兵部吸血鬼パロ3犬を拾った。
「わん」
「言わねぇよ」
可愛げのないこの男の血は吸血鬼を殺すらしい。
「それって本当かい?」
「まさか。でも毒にはなる」
「試したの」
「いや。『検査の結果』さ」
「へぇ?」
血統は混血、それでいて身体能力その他諸々の特徴はヒト同等。唯一の能力が吸血鬼殺し。実に興味深い。
「でも飽くまで普通の――混血の吸血鬼に対して毒だってだけだろ。純血に対しては殊更に良く効くとか、無いのかい? ……僕が試してあげようか?」
「やめろよそういう冗談!」
よく吠える、面白い犬だ。僕はとっくのとうに彼が僕に差し向けられた刺客だって知っているのに、バレていないとでも思っているし、僕を殺すつもりなんてありゃしない。
彼は一体何がしたいのだろう。僕は考える。概ねのところは見当がついていて、今の主人につけられた首輪が合っていなくて居心地が悪いのだ。僕がくれてやった首輪だってあるのに、見えない方ばかりを気にしてオッドアイを揺らしている。
「お前は、何なんだよ」
「吸血鬼」
覗かせた牙を随分と困った目で見られたが僕はそれ以外の返答を知らない。知っていてもしてあげない。選ぶのは彼自身だ。
それで結局、彼は選べなかった。どちらも助けたがる愚かな犬みたいに右往左往して取り零し放題をして、僕だけを掴んだ。
「君、本当馬鹿な犬だよね」
「せめて狼って言えよ」
「狼。狼ね」
本当に狼ならこいつは僕の喉笛にきちんと嚙みついたのに――いや、それじゃあ逆か。あの人みたいに僕の口内に血を注いで終わりに至らしめたはずなのに、だ。
伝承によると狼は吸血鬼の眷属として扱われていたこともあるらしい。僕の国ではとっくに絶滅した獣だから本当のところは定かじゃないし僕もこの目で見ていない。
けれど、なるほど、こういうものは傍に置きたくなる。眼帯で片目を覆った姿はなかなか精悍さを帯びてきた。
「吸われたくなったらいつでも言いな。僕は優しいから遊んでやるよ」
「……わけわかんねぇ。死んだらどうするんだよ」
「さぁ?」
少しだけそれを面白いと思っているだけで、他意はないさ。