人魚夜更けに台風の過ぎた朝、路上に落ちているソレが生き物でないことを田中一は願った。
確かめなければならない。
ソレが人の死体なんかではないことを。
以前轢かれた猫の死体かと思ったものも、よく見れば汚れた軍手だった。
今回もきっとそういうアレだ。
そうであってくれ。
近づいてみて、ソレが思っていたよりも遥かに尋常でないことに田中は気づいた。
横たわる裸の少女。
だが彼女の下半身は魚の尻尾のようなものに覆われていた。
「……人魚?」
思わず呟き、そうとしか思えなくなった。
到底作り物とは思えない質感。
人の肌と魚の鱗の境目も自然なもののように見える。
なにより、ぐったりとはしているが、生きている。
……人魚って地上で呼吸できるんだろうか。
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