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    八華✺⋆*

    TRI葬台/牧台
    基本的にえっちなやつしかない

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    八華✺⋆*

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    ジューンブライドWVネップリ企画に提出したものです。
    決戦終了後、牧師生存ifの牧台が数年振りにシップへ里帰りする話

    きみと明日の話を「なぁ〜〜、どう言えばいいんだろこういうの。変に緊張しない? てぇかみんなだって反応しづれぇんじゃないかな……」
    「なんや、まだそんなこと気にしとるんか。往生際ァ悪いで」

     だんだん重くなってくる足取りに、煙草を吸いながら隣を歩く男が呆れた視線を寄越した。往生際、なんて本当にその通りで僕は返す言葉がない。
     だってここに来るのを了承したのは僕、決めたのは僕自身。 でもみんなの顔を浮かべると、胸を掻き毟りたくなるというか、回れ右して逃げたくなると言うか。
     要は物凄く恥ずかしい。とても。

    「それにここで帰ったりなんぞしたらむっちゃ怒られると思うで。行くって連絡入れとんのやから」
    「うう、……そぉなんですけどぉ」

     プレッシャーに耐えられなくてつい弱々しい声になる。ふ、と小さく笑う声が聞こえたと思ったら、肩をぐいっと引き寄せられた。軽くこめかみがぶつかる。

    「大丈夫やって。何言うていいんかわからんのやったらオドレはにこにこ笑っとき。それで十分や」

     ちゅっと頬に軽くキスして、懐くように頭を寄せて離れていく。こういうのも手馴れたもので、ウルフウッドはどうにも僕の扱い方が上手い。

    「……うん」

     悪戯っぽい笑い方がやっぱり好きだなぁと思った。
     


     今日、僕らは親しい人たちに一つの報告をする。
     ささやかで、何も形に残らないけれど、それでも二人で決めたこれからの旅路について。




       *




    「お帰りなさい、二人とも」

     シップに入って一番最初に迎えてくれたのはルイーダだった。静かな微笑みを浮かべて佇む姿は存在感があって、若い頃に少しも退けをとらない。

    「みんな、あなたたちが来るのを今か今かと待っていたのよ。音沙汰ないんだから」

     さらっと言われて「いやぁ……面目ない」と頭を掻く。実際言えないようなことがいっぱい起きて、定期連絡も疎かになっていたから後ろめたいのは否めない。
     けれど彼女は細かいことを聞くわけでもなく、僕たちを促してシップの中を案内してくれた。地球民の技術が加わって、しばらく見ないうちに様変わりをしている艦内に驚く。
     人間の寿命は短いけれど、そのうちの数年だけで飛躍的な進化を遂げる。方舟の一件でそれまでに培ったものがほぼ壊滅し、困窮に追い込まれた街も建て直しが急速に進んでいた。この知られざる要塞はその中でも最先端だ。

    「すごいもんやな」 
    「どうせあれこれと自慢されるでしょう。あとからじっくり見てやって頂戴」

     興味津々な僕とウルフウッドに苦笑し、ルイーダは突き当たりの扉を開く。この進行方向からいって食堂に連れて行かれるのだろうなと思っていたところ、中にはまた内扉があって、その前に見覚えのある人影を発見した。

    「よぉ、久しぶり」

     ブラドがニヤリとして手を挙げて見せる。コワモテなのは元からだけど、随分と頼り甲斐のありそうな顔つきになっていた。

    「うわ、貫禄ついたなぁ」
    「うるせぇな、幸せ太りだよ」

     どうやらいいことがあったらしい。
     ブラドはウルフウッドにも目礼で挨拶をして、しかしそのまま僕らの前に立ちはだかるように内扉に手を掛けたままぎょろりと睨んできた。

    「──おまえたちは、ここを潜る覚悟があるのか?」

     打って変わった剣呑さに面食らう僕たちに、ブラドはさらに続ける。

    「おまえたちには絶対やらなきゃなんねぇことがある。その覚悟がちゃんとあんのか。半端にするならここを通すわけにはいかねぇ」

     喧嘩腰の相手には煽りがちな態度を取るウルフウッドも黙り込み、しん、と場が静まり返った。ここまで先導してきたルイーダは僕らの背後で成り行きを見守っているようだった。

     やらなくちゃいけないこと……。
     
     何だろうと思ったけど、こんな空気の中で訊いたら逆に怒られそうだ。どう答えればいいのかわからないまま時間が過ぎる。
     と、不意に口を開いたのはウルフウッドだった。

