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    ミトコンドリア

    @MtKnDlA
    捻じ曲がった性癖を供養するだけの場所です

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    『ちょっとだけ嬉しかったのは内緒』

    なんかダメな日の🦊

    Chill ア、今日、なんかだめだ。
     ミスタは起き抜けにそう悟って、持ち上げかけていた頭をまた枕に戻した。いつもの5倍は重く感じる腕をなんとか伸ばして、シーツに埋もれたスマホを探り出す。時刻はちょうど午前10時。朝というには遅くて、昼というには早い。

    「…………」

     ゆっくりと仰向けになって天井をぼんやり見上げる。中途半端に開いたカーテンから差す日の光が細く帯を敷いていた。
     全身に鉛のカタマリがぶら下がっているようだった。痛みはないが、ただただ怠い。
    半分しか開かない目をギュッと瞑って、ベッドから引き剥がすように身体を起こす。皮膚の下にあるもの全てが重たくて、それでもミスタは起きなければならなかった。今日はヴォックスと久しぶりにいっしょに出かける日だから。お互い多忙だし、次はいつ予定が合うかわからない。
     スマホが震える。場違いなRunaway Babyがミスタの脳味噌を殴った。一拍遅れて慌てて通話ボタンをスライドする。

    「…… Hi」
    『 Good morning,ミスタ。今起きたの?』
    「ウン…」

     優しいバリトンが耳から全身に広がってゆく。モルヒネみたいな声を聞きながら、ミスタは冷房で冷えたフローリングに三角に座って立てた膝の間に額を埋めた。頭が重くてどうしようもなかったのだ。

    『1時に迎えに行くよ』
    「……ぁ、ウン。ウン」
    「ミスタ」

     肺に絶え間なく水が注がれているような気分だった。ヴォックスの声もどこか朧げで遠い。鼓膜の奥でずっとザブザブいうのが聞こえていて、ア、溺れる。と思った瞬間、温かいものがミスタをすっぽり包んだ。

    「Hi,hun」
    「……ゔぉっくす、まだ、早いよ」
    「今日は、ゆっくりしたい日?」
    「………………。ン」

     ミスタを赤ん坊と同じように抱き上げて、前後にゆらゆら揺れながら薄い背中を優しく叩いてやる。ミスタは長く沈黙してから、ヴォックスのシャツを指先でクシャ、と握りしめて小さく小さく頷いた。ヴォックスはいい子。と呟いて穏やかに微笑み、踵をカツンと鳴らした。


     身体の中心が浮く感覚に細く瞼を持ち上げれば、そこはヴォックスの家だった。ミスタを抱えたままスタスタ寝室に向かい、シッカリ抱き込んで広いベッドにゴロンと横になる。ミスタはミスタが寝やすいように頭の下に敷いた腕の位置を調整しているヴォックスの肩を慌てて叩いた。

    「ヴォックス、」
    「なあに」
    「カフェ。予約してたんじゃないの」
    「先程キャンセルした」
    「いつの間に」

     本当はキャンセルの連絡はこれから入れるのだが、ヴォックスは喉の奥で低く笑って嘘を吐いた。ミスタはヴォックスのことだからそんなことくらい朝飯前かと思って…それよりもう考える気力もなくて、大人しく長い腕の中に丸まった。

    「何も気にせず、ゆっくりおやすみ。かわいい子。起きたら冷たい飲み物を作ったげる」
    「ン……」

     額にキスを落とされ、髪を梳くように撫でられて張り詰めていたミスタの意識はトロトロ沈んでいった。


     バチッ!と叩かれたように目が覚めた。視界が異様に狭くて、訳が分からなくなってひどく刺すような耳鳴りのする耳を手のひらで何度も叩く。悲しくもないのに涙がボロボロ出てきて、米神の下にあるヴォックスの腕に滑った。

    「ぁぅ、?、ハー…ッ、ウ、ぁ」

     叩くたびに頬骨が痛む。下になっている方の耳から脳味噌が溶け出していっているような感じがして、思考がバラバラになってゆく。それを止めようとして仰向けになっても、ただ無秩序に身体の内側が狂ってゆく。ブワッ!と冷や汗が噴き出た。背骨の位置もわからなくなって、瞬きの仕方も忘れてしまった。

    「、っ」

     大きな手がミスタの分厚く涙の膜が張った目を覆った。それからちょっと苦しいくらいに抱きしめられて、それだけで少しだけ元に戻ったような気がして、頭の隅でこれァ重症だな、と冷静に思った。

