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    やさか

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    POIPOI 57

    やさか

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    フェルジタの現パロオフィスラブ風味なオメガバースパロです。

    ①からどうぞ。①に注意書きもあります。
    https://poipiku.com/2083344/6074262.html

    だいぶ不穏です。

    運命③ ルシフェルが嘘をついていた理由はわからなかった。お兄さんの言葉の意味もわからなかった。けれども、ルシフェルは特に変わった様子はなかった。相変わらず仲もよい方だと思っている。一緒にご飯に行っては他愛のない話で盛り上がる。変わらない関係だ。
     それは、特に何もない、ある日の午後だった。
    「ジータ」
     PCに向かっていると、先輩に声をかけられる。
    「よかったらこれ、新薬開発研究室に持って行ってくれる? 問い合わせたら早く持ってきてって言われたんだけれど、私これからミーティングで」
     ある書類を渡される。
    「精算書なんだけれど、他の部署と合同で注文したものなんだ。普段は研究室付きの総務が処理するんだけれど、他の部署と合同のものだから今回はうちで処理したんだよ」
    「はい、わかりました」
    「研究室付きの総務の子に渡してくれれば、わかると思う」
     そして、ジータはその書類を持って研究室へと赴く。
     入室し何となくルシフェルの席を見るが、彼は不在のようだった。もしいれば、一言声をかけて行こうと思ったが仕方がない。
    「あの、すみません」
     だから、研究室付きの総務の人、見ると女性が三名ほどいた、そのうちのだれでもいいと思い、誰ということなく声をかけた。
    「……」
     すみません、とはっきりと声をかけたつもりだった。しかし、誰も下を向いて作業したまま、顔を上げてくれない。
    (作業に夢中なのかな……)
     しかし、書類を渡さなければ、帰ることはできない。一番手前に居た人の近くに寄り、「あの」と大きな声を出す。大きな声を出したため、その女性以外の近くにいた研究者もちらりとジータを見た。そのため、顔を上げてはもらえたが、何となく迷惑そうな顔をしている気がした。しかし、ジータも仕事なのだ。
    「これ、預かってきました。総務で処理した精算書だそうです」
     そして、ジータはその書類を確かに手渡し、研究室を後にした。
     
     その翌日のことだ。
    「ジータ!!」
     先輩が慌てたように声をかけてきた。
    「はい」
    「昨日頼んだ書類、渡してくれた?」
    「はい、あの後すぐに渡しに行きましたよ」
    「届いてない、って、クレーム入ってるんだけれど、何か思い当たることない?」
    「私、絶対に渡しました」
     渡した。確かにジータは渡したはずだ。
     しかし、ふと。迷惑そうな顔をされたことを思い出す。
    (まさか……)
     いや、まさか。仕事の邪魔をしてしまった意識はある。しかし、まさか、それだけで受け取らなかったと言うはずはないだろう。
    「何かあったの……?」
    「その……真剣に仕事されていて、そこに声をかけてしまったので、不愉快な思いをさせたような気は……でも、それだけです」
    「ちょっと、行ってこよう」
     先輩に連れられて、研究室に行く。
    「あの、この子は渡したって言ってるんですけれど、何か心当たりないですか?」
     とりあえず、先輩に任せてジータは先輩の後ろに立っていたのだが。
    「本当なんですか、それ? 誰も受け取ったところ見てないんですよ? その子が途中で無くしたんじゃないですか?」
    「なっ……!?」
     ジータは思わず口を挟みそうになるが、それを先輩が抑える。
    「渡した、って言ってるのその子だけですよね?」
    「それは、そうだけれど……」
     複数人証人がいると言われ、先輩もつい口ごもる。先輩はきっとジータを信じてくれている。彼女らの嘘に気が付いてはいるが、こちらは証拠もなく、言い返すことができないのだろうとジータは察している。
    (……悔しいけれど、これ以上何しても無駄だよね)
     どうして、こんなにも責められているのかわからない。しかし、これ以上続けても渡した渡されていないの水掛け論だ。時間も無駄だ。受け取っているはずだが、どうせ出してこないだろう。もしかしたら、なくしてしまったのかもしれない。
    「わかりました。作り直しますね。今日中に作業します。今度はなくさないでくださいね」
     プライドがあり、謝罪の言葉だけは口にしなかった。そのまま、研究室を後にする。
    「腹立つ……! 何あれ!?」
     研究室を出ると、先輩は研究室の方を見てそう悪態をつく。
    「もう、時間の無駄ですよ。これから、問い合わせて作り直します」
    「手伝うから、さっさとやっちゃおう」
    「先輩を巻き込んでしまって、ごめんなさい……」
    「いいのいいの。ジータが書類を無くして隠すような子じゃないことは私がよく知ってる。きっとあの中の誰かが無くして、ジータに罪をなすりつけようとしてるんだよ。あー、それにしても腹立つ。近いうちに飲みに行こう、ね?」
     そしてニコリと笑ってくれた。その先輩の明るさに救われる気がした。
     
