純黒のテデクリスマステデも走る12月。
赤と緑、そしてイルミネーションに彩られた街にはテデイア・キャリーやラステデ・クリスマスなどの定番ソングが流れ、うきうきとした気分を盛り上げています。しかしそんな浮かれ気分とは真逆のピリピリとした空気が漂っている場所がありました。
「テデ谷さん大変です!NOCリストが奪われました!!」
霞ヶ関のテデ用庁舎の一角に響いた叫び声に、おのおの作業していたテデたちがはっと振り返ります。
「なんだとっ!?」
N(何の)O(贈り物がよいか)C(こどもたちに聞いた)リスト──ノックリストと呼ばれるそれは、ここで忙しく働いているテデたちにとって命とも言われるものなのです。
警察庁公安部、テデサンタ課。聖なる夜、プレゼントを待ち望む子供たちに迅速に確実に欲しいものを届けることを使命とする特別な課を率いるのは──そう、伝説のテデ捜査官、テデ谷零警視です。
「すぐに追え!あれが流出すると…」
「ダメですテデ谷さん、見失いましたっ…!」
何テデもの部下たちが息をきらし、がっくりと肩を落としながら報告してくるのにテデ谷くんはきゅっとくちびるを噛みました。起きてしまったことを責めるより、いかに迅速にリカバリするか。それが上に立つテデとしての責任です。テデ谷くんは今にも腕をモフッとねじり上げられるんじゃないかと、青くなりながら側に控えている風見テデに冷静な声で命じました。
「…すぐにみなテデを集めろ、NOCリストの奪還作戦を話し合う」
「は、はいっ!」
今宵は長い長い夜になりそうです。
◇
クリスマス当日の朝、人間の子どもたちの元へプレゼントを運ぶのは誰だか知っていますか?
サンタクロース?──と見せかけたパパやママ?いいえ、そのどれも違います。
それは……テデ!サンタクロース伝説は、テデの本来の姿を知られないために作られたおとぎ話、かくれみのにすぎません。
各国に秘密裏に設置されたテデサンタ機関、その日本支部がここ公安部の奥まった一角にありました。NOCリストを盗み出すという大胆で不届きなテデについて、緊急会議が開かれています。
「テデ捜査官のふりをして、警備の目をかいくぐったようです」
「黒い毛並み、額に傷…?そんなテデが黒のテデ組織にいたような気がする」
風見テデの報告にテデ谷くんは大きな青いおめめを細め、記憶をたぐりよせました。黒のテデ組織、それは世界を股にかけた悪いテデたちの集まりでしたがテデ谷くんをはじめ各国の精鋭テデ捜査官たちによって壊滅に追い込んだところです。
「組織の残党は全テデ捕まえて、テデ更生施設へ送ったはずだ。まさか脱走…?」
黒のテデ組織は鼻つまみ者、世の中からつまはじきにされたテデたちの集まりでした。幸せを破壊して回ることで喜びを得ているテデなら、NOCリストを盗むという愚行に走るのも頷けます。
「それから、あの…言いづらいのですが」
「なんだ、もったいぶるな」
眼鏡をせわしなく直す仕草に、風見テデの葛藤があらわれています。それだけでテデ谷くんは嫌な予感がしましたが、聞こえてきたのはやはり歓迎しがたい内容でした。
「NOCリスト流出の情報を聞いて、テデBIが協力を要請してきました」
バキッ、テデ谷くんが手に持っていたペンをへし折る音が会議室に響き、部下テデはヒッと背筋を正しました。
合同捜査で力を合わせて黒のテデ組織をやっつけた公安とテデBIですが、テデ谷くんにとって因縁のテデがいるのもまた、米国捜査局──テデビュロウなのです。
「はっ…すまない、冷静さをかいてしまった。できる限り犯人の情報を集めて僕に報告してくれ。もたもたしていると命取りになる、なにしろクリスマスイブはもう目前…25日の夜明けまでに日本中の子どもたちの枕元にプレゼントを配置しなければ、とんでもない悲しみがこの国を襲うことになる」
心してかかれ!とテデ谷くんが凛とした声で喝を入れると、部下テデたちも「ハイッ!」と大きな返事で応えたのでした。
◇
そうして夜も更けたイブの深夜、テデ谷くんは東都郊外の山の中にある大きなどんぐりの木の上にいました。テデ更生施設から脱走したテデがここに潜伏しているという情報を得たからです。しかし絶対に捕まえてやると正義の炎を燃やして挑んだテデ谷くんをどんぐりの木の頂上で待ち構えていたのは、意外と言おうかやはりと言おうか──あの因縁のあいテデだったのです!
