Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    ねねねのね

    キメツの二次創作小説を書いてます٩( ᐛ )و

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 20

    ねねねのね

    ☆quiet follow

    堕姫ちゃんと水柱と宇髄天元とモブの絵描きの話
    書いたら続きを付け足します。

    うつし絵おいらん鬼譚ちょっとお兄ちゃん……やあだあ、鴉なんて食べないでよ……
    アァん?いいじゃねえか。証拠隠滅だよ。噛み砕いちまえば一緒だし。
    んもう、わかってないわね。畜生なんて食べる必要ないじゃない。お兄ちゃんはホラ……こっち食べてよ、柱でしょコイツ。
    アァ?いいよお前食えよ。力つくぜ?
    いやよこんなもさい男……アタシは美しい人間しか食べないの。知ってるでしょ。
    わかってねえなァァ。お前に深傷を負わせた上に俺すらも手こずらせた柱だぜ。強い人間を食うと力が増すんだ。ホラ食えって。どうせバラバラなんだ。顔なんか分かりゃしねえよ。
    うーん……じゃあ少しだけ。
    オウ、たんと食え。
    あ、そうだ。お兄ちゃん、こいつの持ち物どうする?アタシ日輪刀なんて触りたくもないんだけど。
    お前の舎弟にでも始末させろ。石にくくりつけて海に沈めりゃわかりっこねェよ。
    そうね、そうする……。さ、食べたわ。あとは全部お兄ちゃんが始末してね。
    お前なァ、そうやって俺に残飯始末させてんじゃねぇぞォ。もっと食え、ホラ……
    えー、お兄ちゃんが食べてよゥ……