     それから、必要な情報を集め直し、書類を作り直す。なかなか注文した数が多かったらしく、情報を集めるだけで時間がかかっていた。気が付くともう辺りは真っ暗だ。部署で残業しているのもジータと先輩の二人だけだ。
    「先輩、ごめんなさい……」
    「気にしない気にしない」
     こんな時間まで先輩を付き合わせてしまっている。嫌な顔一つせずに付き合ってくれる先輩を思うと心が痛んだ。
     そのとき。総務のドアをコンコンと誰かがノックした。そのままドアが開いた。
    「お疲れ様」
     軽くそう告げ、入ってきたのはルシフェルだ。
    「あれ、ルシフェルさん、お疲れ様です。ここに来るなんて珍しいですね。珍しいというか、初めて?」
    「あぁ、用事があって。聞いたよ、書類の件」
     どうやら、ルシフェルの耳に入ってしまったらしい。
    「……」
     ジータは内心、自分は絶対に悪くないとは思っているが、そう言ってしまえばルシフェルの部署の人が悪いことになってしまう。だから、敢えて沈黙を貫いた。
    「副研究室長、違うんです、その……」
     先輩がジータの名誉のために、割って事情を説明しようとしてくれた。しかし。
    「あぁ、分かっている。君は何も悪くない。彼女らの落ち度だ。書類もここに。確かに受け取っていた」
     ルシフェルは、見覚えのある書類を手にしていた。
    「あ、それです!!」
    「私の部署の者が、君に悪いことをした。代わりに謝ろう」
    「い、いいえ、あったのならそれでいいです。ね、先輩?」
    「う、うん……」
     先輩は彼女らの態度を思い出し腑に落ちないのか、曖昧に返事する。
    「あぁ、君らへの態度も悪かったらしいな。本当に申し訳が無い、頭を下げることしかできないことが心苦しい」
     ルシフェルがひどく苦しそうな顔をした。
    「……まぁ、あったのでいいですけれど」
     関係ないルシフェルに言うのも悪いと思ったのか、先輩も少し態度を柔らかくした。
    「許してもらえて助かった。ありがとう」
    「こちらこそ、調べてくださってありがとうございます」
    「いいんだ。何事にも誠実な君が、こんなことするわけがないと信じていたから」
     ルシフェルはふわりと微笑んだ。
     
