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    ▶︎古井◀︎

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    ▶︎古井◀︎

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    #チェズモクワンドロワンライ
    お題「三つ編み/好奇心」
    三つ編みチェとおめかしモさんの仲良しチェズモク遊園地デートのはなし

    #チェズモク
    chesmok

    「チェズレイさんや」
    「なんでしょうかモクマさん」
     がたん、がたん。二人が並んで座っている客車が荒っぽくレールの上を稼働してゆく音が天空に響く。いつもより幾分も近付いた空は、雲一つなくいっそ憎らしいほど綺麗に晴れ渡っていた。
    「確かにデートしよって言われたけどさあ」
    「ええ。快諾してくださりありがとうございます」
     がたん。二人の呑気な会話を余所に、車体がひときわ大きく唸って上昇を止めた。ついに頂上にたどり着いてしまったのだ。モクマは、視点上は途切れてしまったレールのこれから向かう先を思って、ごくりと無意識に生唾を飲み込んだ。そして数秒の停止ののち、ゆっくりと、車体が傾き始める。
    「これは――ちょっと、聞いてなかったッ、なああああああっ!?」
     次の瞬間に訪れたのは、ジェットコースター特有のほぼ垂直落下による浮遊感と、それに伴う胃の腑が返りそうな衝撃だった。真っすぐ伸びているレールが見えていてなお、このまま地面に激突するのでは、と考えてしまうほどの勢いで車体は真っ逆さまに落ちていく。情けなく開いたままの口には、ごうごうと音を立てる暴力的な風が無遠慮に流れ込んできた。
     重力に引かれてどこまでも加速を続けるコースターは、モクマや他の乗客たちによる悲鳴や絶叫を受けて三連続のご機嫌なループをお見舞いした。
     休む間もなく与えられる本能的な恐怖に足の裏がぞわぞわと震え始める。いくらショーマンや忍者としてのあれこれで過激な動きに慣れているといっても流石にこれは――。
    「これは無理だってええええ!」
     間延びした絶叫が他の客の声と交じり合いながら横風に溶けていく。モクマは外れるはずのない安全バーに必死に爪を立てながら、車体がゴール地点である城を模した建物に到着するまでの間、ひたすらに遠心力の暴力に耐え続けた。
    「つ、疲れた……」
     よたよたと小鹿めいた足取りでようやくたどり着いたベンチに、モクマはどっかりと腰を下ろす。眩暈などはないにせよ、文字通り振り回されたダメージが大きい。時間にしてみればほんの数分だが、けれどその数分間の体感がとんでもなく長いのだった。不意に天を仰ぐと、次の便に乗ったらしい客たちの楽しげな絶叫が空にこだましていた。
     明日デートがしたいという恋人の言葉に一も二もなく快諾した昨晩の出来事が、もうずいぶんと昔のことのように感じる。
     彼が本日のデートスポットに選んだのは、セーフハウスを構えている街からふたつほど市を跨いだ山間にある某テーマパークだった。
     国内でも有数の人気スポットであるからか、モクマはまだ薄暗さの残る早朝から布団を引っぺがされ、すでにばっちり身支度を終えていたチェズレイによって隙なく全身コーディネイトを施されて、車に押し込められた。
     そうしてずいぶんと用意周到な青年の段取りのよさにあれよあれよと流され続けたモクマがふと気付いたときにはもう、ジェットコースターの先頭席にお行儀よく座らされていたというわけだ。
    「それにしても意外ですね。もっと余裕そうにして見せると思っていたのですが」
     すぐ近くの売店へ買いに行ってくれたらしいチェズレイが、冷えたミネラルウォーターのボトルを手渡す。そのまますぐ隣に腰掛けた青年に、モクマはぐったりしたままで礼を言って受け取ると、すぐさまキャップを開けて叫びで嗄れかけていた喉を潤した。
    「あのねえチェズレイ、高く見積もってくれるのは嬉しいけど、おじさんもうおじさんだから突然激しくされると壊れちゃうのよ……」
    「おや。まるで私が無理やりあなたを載せたかのような仰りようですねェ。もとはあなたが乗りたいと言い出したのでしょう?」
    「……ええ?」
     相棒の口から発された予想だにしていたかった言葉に、ぽかんと開いた口からは間抜けな声が飛び出した。そんなこと言ったっけ? いつ? チェズレイには悪いが、全然記憶になかった。そして、そうとわかる顔を見せていたのだろう。チェズレイは分かりやすく溜息を吐きながら、芝居がかった仰々しい仕草でもって両手を広げて見せた。
    「BONDミュージアムですよ。覚えていませんか?」
     ぼんどみゅーじあむ。相棒の言葉を鸚鵡返しにしたほんの一瞬ののち、記憶が鮮やかに蘇った。最終決戦を前にモクマとチェズレイに割り当てられたのは、ブロッサムルートだった。そうだ、我らがボスたるルークがそう呼称していた潜入ルートの、たしか一番初めにあったアトラクション――。
