(栗ご飯@にほさに) 夏が終わった。
南国の海の写真が載ったカレンダーを、慎重に破れば月が変わる。新しい写真はイチョウ並木が綺麗な写真だった。未だ暑さが伴うものの、暦の上では既に秋。スーパーでも果実の種類が増えて来ている。今まで店頭に鎮座していた西瓜は成りを潜め、梨、桃、葡萄に無花果が立ち並ぶようになった。茸の種類も増えた。旬を迎えようとしている茸たちは、徐々に売り場を占拠し始めている。
秋。一年で最も実りのある季節。
あぁ、今年も来てしまったと言わざるを得ない。大きく溜め息を溢した後ろで、恋人が笑っている。
同棲をし始め、互いに料理をするようになり、私よりもちょっぴり――いや、かなり料理が得意な恋人が、いつの間にか冷蔵庫の管理をするようになるまでには時間がかからなかった。それはいい。それはいいのだ。誰だって美味しいものを食べたい。料理の腕前に自信がある訳でもなかったから、彼が台所の主になるのは賛成だ。それはいい。それはいいのだ。
問題は、その料理が美味しすぎるせいにある。
「美味しい……」
「そりゃそうだろう」
食卓を挟んで向こう側。したり顔で茶碗を手にしている日本号が自ら作った栗ご飯を食べている。旨い、と自画自賛しているが全く嫌みになど聞こえない。なにせ事実だ。ほくほくとした大振りの栗は少々形が崩れているものの、綺麗な蒸栗色――まさに、その名の通りな柔らかい色だ。そして、それが薄く色づいた新米との相性は言うまでもなく、大好物の一品であるがゆえに、涙が出るほど美味しい。仕事終わりのお酒よりも身体に沁み渡る。
「泣きながら食うなよ」
「うぅぅ……」
栗が出てたから買ってきた。仕事が終わって帰宅すれば、そんな言葉が出迎えてくれた。今日は休みだった日本号の口から「栗」の単語が出てきたら、夕飯の献立は見えたも当然。そして、休日を返上してまで料理をしていたことも暗にわかる。今晩の御馳走は、当然、生栗から作られている。手間が異様にかかっている。あの分厚くて固い鬼皮を向き、丁寧に渋皮を取り、それを炊飯器で炊く。文字にすれば簡単に見える行程だが、時間と手間が掛かることを私は知っている。私の大好物だからこそ手間を掛ける価値があるなと笑って、毎年、時期になると必ず作ってくれる。
栗ご飯が美味しい。これだけで一合程食べてしまいそうだし、事実食べてしまう。夕食はこれだけで良い。栗ご飯だけでいい。けれど、そうはならないのが日本号という男だった。
「好き……日本号、大好き……」
「嬉しいねぇ」
「でも、嫌い……」
「おぉ、そりゃ酷ぇな」
日本食の基本は一汁三菜だ。茸がたっぷりと入った吸い物に、
(……つづく!)