     それから数日後。先輩と飲みに行ったときのことだ。
     例の事件の腹いせに、いっぱい美味しいものを食べていっぱい飲もうという名目だった。そのため、自然とその話題になる。
    「今考えると書類渡したときも感じ悪かったです。露骨に受け取りたくない雰囲気だったというか……」
    「社会人として恥ずかしいよね。……でさ、ちょっと聞いた話なんだけれど。あの中に副研究室長に本気で惚れてる子がいたらしいよ。結構露骨にアピールしていたらしくて、結構有名みたい」
     先輩が声を潜めて教えてくれた。
    「だからさ、ジータのこと目の敵にしてたみたいだよ。副研究室長と仲がいいジータの存在が面白くなかったみたい。まぁ、副研究室長、人目に付きやすいのもあって、そういう噂って流れやすいし。研究室にも何回か行ったことあるんでしょ?」
    「ほんの数回ですけれど……」
     まさか、そんなことで恨まれて仕事に支障が出るなんて思ってもいなかった。ジータはなんとなく複雑な気分になる。
    「それに、副研究室長って普段あんな感じじゃないらしいよ」
    「え?」
    「普段って、合理的で冷静で淡々として、感情もあまり出さないらしいよ」
     意外だった。ジータの知るルシフェルは、ニコニコと微笑んで楽しそうにしていることが多い。ジータ程ではないが、喜怒哀楽もわかる。
    「だから、ジータと楽しそうにしている副研究室長を見て、ちょっと痛い目見せてやろうって感じだったんじゃないかな」
     なるほど、それならば、最初に声をかけたときから面白くなかったのだろう。最初は無視してやるつもりが、少し強引に書類を置いて行ったから紛失したことにしようとしたのか。
    「うーん、そうなんですね……。そんなに好きなら、相手にもっと好かれる努力するのがいいと思うんですけれど。とりあえず、ルシフェルさんは真面目だから、そういうことする人を嫌がりそうな気がしますけれどね」
    「そうだよねぇ、真面目な人だったら嫌がられそうだよね。ばれるわけないと思っていたのかもしれないけれど、ばれたら終わりだよね。そのあたり、どうしたら好きになってもらえるのか、相手の好きなことが何なのか知ろうとすればわかると思うけれど。まぁ、ジータは副研究室長のこと、良く知ってそうだけれどね」
    「知っているというより、たまたま、好みが同じことが多……」
     そこでふと口を止めてしまった。
    (好みが同じことが多いんだけれど……)
     確かに好みが同じことが多い。気が合う。敢えて知ろうとしなくても、自分の好きなことは、ルシフェルもほとんど好きだ。そしてルシフェルの好きなことは、ジータもほとんど好きだ。だから、あまり気にしたことがなかった。
     しかし、それはどれほどの確率なのだろうかと何故かふと思ってしまった。多くの人間がいるから、好みが一致している人間と出会うことだってゼロではないだろう。しかし、偶然の域を超えてはいないだろうか。
     ジータはルシフェルの好みに合わせているつもりはない。ルシフェルはジータに好意を抱いている可能性が高い。それならば、ルシフェルがジータに好みを合わせているということなのか……?
    「ジータ?」
     先輩の声で我に返る。
    「あ、いえ」
     考えすぎだとは思った。しかし、ルシフェルに関して不安に思ったことが多かったからか、そんなことを思ってしまった。
    (偶然に決まってるよね。だって、初めて会ったの、たった数か月前だもん)
     数ヶ月でジータの好みを熟知できるわけがない。どう考えても不可能だ。ゼロに近い偶然が起こってしまったのだろうと思うことにした。
     
     それから数日後。ルシフェルから連絡が来た。
    (よければ今晩、一緒に食事をどうだろうか……か)
     何か話したいことがあるらしく、食事に誘われた。特に今晩は用事もなかった。帰って適当なご飯を食べるつもりだったため、OKと返事をする。ルシフェルは行きつけの飲食店を予約してくれて、そこで食事をすることになった。
    「ジータは、ここのピザが好きだったな。これも注文しようか」
    「あ、はい」
     この前のことを思ってしまったからか。少しだけ自分の好みに詳しいルシフェルに複雑な思いを抱いてしまう。
    「あの、たまにはルシフェルさんの好きなものを……」
    「私も好きなものを選んでいるよ。気にしないで欲しい」
     ニコリと微笑まれ、それ以上は何も言わせてもらえなかった。
     