「君がおさがしのテデは…こちらかな?」
ベルベットのような声がきんと冷えた空気を震わせました。月明かりに照らされてゆっくりと──ニット帽から立ち上がったぴんと立派な耳、深い赤毛、森の木々のような緑の目──それらが姿をあらわします。
「テデ井しゅういち…ッ!」
テデ谷くんはそのミルクティー色の、普段は天使のようだねと評される毛並みをぶわっと、怒りのために毛羽立たせました。何故きさまがここに、とは言えません。テデ井がここに来るだろうことをテデ谷くんはとうに推理していたからです。
不敵な笑みを浮かべるテデ井の手にはどんぐりの形をしたUSB──そう奪われたはずのNOCリスト、そして気を失っているのかぐったりした黒毛の犯人テデが引きずられています。
「犯人テデの足取りがパタッと消えたので、どこかに匿われているのかと思いましたが…まさかあなたテデ方が日本国内の捜査に介入してくるとはね」
テデ谷くんの皮肉めいた口調にも動じることなく、テデ井はフッと唇をゆるませました。
「この日本には米国テデもたくさんいる。俺たちサンタビュロウだって人ごとではないからね…」
どこまでも気に障るテデです。ライテデ、バボテデとして組織で出会った時からテデ井は喰えないテデでありライバルであり、どうしても勝てないあいテデでした。
ばちばちと火花を散らし睨み合うふたテデの緊迫した空気に、気を失っていた犯人テデもむにゃ…と目を覚ましました。
「う〜ん…俺はここで何を…ヒッ、ライテデ!それにお前は…バボテデ!?」
「ようやくお目覚めのようだな、ずっと眠っていてもいいんだぞ」
きっと犯人テデを見つけたテデ井が、得意のテデクンドーで気絶させてしょっ引いたのでしょう。いつだってこうして先回りされるのですから、気に食わないのは当たり前です。テデ谷くんは好戦的な口調でテデ井に向かいました。
「そのテデはわれわれ公安テデのものだ…身柄を返してもらおうか」
それでもテデ井はまるでおちょくるような態度を崩しません。つんとあごを上げ、まるで見くだすようにテデ谷くんを見つめ返すのです。
「いやだ、と言ったら…?」
「力ずくで、奪うまで!退け、テデ井しゅういちィ!」
テデ谷くんは溢れる激情のまま、木の枝の上をたたたっ!と駆けました。テデ井もテデクンドーの構えを取り、テデ谷くんを迎え打ちます。
「てやっ!」
ぽか、すか!どんぐりの木の頂上で殴り合いが始まりました。
「ヒ〜〜ッ」
間に挟まれた犯人テデはふたテデの剣幕に、すっかり縮こまっています。殴り合い、と表記しましたが実際はぽかぽか殴りかかるテデ谷くんをテデ井はたくみにかわし、さらに木の枝から落っこちないようにテデ谷くんを誘導しているのでした。
「いいかげんにしないか。こんなことをしている間に夜が明け、朝になっても子どもたちの元にプレゼントが届けられなかったらどうする」
あくまでも冷静なテデ井に、テデ谷くんは落ち着くどころかますます苛立ちが増してゆきます。正論だとわかっているからこそ悔しいのです。普段は完璧で冷徹なテデ谷くんはどうしても、たったひとテデの前ではわれを忘れてしまうのでした。
「はっきり言ったらどうなんだ!情報をうばわれた日本テデ警察など信用できないと…!」
「むっ…」
モフ、モフッとふたテデが木の上を転がり、くんずほぐれつの乱闘になっているのをハラハラしながら見ていた犯人テデですが、なんだか感情がめちゃくちゃになってきました。
