Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ▶︎古井◀︎

    @vallyzogong

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 18

    ▶︎古井◀︎

    ☆quiet follow

    #チェズモクワンドロワンライ
    お題「三つ編み/好奇心」
    三つ編みチェとおめかしモさんの仲良しチェズモク遊園地デートのはなし

    #チェズモク
    chesmok

    「チェズレイさんや」
    「なんでしょうかモクマさん」
     がたん、がたん。二人が並んで座っている客車が荒っぽくレールの上を稼働してゆく音が天空に響く。いつもより幾分も近付いた空は、雲一つなくいっそ憎らしいほど綺麗に晴れ渡っていた。
    「確かにデートしよって言われたけどさあ」
    「ええ。快諾してくださりありがとうございます」
     がたん。二人の呑気な会話を余所に、車体がひときわ大きく唸って上昇を止めた。ついに頂上にたどり着いてしまったのだ。モクマは、視点上は途切れてしまったレールのこれから向かう先を思って、ごくりと無意識に生唾を飲み込んだ。そして数秒の停止ののち、ゆっくりと、車体が傾き始める。
    「これは――ちょっと、聞いてなかったッ、なああああああっ!?」
     次の瞬間に訪れたのは、ジェットコースター特有のほぼ垂直落下による浮遊感と、それに伴う胃の腑が返りそうな衝撃だった。真っすぐ伸びているレールが見えていてなお、このまま地面に激突するのでは、と考えてしまうほどの勢いで車体は真っ逆さまに落ちていく。情けなく開いたままの口には、ごうごうと音を立てる暴力的な風が無遠慮に流れ込んできた。
     重力に引かれてどこまでも加速を続けるコースターは、モクマや他の乗客たちによる悲鳴や絶叫を受けて三連続のご機嫌なループをお見舞いした。
     休む間もなく与えられる本能的な恐怖に足の裏がぞわぞわと震え始める。いくらショーマンや忍者としてのあれこれで過激な動きに慣れているといっても流石にこれは――。
    「これは無理だってええええ!」
     間延びした絶叫が他の客の声と交じり合いながら横風に溶けていく。モクマは外れるはずのない安全バーに必死に爪を立てながら、車体がゴール地点である城を模した建物に到着するまでの間、ひたすらに遠心力の暴力に耐え続けた。
    「つ、疲れた……」
     よたよたと小鹿めいた足取りでようやくたどり着いたベンチに、モクマはどっかりと腰を下ろす。眩暈などはないにせよ、文字通り振り回されたダメージが大きい。時間にしてみればほんの数分だが、けれどその数分間の体感がとんでもなく長いのだった。不意に天を仰ぐと、次の便に乗ったらしい客たちの楽しげな絶叫が空にこだましていた。
     明日デートがしたいという恋人の言葉に一も二もなく快諾した昨晩の出来事が、もうずいぶんと昔のことのように感じる。
     彼が本日のデートスポットに選んだのは、セーフハウスを構えている街からふたつほど市を跨いだ山間にある某テーマパークだった。
     国内でも有数の人気スポットであるからか、モクマはまだ薄暗さの残る早朝から布団を引っぺがされ、すでにばっちり身支度を終えていたチェズレイによって隙なく全身コーディネイトを施されて、車に押し込められた。
     そうしてずいぶんと用意周到な青年の段取りのよさにあれよあれよと流され続けたモクマがふと気付いたときにはもう、ジェットコースターの先頭席にお行儀よく座らされていたというわけだ。
    「それにしても意外ですね。もっと余裕そうにして見せると思っていたのですが」
     すぐ近くの売店へ買いに行ってくれたらしいチェズレイが、冷えたミネラルウォーターのボトルを手渡す。そのまますぐ隣に腰掛けた青年に、モクマはぐったりしたままで礼を言って受け取ると、すぐさまキャップを開けて叫びで嗄れかけていた喉を潤した。
    「あのねえチェズレイ、高く見積もってくれるのは嬉しいけど、おじさんもうおじさんだから突然激しくされると壊れちゃうのよ……」
    「おや。まるで私が無理やりあなたを載せたかのような仰りようですねェ。もとはあなたが乗りたいと言い出したのでしょう?」
    「……ええ?」
     相棒の口から発された予想だにしていたかった言葉に、ぽかんと開いた口からは間抜けな声が飛び出した。そんなこと言ったっけ? いつ? チェズレイには悪いが、全然記憶になかった。そして、そうとわかる顔を見せていたのだろう。チェズレイは分かりやすく溜息を吐きながら、芝居がかった仰々しい仕草でもって両手を広げて見せた。
    「BONDミュージアムですよ。覚えていませんか?」
     ぼんどみゅーじあむ。相棒の言葉を鸚鵡返しにしたほんの一瞬ののち、記憶が鮮やかに蘇った。最終決戦を前にモクマとチェズレイに割り当てられたのは、ブロッサムルートだった。そうだ、我らがボスたるルークがそう呼称していた潜入ルートの、たしか一番初めにあったアトラクション――。
