ブルーフィーリングカット ミスタは完全にローだった。GWが終わるから。現実に引き戻される。底なしにブルーだった。今日1日、ベッドから動いていなかった。
こういうときにぼんやりしてしまうのがいちばん良くない。レポートを書いて、特に興味の無い誰かの誕生日を祝うストーリーを流し見て、知らん誰かのYouTubeのプレイリストをダラダラ垂れ流す。ア、終わった。チクショウ。
そう思った瞬間に一気に心臓が冷たくなって、反射的に奥歯を噛んで「ゥ、」と小さく唸った。そうしないと泣いてしまいそうだったから。
Tシャツの腹のあたりをギュウと掴んで、まるく小さくなる。脳が重たい。ミスタはこれもまた無意識で、いちばん上にピン留めしてあるヴォックスのLINE(高校の卒業式が終わったすぐ後に分捕った)に電話をかけた。
3コールの沈黙のあと、聞き慣れた低音が「Hi」と鼓膜を揺らした。
「……せんせい」
「久しぶりだな」
「ウン……」
「アラ、泣いてるの」
「な、いてねえわ」
「そうかい」と喉の奥で笑われるからもうダメで、ミスタはズビ、と鼻をすすってポタポタ泣いた。
ヴォックスが穏やかなトーンで「ビデオにしてもいい?」と訊くのに「ン」と頷く。
「ミスタ」
「…………」
ブルーライトカットの眼鏡をかけたヴォックスは、優しく目を細めた。ミスタは親指の付け根で鼻をグシグシ擦りながら、真っ直ぐ画面を見つめて眉毛に力を入れる。
「頑張ってるんだね」
「っ、ゔ」
「ゆっくりでいいんだよ。また遊びにおいで。話をしよう」
「ゥ、ん。っひ、あんがと」
「Good boy.」
ニコ!と笑ったヴォックスに小さく頭を下げる。通話が終了しました、という文字の下に、ポンと花丸のスタンプが表示された。ミスタはそれをスクショして、ちょっとだけ笑って洗面所に向かった。