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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    なりひさ

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    湯呑みと瘴奸が仲良くなる話

    瘴奸と湯呑み殿が仲良くなるまで一ヶ月かかりました 貞宗の湯呑みが付喪神になったという。長年使っていた湯呑みで、ある日突然に命を宿したらしい。
     なんとも可愛い付喪神なのだと、この件を伝えてきた郎党は言った。しかしいくら湯呑みといっても付喪神である。なかには人間に恨みを持って悪さをするものもあると聞く。瘴奸はその付喪神を確かめるべく小笠原館へ訪れた。
     館はいつもより賑やかだった。その声を辿って庭の方へと回れば、縁に座る貞宗を郎党たちが囲むようにしている。郎党たちはまるで生まれたばかりの赤子を囲むような和やかさであった。瘴奸もそちらへ足を向ける。
     見れば縁に座る貞宗の手には湯呑みがあった。一見ただの湯呑みかと思ったが、その湯呑みには目玉がついている。きょろりとした目玉は貞宗のものと似ていた。本当に付喪神らしく、湯呑みは目玉をきょろきょろと動かして、周りの郎党たちを見ていた。目玉しかないのに嬉しそうだと感じる。その様子は愛らしかった。
    「瘴奸、そちも来ておったのか」
     貞宗の声に瘴奸は頭を下げる。すると湯呑みも瘴奸のほうを見た。湯呑みと目が合う。すると、湯呑みが突然に目を閉じてしまった。閉じるといっても瞼も無いから、ただ白目を剥いているように見える。
    「ん?どうした湯呑み」
     湯呑みは微かに揺れていた。貞宗が揺らしているわけではないから、湯呑みが体を震わせているらしい。
    「瘴奸のことを怖がってるんじゃないですか」
     言ったのは新三郎だった。新三郎は屈むと湯呑みの飲み口を指で撫でている。
    「割られるとでも思ったんじゃないですか?」
    「やめぬか新三郎。瘴奸はそんなことしない。なあ瘴奸」
     場合によっては叩き割るつもりで来たとは言えなかった。しかし見たところ無害そうな付喪神である。貞宗に悪さをしないのであれば、手を出すつもりはなかった。
    「新三郎殿の言うように怖がらせてしまったようですな。拙者は失礼します」
    「用があって来たのではないのか?」
    「もう済みましたので」
     もう一度湯呑みを見たが、湯呑みは白目を剥いたままであった。
     それから少しして、瘴奸は再び小笠原館へ赴く用事ができた。瘴奸が館の中を常興を探して歩いていると、ある部屋から常興の声が聞こえてきた。誰かと話しているらしい。先客がいるならば外で待つかと廊下にいると、常興の声は聞こえても相手の声が聞こえてこなかった。それにいつも厳格な常興の声が柔らかいように思えた。不思議に思って瘴奸は声をかける。
    「常興殿」
     するとすぐに声が返ってきた。
    「瘴奸か。湯呑み殿、少々お待ちを」
     戸が開いた。常興が顔を見せるが、その背後の机に湯呑みが置かれているのが見えた。あの付喪神の湯呑みだ。湯呑みは瘴奸に気付くと驚いたようにちょっと浮いた。そしてまた白目になっている。
    「ん?」
     常興は瘴奸が湯呑みを見ていることに気付いて部屋を振り返った。そして白目になっている湯呑みを見てぎょっとした。
    「どうしたんですか湯呑み殿」
    「申し訳ない。どうやら怖がられているようで」
     瘴奸は用事を手短に伝えて部屋を後にした。先ほどの湯呑みの様子を思い出して瘴奸の顔が曇る。湯呑みにはすっかり嫌われてしまったらしい。しかし瘴奸は小さいものに嫌われることに慣れていた。小さいものは自分を害するものの雰囲気に敏感だ。きっとあの付喪神も瘴奸の本質に気づいて警戒しているのだろう。ただ少し、寂しい気もした。
     それから瘴奸は小笠原館を訪れるたびに湯呑みと会ったが、いつも白目を剥かれてしまった。慣れてもらおうとじっと見つめてみたが逆効果で、余計に怖がられてしまう始末だった。他の者は湯呑みと仲良くしているなかで、瘴奸だけが嫌われていた。いつしか瘴奸は暗い顔で小笠原館に行くようになっていた。
     すると、そんな瘴奸を見かねた貞宗から声がかかった。貞宗は瘴奸と湯呑みが仲良くなれる策を考えたという。
    「やるか?」
     貞宗に問われて、瘴奸は迷わずに頷いた。
    「はい。このまま湯呑み殿を怯えさせるのは心苦しいので」
    「少々、そちにやってもらいたいことがある」
    「拙者にできることであれば、何でも」
     貞宗はぱっと笑みを浮かべると、瘴奸を部屋へと連れ込んだ。
     
     

