見下ろす背中に当たる風は冷たく、窓から差し込むわずかな光が夜明け前であることを知らせる。
空は紺色と薄紅をないまぜにしたようで、次第に星が消えていく。
しんと静まり返った部屋の中、翡翠の髪がわずかに揺れる。
音を立てずに行動するのは造作もない。気配を断つことも息をするようにできる。そっと寝台を抜け出して身支度を整え終え、別れの挨拶をその背中に送るべく振り返る。そして、今にいたる。
峻厳さ、厳かさ、冷徹さ・・・六千年近く璃月を収めてきた統治者が見せていた様相は彼にとって触れ得ざる美しさでもあった。
かつての近づくこともまして声をかけるなど烏滸がましく、畏れ多くてできなかったそれら。しかし「凡人だから」の一言で彼が作っていた壁は容易に砕かれた。
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