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    okeano413

    @okeano413

    別カプは別時空

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    okeano413

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    甲操 未熟豆のつがい
    ミミさん(@usausamm5)の三次創作
    ・パロ
    ・攻めの女装

    2022.05.15

     果物を溶かし込んだ紅茶に、香ばしく焼き上げたスコーン。バターを泡立てたような、固そうなクリームをめいっぱいのせて楽しんでは、音もなくやたらと小さいカップを置く。中身は、人の飲む色かと疑うほど真っ青のハーブティー。
     無駄なく洗練された動作を眺めるのはいい。ここに立つべきだと他人を倣って背を伸ばしていた後方から、主人の目の前の席につかされたのはどうしてだったか。思いつきで行動する人だから深い理由はなさそうだ。おまけに手ずから盛り付けた皿を示して、食えときらきらやかましい瞳が訴えてくる。
    「……あの」
    「レーズンはきらいだった?」
    「いえ。……食べられるものならなんでも構いませんけど」
    「じゃあ、召し上がれ。僕が選んで摘んだんだよ」
     こいつ、本当になにをして生きてるんだ。連れて見せられた森の一角に畑らしきものがあったけれど、わざわざイチから育ててるっていうのか?
     裾のだだ広いスカートの立ち方には馴染んだけれど、手本を見た覚えがないからうまく座れない。すぐに立たされるだろうと適当に座ったせいで、避け方の思い付かない布の塊が、尻の下で重なってやたらに主張している。
    「君、飛び込んできた日はひどい有様だったでしょう。毛並みも悪いし、目付きも鋭くってさ」
    「毛並みって。俺は動物扱いですか」
    「人間だよね。でも、今は僕に飼われてる。飼い主には保護の義務があるでしょう」
     身だしなみはともかく、目付きが悪いのはもとからだ。片側ずつ尻を持ち上げても、裏地のしっかりついた布の塊は片付かない。落ち着かなくもぞもぞ蠢いても咎める様子はなく、俺の無駄なあがきを楽しむみたいにしながら、素手で皿の上のパンをサクリと割ってみせた。そのままフォークに刺して、持ち上げる。行き先は主人の口内じゃなく、俺の口元だ。
    「だから僕が、中身から整えてあげようと思って。ほら、お口開けて」
     調理は他人に委ねているくせに。他意無く与えられるならば断る理由などないが、おままごとに興じる趣味はない。まるごと口に含めるだろう焼き菓子をわざわざ半分に割った断面には粒ぞろいのレーズンがいくつも挟まれている。なんでも食べるとは言ったが、人の差し出すフォークにかぶりつくのはちょっと。
    「自分で食べられますから……」
    「そう? じゃあ、どうぞ」
     使い古しの食器を使うとも言っていないんだが。たぶん、二度目は断らせてくれないだろう。回し向けられた柄を指先でつまんで、割られた半分を口に放り込んだ。バターと、甘ったるいレーズンのにおいが口いっぱいに広がる。良質な材料と、職人の技量で整えられたものはシンプルにうまい。
    「おいしい?」
    「はい。主食にするには、心許ないなとは思いますが」
    「そうお? 結構、持つものだよ。胸がいっぱいになるからかな」
     朝から、今日はこれだけでおなかいっぱいにするんだと言っていたが、無理だろう。間食を要求されるに決まっているし、そのぶん、俺の手が止められる。しつこく言い重ねても懲りずに菓子で済ませようとする主人の適当な主張を無視して、食事の量は少なめにしても必ず用意してくれと調理室に頼んでおいて正解だった。昨日は魚をメインにしていたから、今日は肉か野菜を中心に彩られるはず。季節に合わせて山のものの食卓になるかもしれないな。狩猟免許なんかを持ち合わせた使用人がいるらしいから、狩りたてが並ぶかも。
    「君の舌にも合うならうれしいな。料理長のスコーン、小さな頃から大好きだから」
     渡されたフォークをなるべく静かに皿に置いて、狼の口、と呼ばれる割れ線に指をかける主人を観察する。歳を思えば背もそれなりにあるし、細い割に出されたものは残さないのだから、少食ではないはずだ。そのくせ躓いた拍子に掴んだ手首も、抱えた腰も骨ばっていて、食いでの少なそうな肉はやけに柔らかい。物語の世界で生きていそうなこの、少年は、一体なにでできているのか。
