「ごっそーさん」
　そう言い終わるや否や、獠は白木のテーブルの下へ潜り込んだ。テーブルの下の隙間から手を伸ばし、獠はまだ夕飯を食べているあたしの太腿を撫で回す。
「こら」
「ボキちゃん、デザートが欲しいのぉ。とびっきりの、濃くて甘いやつ」
　獠は甘える猫のように、あたしの太腿へ頬を擦り寄せてきた。夜になって少し伸びてきた髭がチクチクして、かなりくすぐったい。あたしはお箸をテーブルへ置いて、獠の頭を押しのけた。
　ここ数日、獠は依頼を頑張ってくれた。今夜はちょっとぐらい、獠にご褒美を上げてもいいかなーなんて思ってたけど、これじゃあ雰囲気もへったくれもあったもんじゃない。
「おとなしくしてないと、オアズケよ」
「あ？　これ以上我慢できるかっての」

見逃すつもりもないけれど　カレンはクールなようで、それでいて表情がころころと変わる。怒っていたと思えば大笑いしていたり、ごきげんで歌っていたと思えば泣いていたり、瞬きをするうちに変化する。
（どの顔も、見逃すつもりもないけれど）
　そう思っていたのはもう過去の話で、気がつけば彼女は目の前から消えていた。

空に光るはすべて星　041〜050240527
悪天候はむしろ、好都合

空から何か…。水？これが雨？何か光った！かみなり？雷雨？夕立？すごいな…雨宿り？降り止む時間があらかじめ決まっていない？そうなんだ…。タオルありがと…寒いな…。なあ、そっち行っていいか？…あんた、手負いの獣みたいだな…俺、世話になってばかりだけど、せめてあんたをあたためたいんだよ

御曹司は雨を見て目を輝かせたが、夏とはいえ雷雨の中の移動は無茶だった。体温調節に難がある俺の身体はどんどん冷たくなり、安モーテルのぬるいシャワーは気休めにもならず、薄い毛布を被って蹲っていた。やめろ、近付くな。お前のぬくもりを味わったら、俺はお前を手放せなくなってしまうじゃないか


240528