    「ひょっとして、メテオコースターの時に言ったあれのこと!?」
    「はい、ご名答です。少しばかり気付かれるのが遅かったですが、まあ及第点を差し上げましょう」
     そうだ、思い返してみれば確かに言った。事件が解決したら一緒に絶叫マシンに乗ろうだとか、そういったことを彼に。しかし、だ。
    「なして今になって……?」
    「恥ずかしながら……私も野望の再設定やあなたの同道を得たことに浮かれ切っていて、すっかり忘れていたのですよ。ですが先日、ちょうどこの遊園地の宣伝を見かけましてね」
    「思い立ったが吉日、ってことかい」
    「そういうことです」
     チェズレイは満足げに答えると、俄に微笑んだ。そしてモクマもまた、答え合わせを聞いてようやく、彼の後頭部から覗いている髪型の意味に得心がいき、成るほどと手を打った。
    「ああ、だからお前さん、今日は珍しい髪の括り方をしてたんだねえ」
    「ええ。初めからこれに乗るつもりで来ていましたから、他の乗客の迷惑にならないようにね」
     彼の艶めく髪は、いつもの下ろしたままでも、潜入時のようなポニーテールでもなく、リボンが髪に絡まったような、モクマには理解しがたい複雑なかたちに編み込まれたおさげ髪になっていた。
     まあ、この国宝級のキューティクルが他人に触れることを私が許せないからというのもありますがねェ、と相変わらず大仰に胸を張り、誇っているんだか昂っているんだかわからない顔をしているチェズレイに、モクマは苦笑を返す。
    「いやあ、お前さんてば本当に器用だねえ。これ、後ろの部分なんてどうなっちゃってるの?」
     編まれた髪を崩さないように、けれど湧いてくる好奇心には抗いがたく、モクマは目線のすぐ前にある美しい髪の束を指先でつついた。絹糸のかせのようになっているそれは、淡い色合いも相まって麗らかな陽の下に存分に煌めいている。
    「ご興味がおありなのでしたら、後ほどこの身でもって指南して差し上げますよ」
    「それは……責任重大だなあ」
     こうして髪に触れることも、更には結うことすらも許してみせるチェズレイに、受け入れられているなあとモクマは彼からの深い信頼を身に染みて実感する。
    「とはいえ、それは夜のプログラムに回しましょうか。まだ乗っていないコースターはたくさんありますから」
    「……えっ、まだ乗るの?」
     ふたりの間にじんわりと漂っていたはずの甘い空気が、恋人の一言によって瞬間的に消し飛ぶ。呆然と身を固めるモクマに、チェズレイはいっそう美しく微笑むばかりで、譲ろうという意思は小指の先ほども感じられなかった。あれほど激しく、縦横無尽に全身をシェイクされたというのに、まだ足りないというのか。これが若さなのだろうか。
    「もちろん乗りますよ。およそ一年越しになってしまった分の利子が、たっぷりついていますからね」
     行きましょうか、とモクマへ手を差し伸べるチェズレイの姿は、一見するとどこぞの映画から抜け出してきた王子様のようだったけれど、同時に方々から聞こえ続けている数々の愉快な叫び声を奏でるアトラクションへと誘う悪魔のようでもあった。
    「おじさん、もうちょっと穏やかでメルヘンで可愛いのがいいなあ、なんて……」
    「では、コースターを全制覇したらお望みのファンシーなアトラクションにも乗りましょうか」
     懐から園内パンフレットを取り出してにっこりと笑うチェズレイが、なんだかずいぶんと年齢相応にはしゃいでいるように見えて、モクマもつられて笑った。
     互いにほとんど忘れていたとは言え、ようやく念願叶った遊園地デートなのだ。年下の可愛い彼氏のお願いを聞いてやろうではないか。空を走る無数のレールに肚を括ったモクマは、たっぷりの溜息を吐き出してから、繋いだ青年の指先に回す力を強めた。
    「なあチェズレイ。おじさんがジェットコースターで回されすぎてバターになっちまっても、ちゃあんと家まで持って帰ってよ?」
    「ふふふ。もしそうなったら、ベッドルームでどろどろになるまで溶かして差し上げますよ」
     視線と言葉を意味深に絡めながら笑い合う。広げられたパンフレットにふと視線を落とすと、頬に恋人の唇が触れた。軽く押しあてられた感触に目線を上げると、うっとりと甘く溶けた眼差しのチェズレイが、とどめとばかりに耳元で囁く。
    「夜は、溶かしたバターで私だけの可愛らしくて甘いクッキーを作らせていただくことにしましょう」
     ね、モクマさん。そう言って腰を抱いて見せるチェズレイに、モクマは勢いよく両手を上げた。
    「……負けました!」
     どうやら、今日はとことん彼に勝てない日らしい。知らぬ間に始まった口説き勝負にすら大敗を喫したモクマは、敗者らしくあらゆる覚悟を一瞬のうちに決めると、甘えたがりで甘えさせたがりな可愛い恋人にぴったりと寄り添って歩き出した。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺🎢😊😊💖💖👍👍💕💕💕💕💕
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    ▶︎古井◀︎

