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    wa_rere

    文字ばかり。
    ワートリ(生駒隊/いこおき)、雑食なので他も書くかもです。


    短いお話とか書きかけとか下書きとか。

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    wa_rere

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    隠岐くんお誕生日おめでとうございます!!

    イコさん←隠岐くんないこおき。
    (いこおきですが、イコさんが他の人に好意を持っている描写が含まれています。)

    #いこおき
    remainingARecluse
    ##いこおき

    黒と白「おつかれー。あれ、隠岐だけなん?」
     作戦室の扉が開くと同時に声が届き、おれはスマホから顔を上げた。
     大学から直行したらしいイコさんは、鞄を定位置に置きながら作戦室を見回している。
    「おつかれです。さっきまでマリオもおったんですけど、オペの集まりあるゆうて行きました」
    「あー、せやせや。ゆうとったなぁ。ほんで隠岐はなに観とるん?」
    「イコさんも観ます? かわええですよ」
     テーブルの向こうから椅子を引っ張ってきたイコさんにも画面が見えるように、スマホを差し出す。
     おれが観ていたのは、最近お気に入りのチャンネルの動画だった。
     投稿主さんのところで飼われている青い目の黒猫の穏やかな日常は、観ているだけで幸せな気分になる。
     しかも最近ウサギを飼い始めたとのことで、黒猫とウサギの慎重な顔合わせから始まり、毎日少しずつ仲良くなっていく様子がマメにアップされている。
     今日の更新分では、飼い主さんが見守る中、ついに寄り添って座り日向ぼっこをしていた。
    「なんかええでしょ」
    「ほんまやな。このウサギさんの可愛さヤバイな。ちっこいしふわっふわやん」
    「でしょ。黒猫さんも可愛いんですよ。毛並みつやつやで、穏やかでおりこうさんやし」
    「せやな。ほんで仲良しなんええなぁ。こんなん見とったらねむなるやん」
     そう言ったイコさんは、ふわぁ、と大きなあくびと同時に両腕を伸ばし、大きく息を吐いた。
    「イコさん、なんかお疲れですか」
    「せやねん。寝不足やねん」
     普段、あまりそんなことを口にしないイコさんにしては珍しい。
    「レポートとかやってはったんですか?」
    「ちゃうねん、寝付かれへんかってん。途中で寝るん諦めて、それこそ起きてレポートやったろか思うたくらいやわ」
    「夜にコーヒーでも飲まはったんです?」
    「や、ちゃうねん。あー。いやあかんわ。ちょお隠岐聞いて。ほんでアドバイスして」
     腕を組んで項垂れたイコさんの背中が、これまた珍しくちょっと丸まっている。
    「え、なんです? 聞かせてもらいますけどアドバイスて」
    「頼むわ隠岐センセイ」
    「いやいや先生? 先生て」
    「イケメンのセンセイやん。なぁセンセイ、どないしたらモテるんやろか」
     腕を組んだままちょっと座り直し、顔を上げたイコさんがおれをじっと見つめてきた。
    「わー。予想通りの質問おおきにやわー。ちゅーかイコさんいっつもそんなん言わはるけど、おれイケメンちゃいますし」
    「いや、今そんなんええて」
    「いやほんまに。それに、イコさんかてカッコええですよ」
    「そらありがとな」
    (ほんまやねんけどなー……)
     嘘だとは思っていないだろうけど、気ぃつこてもろとる、くらいに捉えられている気がする。
     誰にも言っていないし、この先も言うつもりはないけれど、おれはイコさんがずっと好きだった。
     はじめは、見た目いかついけどよぉ喋るしええ先輩やなぁ、くらいの好意だったのが、一緒の隊にいて長い時間を過ごすうち、いつの間にか特別に好きになってしまっていた。
     バレないように気を付けているつもりだし、イコさんは女の子が好きなことを知っているので望みはないと思っているけれど、今日みたいにイコさんとふたりで作戦室で話せるチャンスが訪れると、無条件に嬉しくてふわふわしてしまうのは許してほしい。
