存在の証明 気づけば、男はただそこに在った。
何かを成しているわけではない。何かを思考しているわけでもない。
ただ、そこに存在しているだけだった。
意識も、自我もない。だからどうして【在る】ことが分かるのかが分からない。
だが確かに、それはそこに在った。
この世界に果てはなく、いずれはどこまでも続く闇に全てが飲み込まれるのだという漠然とした感覚がどこかに満ちていく。男が声を出すことも、指先を動かすこともない。ただ与えられたものを享受するだけだ。それはひどく無力で滑稽だ、とどこかで何かが笑う。
ここは不思議ととても居心地が良かった。このままずっとここに在り続けることができたらお前は何も感じることはなく、ただ幸福に満ち溢れるのだ。そう何かがどこかで囁くが、世界は変わらず静寂に支配されていた。
16558