    裏通りのさらに奥、この世の終わりとも思える暗がりに、その長屋は存在していた。働かない怠け者、表を堂々と歩けないヤクザ者、病気の身内を抱えて食い詰めた貧乏人、そんな人ばかりが暮らすどん詰まり。だからこそ、その来訪者はひどく悪目立ちしていた。
    なんだアイツは。
    井戸から汲んだ水が満々と入った桶を手に、吉蔵はその奇妙な来訪者を遠目から眺めていた。
    赤と柄物が背中の中心で真っ二つに分かれた奇妙な羽織、その下は官憲のような黒い袴、無造作に後ろで括られたボサボサの黒髪、トドメに肩には真っ黒な鴉が乗っている。いったいどこの傾奇者なのだ。しかし男が纏っている気配はとても道楽者のそれではなく、どちらかと言うと裏稼業の者が持つ特有の鋭さ。うかつに近寄るとバッサリと斬られそうな。
    これは関わりたくないな。
    吉蔵は素早く決断し、男がこちらに気付く前にとくるりと踵を返した。
    家まで多少遠回りになるが仕方ない。そろりと一歩を踏み出した時、ふいに背後でひくい声が響いた。
    「もし。こちらにお住まいの方か」
    ヒェッとびくつき、おそるおそる振り返ると、遠くにいたはずの派手羽織の男が、いつの間にやら背後に立っている。吉蔵は全く気配を感じなかったことに内心震え上がったが、ここでビビってしまったら負けであると即座に思い直し、なるべく平静を装って「へえ」と返事をした。
    「何か御用ですかい、ダンナ」
    「人を探している」
    男は一見すると涼しげな目元の優男風の美形であったが、その目に灯る光はどこまでも茫洋としていた。その凪いだ様がかえって怖い、と咄嗟に吉蔵は視線を外した。
    「人、ですかい」
    「そうだ。ここに日本画を描く男がいると聞いて来た」
    「日本画」
    男は落ち着いた声音で告げる。その人物に吉蔵には心当たりがあった。
    「どんな絵を?」
    しかしなぜこの御仁が彼に用があるのか。アイツ何かやらかしたのか、きっとそうに違いないと思いながら、とりあえず確認を取る。
    「花魁の絵だ」
    ああやはり。吉蔵は息を吐いた。
    「下衆ですな」
    「下衆?」
    「雅号でさあ、本名は俺も知らねえんだ。ほら、あの奥の家」
    指さした先には半分傾いたあばら家。この長屋の中でも格別にボロの部類に入るが、それはひとえに家の主人が頓着しないためであった。
    「だけども旦那、ヤツはもうしばらくの間帰って来てませんぜ」
    「どのくらい」
    「もうかれこれ十日は」
    「そうか」
    しかし男は吉蔵の言葉に耳を貸すこともなく、スタスタとそのボロ屋に向かって歩き出した。矢張り借金取りの類だろうか。アイツついにヤバいことになっちまったのか。家探しをして金目のものでも奪っていくつもりかもしれない。そう危惧しながらも吉蔵の中で興味がムクムクと湧き上がってきた。そういえばその家の中がどうなっているのか、吉蔵は見たことがなかったのだった。ほとんど興味本位で、吉蔵は慌てて男の後を追った。
    男は普通に歩いているようにみえて、おそろしく早足だった。しかも殆ど音がしない。吉蔵が駆け足で追いつくとすでにあばら家の入り口の戸の前に到着していた。そして男は「御免」とひとこと低い声で呟き、立て付けの悪い引き戸を一気に引き開けた。
    「おっ、こりゃあ……」
    あばら家なのは外見だけではなかった。中は他の長屋と同様、土間の奥に三畳ほどの板間があるだけの簡素な作りだったが、そこはひどく散らかり回していた。いつから掃除をしていないのか、梁には蜘蛛の巣が無数に張り巡らされ、その下の板間の上に散らばるのは無数の紙。床板が見えないほどにバラバラと散らばったそれらの紙には皆、同じ女の姿が描かれていた。
    男は黙って土間を横切り(その間にも土間にも広がった紙を踏んでしまっていたが)、そのうちの一枚を手に取った。
    下書きと思しき炭一色で描かれた美女。その姿を睨め付ける。
    「これが誰なのか、ご存知か?」
    同じように覗き込んでいた吉蔵は、それが自分に対して発せられた問いだと気づいてヒッと姿勢をただした。
    「さあ。絵のことはとんと分かりませんで」
    「太夫だな……しかしよく見る地獄太夫の絵とは異なる」
    思案するように男はその紙をゆっくりと眺め、そしてガサゴソと板間を探って別の絵を引っ張り出した。
    「これは……」
    なんだろうかと後ろから覗き込み、吉蔵は思わず息を飲み込んだ。その絵は他と違い、日本画として綺麗に彩色されていた。しかし、下書きとは明らかに違うところがあった。
    下書きと同じ美女を描いたと思しき絵ではあるのだが、決定的に違う所。
    女は口をクワッと開いていた。そこには鋭い牙が覗いている。その細腕に抱えているのは血まみれの遊女の屍体。
    その不気味さに、思わず吉蔵は目を見開いた。そしてその横で、男が静かな声で