    「あたりまえやろ。少しでも日和っとったら銃でもバズーカでも何でも持ってこいや」
     
     売り言葉に買い言葉というよりは余裕のある平坦な口調。
     えっ、何のことかおまえわかるの?
     わからないのが自分だけかもという不安に内心慌てる。

    「おまえら二人相手にすんのは俺らの分が悪くないか……」

     ハァとため息をつくブラドにルイーダの肩が揺れる。声を堪えて笑っているらしい。

    「ったく、おいヴァッシュ」
    「は、はいっ」

     わかってないのがバレたのかと思って妙に良い返事をしてしまった。
     けれどブラドは横のパネルに手を置いて扉を解錠する。ゆっくりスライドしていくドアの隙間から眩しい光がこぼれ──
     
     どん。ブラドの手に背中を押されて前につんのめる。

    「幸せになれよ!」
     



    「ヴァァァァッシュ‼︎」
     



     転びそうになりながら踏み込んだところでパーン! と弾けた大きな音。バランスを崩して尻餅をついた僕の視界いっぱいにきらきらと輝いて、カラフルなパーティクルが降りかかった。
     同時に、耳には割れるような拍手の音と口笛、歓声が飛んでくる。目の前には、「結婚おめでとう! ヴァッシュ&ニコラス」の横断幕が掲げられていた。
     あれ……?
     いやそれ、僕が今から言おうとして……、あれ?

    「ヴァッシュ、おめでとう!」
    「ニコラスよくやった!」
    「はははっ、想像通りの反応してくれんな〜! 仕込んだ甲斐があるぜ」

     まだ鳴り止まない拍手の中、そばに来たウルフウッドが腕を取って起き上がらせてくれる。おそらくシップ中の人たちが一斉に集まっていて、悪だくみが成功したあとのような顔で笑っていた。

    「……ど、ドウイウコト……? おまえがちゃんと報告しに行こうって、だから、」
     
     まだ飲み込めていない頭で隣の男を振り返ったら、

    「すまん。ルイーダの追及には抗えんかって」

     なんて全然マズいなと思ってなさそうに言いやがった。
     聞いてなかったけど⁉︎ 僕の緊張どうしてくれるんだよ!

    「しょうがないでしょう? あなたこうでもしないと逃げるじゃない」

     ブラドを従えてふんぞりかえるルイーダに歓声が湧く。「さすがルイーダ!」「もっとやって!」と悪い微笑みを煽る。
     って、僕が寄りつかないから絶対怒ってたでしょこれ……。

    「あの、ねぇ〜〜〜〜!」

     わかってる。僕が悪い。
     こんなふうに待っていてくれているなんて、考えもしなくて。

    「ヴァッシュ」

     可愛らしい声が下の方からした。
     いつのまにか僕の足下にいる女の子は、えぇっと……

    「アンリよ。あなたが会ったのは二歳くらいのときかしらね」
    「ああ、そうか。こんにちはアンリ」

     女の子はまるみのある頬をふくらませてにっこり笑うと、両手で抱きかかえていたものを僕に差し出してきた。
     花だった。小さなポットにおさまる、一株の赤い花。

    「ごけっこん、おめでとうヴァッシュ。ニコラスさんとずっとしあわせにくらしてね」

     もじもじと祝福の言葉を口にする子の目の高さに屈んで、やわらかな手からそっと鉢を受け取る。
     それは僕の記憶にあるよりも小さな、ほんとうに小さな花だった。ひとつだけ開いた花のそばに蕾がいくつか眠っている

    「ふふ、ちょうど間に合ってよかった」
    「アンリが毎日世話をしたのよ」

     両手におさまる小さな命。この星で一株咲かせるだけでも、どれだけ大変なことか。
     僕とウルフウッドを囲む、優しいひとたちの顔が滲む。

    「ヴァッシュに会えるのを楽しみにしてたのよ。みんながあなたのことを話すから」 

     鼻がつんとしてきて、ああダメだ。
     泣かないでちゃんと言わなくちゃと思っているのに大きな手が頭を撫でる。
     
     困るよ、きみは時々忘れてるけど僕はすっごく歳上で、ここにいるみんなが小さいときから知ってるんだ。
     僕をそんな小さい子みたいに扱うの、おまえくらいだからなウルフウッド。
     そんなことされたら格好つかないだろ。

    「……ありがとう。大切にするよ」

     それだけ言うので精一杯。でもアンリは嬉しそうにニッと笑ってくれた。途端に場がにぎわい、僕らは集まってきたひとたちのなかでもみくちゃにされる。おめでとうと口々に言われるたびに泣きそうになる。
     声を掛けられてもなかなかうまく答えられない、そんな僕のそばではウルフウッドがそつなく対応してくれて、こういうときに牧師っぽいところが出るよなぁとしみじみ思う。日頃は忘れてるんだけど。

    「ヴァッシュ」

     凛とした声に顔を上げた。
     ジェシカだった。女の子は数年経つと変化が凄まじい。大人っぽくなった彼女はちょっと他のみんなとは違う雰囲気でそこに立っていた。
     なんというか、呼んだのは僕の名前だけど僕じゃなくて、ウルフウッドを──睨んでいるような?