     主人のアンバランスなのは肉体だけじゃなかった。無垢に見えるくせに、ぞっとするくらい大人びた表情もする。
     拾われた翌日に見せられた顔だ。文字通り、品定めにかけられる動物の気分になったものだが、はっきりと見下されたのはあの朝きりだった。主人の恐ろしい顔は、すっかり鳴りを潜めている。
    「半分じゃ足りないよね。残りも食べさせてあげる」
     断面をクリームの取り皿にひたして、今度はそのまま差し出してきた。何故。さっき断ったからか。
    「ほら、あーんして」
    「……自分で……」
    「一回だけ、ねっ」
     そう言って、一度で済んだためしがないだろう。物足りないのは事実だし、次の抵抗をするのも面倒だ。おねだりを聞くのも俺に与えられた仕事のうちらしいので、口を開けて待つ。
    「むぐ……」
     つつくな。押し込むな。文句の言えない時に。
    「クリーム、たくさん乗せたから、きっとお腹もいっぱいになるよ」
     残念ながら微々たる差だよ。想像よりあっさりとした風味のクリームは、ほんのちょっとの量でスコーンの味わいを変えている。
     今でこそ馴染んでしまったが、こんな場所、ほとぼりが冷めればさっさと出ていくつもりだった。そも、あやしげな噂の絶えない屋敷だ。やれ、人さらいの拠点だの、やれ、日の目を浴びない実験動物を囲っているだの。全貌が見えないからと好き勝手に積み上げられた噂の真実を、こんな少年が背負っているなど思うわけがない。
     そんな場所だと知っていたくせに居着いてしまったのは、ひとえにこの主人のせいだった。ようするにほだされている。思いつきで動く少年に。引き金は無論俺自身の行動だけれど、あの日は面倒が重なって複数に追われたせいで隠れ場所を適当に決めてしまったし、柵を越えて落ちた向こうに、まさか屋敷の主人が転がっているとは思わないだろう。寝転ぶ少年をせいぜい小間使い程度だろうと判断して、報告を留めさせる気で誰にも言うなと掴んだ布が上等だった時点で思考が鈍った。いい隠れ場所があると、引きずるように腕を掴まれて、クソ広い部屋へ連れて行かれて。朝っぱらから不必要に高い天井の浴室に放り込まれ、甘ったるい香りで洗われて、着せられたのがこの、首まで詰めたメイド服。与えられる仕事は家事手伝い程度の範疇だし、それだって主人の相手でほとんどが潰される。遊び相手と呼ぶには歳も離れていてつまらないはずだが、一向に飽きる様子がなかった。それも、お互いに。
     我ながら、ほだされるにしても程度があるだろうとため息をつかざるを得ない。そもそも、どうして異性装だ。動きづらいったらないし、ズボンと比べれば脚も冷える。仕掛け銃よろしく、ものを隠すにはいいかもしれないが。
     伸び放題の髪で人を女と勘違いしてたのか? 男と理解した上で、嫌がらせに着せているのか?
     聞いてみよう。思い付いたからにはそうするのがいい。気に食わない答えなら、与えられた私物を置き去りに出て行けばいい。捨てられる前に、良い夢のまま終わらせるためには。
    「あの」
     主人は、俺に与えた残りを食べている。皿の中身はあと一つで最後だった。もしも悪ふざけの産物なら、追加を頼むふりして逃げ出そう。
    「うん? おかわりする?」
    「いえ。……この、服。似合うと思いますか」
     なんだこの訊き方。切り出しを失敗した。文字通り、きょとんとまんまるに目も口も開かれる。今頃、と言いたいのだろうか。
    「似合わないでしょうって、笑い話にしていると思ってた?」
    「この図体ですから。あなたの趣味でもないようだし」
     フォークに刺さったままのスコーンがくるくる回って、結局皿に戻された。残りのクリームをそっと付けながら、なにやらおかしそうに笑う。
    「もちろん似合うよ。君に着せたくて、僕が見立てたんだからね」
    「まさか、下着も?」
    「そっちは使用人に任せたけど。全身選んであげようか?」
    「いえ。仕事着だけで十分です」
     中身までひらひらさせられるのはごめんだな。似合うと思っているならば、いいか。どうせ、外に出ることもないのだし。
    「たまには男の服も着せてくださいね」
    「そうだなあ。一緒にお買い物もしたいものね。選んでおくよ」
     散歩紐までつけられたりするまいな。まさか、そこにまで馴染んでしまったらどうしようか。ここに来てから毎日が予想外だ。今だって、逃げ出す選択肢をあっという間に消してしまったし。
     今時点では絆され続けて首輪が当然になるのは恐ろしいが、明日には構わなく思うかもしれない。そうなったら、その時に考えよう。
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