    「そういえば、話ってなんですか?」
     食事も大分運ばれ、それなりに食べ進めた頃、気になっていたことを聞いてみた。
    「あぁ、君はうちの総務に興味はないか?」
    「え?」
    「実は、新しい人を探しているんだ。君の人柄は良く知っている。君のような人が来てくれると嬉しいと思ったんだ」
     どうやら、研究室付きの総務の勧誘らしい。部署や仕事自体には悪い印象はないが、一緒に働くことになるだろう彼女たちの印象は良くない。彼女たちの顔を思い出し、複雑な気持ちになる。はっきり言うと、あまり関わりたくないのが本音だ。
    「今の部署が好きですし、あまり興味も……」
    「どこに興味が持てない?」
     興味がないと言ったら終わってくれると思ったが、珍しく食いついてきた。
    「その……この前書類の件があったじゃないですか。あまり良い印象抱かれていないと思うんですよね、だからあまり」
     上手くやっていける気が全くしない。ルシフェルもここまで言えば、事件のことはわかっているから引き下がってくれると思ったのだが。
    「あぁ、彼女たちのことか。それは問題ない」
     さらっとそう言われた。どうして問題ないと言えるのか。ルシフェルだって状況を知っているはずだ。もしかしたら、ルシフェルは人間関係、特に女性同士の関係には、疎いのだろうか、そう思う。
    「い、いえ、そんなことないと思いますよ。少なくとも私は、一緒に働いていける自信がないですし……」
     ジータは苦笑いを浮かべながら補足する。
     すると。……ルシフェルはさらっと、信じられないことを口にした。
    「彼女らは全員やめさせたから問題ないよ」
     ルシフェルはそう言った。
     特に問題のないことのようにさらっと。聞いているジータが聞き間違いをしてしまったのかと思う程に。
    「あの、やめさせたって……聞こえたんですけれど」
    「あぁ、やめさせたよ。あの書類の一件で、私は彼女らの人間性に問題があると思い、上に提言したんだ」
     何事もないように彼は話す。本当に何事でもない些細なことだと言わんばかりに。ジータは自分の感性がおかしいのではないか、そう錯覚してしまいそうになる。
    (いや、あんなことくらいで……どうして……)
     穏やかで優しい人だと思っていた。ルシフェルであれば、再発防止を求めた厳重注意くらいにしてくれそうな気がした。
     ジータが何も言わないためか、ルシフェルは更に畳みかけるように言う
    「誠実な君を傷つけたんだ、当然だろう」
     当然という強い言葉に、眩暈を覚えた。しかも理由が、自分を傷つけたという理由だ。つまり、彼女らがやめさせられたのは、ジータのせいということだろうか。
    「傷つけた……って」
    「身に覚えのない罪を着せられて辛い思いをしただろう? あの残業だって本当はやらなくてもよい残業だったはずだ。私も君のことを思うと心が痛かった」
     確かに彼の言う通りだ。自分勝手な彼女たちによって、ジータは気分を確かに害した。しなくてもよい残業まですることになった。でも、やめさせて欲しいとまでは思えない。普通はそんなことまで望まない。いや、望んだとしても。人の人生を左右するようなことを実際にしようとすると怖気づいて結局できないだろうし、そもそも、よほどの力がなければそんなことできるはずがない。
     でも、目の前の彼は違う。躊躇なくやめさせられるだけの決断力もあるし、それだけの力もあるのだろう。
    「だから、彼女たちの代わりに、君に来て欲しいと思ったんだ。私は君と仕事ができれば嬉しい」
     そして、いつものようにニコリと笑われた。今まで感じていた漠然とした怖いという感覚が、はっきりと形になった気がした。
    (わからない、この人がわからない)
     彼がわからなくなってきた。穏やかな裏に、何を隠しているのかわからない。怖い。
    「い、今の部署が好きなので、ごめんなさい」
     いつもの笑顔を意識して言ったつもりだが、うまく笑えていたかはわからなかった。
     
