわそわして気持ちが落ち着かないし、処刑を待つ身のように憂鬱だし、もういっそ泣き出したいぐらいだった。
     今からひっそりと恋心の処刑が始まるんだ。おめでとうって言ってうまく笑えるだろうか。それとも、うまくいかなかったと言うKに対してちゃんと残念そうに振舞えるだろうか。
    「富永、もうわかってしまっているかもしれないが……お前のことが好きだ。どうこうなりたいとは言わん、ただ知っておいて欲しいという俺の我儘ですまないが……」
    「え? えええぇ⁉」
     今夜も想像の上を軽く飛び越えていくKの発言に富永は驚きのあまり立ち上がってしまった。ガタガタっと音を立ててバランスを崩した椅子が後ろに倒れそうになるのをなんとか押さえる。うっかり大きな声を出してしまった。これ以上騒いで一也君を起こしてしまったら申し訳ない。
     驚いている富永を見ているKはもっと驚いた表情だ。確かに告白してそんな反応は普通予想しない。
    「Kの好きな人って俺なんですか⁉」
    「そうだ。そんなに驚かせてしまったか、すまない。言われた通りアピールとやらをしたかったのだが、うまく出来なかった」
    「いや、だってアンタ、俺に恋愛相談したじゃないですか」
    「聞かれたからだ」
    「確かに聞きましたけどぉ……」
    「お前のタイプではないことはわかっている、だが……」
     富永は椅子を整えて座り直し、掌をKの顔の前に突き出して言葉の続きを遮った。まずはその誤解をなくしたかった。
    「ちょっと待ってください。いつあなたをタイプじゃないなんて言いました?」
    「直接そうは言ってないが、富永はモエミちゃんがタイプなのだろう?」
     確かに、モエミちゃんは好きだ。応援してる。でもモエミちゃんと付き合いたいという意味ではない。好きなタイプにモエミちゃんが入っているというだけで、そしてそのカテゴリーには目の前の人物も入っているのだ。
    「モエミちゃんは好きですけど……違うんですよ、モエミちゃんが好きなタイプに当てはまっているからファンになって、応援してるんです」
    「何が違うんだ」
     もっとストレートに言わないと伝わりそうもない。気恥ずかしいが富永は覚悟を決める。
    「Kは俺のタイプですよ。守ってあげたいって思ってます」
    「守る……? 俺を?」
     Kは心底不思議そうに、漫画だったら頭の周りが?だらけという顔で首をかしげている。この人は自分の力をわかっていると思う。だから俺に守ってもらうなんて発想、したこともないのだろう。
    「儚げな美人が好きだと言っていなかったか?」
    「Kは美人ですよ! 儚げですし!」
     まったく何を言ってるのかわからないという顔だ。むしろ困惑してさえいる。でもこれは麻上さんも村井さんもわかってくれる気がする。
    「何を言ってるんだ?」
    「だから! 俺はKのことがすげー好きなタイプだし好きなんです! そんで守ってあげたいんです!」
     驚きで少し開いたままのKの口が珍しくて富永はそれが可愛いと思った。
    「そりゃあKは強いですよ、誰かに守ってもらうなんて考えてないと思います。俺なんてKに比べたら弱いですし。でも守るってそれだけじゃ無くて、Kに悲しいことが起きないように盾になりたいし、心でも体でも傷ついたら癒えるまで傍にいたいんです。それに、もしかしたらKが拘束されたり薬で自由に身動きできない事だってあるかもしれないじゃないですか。その時は俺が相手をボコボコにします!」
     一気に捲し立てたので息が切れてしまった。深呼吸をして自分を落ち着ける。Kはポカンとして聞いていたが、やがて肩を震わせて笑いを噛み殺し始めた。
    「ちょっと、なんで笑うんですか。本気ですよ! 俺だってやる時はやりますよ!」
     ふんっ! と頭の横で腕を振り上げ力こぶを作る動作をする。
    「ふふっ、すまない、嬉しくてつい笑ってしまった。そんな風に言われたのは初めてだ」