    「あんな。モテたいっちゅーか、好かれるんってどないしたらええかな?」
    (え)
     女の子にモテたい、じゃなくて、好かれたい?
     いつもイコさんが言っている『モテたい』は、女の子全般をふわっと対象にしていると思っている。
     でも『好かれたい』っていうのは。
     自分に好意を持ってほしいと思う誰かがいる、ということだろうか。
     イコさんの言葉を耳にした一瞬、周りの音が消え、すっと身体が冷えた気がした。
    「それは、ええと、特定の人ってことです……?」
    「せやねん。こないだプレゼミん時にな、ああ、プレゼミって4回生で所属するゼミ決める前に見学がてらお試し参加出来るやつやねんけど」
     プレゼミ? という疑問が顔に出たのか、ちゃんと説明してくれた。
    「へー。仮入部みたいなもんです?」
    「そうそう。そこで仲良うなった子らと昼飯行ったんやけど、そん中でええなぁ、て思う子がおって」
    「そうなんや」
     不自然じゃないように気を付けながら、笑顔を浮かべて相槌を打つ。
     この先を聞きたくない気もするけれど、話を遮る口実もない。
     何を聞いたとしても顔に出ませんように、と願いながら、念のためサンバイザーのつばを僅かに下げた。
    「かわいいし気ぃ利くしよぉ笑うし、ええ子やねん」
    「なるほど。ほんなら、その子に好かれたいんですね」
     早寝早起きのイコさんが夜遅くまで寝付けなくなるくらい、好きになった子、か。
    (ええなぁ……)
     心の奥底で、羨ましさがぐるぐると渦巻く。
    「……や、ちゃうねん」
    「? ちゃうんですか?」
    「その子な、彼氏おるって聞いてん」
    「えっ」
    「ちゅーか俺、彼氏のほう先に知り合いやってん。ザキのダチでめっちゃええ奴。ふたりがつきおうとるん知らんかっただけ」
     淡々とそう言った後、イコさんはひとつ大きく息を吐いて続けた。
    「せやから、俺がその子に好かれへんでもええねん。ふたりの間に割り込みたい訳やないし」
    「イコさんは、それでええんですか?」
    「ん。ええ子とええ奴が好き合うて一緒におるのに、横槍入れる必要もないやろ」
     そんな理由で、気持ちも伝えずに身を引こうと思えるものなのだろうか。
     無理やり自分を納得させて、疼く傷に見ないふりをしていないだろうか。
     イコさんの本心が知りたくて思わずじっと見つめてしまうが、いつも通りイコさんの目は落ち着いていた。
    (せやな。そんなとこで嘘つくひとやないもんな……)
    「その子のことはもうええねん。俺が好かれたいんはな、次に好きやなと思った子。今すぐ忘れんのは無理やろけど、そのうちまたええ子と縁あるかもやし。
    せやから、隠岐センセイに好かれるコツとか教えてもらえたら、イコさんめっちゃ嬉しいなぁ」
    「そんなん、おれも判らへんですよ」
    (なんやもー、ほんま……そんなんおれに訊かんといて欲しいわ)
     はは、と空々しく見えないように気を配りながら笑いを挟む。
    「んなことないやろ。隠岐に気持ち寄せられて、好きにならん子とかおる?」
    「やー、ふつうにおりますて」
    (ちゅーか、今おれの目の前におるんやけど)
     思わず零しそうになった溜息を押し殺した。
    「うそやん」
    「嘘ちゃいます」
    「ほんまに?」
    「ほんまほんま。ほんまです」
    「ほんまが2回続くと嘘っぽいやん」
    「もっかいゆうたから3回やし、ほんまにほんまですよ」
    「えー。こんなイケメンで優しいて気ぃきく子やのに、信じられへんわぁ」
     有り得へんー、とイコさんは両手を頬に当てている。
     信じてもらえないことと、それが自分だなんて夢にも思っていないイコさんに悲しくなってしまう。
     そりゃあ、おれが隠しているんだから、身勝手な言い分なのは判っているんだけど。
    「もー。そこまで言わはるんやったら、ここだけの話させてもらいますわ」
    「お? なになに? 内緒話?」
    「ほんまもんの極秘情報なんで、誰にも言うたらあかんですよ」