     それからも、水曜日の予定はそのまま続いていたが。
    「最近、食事がいつもより少ない気がするが……」
    「少し食欲がなくて」
     違う。彼といるとどこか苦しかった。食事がなかなか喉を通らない。
     例の、何のことでもないように、彼女らをやめさせてしまった件から、怖いという明確な感情が芽生えてしまった。それに加えて。
    (残業の合間って言ってるけれど、本当は違うんでしょ……?)
     お兄さんの言うことが正しければ彼は今も嘘をついている。些細なことなのだが、その理由が全くわからず、不気味に感じ始めていた。せめて、理由がわかれば少しは気持ちが軽くなるかもしれない。でも、全くわからない。
    「顔色もよくない。残業が多くて疲れているのか?」
    「そうですね最近はいつもより少し多いですが、大丈夫ですよ」
    「無理をしていないか心配だ。君は人のために無理をしがちだから」
     彼の心配してくれている声に嘘はなさそうだ。本気でジータを心配している。それはよくわかる。でも、どこか不気味さを覚え始めている。彼の言動一つ一つが、何かあるのではないかと怖い。
     たぶん、嫌いではない。彼自身、恐らくジータに好意を抱いていて、ジータを大切にしようとしてくれる意思を感じる。やめさせた一件もそうだ。もしかしたら、これがジータではなくジータの先輩が受けた被害であれば、彼はここまで動かなかったのではないかと、少し思う。
     だから、その考え方が、行動力が恐ろしい。
    「確かに疲れてはいますね。少しお勉強、短めでもいいですか」
    「あぁ」
     彼はジータの言うことにいつも微笑んで肯定してくれる。その笑みが今はとても怖かった。
     
     その次の週も会うのが憂鬱だった。
     もう少しで定時だ。今日もカフェテリアに行かなくてはと思うと気が重い。しかし、断る理由も思いつかず、終業に向けて今行っている作業を保存していたときだ。
    「ジータ、この書類急ぎで仕上げて欲しいんだけれど、頼めないかな?」
     先輩からそう声をかけられる。
    「あの、残業、ってことですか?」
    「ごめん、埋め合わせはするから……って、今日は水曜日か。ごめん、他の子に頼むね」
     ジータが水曜日に定時退社をするようにしていることを知っている先輩は、今日が水曜日だということに気が付き断ろうとしたが。
    「あの、私やります」
    「結構時間かかりそうだけれど……」
    「大丈夫です。先輩にはお世話になっているので」
     ジータは内心ほっとしていた。頼まれたのはきっと急ぎの用事だ。これを理由にすればルシフェルに今日は会わなくても済む。彼に「急な残業が入ってしまったので今日はキャンセルさせてほしい」と連絡すると「無理しないで」と返ってきた。ジータはほっと一息つき、先輩に任された書類を完成させることにした。
     それと同時に。
    (そういえば、残業が忙しいとは先週言ったし、これを理由にすればしばらく会わなくて済むんじゃないかな)
     そんなことを少しだけ思った。
     
     早速ジータはその夜、ルシフェルに連絡をした。内容はシンプルに、水曜日にしばらく残業することになったこと、そのため水曜日の予定はしばらくキャンセルさせてほしいこと、その二点だ。それから数分後、分かったと承諾の返事がきた。そこでようやく一息ついた。
    (あとは、このままどうするかだなぁ……)
     しばらく考える時間はできそうだ。今後彼とどう付き合っていこうか、よく考えてみるのがいいかもしれない。
    (でも、ルシフェルさんに……悪いことしてる気がする)
     ルシフェルのことを考えると心が痛い。彼はきっと真剣に自分を想ってくれている。この扱いは少し彼に失礼ではないかと、そう思うのだ。
    (こんなの、なんだか逃げてるみた……)
     そこで、ふと思い出す。
    「……逃げるなら今のうちだぞ。全力で逃げればまだ間に合うかもしれん」
     そう言っていた、彼のお兄さんの言葉を。
    (もしかしてお兄さんは、ルシフェルさんの性格を知っていてそう言ってくれた……のかな?)
     何となくしっくりくる気がした。お兄さんはきっとルシフェルの性格を熟知している。それを知っていて、ジータに忠告してくれたのかもしれない。
     
     それから一週間程経った頃だ。家に帰ると、携帯がメッセージの通知を告げた。
    「……」
     見てみると、ルシフェルからだ。内容はシンプルに「しばらく会っていないから、会いたい」それだけ。シンプルすぎて意図がわからないせいもあるのか、背筋がぞくりとする。
    (どう返そう……)
     考えた末「最近疲れているのでごめんなさい」と返した。それに対しルシフェルは「わかった」と返してくれた。
     けれども翌日、同じようなメッセージが来た。「いつなら会えそう?」「少しでいいから会いたい」そんなメッセージが二通。
    (また? 昨日返したばかりなのに……)
     ジータは困惑してしまう。しかし、返さないと悪いと思い、昨日と同じような内容を返した。
     