    「ひょっとして、メテオコースターの時に言ったあれのこと!?」
    「はい、ご名答です。少しばかり気付かれるのが遅かったですが、まあ及第点を差し上げましょう」
     そうだ、思い返してみれば確かに言った。事件が解決したら一緒に絶叫マシンに乗ろうだとか、そういったことを彼に。しかし、だ。
    「なして今になって……?」
    「恥ずかしながら……私も野望の再設定やあなたの同道を得たことに浮かれ切っていて、すっかり忘れていたのですよ。ですが先日、ちょうどこの遊園地の宣伝を見かけましてね」
    「思い立ったが吉日、ってことかい」
    「そういうことです」
     チェズレイは満足げに答えると、俄に微笑んだ。そしてモクマもまた、答え合わせを聞いてようやく、彼の後頭部から覗いている髪型の意味に得心がいき、成るほどと手を打った。
    「ああ、だからお前さん、今日は珍しい髪の括り方をしてたんだねえ」
    「ええ。初めからこれに乗るつもりで来ていましたから、他の乗客の迷惑にならないようにね」
     彼の艶めく髪は、いつもの下ろしたままでも、潜入時のようなポニーテールでもなく、リボンが髪に絡まったような、モクマには理解しがたい複雑なかたちに編み込まれたおさげ髪になっていた。
     まあ、この国宝級のキューティクルが他人に触れることを私が許せないからというのもありますがねェ、と相変わらず大仰に胸を張り、誇っているんだか昂っているんだかわからない顔をしているチェズレイに、モクマは苦笑を返す。
    「いやあ、お前さんてば本当に器用だねえ。これ、後ろの部分なんてどうなっちゃってるの?」
     編まれた髪を崩さないように、けれど湧いてくる好奇心には抗いがたく、モクマは目線のすぐ前にある美しい髪の束を指先でつついた。絹糸のかせのようになっているそれは、淡い色合いも相まって麗らかな陽の下に存分に煌めいている。
    「ご興味がおありなのでしたら、後ほどこの身でもって指南して差し上げますよ」
    「それは……責任重大だなあ」
     こうして髪に触れることも、更には結うことすらも許してみせるチェズレイに、受け入れられているなあとモクマは彼からの深い信頼を身に染みて実感する。
    「とはいえ、それは夜のプログラムに回しましょうか。まだ乗っていないコースターはたくさんありますから」
    「……えっ、まだ乗るの?」
     ふたりの間にじんわりと漂っていたはずの甘い空気が、恋人の一言によって瞬間的に消し飛ぶ。呆然と身を固めるモクマに、チェズレイはいっそう美しく微笑むばかりで、譲ろうという意思は小指の先ほども感じられなかった。あれほど激しく、縦横無尽に全身をシェイクされたというのに、まだ足りないというのか。これが若さなのだろうか。
    「もちろん乗りますよ。およそ一年越しになってしまった分の利子が、たっぷりついていますからね」
     行きましょうか、とモクマへ手を差し伸べるチェズレイの姿は、一見するとどこぞの映画から抜け出してきた王子様のようだったけれど、同時に方々から聞こえ続けている数々の愉快な叫び声を奏でるアトラクションへと誘う悪魔のようでもあった。
    「おじさん、もうちょっと穏やかでメルヘンで可愛いのがいいなあ、なんて……」
    「では、コースターを全制覇したらお望みのファンシーなアトラクションにも乗りましょうか」
     懐から園内パンフレットを取り出してにっこりと笑うチェズレイが、なんだかずいぶんと年齢相応にはしゃいでいるように見えて、モクマもつられて笑った。
     互いにほとんど忘れていたとは言え、ようやく念願叶った遊園地デートなのだ。年下の可愛い彼氏のお願いを聞いてやろうではないか。空を走る無数のレールに肚を括ったモクマは、たっぷりの溜息を吐き出してから、繋いだ青年の指先に回す力を強めた。
    「なあチェズレイ。おじさんがジェットコースターで回されすぎてバターになっちまっても、ちゃあんと家まで持って帰ってよ?」
    「ふふふ。もしそうなったら、ベッドルームでどろどろになるまで溶かして差し上げますよ」
     視線と言葉を意味深に絡めながら笑い合う。広げられたパンフレットにふと視線を落とすと、頬に恋人の唇が触れた。軽く押しあてられた感触に目線を上げると、うっとりと甘く溶けた眼差しのチェズレイが、とどめとばかりに耳元で囁く。
    「夜は、溶かしたバターで私だけの可愛らしくて甘いクッキーを作らせていただくことにしましょう」
     ね、モクマさん。そう言って腰を抱いて見せるチェズレイに、モクマは勢いよく両手を上げた。
    「……負けました!」
     どうやら、今日はとことん彼に勝てない日らしい。知らぬ間に始まった口説き勝負にすら大敗を喫したモクマは、敗者らしくあらゆる覚悟を一瞬のうちに決めると、甘えたがりで甘えさせたがりな可愛い恋人にぴったりと寄り添って歩き出した。
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    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。結婚している。■いわゆるプロポーズ


