わけわけしましょ(いこおき)「なぁ水上、バス通りの東側に新しい店出来たん知っとる?」
「あー、角んとこでしょ」
「せやねん、昨日ふらっと寄ったらオープン初日でデザートのサービスしてくれはってん!」
表情があまり動かないうちの隊長は、その分声や喋り方に気持ちが乗るタイプだ。
何を食べてもウマいという人ではあるが、いつもより弾んだ声と僅かに緩んだ目元からすると、新しい店での食事やサービスがたいそうお気に召したのだろう。
「そらラッキーですね。何食べはったんです?」
「んーとな、コーンスープとコンソメ野菜スープ、肉団子ごろごろのビーフシチューとホワイトソースのオムレツ、バジリコとペペロンチーノ、サービスで出してくれはったティラミスとプリンやったかな」
「いやいや多い多い! どんだけ腹ぺこやってん!」
「ひとりで平らげたんとちゃうで。隠岐が頼んだぶんとわけわけして、ひととおり味見させてもろてん」
言われてみれば、スープにメイン、パスタ、デザートとすべて2品ずつだ。
「なるほど。それにしても全部違うメニュー頼みはったんですね」
「せやねん。別に打ち合わせたんやないねんけど、いつも隠岐とは被らへんねん。色んなメニュー食べられるしええ感じやで」
そういえば、コンビニで買い食いした時も、イコさんと隠岐は別々のものを選んでいた。
そして必ずと言っていいほど、隠岐はイコさんにシェアを持ちかけていた。アイスもジュースも唐揚げもピザまんも。
『イコさん、ひとくち味見しません?』
イコさんに笑いかけながら手元の食べ物を差し出す隠岐のその口上を、何度聞いたか判らない。
それこそ、イコさんと隠岐が付き合いはじめるずっと前から。
「……ほー。えらい長期戦やんけ。気ぃ長いこっちゃな」
「ん?」
「いえ何でもないっす。その店、今度俺らも連れてってください」
「ん、みんなで行こな。割引クーポンもろたし、スタンプカードも作ってもろてん!」
「通う気満々やん」