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    k_kirou

    @k_kirou
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    k_kirou

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    日常回のはず。折り返し地点。

    早兵逃避行IF4 久しぶりに訪れた日本は晴れ晴れとしていた。
     終戦から数か月、未だ見渡す限りの焼け野原と物資の限られた苦しい生活の中、日々の生命の心配から解放された人々の顔には活気が満ち溢れていた。
     だが、そうではない一角もあった。
    「隊長、あの子たちは……」
    「おそらく浮浪児――戦争で親と家を失った孤児だろう。この辺りは特に多い」
     彼らは寄り添い合うように物陰に座っていた。それも一組や二組ではない。そこら中にそういった子供がいた。ろくに食事もできていないのであろう。糊の利いたシャツと仕立てのいい背広をきっちりと着た兵部たちに、彼らは妬みの混じった羨望の視線を向けた。
     兵部はポケットに入れた指先で紙幣に触れた。ひとりふたりなら、施しをしてやれるかもしれない。しかしそれでどうなるというのだろう。選ばれたその二人は周囲の者から疎まれ、ここでは暮らしにくくなってしまう。特別扱いされるというのはそういうことだ。
     それにいくらかすれば冬が来る。そうすればこの子達の生活はもっと苦しくなる。
    「隊長、」
     どうにか彼らを、見込みのある者だけでも早乙女の組織で引き取ってやれないだろうか。兵部たちの道行きに巻き込むのは憚られるが、日常の暮らしの手伝いをするようなものなら何人か置いてやれるのではないか。
     あの未来には兵部に若い仲間が居たというのだから、きっとこんな風に手を差し伸べるのは悪いことではないはずだ。
     兵部はじっと早乙女を見上げた。
     しかし早乙女はいつものように静かに首を振る。
    「京介。我々はまだ、選ばねばいけない立場だ。才ある者、能力のある者、見込みのある者をこの中から見つけられるのなら意味はあるが、今日の我々にその時間はない」
    「あ……えっと……。はい」
     かつての超能部隊の仲間を探した時も彼はこうだったのだろうか。
     部隊の隊員たちは選りすぐりの、各々秀でた能力を持っていた。それぞれの能力で戦えるだけの強さと精神を持っていた。だが、強い力を持つ能力者全てがそうだったわけではない。そして弱い能力しか無い者は彼らの部隊の一員ですらなかった。
     早乙女の言うことは冷たいが正しい事実だ。
     それに兵部たちはやるべきことがあって危険を冒して日本を訪れている。今は軍が解体されたために手配を解かれているものの、顔の知れた脱走兵だ。死んだことになっている人間が生きていると分かっては今後の活動にも差し障る。目的を果たすまで、こんなところで悠長にしている場合ではない。
     子供たちから目を逸らす。兵部の苦い顔を見て、早乙女は言った。
    「君が未来でそうしたいと思った時に彼らの分まで助けてあげるといい。何事にも準備は必要だ。そして我々にとって今はその時ではない」
    「……はい、隊長」
     遣る瀬無い思いをゆっくりと飲み込む。
     幼い時分に父と母を喪い、身寄りのなくなった兵部は蕾見男爵の庇護を経て、早乙女の元へ辿り着いた。そして自分の力で生きていく方法を学んだ。
     それはただ幸運があったからに過ぎない。親も家もなく蹲る子供たちと違ったのは時代と巡り合わせだで、兵部は彼らだったかもしれないのだ。
     そう思うとどうしても情が湧いてしまった。
     しかし早乙女の言う通り何事にも地盤固めは必要だ。立ち直った彼の仕事ぶりを見て、兵部はそれを痛感していた。そうでなければ自分たちはまだ洞窟の仮宿で着の身着のままの生活をしていただろう。今立派な洋服を身に着けているのも彼が手を尽くしたからだ。
     その早乙女の新しい組織も今はまだ不安定な利害関係の同盟で成り立っているに過ぎない。予知通りならば兵部は再び超常能力者の組織を作ることになる。その時にこそ、彼らのような子供たちに手を差し伸べられるはずだ。
     だが同時に、それは未来の戦争のための組織であるはずだ。沢山の悲劇や、このような不幸を生む争いの醜さを知っているにもかかわらず、未来の兵部は戦いの中にいる。
     それは早乙女の望みを叶えた結果なのだろうか。既に地獄に落ちる身なれど、数多の罪のない人々を巻き込むことを選ぶだけの理由が見当たらない。それとも「女王」がそれを選んだのだろうか。
     子供たちに後ろ髪をひかれながら兵部は迎えの車に乗り込んだ。
     向かう先は蕾見男爵別邸。
     財閥解体の方針が打ち出され、戦後の混乱からか蕾見男爵の行方はようとして知れない。軍と関わりの深かった彼は摘発を恐れて姿を隠したのか、或いは既に――。
     そんな中、早乙女が掴んだ情報ではあの屋敷が手付かずのまま無事であるという。そこは男爵家の私財ながら終戦間際まで超能部隊の本拠地として機能していた。そんな場所が無事だとは、こういった情報に疎い兵部ですら不思議に思い、何か裏があるのではないかと勘繰るばかりだが、早乙女が気付いていないわけがない。
     彼が何も言わないのなら気にする必要はないはずだ。彼の言う通りにしていれば全て上手くいく。これは盲信などではない。早乙女の戦略や戦術に誤りがあったことなどないのだ。
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