    「チェーズレイ、これよかったら使って」
     そう言ってモクマが書斎の机の上にラッピングされた細長い包みを置いた。ペンか何かでも入っているのだろうか。書き物をしていたチェズレイがそう思って開けてみると、塗り箸のような棒に藤色のとろりとした色合いのとんぼ玉がついている。
    「これは、かんざしですか?」
    「そうだよ。マイカの里じゃ女はよくこれを使って髪をまとめてるんだ。ほら、お前さん髪長くて時々邪魔そうにしてるから」
     言われてみれば、マイカの里で見かけた女性らが、結い髪にこういった飾りのようなものを挿していたのを思い出す。
     しかしチェズレイにはこんな棒一本で、どうやって髪をまとめるのかがわからない。そこでモクマは手元のタブレットで、かんざしでの髪の結い方動画を映して見せた。マイカの文化がブロッサムや他の国にも伝わりつつある今だから、こんな動画もある。一分ほどの短いものだが、聡いチェズレイにはそれだけで使い方がだいたいわかった。
    「なるほど、これは便利そうですね」
     そう言うとチェズレイは動画で見たとおりに髪を結い上げる。髪をまとめて上にねじると、地肌に近いところへか 849

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。とある国の狭いセーフハウス。■たまには、


     たまにはあの人に任せてみようか。そう思ってチェズレイがモクマに確保を頼んだ極東の島国のセーフハウスは、1LKという手狭なものだった。古びたマンションの角部屋で、まずキッチンが狭いとチェズレイが文句をつける。シンク横の調理スペースは不十分だし、コンロもIHが一口だけだ。
    「これじゃあろくに料理も作れないじゃないですか」
    「まあそこは我慢してもらうしかないねえ」
     あはは、と笑うモクマをよそにチェズレイはバスルームを覗きに行く。バス・トイレが一緒だったら絶対にここでは暮らせない。引き戸を開けてみればシステムバスだが、トイレは別のようだ。清潔感もある。ほっと息をつく。
     そこでモクマに名前を呼ばれて手招きされる。なんだろうと思ってついていくとそこはベッドルームだった。そこでチェズレイはかすかに目を見開く。目の前にあるのは十分に広いダブルベッドだった。
    「いや~、寝室が広いみたいだからダブルベッドなんて入れちゃった」
     首の後ろ側をかきながらモクマが少し照れて笑うと、チェズレイがゆらりと顔を上げ振り返る。
    「モクマさァん……」
    「うん。お前さんがその顔する時って、嬉しいんだ 827

    高間晴

    MAIKINGチェズモクの話。あとで少し手直ししたらpixivへ放る予定。■ポトフが冷めるまで


     極北の国、ヴィンウェイ。この国の冬は長い。だがチェズレイとモクマのセーフハウス内には暖房がしっかり効いており、寒さを感じることはない。
     キッチンでチェズレイはことことと煮える鍋を見つめていた。視線を上げればソファに座ってタブレットで通話しているモクマの姿が目に入る。おそらく次の仕事で向かう国で、ニンジャジャンのショーに出てくれないか打診しているのだろう。
     コンソメのいい香りが鍋から漂っている。チェズレイは煮えたかどうか、乱切りにした人参を小皿に取って吹き冷ますと口に入れた。それは味付けも火の通り具合も、我ながら完璧な出来栄え。
    「モクマさん、できましたよ」
     声をかければ、モクマは顔を上げて振り返り返事した。
    「あ、できた?
     ――ってわけで、アーロン。チェズレイが昼飯作ってくれたから、詳しい話はまた今度な」
     そう言ってモクマはさっさと通話を打ち切ってしまった。チェズレイがコンロの火を止め、二つの深い皿に出来上がった料理をよそうと、トレイに載せてダイニングへ移動する。モクマもソファから立ち上がってその後に付いていき、椅子を引くとテーブルにつく。その前に 2010

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    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。ポッキーゲームに勝敗なんてあったっけとググりました。付き合っているのか付き合ってないのか微妙なところ。■ポッキーゲーム


     昼下がり、ソファに座ってモクマがポッキーを食べている。そこへチェズレイが現れた。
    「おや、モクマさん。お菓子ですか」
    「ああ、小腹が空いたんでついコンビニで買っちゃった」
     ぱきぱきと軽快な音を鳴らしてポッキーを食べるモクマ。その隣に座って、いたずらを思いついた顔でチェズレイは声をかける。
    「モクマさん。ポッキーゲームしませんか」
    「ええ~? おじさんが勝ったらお前さんが晩飯作ってくれるってなら乗るよ」
    「それで結構です。あ、私は特に勝利報酬などいりませんので」
     チェズレイはにっこり笑う。「欲がないねぇ」とモクマはポッキーの端をくわえると彼の方へ顔を向けた。ずい、とチェズレイの整った顔が近づいて反対側を唇で食む。と、モクマは気づく。
     ――うわ、これ予想以上にやばい。
     チェズレイのいつも付けている香水が一際香って、モクマの心臓がばくばくしはじめる。その肩から流れる髪の音まで聞こえそうな距離だ。銀のまつ毛と紫水晶の瞳がきれいだな、と思う。ぱき、とチェズレイがポッキーを一口かじった。その音ではっとする。うかうかしてたらこの国宝級の顔面がどんどん近づいてくる。ルー 852