    「やあ、ジェシカ」
    「ヴァッシュ。……おめでとう。ねぇ、牧師の彼はちゃんとヴァッシュを幸せにしてくれるのよね?」

     ずいっとウルフウッドの前に出て指を差す。

    「ヴァッシュを悲しませないのよね?」

     まっすぐに問う強い瞳に幼い頃の彼女の面影が重なる。気丈な性格は年齢を重ねても変わらないようだ。
     しかし彼女が名指しで挑んでいる相手はそれに対して恐縮するような男でもなく。

    「あ、あのさジェシカ。ウルフウッドは、」
    「心配いらん──とかっこよく言いたいとこやが」

     深い暗褐色の睛が静かに彼女の挑むような視線を受けとめる。

    「何せ一度くたばりかけた身ィで、信用がないのも重々承知や。トンガリにも目一杯逃げられたしな。……でもせっかくもらった命、コイツのそばで生きる以外に考えられへんねん」
    「────」
    「すまんな、何言われても貰っていく」

     固唾を飲んで見守るひとの輪の中心で、ジェシカはさらに眉を吊り上げた。ウルフウッドの答えは何の繕いも衒いもなさすぎて、きっとこの場にはそぐわない。偽りのない言葉を選んだんだろうけど、若い女の子相手にはもっと言いようがあるんじゃないかとも思えるほどだ。

    「……ヴァッシュを泣かせたらバズーカ持って乗り込んでやるから!」

     気持ちいいほどの啖呵をきって、ジェシカはズカズカと肩をいからせてホールを出ていった。その背中をブラドが慌てて追いかける。
     暢気なギャラリーはオオーッとどよめいて拍手を送り、真面目に頷き返しているウルフウッドを囲んで酒盛りを始めた。

    「乗り込まれないようにしっかりな兄ちゃん」
    「ヴァッシュ、愛されてるわね」

     どういう顔をしたらいいかわからなくて、ウルフウッドに言われたようにただニコニコとしておいた。そんな僕の手の上にはさりげなくウルフウッドの手があって。
     覚悟、か。
     それはこの手を掴んだときにもう、何度も自分に言い聞かせたはずだった。散々逃げ回って泣きじゃくって、どうしても欲しくて、最後は僕自身が掴んでしまったんだから。
     明日なんてどうなるかわからないのに、それでも。
     


       *



     ふかふかとした緑地に寝そべって伸びをすると、意外に体が強張っていたことに気づいた。深呼吸をすると体内に溜まったアルコールが清新な空気と入れ替わる。

    「きもちいい〜〜」
    「浄化されてまうな……」

     隣に寝転んだウルフウッドも気持ちよさそうに目を細めている。敷地を広げて新たに造ったジオプラント生育用のドームは、地球民から分けてもらった植物を多数植えているらしい。

    「疲れたやろ。すっごい勢いやったなぁ」
    「まったく、こんなことになるなんて……」

     まだ騙されたこと許してないからね。睨んだのに目を細めて笑われた。

    「ヴァッシュ・ザ・スタンピード様、愛されとんなぁ。来てよかったやろ」

     フフンって何だよ可愛いな。
     僕がその顔に弱いこと、もう知られている気がする。このせいで最近は喧嘩が長く続かない。

    「…………うん」

     ごろん、とウルフウッドに向かい合うように寝返りを打った。

    「明日何しよう」
    「ま、オドレは遅くまで寝とるのは確定やろな」
    「……まさか、ここでする気なの」
    「するやろ。一部屋使わしてくれるらしいし、ロステクで防音ばっちりやで」
    「そういう問題じゃないよ。気持ち的にさ」
    「気持ち的に、やからやろ」

     うーん、これ続けても丸め込まれそう。
     とりあえず話題を変えることにする。

    「じゃあ起きたら、アンリにこの花の世話の仕方を聞きにいくことにする」
    「おん」
    「ここから出しても育つかなぁ。蕾が開くところ見たい」

     可憐な花びらの表面にそっと触れてみる。感触がふわっとしているのは、その表面がやわらかい産毛のようなもので覆われているからだった。まるい花弁も葉や茎も水分をよく含んでいて生き生きとしている。アンリはよほど丁寧に世話をしたんだろう。