テデ井の言う通り夜明けのタイムリミットは刻一刻と近づいているというのに、痴話喧嘩のような殴り合いは終わる気配がありません。まるで置いてきぼりのようにふたテデの世界を見せつけられているのですから。
思わず犯人テデは声を上げました。
「おれだって、おれだって一回くらい良いことをして子どもたちに感謝されたかったんだよお!」
その叫びに、テデ井とテデ谷くんはぴたりと動きを止めました。
「幹部テデに殺されるのが怖くて言いなりになってたけど、おれだって悪いことはしたくなかった…!」
犯人テデのおめめからぽろぽろと涙がこぼれるのを見れば、もう激しく非難する気にはなれませんでした。
テデは人間の子どもたちにプレゼントを贈って回りますが、では当のテデには誰がプレゼントをあげるのでしょう。それは人間たちの愛情、テデをかわいいと思う心こそがテデにとっての最高の贈り物であり、原動力となるのです。悪のテデ組織にいたテデはそんな愛情を受け取らずに生きてきた。心がすさんで突拍子もない行動に出てしまうのも無理はありません。テデ谷くんはふうと息を吐き、犯人テデに向き合いました。
「…だからといってNOCリストを盗むのはまちがっている。しかし僕もあの組織にいた身だ、自分が良いテデなのか悪いテデなのかわからなくなる気持ちは分かる。本当はお前も粗悪なはちみつや違法どんぐりを売ったりすることじゃなく、正当なプレゼントを贈ることでみなと繋がりたかったのだろう。それはテデとして正しく、尊い感情だ」
さっきまで毛並みを逆立ててテデ井に向かっていたのが嘘のように、テデ谷くんの声は優しく落ち着いていました。犯人テデもぱちぱちとまばたきをして、ブルーのおめめを見つめ返します。
「良いテデとしていちからテデ生をやり直したいのなら、僕の協力テデになるといい」
「バボテデ…いや、テデ谷警視……」
まるで聖なる夜に天使を見つけたように、犯人テデの瞳にきらきらとした光が戻ってきます。テデ谷くんが差し伸べたパンおててを握ろうと、犯人テデが伸ばした手は残念ながら「調子に乗るな」とバシッという音とともにテデ井によってはたき落とされました。
「そうと決まればこうしちゃいられない。夜明けまでに子どもたちにNOCリスト通りのプレゼントを配達せねば…手伝ってくれるな、君も…もちろんテデ井、きさまもだ」
別人のようにキリリと指示を出すテデ谷くんに、犯人テデは「ハイッ!」と、テデ井も「そう言うと思ったよ」と肩をすくめました。
それからのテデサンタたちは大忙しでした。奪還したどんぐりUSBを大急ぎでコピー、全国に散る協力テデたちに伝達、人間の公安サンタ室に依頼してプレゼントを調達。各地の支部を拠点にトナカイに乗ったテデたちが子どもたちの家に迅速かつ正確にプレゼントを配置。12月の夜明けは遅めだとはいえ、時間的にはギリギリです。ここでテデ谷くんは秘密兵器を投入することにしました。
「ユニコ、力を貸してくれ…!」
テデ谷くんが夜空にひと声かけると、しんとした星空にさあっと、七色の光がさしました。新人テデなどは初めてみる景色だったでしょう、ぽかんとおくちを開けています。夜空に現れたのは真っ白な毛並みに虹色のツノを持った──伝説の聖獣、ユニコーンだったのです!
