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    ひぜなん&すいまろ

    ※途中で終わっています
    ※ギャグ&何でも許せる人向け

    〇〇しないと出られない部屋の話「ほう、これが噂の……」
    「ついに来てしまった、ってことかな。とりあえず押してみたけど……うん、開かないや」
    「源くんの打撃で不可能ならば、僕たちも無理だろうねえ。さて、どうしたものか……」
     目の前の扉を容赦なく殴った清麿と、四隅を念入りに調べた南海は顔を見合わせて考える。どこか別のところから出られないか、せめて部屋の外にある筈の本丸と連絡が取れないかどうか。
    「……やっぱり、〝これ〟をやらないと外へは出られないんじゃないかな?」
     二振りはおもむろに扉の上に貼られた紙を読み上げた。
    「「授乳手コキをしないと出られない部屋」」
     しん、と部屋の中が静まる。二振りは首を傾げ、深く息を吐いた。
    「……朝尊くん、わかる?」
    「いいや。……だが、〝しないと〟ということは何かしらの動作を行うのだろう。授乳とは赤子が母親から母乳を飲む行為だが、ここにはどちらもいない……」
    「謎かけや比喩の類いかもしれないね。んー、ねえ、二人の見解はどうかな?」
     源はくるりと振り返る。先程から一言も発さない二振り--水心子正秀と肥前忠広へ尋ねた。
    「…………」
    「…………」
     後ろの二振りは言葉を発しない。聞こえていない訳ではなさそうだが、先程から全く反応を返さないのだ。
     水心子はいつも以上にジャージの襟元で口元を隠している。両手でめいっぱい引っ張っているが布地には限界がある為、鼻から上がどうにも隠せないようだ。顔色が熟れたトマトよりも真っ赤に染まり、目線は左右に激しく動いて定まらない。まるで荒れ狂う海面だ。
     対して隣の肥前は一目でわかる程に真っ青だった。夏の澄み渡る青空から爽やかさを濾しに濾した抜け殻の色。感情がひとかけらも読み取れない目は虚で、生気を失った静けさは凪を思わせる。息が止まっているのではないか、清麿は不安になった。
    「……大丈夫?」
    「な、な、な、何のことだっ⁉︎ 僕は何も知らない! あっ、きよまろ……そんな目で見ないでお願いっ‼︎」
     ここまで取り乱す親友を見たことがない。清麿はこの不可思議な部屋自体に疑いを持った。気高く誇り高き新々刀の祖である水心子正秀、彼の崇高な精神を汚染する程の呪いや幻術の可能性を。それは想像を遥かに超える強さに違いない--清麿はぐっと拳を握り込んだ。
    「源くん、どうやら謎は解けそうだよ」
    「これは--」
     南海が指差す先、扉から少し離れたところに一枚の紙が貼られていた。カラフルな紙面には大きな文字で『授乳手コキについて』と書かれている。
     二振りは頷き合い、一字一句見逃さぬよう慎重に読み進める。言葉の意味、絵図を用いた具体的なやり方の説明、注意事項、よくある質問と解説--ひと通り読み終えた二振りはほっと、安堵の笑みを浮かべた。
    「なるほど……このような意味だったのだね」
    「ああ、ようやく理解出来たよ。これは--」

    「肥前くんが」
    「水心子が」
    「「好きな行為だね!」」

     疑問が解消した高揚感と達成感、己れが慣れ親しんだものだったという安心感から、南海と源は胸を撫で下ろす。その姿を目に映しながら、肥前は一刻も早くここから消え去りたいと願っていた。
     隣の水心子は膝から崩れ落ち、何やら奇声を上げている。もしかしたら泣いているのかもしれない。まるで陽の光が届かない森の奥底から微かに聞こえる、獣の咆哮のようだと肥前は思った。そうだこれは悲哀だ。水心子は深く嘆き、悲しみ、苦しんでいるのだ。
    『お前も好きなのか? 何だ、おれたち気が合うじゃねぇか』
    そんな励ましの一言すら掛けられない自分が情けない。肥前は唇を強く噛み締めた。
     現在閉じ込められている部屋は真っ白な空間で、最初は扉と上部に貼られた紙しかなかった。だが、四振りのうち二振りがそもそも言葉の意味自体を知らないと言った瞬間、どこからともなく貼り紙が増えた。
     この部屋は危険すぎる。あまりにも不気味で嫌な予感がする。こんなことならば、本丸の中だろうと本体を肌身離さず持ち歩くべきだった。
     すっかり腑抜けてしまったな、と肥前は自嘲気味に笑った。音もなく自動的に現れた二組の布団から目を背けて。

    「それでは解決の糸口が掴めたところで……待たせてしまったね、肥前くん」
    「さくっと終わらせて早くこの部屋を出よう。水心子」

     二振りは柔らかな笑みと穏やかな声音で、それぞれの恋刀の名を呼んだ。
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