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    okeano413

    @okeano413

    別カプは別時空

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    okeano413

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    甲総 一陽来復を与えん

    #甲総
    firstVolume
    ##現パロ

    2022.12.31

    『俺んちで年越し?』
    「ああ。迷惑か?」
    『や、全然いいけど……早朝シフト入ってるから、一緒に年越しはできないぜ』
     俯いているのか、声は少し遠い。レポートを詰めると言っていたから、紙面を目で追いでもしているんだろう。
     構わないなら、と手帳に予定を書き込む。酒なり、洗剤なりの手土産はメッセージで詰めればいい。それよりも、気掛かりなのはシフトについてだ。
     甲洋が今続けているものは週に三度の営業バイト。それも、就職に向けての下積みのようなものだから、バイトというよりは、意気込みでは外部研修に近い。営業先も、雇元も仕事始めさえまだだろう。以前には家庭教師や、一年時には近所のコンビニバイトもしていたが、早朝を頼まれたならば後者の方だ。学生なのだし、頼む側はそれが仕事なのだから、放って自分の用事に注力すればいいものを。
    「またヘルプか」
    『そう。終わったあとなら初詣も行けるけど。それでもいい?』
    「構わないが……」
     初詣とて松の内に間に合えばよいのだから、年明け早々に出掛ける必要もない。単に、せっかくだから共に過ごそうと思い立っただけだ。
     愛想のいい振る舞いを身に着けている甲洋は販売業側にも都合がいいらしく、こうして何度か助けを求められている。それも、決まって予定を立てていた日の早朝ばかり。余程その時間帯は人が定着しないらしい。バツを三つは書き込まされた手帳を手のひらで遊ばせながら、吐き捨てる。
    「辞めてから随分経つのに、まだ頼られるんだな。いい加減縁を切れと言ったのに」
    『まあ、そう言うなって。給料はもらえるんだから』
    「最低限だ、そんなものは」
     隠す気のない不機嫌を乗せた声に、苦笑している気配が返ってくる。もちろん、甲洋に非はない。この態度につけ入る方が悪いのだ。大体、所属から外れた甲洋がどうして年明け早々呼び出されねばならないんだ。本来は夕方勤務で応募していたはずだし、一年程度働いた店舗を何度も助けてやる義理はないというのに。
     一度、様子を見に訪店したことはあったけれど、オーナーらしき男は人を食ったような態度で気に食わなかった。あれでよく人を雇う側でいられるものだとさえ。
     同僚には良くしてもらったと聞かされていたけれど、オーナーについては口をつぐんでいた。甲洋が言及しない時は、つまり僕の怒りに触れる扱いを受けた時と決まっている。そんな相手のいる店舗を利用する気になれなくて、お陰で、雑貨のたぐいは現地調達でなく、購入してから泊まる習慣が付いた。弊害を受けているとも言うが。
    『一人足りないからどうしてもってさ。時給、もらえるだけもらってくるよ』
     人手がないなら休店すりゃいいのにな、と笑いながら、筆記用具の音が続く。断る素振りはない。利用されていることを理解しているくせに。
    「お前、来年もそうして使い潰される気か? 就活に支障を来たしたらどうするんだ」
     とっくに部外者である身に助けを求めるなら、人生の岐路もお構いなしに頼んでくるだろう。ろくな面識もないが、予定を潰された経験則から断言できる。いくら甲洋がお人好しの態度を見せているとはいえ、頼み事自体が非常識という自覚さえあるか疑わしい。
    『そんなに怒るなって。労働条件通知書は単発でしか書いてないし、これっきりにしてもらうから』
    「他人事だな。相変わらず」
    『お前が、代わりに怒ってくれてるからね』
     と、誤魔化されるのもいつものことだ。慣れてたまるか。慣れさせてたまるか。
    「僕を怒りの外付け装置にするな」
    『あはは』
     あははじゃない。が、自分を優先する気があるならいい。その意思があるならば、次の心配は必要ない。見た目と態度でつけ入られがちだが、或いは僕よりも頑固な男なのだから。
    「本当にこれで最後だろうな」
    『うん。今回で終わりで、連絡先も削除しますって口頭でも伝えてるし。へんに食い下がってきたら向こうが不利になるだろ。たぶん』
     もし、今後も甲洋を利用する気なら乗り込んでやる。密かに決意して、手帳を閉じた。
     空けるつもりでいるとはいえ、細かな日取りの決定はまだなのだ。杞憂なく過ごせるように、こちらもミスなく……いや、最低限に留めて進行しなければ。
    「ともかく、スケジュールはまた連絡する。入り用のものがあれば送っておいてくれ」
    『総士が来てくれたら、それでいいよ』
     これもお決まりの言葉。結局、歯磨き粉が足りないだの、ゴミ袋が欲しいだの、どの野菜が欲しいだの、と細かく刻んで言ってくる。こちらのスーパーの方が安いという理屈と、夕食メニューのリクエスト付きで。
     甲洋なりの下手な甘え方も、随分馴染みがついたものだ。
    「言ってろ」
    『ええ。ほんとなのに』
     ああ、そうだ。今回の心配はなくなったけれど、こいつのお人好しにつけ入られるのが気掛かりなら、あれを提案するのがいい。いつ言おうか。日をまたいだ頃に、枕元に手紙でも置こうか。いや、直接言うのがいい。うまく驚かせるように、段取りを決めておこう。
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