     それから毎日、同じようなメッセージが届くようになった。
    (……)
     朝、携帯を覗くのが怖い。しかし、大事なメッセージが入っていたら困る。覗くとそこには「二一件のメッセージがあります」という通知。ゾクリとして手が震える。
     何度も、何件も送らなくても大丈夫だと言った。しかし、効果はないどころか、日を追う度に数が増えてきている。
     メッセージをブロックできたら……そう思うが、彼の性格を考えると今度はどんな行動に移るかわからず、躊躇している。
    (誰かに相談……したいな)
     先輩に相談しようか、そう考えたこともあった。先輩であれば、良いアイディアをくれるかもしれない。いや、もしかしたら間に入ってくれるかもしれない。しかし、相手が悪いと思っていた。相手は、ジータを傷つけたというだけで、やめさせるような人だ。先輩に危害が及ぶかもしれない。
    (怖い……)
     だから、一人で震えていた。
     
     一日のメッセージの件数が五〇件を超えた頃には、返信も確認もやめた。それでも、毎日何件も何件もメッセージが来ている。無視さえできればそれ以上の被害はなかった。しかしそれでも、気持ち悪いことには変わりない。今日も悩みながら残業していたときだ。
    「ジータ」
     PCに向かっていたら聞き覚えのある声で名前を呼ばれてゾクリとした。振り返りたくない思いが強く、ゆっくりと振り返る。そこにいたのは想像通りの人だ。
    「……ルシフェル、さん……?」
     ニコニコと笑いながら、ジータの後ろに立っていた。
    「最近、忙しくて会えないみたいだから来てしまった」
     先輩はルシフェルとジータの仲を知っているが、それ以外の人は知らない。社内でも有名な彼の登場に残っていた人が少しざわざわとする。
    「仕事、大変なのだろう? 少しでも元気になってもらいたくて、買ってきたんだ」
     渡されたのは、ジータが好きだと言っていた洋菓子店のフィナンシェだ。
    「わざわざすみません、ありがとうございます」
    「君が喜んでくれればそれで。それに、君に会いたかったから。会うことができて嬉しい」
     また、いつものようにニコリと笑われる。
     彼の美術品のように整った顔。彼は心の底から嬉しそうに笑っているのだが、彼の考え方や行動が怖く、その笑顔も怖く感じた。
     彼が去ると、周りからどういう関係だと質問攻めにされ、複雑な気分になった。
     
     それから、自席に来られては困るので、できるだけ返信はした。しかしなかなか会う気にはなれなかった。同じことの繰り返しだ。大量の「会いたい」というメッセージに対して「ごめんなさい」と返す日々が数週間続いていた。
     でもある日。ぱたりとメッセージが止んだ。
    (今日も……メッセージがない)
     逆に怖かった。何があったというのか。
     来なくなったこと自体も気になったが、もしかしたら、彼の身に何かあったのではないか、それが気になった。いくら苦手とはいえ、一度は仲良くなった人だ。少し心配していた。
    (でも、何かあったらすぐわかるよね……有名な人だから)
     連絡を取ってみようかとも思ったが、きっと彼の身に大きな何かがあれば、噂が耳に入りそうな気がした。だから、ジータからは連絡はしなかった。もしかしたら、冷たいジータに愛想が尽きたのかもしれない。ほんの少しだけ、そうであればいいのにな、と思った自分を嫌いになりそうだった。
     
     メッセージが止んだ理由は、数週間後に突然やってきた一通のメッセージでわかった。
    「ようやく研究が完成したんだ。君に祝って欲しい。会ってくれないか?」
     どうやら、研究が大詰めだったようだ。だから、ジータに構っている暇がなかったのだろう。
    (研究……完成したんだ)
     オメガの人間にとって、希望となるような薬だ。ジータも嬉しくないわけがない。
    (少しなら、会っても大丈夫……かな)
     いくら天才とは言え、ルシフェルも苦労の末完成させたのだろう。そう考えると、おめでとうと言いたかった。久々に「いいですよ、今週の土曜日の夜はどうですか?」とメッセージを返した。
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