     言うつもりはなかったけれど、この調子だと絶対に自分のことだと気付いてもらえないだろうし、もういいか。
     ちょっと自棄になったおれがイコさんに顔を寄せると、すんなりと耳を向けてくれた。
     ふわりとシャンプーか整髪料の匂い、それに混ざるイコさんの匂いが判るくらい近い。
    (……めっちゃどきどきしとんの、バレへんようにせんと)
    「内緒なんやけど。おれ、ずっと片思いしとるんです」
    「え、え なんで? なんで伝えへんの?」
     びっくりして目を見開くイコさんが俺に詰め寄る。いやあの、近い近い。
    「そら、望みがないからです」
    「何でやねん、そんなことないやろ」
    「そら、ちょっとでもいけそうな感じあったら伝えてもええかもしれへんけど、ほんまに取り付くシマもなさそうで」
    「マジで? いやいやいやそらないわ。ないない」
    「ないことないんですて。ゆうて、もうかれこれ2年近く片思いのまんまやし」
    「え、めっちゃ長いやん……。うそやん、隠岐にそんな一途に思われとってなびかん子おらんやろ」
     何故か傷ついたように眉を下げた後、イコさんは、あ、という顔になった。
    「その子にも彼氏、おるとか……?」
    「や、おらんみたいです」
     ついでに彼女もおらんってさっき再確認しました、と内心で呟く。
    「ほないけるやろ! 隠岐やで? うちのイケメンモテモテ枠の隠岐やで?」
    「いやいや、そんな枠ないんで」
    「いけるって! いけへん訳ないやん」
     納得いかないらしく、なんでやーと食い下がるイコさん。
    「やー、そこはもう好みの問題みたいで。
    たとえば、その人は白くて小さくてふわっふわのかわええウサギさんが好きなんやけど、おれは生まれつき毛ぇ短くてでっかい黒猫さんやった、くらいに好きになる対象から外れとるみたいなんです」
     さっきまで観ていた動画のウサギと猫を例に出して説明した。
     小さい白ウサギと大柄な黒猫は、どちらもとても可愛いのだけど、コメント欄では時々ウサギ派と猫派がそれぞれの可愛さを主張して揉めている。
    「努力とか見た目とか、おれがどんだけそのひとのこと好きかとか関係なく、ほんまに好みの範疇から外れとるんで、しゃーないんです」
     この身体に生まれてしまった以上、イコさんに好きになってもらえる対象ではないことは、よく判っている。
     判っているけれど、改めて口にするとやっぱり悲しくなってしまう。
    「そんなん、あの黒猫ちゃんかてカッコええしカワイイやん!」
    「いや、たとえ話なんで。あの子が可愛いんは同意ですわ」
    「それにな隠岐。もし、その子が白いウサギがめっちゃ好きやとしても、黒猫が傍におって好きやってゆうて喉鳴らして懐いてくれたら、かわええなぁでっかい黒猫もええなぁ、て思うかもしれへんやん?」
    「それって、イコさんも……?」
    (白いウサギやなくても、傍におったら、そう思ってくれる日がくるんやろうか……?)
    「ん?」
    「や、何でもないです」
    (ないない。ないわ)
     うっかり口から零れた言葉を慌てて否定する。
    「せやから、隠岐の気持ち、伝えてみたらええんちゃう……て、すまん。俺の考えを押し付けたらあかんな。隠岐かていろいろ考えとるやろうし」
    「ええですよ、気にせんといてください」
    「せやけど隠岐」
    「はい」
     真剣な顔になったイコさんの目線が、真っ直ぐに突き刺さってくる。
    「さっきの話。どんな毛色でも、いっそ猫やなくて犬や鳥やったとしても、相手のことが好きで大事にしたいとか、傍におって楽しいとか嬉しいって思えるんが大事やと思うねん。
     あと、俺は白ウサギも黒猫も、どっちもカワイイと思う。ほんまに」
     大きな手のひらで、頭をぽんぽんと撫でられた。
    「……はい。おおきにです」
     イコさんの話を聞いて元気になってもらおうと思っていたのに、逆に心配されてしまった。
     おれに対してそんな気はないって判っていても、大事にしてもらっていることは素直に嬉しい。
    「ちゅーか、今のたとえ話のせいかもしらんけど、隠岐が黒猫っぽく見えてきたわ」
    「あらら。ほな、にゃーんて言いましょか」
    「めっちゃイケメンの黒猫ちゃんやん」