トナカイより数倍のスピードと時を駆ける力を持ったユニコーンは、テデ谷くんだけが扱える幻の動物です。
「さあ、これで山の中や遠い島の子どもたちにもプレゼントを届けられる。みんなテデも最後まで気を抜くな!」
ひょいとユニコーンの背にまたがり、月明かりをバックに振り向くテデ谷くんはきらきらと輝いていました。その眩しさに部下テデたちはもちろん、テデ井も「まいったな」と眼を細めるのでした。
◇
イブのパーティーの余韻に、遅めの目覚めを迎えた人間の子どもたちは自分が欲しいと思っていた品物が枕元に置かれているのを発見してあちこちで歓声を上げていました。もちろん大仕事をやり遂げたテデサンタたちは徹夜です。その中にはNOCリストを盗み出したあのテデも、協力を依頼されたテデビュロウの姿もありました。
「この度は公安テデ一同より感謝します」
「いいのよ、困った時はお互いさまでしょ!これから12時間後に米国が夜明けを迎えるから、何かあった時には協力を要請するわ」
深々と頭を下げたテデ谷くんに、ジョテデ・スターリング捜査官が朗らかに返します。
クリスマスプレゼント配達という一大イベントは世界中で、時差とともに佳境を迎えるのです。日本での仕事が終わったからといって気を抜くことは出来ませんし、終わった瞬間からまた来年に向けてNOCリスト更新のための調査が始まります。息つく暇もない仕事ですが、子どもたちの笑顔を見ればこれほど誇らしい使命はないと心から思えます。
夜を徹して働いた部下テデたちを先に帰し、犯人テデを協力テデにするための手続きを終えたテデ谷くんも帰路につこうと庁舎を出たのはすっかりと陽が昇った頃でした。テデ用駐車場で律儀に待っていてくれたユニコにまたがろうとした時です。見慣れた赤毛がテデ谷くんの疲れた視界に入ってきました。
「大変な夜だったな」
そう微笑むテデ井の足元にはシガレットチョコの包み紙が何枚も落ちています。ずっとここで待っていたのでしょう、テデ谷くんはむかつくような照れ臭いような気持ちになって、憎まれ口を叩くしかできません。
「ふん、誰のせいだと」
それでもテデ井はちっとも堪える様子もなく、テデ谷くんを優しく見守っています。
「君がいつも身を粉にして、この国のために働いているのはわかってるさ。しかしプレゼントをあげるだけの君は、誰からプレゼントをもらうのかと思ってね。おれがその役割をできたらな、と思ったんだ」
「……」
「無理じいはしないさ。ただ、うちにはとっておきのはちみつをいれたミルクと、ジンジャークッキーがある。疲労回復にも良いと思うぞ」
こんなに隙がなくて、完璧なお誘いがあるでしょうか?さらにテデ井は悠々と、ユニコーンに向かって話しかけるのです。
「やあユニコくん、久しぶりだな…組織にいた頃、会ったことがある。ユニコーンを従えているようなテデが純組織テデだとはとても思えなかったが…やはり俺と同じ潜入捜査テデだったとはな。運命的だとは思わないか?」
確かに組織時代も、実現不可能な任務にあたった時ユニコの力を借りることがありました。すべては組織の中枢に食い込み、中から潰すため。テデ谷くんは奇跡のテデなので生まれながらにユニコーンが側についているのです。
悪の組織テデなのにユニコを従えていることが知られたら良いテデだってばれてしまうと細心の注意を払っていましたが、ライテデにはお見通しだったようです。
「よしよし…いい子だ」
テデ井の手にモフッ…と鼻頭を撫でられて、ユニコも気持ち良さそうにしています。
僕のユニコなのに、とテデ谷くんはぷくりと頬を膨らませましたが、伝説の聖獣すらすぐに手懐けてしまう、テデ井はそういうカリスマ的な魅力を持ったテデなのでした。優しく強く──テデ谷くんにはとことん甘い。これで意識するなという方が無理な話です。そう、因縁というのはどうしても惹かれ合ってしまうという意味合いでもあるのです。
「…あなたのそういうところが、気に食わないんですよ。でもどうしてもって言うなら…ミルクとクッキーに付き合ってあげてもいいです。足元のシガレットチョコの包み紙のゴミ、ちゃんと捨ててくれればですけどね」
「もちろんさ」
やれやれ、と言わんばかりにユニコはぶるると鼻を鳴らし、ふたテデに背中に乗るよう促しました。テデ谷くんが前に、そしてテデ井が後ろから支えるようにユニコの背にまたがります。
「さあ、行こうか。俺の森の家はきっと説明せずとも、ユニコくんが知っているだろう」
ひゅんと風を切り、ユニコはクリスマスの街を駆け出しました。揺れる体を支えてくれるテデ井の手のあたたかさを感じながら、テデ谷くんは「まあ、こういうのもいいか…」と目を閉じて、爽やかな疲労と達成感にその身を預けたのでした。
運が良い人間ならきっと、冬空を駆けるユニコとふたテデの姿を見ることが出来たでしょう──
Merry Christmas!