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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    sayuta38

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    しょしょかいと~さいその後のif話

    #鍾魈
    Zhongxiao

    祭りのあと「鍾離様……そろそろ……」
    「まだ休んでいても良いだろう。お前にも休息は必要だ」
     海灯祭が終わり、先日まであった璃月港の賑やかな灯りは、まるで何事もなかったかのように跡形もない。祭りのあとの静けさや寂しさなどは全く感じないが、璃月港は今日も相変わらず船の往来が多く賑わい、平穏な生活が続いているように見える。
     往生堂もそれほど今は忙しくないようで、鍾離も少し空いている時間があるらしい。やっとのことで魈が望舒旅館へ戻り、敷布の上で羽を休めた次の日には、日の出と共に鍾離が望舒旅館へ来ていた。
     着の身着のままで横になっていたのだが、鍾離が来るとなるとせめて湯浴みくらいは済ませておきたかった。
     それを伝えると、俺がやるから良い。と静かに言われ、あっという間に鍾離の洞天へと連れて行かれた。
     座っているだけで良いと言われ、髪の毛や身体の至る所までを丸洗いにされ、髪を梳かされたり香膏をつけられたり、数日で治るような小さな傷にも傷薬を塗られ、また望舒旅館へと戻ってきた。
     次は飯だと、杏仁豆腐を始め、魈にも食べられそうなものを鍾離は注文し、すぐにテーブルには食べきれない程の料理が並んだ。ここまで何の口を挟むこともできず、むしろ鍾離が何も言わず不機嫌にすら見えていたので、されるがままであった。
    「鍾離様、さすがに量が多いと思うのですが……」
    「すまない。俺も食べるから、お前は食べれる分だけ食べれば良い」
    「はい……」
     食事よりもむしろ眠りたい方が勝っていたが、折角鍾離が注文してくれたので食べない訳にはいかない。鍾離はいつもは世間話の一つでもするのに、今日は黙って料理を食べていた。
    「鍾離様、な、何か我に不手際がありましたか……」
    「何もない。よくやっている。今日はお前を労いにきたのだが、説明するのを忘れていた。すまない」
     鍾離は端的に話をしていたが、顔に笑みがない。何かやはり機嫌を損ねることをしていたのだろう。それに思い当たる節が全くわからないが、海灯祭で鍾離を避けていたことが、やはり気に食わなかったのかもしれない。
    「腹は膨れたか?」
    「えっ、は、はい」
    「では次は休息だ。お前の部屋へ行くぞ」
     有無を言わさぬ圧力をもって、鍾離は魈の部屋へと歩いていく。ここは他の凡人の目もあるので、部屋で叱責されるのかもしれないと思った。
    「寝ているところを邪魔して悪かった。気にせず横になってくれ」
     ところが鍾離は、寝台の傍らに置いてある椅子にどっかりと腰掛け、さぁ眠れとばかりに腕を組んで魈を見ている。
    「し、鍾離様は、我が眠るまでそこにいらっしゃるのですか……?」
    「何か問題があるか?」
    「いえ……その、些か眠り辛くは……あるのですが」
     今は凡人として過ごされているとは言え、岩王帝君の前でさぁ寝ろと言われて、呑気に眠る夜叉はいない。
    「添い寝が必要ということか? なるほど、その方が回復が早いのは確かだ」
    「そ、そういう意味では……わわっ」
     鍾離はすっと立ち上がり、魈を抱えて敷布へ共にあがった。わざわざ魈を寝転がらせて、布団を掛けてくれる。その横に鍾離も布団へ入ってきてぎょっとしてしまう。
    「鍾離様、そ、その狭くはないでしょうか。お休みになられるのであれば、我は床で寝ます故……」
    「お前を休ませたくてここへ来ているのにお前が床で寝てどうする」
    「も、申し訳ありません。しかし……」
    「狭さを気にするのであればくっつけば良い」
    「む、むりです!」
     ぐっと引き寄せられ、鍾離の顔が近づく。途端に心臓の音がうるさく体温が上昇するのを感じ、思わず叫んでしまった。
    「そうか。無理か」
     鍾離はすんなり納得したらしく、敷布の端に寄って目を瞑ってしまった。ここから出ていく気はないようだ。
    「やっとお前を労うことができる。やっとお前を見てやれる。案外俺はお前に何もしてやれないのだと痛感してしまった」
    「そのようなことは……ないです」
     鍾離に貰った薬で何度助けられただろう。鍾離が璃月にいるというだけで、どれだけの力になっているか、鍾離は知らないのだ。
    「お前に触れて、お前が無事なことを確かめたかったんだ。いつも苦労を掛けている。よく休め」
    「……鍾離様……お心遣い、感謝します……」
     胸が痛い。鍾離にあと一歩近づきたい。そっと額を鍾離の肩に寄せて目を閉じる。温かい、鍾離の体温を感じて息を吐く。
     髪を撫でられる。ボサボサだった髪は、引っかかることなく鍾離の指をするりと通り抜けていく。気持ちが良くて、自然に意識が途切れていく。
     そして話は冒頭へ戻る。妖魔が現れないことをいいことに、鍾離が休息も責務のうちだと言い出して、次の日の朝日を迎えても、まだ敷布から出られずにいる。
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