    DONE横書き一気読み用

    #チェズモクワンドロワンライ
    お題「潜入」
    ※少しだけ荒事の描写があります
    悪党どものアジトに乗り込んで大暴れするチェズモクのはなし
     機械油の混じった潮の匂いが、風に乗って流れてくる。夜凪の闇を割いて光るタンカーが地響きめいて「ぼおん」と鈍い汽笛を鳴らした。
     身に馴染んだスーツを纏った二人の男が、暗がりに溶け込むようにして湾岸に建ち並ぶ倉庫街を無遠慮に歩いている。無数に積み上げられている錆の浮いたコンテナや、それらを運搬するための重機が雑然と置かれているせいで、一種の迷路を思わせるつくりになっていた。
    「何だか、迷っちまいそうだねえ」
     まるでピクニックや探検でもしているかのような、のんびりとした口調で呟く。夜の闇にまぎれながら迷いなく進んでいるのは、事前の調査で調べておいた『正解のルート』だった。照明灯自体は存在しているものの、そのほとんどが点灯していないせいで周囲はひどく暗い。
    「それも一つの目的なのではないですか? 何しろ、表立って喧伝できるような場所ではないのですから」
     倉庫街でも奥まった、知らなければ辿り着くことすら困難であろう場所に位置している今夜の目的地は、戦場で巨万の富を生み出す無数の銃火器が積まれている隠し倉庫だった
     持ち主は、海外での建材の輸出入を生業としている某企業。もとは健全な会社組織 6166

    ▶︎古井◀︎

    DONE #チェズモクワンドロワンライ
    お題「三つ編み/好奇心」
    三つ編みチェとおめかしモさんの仲良しチェズモク遊園地デートのはなし
    「チェズレイさんや」
    「なんでしょうかモクマさん」
     がたん、がたん。二人が並んで座っている客車が荒っぽくレールの上を稼働してゆく音が天空に響く。いつもより幾分も近付いた空は、雲一つなくいっそ憎らしいほど綺麗に晴れ渡っていた。
    「確かにデートしよって言われたけどさあ」
    「ええ。快諾してくださりありがとうございます」
     がたん。二人の呑気な会話を余所に、車体がひときわ大きく唸って上昇を止めた。ついに頂上にたどり着いてしまったのだ。モクマは、視点上は途切れてしまったレールのこれから向かう先を思って、ごくりと無意識に生唾を飲み込んだ。そして数秒の停止ののち、ゆっくりと、車体が傾き始める。
    「これは――ちょっと、聞いてなかったッ、なああああああっ!?」
     次の瞬間に訪れたのは、ジェットコースター特有のほぼ垂直落下による浮遊感と、それに伴う胃の腑が返りそうな衝撃だった。真っすぐ伸びているレールが見えていてなお、このまま地面に激突するのでは、と考えてしまうほどの勢いで車体は真っ逆さまに落ちていく。情けなく開いたままの口には、ごうごうと音を立てる暴力的な風が無遠慮に流れ込んできた。
     重力に引かれて 3823