    「鬼……」

    と、つぶやくのを
    確かに聞いた。



    やれたいそう高尚な日本画だとも言っても、売れなければどうしようもない。日がな絵筆を取ってはいるものの世間様に認められることは無く、食べ物を惜しんで高価な絵の具を買おうにも、数も色も足りはしない。これでは思うほどの絵は描けまいよなと、ため息ひとつ。目を瞑ると幼少のみぎりに一度だけ見た、あの美しい花魁の掛軸が目に浮かぶ。画鬼と名高き河鍋暁斎の『地獄太夫』。あの絵に憧れて俺は絵筆を手に取ったようなもの。あのように美しい太夫を、いつか俺も。そう思いながらひたすらに描き続けてきた。
    しかし想像の中の太夫を描き続けたところで、もうすでにある大作に敵いやしない。俺はいつの頃からか、猛烈に本物の花魁を見たいと思い始めていた。きっと本物を見れば、その姿を映し取ることができたなら、俺は最高の太夫を描くことができるだろう。それは半ば強迫的に俺の頭の中を支配した。来る日も来る日も寝食を忘れ女ばかり描き続ける俺に、向こう隣の吉蔵という男が心配して声をかけてくれた。
    いわく、吉原に行って本物の花魁を見てくればどうか?今晩花魁道中があるはずだ。見るだけならタダなのだから、と。
    タダとは言え俺の身なりでは大門を潜ることなんかできやしねえぜと断ると、俺が持っている一等上等な着物を貸してやると言う。そんな親切を受ける言われもねえ、何か企んでいるに違いなかったが、俺はあえてその言葉に飛びついた。何はともあれ、花魁をこの目で拝むことができる貴重な機会だ。
    樟脳臭い吉蔵の着物はなぜか寸法が俺にぴったりで、見てくれだけはまあまあ金を持っているお大尽のように見えた。しかし実際は素寒貧なので、これは単に大門で門番に摘み出されないようにするだけの仕掛けでしかない。だが俺にはそれで充分だった。
    大きな満月が街の端っこから顔を出す宵の口、俺は吉原大門を潜った。金持ちに見えるよう、背筋をしゃんと伸ばして出来るだけ堂々と歩く。たったそれだけで特に見咎められることもなく俺は吉原に足を踏み入れることができた。マアそれはそうだろう。俺は男だから身なりさえ整えておけば入るのも出るのも自由だ。ここに棲まう苦界に身を沈めた女たちとは違う。金さえあれば遊ぶこともできようが、それでは目的を違えてしまう。そんなことをつらつら考えながら、吉原の主筋である仲ノ町通りを少し歩いたところで、それはふいに現れた。
    シャン、シャン、と澄んだ鈴の音が響いた。と同時に、煌びやかに飾り立てた一行がゆっくりとこちらに向かって進んでくる。大きな傘を持った男、提灯を下げた男、紙で作った花を振り撒く男、赤を基調とした着物に身を包んだ禿たち。そしてその中心をしゃなりしゃなりと黒塗りの高下駄を八文字を描くように回しながら歩く、豪勢な着物をまとった女。
    その姿を一目見た瞬間に俺は息ができなくなった。通りの向こうから近づいてくる一行は、御伽噺で読んだ天人かと見紛うほどに神々しく、幻想的な光をまとっていた。
    俺は我を忘れて早足で一行に駆け寄った。
    近づくとさらに花魁の姿が鮮明になる。
    伊達兵庫に結い上げた髪に無数の鼈甲の簪を挿し、黒地の俎板帯には黄金の竜が描かれ、その上には豪勢な花車の打掛。それらは提灯の明かりに反射して光の粒をまとっているかのようにキラリキラリと輝く。
    その向こうから現れた白皙のかんばせに俺の目は釘付けになった。
    なんと、
    なんと美しい。
    伏し目がちでありつつも時折ギロリと好戦的にあたりを睨め付ける、強い色の瞳。長い睫毛が影を作り、目尻の紅を一層引き立てる。すうっと通った鼻筋、ぽってりとした蠱惑的な唇は弓状に美しい弧を描き、不敵な笑みを浮かべては妖しく光る。
    金襴緞子の衣装も、豪華な髪飾りも、何もかもが彼女を引き立てるための小道具でしかない。
    天人か、はたまた冥界に住まうという女神か。果たして、人間なのか。それすらもあやうい。

    これだ。

    俺は不意に確信した。
    見つけた。彼女が俺の地獄太夫だ。
    俺は無意識に近くにいた紳士の袖を掴み、「彼女はなんという名だ」と聞いていた。紳士は俺の剣幕に一瞬驚き、それからやけにゆっくりとした声音で教えてくれた。
    「京極屋の、蕨姫」と。



