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    ひぜなん『また来年も』

    本丸の花火大会の話。去年の書きかけが勿体なかったので少し直してアップしました。
    ※南海先生&肥前くんの軽装発表前に考えた話です

     夜闇に光の花が咲いていく。
     燃えさかる炎は瞬く間もなく、様々な色や形に変化する。大きく鮮やかに咲き誇るもの、煌びやかな花弁を纏って踊るもの、そっと寄り添い輝くもの。
     何とも不思議で面白い--ただただ真っ直ぐ目を逸らすことなく。ころんとした小さな火の玉が落ちるその時まで、南海は手にした線香花火を見つめていた。
    「南海先生ー! まだまだ、たっくさんあるよー!」
     少し離れたところから、粟田口を始めとした短刀たちが笑顔で手を振る。普段と違う華やかな装いに身を包み、次々と花火を咲かせていく彼らの姿は、さながら満開の花畑のようで。南海は目を細めて小さく手を振り返した。

     今宵は毎年恒例の花火大会。手持ち花火とはいえ九十を超える刀剣男士たちが集まると小さな花も暗闇を照らす大輪の花となる。
     その半数は初めて目にする浴衣ばかり。それぞれが凝った意匠を取り入れ散りばめ、彼らを更に輝かせている。政府もたまには粋なことをする、と皮肉げに言いつつも頬が緩んで仕方なかった主を思い出した。
     僕もいつかあんな風に着飾る日が来るのだろうか。
     ぼんやり考えながら、役目を終えた線香花火を溜めた水へ入れた時。近づく人影が目に入った。
    「おや……どうやら戦には勝てたようだね。さすがは肥前くんだ」
    「まあな。これくらい造作もねえよ」
     珍しく勝気な笑みを見せる肥前の両手には、白い湯気を立てた紙皿たち。焼きそばに一口サイズの肉が刺さった串にイカの姿焼き、焦げ目のついたトウモロコシ、それと見慣れない何か。
    「……じゃがいも?」
    「"じゃがバター"って言ってたな。ふかしたじゃがいもにバターをかけただけなのに、これが妙に美味いらしい」
    「ほう、それは楽しみだ」
     この日のために総出で準備を進めてきた中で特に力を入れていたのが料理だ。いわゆるお祭りの屋台で食べられているものが多く、たとえ食べ慣れていたとしても今日のように皆で外で食べると、不思議と美味しさが増すのだという。
     どのような心理効果を及ぼすのか、疑問に思っていた南海だったが。
     りんご飴やかき氷片手に花火を楽しみ、料理に舌鼓を打ちながら酒を酌み交わす。肥前と共に縁側の端に座り、既にほろ酔いとなっている男士たちの顔を眺めると。なるほど、少しだけわかったような気がした。
    「見事な赤い花たちだね」
    「先生は花見気取りかよ」
     料理を取り分ける肥前の横には、ちゃっかり酒の缶が置かれている。あの花々の仲間入りをした未来を頭に浮かべ、南海はうんうんと頷いた。
    「なんだよ……別にいいだろ。ほら、先生はこれ食ってろ」
    「先にいいのかね?」
     手渡された紙の器には半分に割られたじゃがいも。ほくほくとしたいもにとけて染みこんだバターが程よく絡み、塩加減と黒胡椒の刺激がちょうどいい。
    「これは美味しいね。ありがとう肥前くん」
    「ん」
     二口三口と続けて運ぶ南海を満足気に見ながら、肥前はごくごくと乾いた喉を酒で潤した。

     もう少ししたら花火を打ち上げる。そう声をかけて周るのは本丸立ち上げ当初からいる男士たちだ。彼らの出立ちもまた、真新しい浴衣姿。その中の一振りである陸奥守は、小さいながらも迫力はなかなかのもの、と上機嫌で大きく手を振った。
     まだ暑さを残した夏の面影は、秋の気配をのせた夜風によって段々と薄れていく。楽しそうな皆の笑い声と花火の音、食欲を刺激する香りに流れてくる火薬の匂い、色とりどりの花々。ふと目にした風景は見慣れているのに、どこか遠く知らない場所のようで。
     南海は箸を止め、周りをゆっくり見回した。楽しい時間なのに胸の奥がぎゅっと締めつけられて、思わず手をのばしたくなる。
     生まれたばかりの感情を優しく撫でるように、溢れる言葉を声にした。
    「……戦いが長期化することを意味するから、本来言ってはいけないのだけれども」
     そこで一度口をつぐむ。咲き乱れる花たちを眺めて、隣の肥前へ視線を移した。
    「来年もまたこんな風に、君と一緒に花火をしたいな」
     ただ一振りにだけ伝えたかった、未来へのささやかな願い事。
     それは丁度イカにかぶりついた肥前と目が合ったことで一時中断となった。
    「…………」
    「…………」
     箸で切るには難しかったのだろう。お互い無言で見つめるも、先に肥前の方が気まずそうに目を逸らした。暗くてもよくわかる頬から耳にかけての赤みは、恐らく酒のせいではなく。
     南海は小さく笑い、どうやら君は花よりも団子派のようだね、と呟いた。

     戦を一瞬でも忘れさせてくれる束の間の休息は、果たして良いモノか悪いモノか。断言は出来ないけれど。
     地面から空へと領域を広げた光の花へ、上がる歓声を聞きながら。少なくとも今の自分にとっては手放せないモノになっているのだと、南海は強く認識した。
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