    *****




    「おつかれさん。おー、今日はみんな揃うとるな」
    「お疲れさんです」
     作戦室に入ってきたイコさんは換装を解き、水上先輩の横の空席に腰掛けた。
    「イコさん、個人ランク戦行ってきはったんですか?」
    「ん。今日調子ええわー」
    「おれも後で行こうっと! その前に早く食堂行きましょー、腹減ったっす」
    「ちょお待て海、やりかけの課題終わってからや」
     ぴこっと立ち上がった海だったが、水上先輩が肩を掴んで椅子に引き戻した。
    「えー」
    「あとちょっとやろ、気張れ」
    「戻りしなに見てきたんやけど、食堂混んどったで。ちょうどええから先やってまい」
    「はーい」
     イコさんにも後押しされた海は、渋々頷いて開いたままのノートに向き直った。
    「せや、なんかコンビニで飲みもん買うたら、オマケ何個か選ばせてもらえてん。マリオちゃん、どれかあげよか」
    「わ、かわいい。もろてええの?」
     イコさんは鞄の中から取り出した小さい透明の袋を、広げた手のひらの上に広げて差し出した。
     それを覗き込み、目をきらきらさせるマリオの後ろから、おれもイコさんのお土産を眺めた。
     袋の中には、数センチくらいの動物のマスコットが入っている。
    「ええで。あ、ちょい待って。これ以外やったらどれでもええよ」
    「どれ?」
    「端っこの黒いのん」
     イコさんの指が、ひとつの袋を摘み上げる。
     それは、赤い首輪を付けていてしっぽが長い黒猫のマスコットだった。
    「黒猫ちゃん? かわいいやん」
    「せやねん、かわええやろ。なんかこの子と目ぇ合うて『イコさんにもろてほしい』って言われた気ぃしてん」
    「イコさん、隠岐みたいなことゆうてますね」
    「ほんとですねー」
     水上先輩と海が課題から顔を上げて反応する。
    (……イコさん、黒猫選びはったんや)
     つい先日交わした会話を思い出して、心臓が飛び跳ねてしまう。
    「隠岐の影響でイコさんも猫派になったん?」
    「わー、せやったら嬉しいわぁ」
    「んー……」
     何か言いかけたイコさんが、そのまま口を閉ざし、おれをじっと見つめた。
    (え)
     イコさんの強い視線に刺され、鼓動の速さが加速する。
    「そうかもしれんわ。黒猫さんかわええから、放っとけんかってん」
     ぶわ、と目元に熱が集まった。
    「あーおれ、ちょっと飲みもん買うてきます」
     くるりと踵を返し、不自然にならない程度の早足で作戦室から逃げ出した。
    (なん、え、ほんまになんやねん……)
     可愛いと黒猫を選んだのは、こないだ一緒に観た動画の影響かもしれないけれど、それだけでしかないんだろう。きっと。
     おれが勝手に意識して赤くなっているだけ。それだけだ。
     換装しておいたら良かった、と後悔しつつ、おれは廊下のひんやりとした空気で熱くなった頬を冷やした。
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