     楽しそうに笑っているのを見たのは久しぶりな気がした。憂いの表情も好きだが、やっぱり笑っているところを見ていたい。富永もつられて笑う。Kの目尻には少し涙が滲んでいる。笑いすぎただけなのか、それとも。
    「その時はよろしく頼む」
    「ええ、まかせてください。捕まった時だけじゃなくて、これからずっとですよ」
     Kが握手を求めて手を差し出してきたので、富永はその手を握らずに指先をそっと捕らえて向きを変えた。手の甲を上に向け、そして唇を寄せた。
     Kの手はピクリと少し反応したが逃げることなく富永を受け入れた。しっとりと優しく触れ、名残惜しく唇を離して顔をあげる。Kは見たことも無いほどに赤面していた。軽く寄せられた眉と、引き締めようとしているのにどうしても緩んでしまう口元。赤い耳たぶ。
     あぁ、これまでのKの憂いもうっとりした眼差しも、全部俺に向けられたいたものだったのだ。そう自覚したら途端に喜びがこみ上げてくる。手の甲だけで終わらせるつもりだったのに、こんな顔をされたら我慢できない。
     富永はそっと手を伸ばしてKの頬に触れた。指先で耳たぶや襟足の髪を弄ぶ。反対の手をテーブルについて体を支えながら、ぐっと身を乗りだす。
    「あなたが好きな人がいるって言った時からずっと、本当はすごく嫉妬してました」
     かつてないほど近く、でもまだキスは出来ないほどの距離でじっとKの瞳を覗き込む。
    「と、みなが……俺も、お前が失恋したと聞いて、嬉しいような悲しいような気分だった。知らぬ間に好きな人がいたことがショックだった。失恋したならまだチャンスがあるとも思った。浅ましいことを考えてしまって、俺は……」
     Kも俺と同じようなことを考えていたのか。
    「僕たち同じですね」
     さらに近づく。鼻と鼻が触れるぎりぎりで止まると、意外にもすっとKの顎が軽くあがり唇が近づいた。富永は恋人となったKの密やかな許しを得てキスをした。柔らかくて温かい。何度も、お互いに深く深くと求め合う。息が上がっても止められない。
    「ねぇ、Kのっ、好きなタイプも、教えてくださいよ」
    「んっ、はっ、それ、は」
     呼吸の合間に囁きあう。こっそりと目を開けて様子を盗み見る。今どんな顔をしているのか、余すことなく目に焼き付けたい。
    「今まで考えたことも無かったが……、はぁっ、んん、努力家で……誠実っ、明るくて、周りを照らす太陽のような男だ」
     Kの手が富永の頭を優しく撫でる。心地よさに富永は思わずうっとりと目を閉じた。明るい太陽のような男。どうだろう。俺はそうだろうか。
    「富永、これでは態勢がきついだろう。こっちへ」
     髪を弄んでいたKの指先が耳たぶを擽り、首筋をなぞってから肩をすべり、富永の手に到達する。体重を支えながら机にくっついている指先をするすると撫でられる。僅かなくすぐったさがもどかしい。不意にKが後ろへ顔を逸らしたので、それ以上は身を乗り出せずに富永は唇を離すしかなかった。仕方なく後ろへ重心を下げる。重さから解放された手で、まだ悪戯をしていたKの手を捕らえて指先を絡め合わせた。
    繋がったまま腕を伸ばし、富永はテーブルを回ってKの元へ急ぐ。Kは座ったまま椅子をずらして富永と向き合った。どうしようか。そのままKの上に乗ってもいいが、富永は繋いだ手をぐっと引っ張って立ってほしいと伝えた。
     すぐに立ち上がったKをそっと抱きしめる。両腕の上から腕を回した。なんとなく、包み込むようにしたかった。それから腕をあげて両手を首の後ろに回した。Kの大きな掌が富永の背に温かく触れた。
     再び見つめあう。
    「言っていただろう。好きになった相手が好きなタイプだと。今ならわかる。俺の好きなタイプは、富永、おまえなんだ」
    「それは、光栄です」
     Kの唇の端にちゅっと音を立てて口づける。それから再び深くキスをする。温かくてぬるつく舌を絡め合わせる。また息が上がっていく。  〈終わり〉
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