二人の時間プラント、地球間で勃発した戦争は二年一ヶ月の長期に渡り双方、多大なる犠牲を持って漸く締結。ユニウス条約締結の合意を見届け、これを以てアークエンジェル・クサナギ・エターナルの三隻同盟も同時に役目を終える事となった。
エターナルはそのまま宇宙に留まり、アークエンジェルとクサナギはオーブに降りる事が決定。二隻は艦に受けたダメージを修理し大気圏に突入できる準備が整い次第、オーブに向かう事となった。
「キサカさん、クサナギの方の修理状況はどうですか?」
「こちらはまだ数日かかりそうだ。AAは?」
「こちらもです。艦に相当ダメージを負いましたので・・・」
ブリッジで映し出されている画面の先に座るのは、クサナギの指揮を執るレドニル・キサカ。落ち着いたら印象で、オーブの獅子ウズミ・ナラ・アスハからも厚い信頼を受けておりマリューにとっても心強い味方だ。
「艦がこのような状態だ、今は焦ったところで仕様がない。準備が整えば忙しくなるだろうからラミアス艦長、それまでは休まれるといい。・・・まだ先は長い」
「そうですわね」
キサカに諭されマリューは肩を竦める。キサカの言葉にピリピリと張っていた気持ちはポンポンと背中を叩かれ解かれたように感じ、マリューは思わず泣き出しそうになった。いつも背中を叩いてくれたムウを思い浮かべて、そして今はもう居ない現実に。
◇
「キラ!」
「カガリ?」
少し遅い昼食を食べに食堂へ来ていたキラの元に、カガリがふわりとやってきた。
つい先日、本人たちも知らなかった生き別れのきょうだいの存在。双子の片割れ。今までの自分の世界が天地がひっくり返るような事実を目の前にした二人だったが、だからと言って何か関係が変わる事も、特にギクシャクする事もなく穏やかな関係を築いていた。
「アスランを見かけなかったか?」
「アスラン?ううん、部屋には居なかった?」
「さっき行ってみたけど居なかった。ったく、あいつどこ行ったんだよ」
そう言って腰に手を当て嘆息するカガリにキラは柔らかな笑みを向ける。
「アークエンジェルから出てはないと思うよ。どうかしたの?」
「えと、話したい事があって・・・急ぎって訳じゃないんだけど」
少し歯切れの悪いカガリに珍しいと思いつつ、キラは食事を切り上げようとした。だが慌ててカガリがそれを止めに入る。
「わかった、じゃあ僕も一緒に探すよ」
「大丈夫だ!キラはご飯食べてろ。お前、ただでさえ食が細いんだから」
もう少し探してみると告げて、ちゃんと最後まで食べるんだぞ!とキラに言い含めるように聞かせ、カガリは食堂を出た。
医務室、ブリッジ、パイロット控室、エントランス、そして最後に格納庫。宙に漂い、カガリは広い格納庫を見渡してみるが目的の姿は見当たらない。居そうな場所を手当たり次第当たってみたが、結局どこも姿は無く。
どこ行っちゃったんだよ、と独りごちていれば後ろから突然ふわりと腰を抱えられ背中から柔らかく包まれた。
びっくりして後ろを振り返れば、視界に広がる赤。そして少し見上げれば、探していた人物の顔があった。
「アスラン!」
やっと見つけたと言わんばかりに声をあげるカガリに、どうした?と問う瞳は甘く優しい。
「お前、どこに居たんだよ!探しても探してもいないし・・・」
「あぁ・・・ちょっとアークエンジェルの修理を手伝ってたんだよ。困ってるみたいだったから」
そう言ってアスランが視線を投げる先に、先ほどまで居たのであろう痕跡が残っていた。
「俺を探してたって、どうした?何かあったのか?」
優しく問いかけてくる声に、どう伝えようかカガリはたじろいだ。実を言うとただアスランと一緒に時間を共にしたかっただけで、これといった用事はないのだ。
「カガリ?」
何かを伝えようと口を開閉させては押し黙るカガリにアスランはゆっくり待つ。抱き締めて包む自分より小さな体を見守っていれば、決心したようにオレンジの瞳が見つめ返してきた。
「・・・その、艦の修理が終わったら忙しくなるだろう?だから、その・・・」
歯切れの悪い物言いに、アスランはうん。と小さく反応を返してカガリに続きを促す。焦らなくていいよ、待ってるよとそんな意味も込めて。
「それまでの間、なるべく・・・その、一緒に居たいなって思って・・・」
ポポポッの腕の中で赤くなって年相応の少女の反応を見せるカガリに、アスランは操ったい気持ちになる。こういう手の事は苦手そうな彼女が、勇気を出して伝えに来てくれた事にアスランはじんわりと心が満たされていくのを感じた。
悲しみ、怒り、憎しみ、死、──そして人の欲望。
それらが蔓延し傷付き、未だ荒むアスランの心を慰めるように染み渡っていく。
キラと死闘を交わした時、ジェネシスを止めようとした時、二度の死を覚悟したアスランにカガリは生きる事を示してくれた光だ。そしてカガリが一緒に居たいと望んでくれたようにアスランもまた、カガリと共にある事を望んでいる。
「俺もだ」
そう返せば嬉しそうに笑みを浮かべる少女にアスランは今、共に在る幸せを噛み締めるのだった。