     瘴奸は悪党として生きるなかで、様々な経験をしてきた。なかには大抵の武士ならば経験しないようなことも含まれている。恥ずべき過去であるが、それとは別の意味で、今の瘴奸は己の姿を恥じていた。
     瘴奸は床に膝をついていた。すぐそばには貞宗が見張るように立っている。部屋には二人だけで、夕刻から準備をはじめたものの、すっかり夜になっていた。部屋を照らすのは部屋に数本置かれた蝋燭だが、その光を瘴奸は見れなかった。目隠しをされていたからだ。
    「湯呑みよ、入るがいい」
     貞宗の声に戸が開く音がした。床が鳴る。湯呑みを持った誰かが部屋に入って来たのだろう。
    「……っ、貞宗様」
     湯呑みを持って入ってきたのは常興だったようだ。常興の声には驚きと非難が込められていた。もし瘴奸が常興と逆の立場であれば、同じ反応をしただろう。
     瘴奸は目隠しをされて床に膝をついていた。その体は朱色の縄で縛られている。しかもただ腕を体を縛るのではなく、縄は瘴奸の体を直垂の上から複雑に縛り上げていた。それは肉体の部分を強調するようでありながら、縛られる瘴奸にも一種の感覚をもたらしている。現代でいう亀甲縛りであった。
    「なんてものを湯呑み殿に見せてるんですか!!」
     瘴奸には見えないが、きっと常興は湯呑みの目玉を塞いで見ないようにしているのだろう。ずっと見ないでほしかった。先ほどから縄が股間に食い込んでいて言いようのない状態になっている。いったいこの変態プレイを見せてなぜ湯呑み殿と仲良くなれると貞宗は思ったのか。しかし儂を信じろと言う貞宗に押し切られて、瘴奸は縛られていた。
     すると常興が声を詰まらせて泣きはじめた。
    「こんな……こんな……貞宗様にこんなド変態な趣味があったなんて……」
     常興も主君がド変態ではさぞかしショックだろう。瘴奸もまさか貞宗にこんな趣味があるとは思わなかった。しかし、こんなことで常興の貞宗への忠誠が失われては大変である。嘘でもいいから瘴奸が貞宗に頼んで縛ってもらったと言うべきだろうか。しかし口も猿轡をされていて喋れない。
    「なぜ……なぜ私のことは縛ってくださらないのですか!」
     常興の悲痛な声に、瘴奸は先ほどの心配が杞憂だったとわかった。そして常興の忠義が本当に忠義か怪しく思う。ただのド変態ではないか。貞宗への度を越した忠義もド変態であったなら納得する。
    「この縛り方は儂の趣味ではない。諏訪に伝わるものだと聞いておるからド変態は諏訪明神だ」
     誰が変態でもいいから縄を解いてほしかった。何のために縛られているのか忘れそうになるが、これは瘴奸と湯呑みが仲良くなるための策であったはずだ。
    「湯呑みよ、よく見てみよ」
     見ないでほしい。なぜ見せようとするのか。瘴奸は居た堪れなくてしょうがなかった。
    「瘴奸は怖くはない。大きくて傷が沢山あるが、根は生真面目な男だ。縛ったら興奮しておるからド変態かもしれんが」
    「んーーー!!」
     瘴奸は抗議の声を上げたがくぐもった声にしかならなかった。興奮などしていない。少々食い込んだ縄が心地良くなってきたが、興奮なんてしていない!
    「ほれ、今は縛っておるから手出しできんぞ。なあ湯呑み。確かに瘴奸はド変態かもしれんが、怖くはないだろう?ド変態かもしれんが」
     貞宗にド変態と連呼されて瘴奸は身が震えた。何か知らない扉が開きそうになる。もっと罵られたい。きつく縛られて口汚く罵られたい。そうすれば心がじぃんわり満たされて気持ち良くなる気がする。しかし瘴奸は正気に戻った。まだそっち側には行きたくない。行きたくないが扉がちょっぴり開いていた。
     すると急に視界が開けた。貞宗が瘴奸の目隠しを解いたらしい。瘴奸の前には湯呑みがいた。湯呑みは常興の手のなかでじっと瘴奸を見つめていた。白目は剥いていない。
     すると湯呑みがにこりと笑った気がした。ただ目玉がついているだけなのに、その笑顔が見えたような気がした。
     それからというもの、湯呑みが瘴奸を怖がることはなかった。今日も湯呑みは瘴奸の大きな手の中にいる。庭では貞宗が弓の稽古をしており、瘴奸と湯呑みはそれを揃って見ていた。瘴奸はそっと湯呑みに口をつける。目玉に当たらぬように気を付けながら茶を飲んだ。湯呑みは湯呑みとして使われることを喜ぶらしく、瘴奸が館に来れば、いつも茶を飲ませてくれた。
     瘴奸は湯呑みを可愛く思う。こうやって茶を飲ませてもらったり、手のひらの中にいるだけで心は癒された。ただ代償として新たな癖に目覚めてしまい、それは大変に瘴奸の頭を悩ませた。

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