ともしびを手に 5二人を最後に乗せて橋桁が外されると、夜明けと共に船が漕ぎ出された。未だ薄暗いにもかかわらず、力強く皖河を下っていく船の上は長江沿いの都邑へ向かう人と荷物で混み合っている。
人と荷物をかき分けながら船の端に高く積まれた荷物を見つけると、二人は並んで腰を下ろてし荷物に背中を預けた。
「これでしばらく、身体を休めることが出来るな」
魏無羨は大きく身体を伸ばす。すると今度は演技でなく大きなあくびが出た。
夜通し御剣の術で飛びっぱなしだったのだ。休息を取ったとはいえ気の休まらない山の中だったので、安全な場所で腰を下ろした事により疲労と空腹、ついでに眠気が一気に襲いかかってくる。
隣の江澄も疲れを隠せない顔で乾坤袋から、竹を切って作った水筒と饅頭を二つ取り出すと、一つを魏無羨に投げて寄越した。受け取ってもそもそと饅頭を囓り腹に収めたが、空腹よりも眠気が勝って、もう一つとは手が伸びない。代わりに懐から隠行符を取り出した。
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