    「ミスタ」
    「ヴォ、くす。っ、ゔぉっくす」
    「ウン」
    「ヴォックス…」

     大きな背中に必死にしがみついて、ミスタは何度も何度も縋るように恋人の名前を呼んだ。遅い鼓動と呼吸の音が間近にする。すぐ横にある。

    「俺はここにいるよ。お前のすぐそばにいるんだよ。坊や」

     ヴォックスはミスタの耳に唇をくっつけて囁いた。
     よいしょ、とミスタを向かい合わせに抱き上げ、まるい後頭部から汗ばんだ背中にかけてを柔く摩ってやりながら、寝室の中をぐるぐる歩き回った。ぐずる子どもをあやすように、時折つむじにキスをする。
     ゆるい古い歌を口遊みつつ、そのままキッチンに行って戸棚からコップをひとつ取り出し、冷蔵庫に入れて冷やしておく。ひと月前に漬けておいた梅シロップも引っ張り出しておけば、あとはミスタが起きたときにジュースにするだけだ。
     麦焼酎で割った梅酒をチミチミ舐めながら、リビングで日本のアニメ映画をダラダラ流し見る。不意にヴォックスの膝の上に収まっていたミスタがモゾモゾと動いた。

    「……はよ」
    「おはよう、sweet.調子は?」
    「……………」
    「ミスタ?」
    「予定、つぶして、ごめん」

     寝起きの掠れた声でヴォックスの胸から顔を上げずに決まり悪そうにポツリと呟いた。ヴォックスは、またこの子はそんなちいちゃいことを。と思って、顎の下でズビズビ鼻を啜っているミスタの頭を両手でガシガシ掻き回した。デカい手のひらにもみくちゃにされて、ミスタはうぶ、とかあう、とか赤ちゃんみたいに呻いた。

    「ちょ、ゆらすな、はく吐く吐く」
    「ハハ、すまない」
    「ブスんなったわ…」
    「可愛いよ」

     軽口を叩くミスタの顔色が幾分マシになったのを確かめてから、もう一度グシャリと撫ぜて手を離す。が、細い指がヴォックスのガッシリした手首を弱く掴んだ。

    「アラ」
    「……ンだよ」
    「…本当に可愛いなミスタベイビーは!」
    「ウワ、あーーーッ」

     恥ずかしくなったミスタが素早くヴォックスの腕から抜けようとするも人外の腕力に勝てるわけはなく、呆気なく閉じ込められて顔中に土砂降りのキスが降ってくる。
     ソファの上でギャアギャアと暴れるふたりを、忘れ去られた梅シロップの瓶だけが見ていた。
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    ミトコンドリア

    DONE『義人はいない。ひとりもいない』

    職人の👹が✒️にハイヒールを作る話
    You are my, この頃は、男でもハイヒールを履く時代である。
     18世紀、ルイ王朝時代にハイヒールは高貴なる特権の象徴として王侯貴族に広く好まれた。舗装された路を歩き、召使いに全てを任せ安楽椅子に座る権利を誇示するために。今ではそれは、美というある種暴力的な特権を表すためのものになっている。
     ヴォックス・アクマはそのレガリアを作る職人のひとりであった。彼の作るハイヒー ルは華美と繊細を極め、履いて死ねば天国にゆけるとまで謳われる逸品。しかし彼が楽園へのチケットを渡すのは彼に気に入られた人間のみであり、それは本当に、幾万の星の中からあの日、あの時に見たひとつを探し出すよりよっぽど難しいことであった。

     いつものように空がマダラに曇った日、ヴォックスは日課の散歩に出ていた。やっぱり煙草は戸外の空気(そんなに綺麗なもんじゃないが)の中で吸った方が美味いもので。 数ヶ月の間試行錯誤している新作がどうにも物足りずにむしゃくしゃしていて、少し遠くの公園まで足を伸ばした。特にこれと言って見所は無いが、白い小径と方々に咲き乱れる野花の目に優しい場所である。
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    ミトコンドリア

    DONE『お前が隣に居る日々を』

    🦊が👹から逃げる話
    ミスタ・リアスの逃亡/帰還「エッ」

     ヴォックス・アクマは心の底から驚いて言った。昨日の夜中にたしかに腕に抱いて眠ったはずの恋人が、朝日が昇るのと同時に忽然と姿を消していたのである。 びっくりした猫ちゃんみたいな顔のまま空っぽのスペースをしばらくジッと見つめ、ノソノソベッドから降りた。脱ぎ散らかした服を適当に洗濯機に突っ込んで、早足で家中を回る。ベランダにもトイレにもミスタの姿はなく、ヴォックスは右手にティーカップを 持ってリビングのソファにドッカリ座り、なんとなくテレビを付けて、ついでに煙草にも火をつけてキャスターが滑舌良く話すのをぼうっと聞き流した。
     こういうことは前にもあった。朝起きたらミスタがいなくて、ほとんど半狂乱で探し回っていたら当の本人がビニール袋を引っ提げてケロッと帰ってきたのだ。起こすかメモくらい残せと詰め寄ったが、「疲れてると思って」「忘れてた」とかわゆく謝られたもんだから うっかり美味しい朝食を拵えてしまった。他にも小さい喧嘩をしてプチ家出を決め込んだりだとか、漫画だかゲームだかの発売日だったりだとか、マアしばしば あることだった。それでもこうして毎回律儀に驚いてしまうから、ヴォックスからすれば釈然としないこと ではあるのだが。
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