    「あいつ、また来てやがる」
    吉原遊郭の入り口である朱塗りの大門の上、高楼の屋根でしゃがみ込み頬杖をついて行きかう人間どもを観察していた音柱宇随天元は、ちいさく息を吐いた。
    今しがた大門をくぐり遊郭に足を踏み入れてきた人物。その半半で模様が異なる傾奇者の羽織にはよく見覚えがあった。
    「いったい、何の用なんだ?」
    時間帯は夕闇が迫るころ。これから遊郭が賑やかになろうかという気配が漂い始めていた。行きかう人々の隙間を縫うようにそぞろ歩く姿は、いやでも目を引いた。あれでも本人は目立たないように気を付けているのかもしれないが、俯瞰して見ることができる位置にいる天元にとって一目瞭然だった。彼は大門から真っすぐ延びる仲ノ町通りを奥に向かって進んでいたが、時折引手茶屋の引き込みに袖をつかまれては立ち止り、一言二言、おそらく断りを入れているのだろうが、歴戦の引き込みがそれでおとなしく引き下がるはずもなく、見るからに苦戦をしていた。
    「あーあ、なにやってんだか」
    加勢に行くか、一瞬躊躇する。それからすぐに、あれでも柱なのだからなんとかするだろう、その方が面白いし、と思い直した。
    なんせ俺は任務中だからなあ、とひとりごちる。遊女に入れ上げて任務の隙間にわざわざ吉原に遊びにきたのであろうと思われる水柱とは、大いに事情が異なるのである。

    吉原遊郭の調査は、冨岡の前の水柱から引き継いだ業務だった。かの水柱自身も、先代の水柱から引き継いでいたそうだ。それが冨岡にそのまま引き継がれなかったのは、単純に適性というやつだろうか、と天元は思う。吉原が警備範囲として割当てられる前は、山際の田舎、それも広大な地域が音柱の受け持ちであった。移動が速いから、とかそのような単純な理由であったと思う。しかしいっかな忍者とはいえ、巡回するだけでも一苦労。毎日あてもなく鬼を探す日々が地味すぎて心底嫌になり、何度お館様に引退しますと口走りそうになったことか。
    それが、冨岡の前の水柱が吉原で失踪したことで事態が変わった。先代の急逝により水柱を継いでからわずか半年後の出来事だった。次代水柱にと冨岡が推されるもヤツは何度も固辞をし、一時期水柱が不在となる有様。しかしそうは言っても水柱が吉原で消えたのは事実で、彼の鎹鴉すら戻ってこないことから鬼の仕業であることは確実だった。しかも何も痕跡を残さないそのやり方は上弦の鬼である可能性がきわめて濃厚で、その時点で吉原の調査は鬼殺隊にとって最優先案件となったのだ。
    そこで天元は自らお館様に立候補をした。柱さえも太刀打ちできない鬼がいる可能性が高い吉原の調査は一般隊士の手に余る。元忍者であるわれらが適任です、と。
    その結果、音柱とその嫁たちは吉原を含む付近の花街一帯の担当となり、それまで天元が受け持っていた地域はそのままそっくり渋々水柱になることを了承した冨岡の受け持ちになった。
    天元はさっそく不審な失踪が続く茶屋を絞り込み、遊郭であることを生かして嫁三人を茶屋に送り込んだ。いろいろと裏から手をまわし、あっという間に三人は番付に載るほどの人気の女郎となった。ここまでに二年とちょい。花街は派手で気性に合うし、その周辺で起きる鬼案件も忍者らしく秘密裏に着々とこなしている。広大な警備範囲は地味な冨岡に押し付けることに成功したし、吉原で器量よしの女郎の不審な足抜けが頻発していることも突き止めた。首尾は上々と言えた。

    しかしその一方で、天元はこのごろ吉原で何度も冨岡の姿を見かけるようになった。あの派手な羽織を着て、堂々と大門をくぐってくるのだから、目立って仕方がない。あいつも男だから、と最初は目こぼしをしていたのだが、月に一度は必ず見かける片身代わりの羽織に、いったい何をやっているのだ、女郎にうつつを抜かさずにテメエは田舎を走り回っていやがれよ、という気持ちになってきた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❣❣👍👍⤴⤴💖💖💖💖💖👍👍👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works