    ▶︎古井◀︎

    DONE #チェズモクワンドロワンライ
    お題「夢/ピアノ」
    ピアノを弾いたり聞いたりするチェズモクのはなし
     ピアノの美しい調べがモクマの鼓膜を揺らし、微睡のさなかに心地よく沈んでいた意識を揺り起こした。そっと目蓋をひらくと、目の奥に残る微かな怠さが、まだもうすこし寝ていたいと訴えている。
     なにか、ずいぶんと長い夢を見ていたような。輪郭を捉えていたはずの夢の記憶は、意識の冴えに比例するかのように、ぼんやりと霞む脳に絡まっていた残滓ごと霧散していく。もはや、それが悲しかったものか嬉しかったものなのかすら思い出せないが、そっと指先で触れた目尻の膚が、涙でも流れていたみたいに張り詰めていた。
     怠惰な欲求に抗ってゆっくりとシーツの海から身体を起こしたモクマは、知らぬ間にもぬけの殻と化していた、すぐ隣に一人分空いていたスペースをぼうっと眺める。今響いているこの音は、どうやら先に目覚めた恋人が奏でているらしい。
     音に誘われるまま、眠気にこわばったままの上半身をぐっと伸ばし、モクマはサイドテーブルに置かれていたカーディガンに袖を通す。モクマが何の気なしに足を下ろした位置に、まるで測ったみたいにきっちりと揃えられていたスリッパに、思わず笑みを漏らしながら立ち上がった。
     壁際のチェストの上でもうもうと 3916

    recommended works

    高間晴

    DONE手作りの栞とファーストキスのチェズモクの話。■眠れない夜、君のせいだよ


     何、読んでんだろ。
     チェズレイはよく本を読む。今日もリビングのソファで読書をしている。それをモクマはソファの背中側に回り込んで、膝の上に開かれたハードカバーのページを見てみる。だが、数行読んだところで、何のことなのか頭がこんがらがるような感覚に襲われたので読むのをやめた。
    「どうしました、モクマさん」
    「いんや。お前さんやっぱ頭脳派だな~って思って」
     チェズレイは薄く微笑むと栞も挟まず本を閉じてしまう。それを見てモクマは目を見開く。
    「ありゃ、お前さん栞挟まないの?」
    「ええ。どこまで読んだかは覚えていますので」
    「は~……じゃあおじさんの作った栞、いらないかあ」
    「栞?」
     チェズレイが小首を傾げてきたので、モクマは背後に持っていた手作りの栞を差し出す。受け取って、チェズレイはまじまじと見つめる。紫色の花を押し花にして作った栞を指差してモクマが説明する。
    「お前さんよく本読んでるみたいだから、どうかな~って思って作っちゃった」
     そこでモクマは少し照れくさそうに笑う。
    「昔におカンやイズミ様が作ってたのの見様見真似だけどさ、なかなかうまく出来てる 2411

    ▶︎古井◀︎

    DONE横書き一気読み用

    #チェズモクワンドロワンライ
    お題「潜入」
    ※少しだけ荒事の描写があります
    悪党どものアジトに乗り込んで大暴れするチェズモクのはなし
     機械油の混じった潮の匂いが、風に乗って流れてくる。夜凪の闇を割いて光るタンカーが地響きめいて「ぼおん」と鈍い汽笛を鳴らした。
     身に馴染んだスーツを纏った二人の男が、暗がりに溶け込むようにして湾岸に建ち並ぶ倉庫街を無遠慮に歩いている。無数に積み上げられている錆の浮いたコンテナや、それらを運搬するための重機が雑然と置かれているせいで、一種の迷路を思わせるつくりになっていた。
    「何だか、迷っちまいそうだねえ」
     まるでピクニックや探検でもしているかのような、のんびりとした口調で呟く。夜の闇にまぎれながら迷いなく進んでいるのは、事前の調査で調べておいた『正解のルート』だった。照明灯自体は存在しているものの、そのほとんどが点灯していないせいで周囲はひどく暗い。
    「それも一つの目的なのではないですか? 何しろ、表立って喧伝できるような場所ではないのですから」
     倉庫街でも奥まった、知らなければ辿り着くことすら困難であろう場所に位置している今夜の目的地は、戦場で巨万の富を生み出す無数の銃火器が積まれている隠し倉庫だった
     持ち主は、海外での建材の輸出入を生業としている某企業。もとは健全な会社組織 6166