    「枯らしたくないな……」
    「相談してみよ」 
     
     頷いて、もぞりと体を丸めてそばにある胸に顔をぺたりとつける。眠くなったんなら部屋戻るかと訊かれて曖昧な返事をした。疲れたけど、まだ眠れなさそうな感じがする。しばらくここで何もしないでいるのが心地いいみたいだ。
     すると髪に鼻先を埋められ、生え際に唇が押しつけられる。
     少し擽ったい。

    「あのな」
    「ん」
    「わいはオドレが笑っとんのが好きやから、泣かせたくない。トンガリが泣くと、何やもう胸ん中大変なことになんねん」

     思い出して、僕は耳まで赤くなった。
     そういえばみんなの前で、さっき、あんなことを……。時間が経った羞恥はどうして倍になってやってくるんだろう。

    「そやからもう──二度とあんな思い、させへんようにするから」

     あんな思い。
     まだ僕は、あの日のことを忘れられない。
     自分で振り返ることもできない。今この手で触れられる彼の体温が、本当は夢なんじゃないかと疑ってしまうから。
     確かめたくてまたその温度に触れる。僕より高い、彼の熱。心臓の音が聞こえるくらいに抱き込まれて、ようやく安心して眠る。
     

     いつか、醒める夢とだけは覚悟して。
     

     顎を上げると、何を言わなくとも唇が重なってくる。下唇を遊ぶように啄まれ、少し開いた歯列の間を舌が割り込んだ。

    「ン……、っ」

     髪を優しくかきあげられて泣きそうになる。深まる口づけに覚束なく舌を絡めて、もどかしく体をすり寄せた──
     そのときだ。


    「ふ、ウェックション‼︎」


     やたら大きなくしゃみがドーム内に響いて僕は体を硬直させた。入り口の近くで僕らに背を向けたままくしゃみを続けるいかつい姿が目に入った。

    「あー、ゴホンッ、そういうのはっ、へ、部屋に戻ってからやるようにッ」
    「ブ、ブラド……っ」

     慌ててぐいぐい押し返しても、僕を抱きしめる腕はびくともしない。代わりにチッと舌打ちをする音が聞こえてきた。

    「慣れろや、こちとら新婚やで。これでも我慢してんねん」
    「こら」
    「……いや、邪魔したのは、悪い……」ブラドはバツが悪そうに背中を向けたまま若干体を小さくする。「あのな、ジェシカが──会いに来てくれて嬉しかっただと。……そんでニコラス、おまえにはまたすぐにヴァッシュを連れてこいって」

     言いづらそうにジェシカからの伝言を一生懸命口にするブラドに、僕らは顔を見合わせた。ウルフウッドがニヤッと犬歯を見せて笑う。

    「ああ。すぐ連れてくるて言うといてや」
     そ言葉にホッとしたのか、ブラドが全開の笑顔でこっちを振り返った。
     あ、すごい顔。

    「だからイチャイチャすんなっつうの‼︎」
    「慣れろ」
    「慣れるか─────ッ!」

     ブラドはまぁいいとして、見境なくやるとそれはそれで困るかな。
     今日はこの男に人前ではキスやハグをしないというのを言い聞かさないといけないみたいだ。言い聞かせてみたところで、聞きやしないんだけど。





       *





    「朝早いのにご苦労ね。ヴァッシュは?」
    「疲れてまだ寝とる」

     そう、と短い返事をして、ルイーダは身を屈めたままジオプラントの様子を観察する。

    「……本当にいいの?」

     背後にいるウルフウッドは振り返らず、その真摯な眼差しは目下の草木に注がれたままだ。けれどそれは、恐らく最後の確認だった。答えはわかっているであろうに。

    「昨日も言うたやん。それ以外、この命の使い方なんぞ考えられへんよ」

     奇跡的に息を吹き返したウルフウッドは、ヴァッシュが行方をくらませている間にシップに拾われた。奇跡的、と言ったがそこに何らかの奇跡が働いていたことは明白で、シップでもこの回復は正直有り得ないと言われたものだ。壊滅していた内臓が自ら再生し、動き始めるなど──そこに最期を看取ったはずの男の力が働いていたことは想像に固くない。ヴァッシュにそんな意図はなかったようだが、未だ本人でさえ把握できない力を秘める自立種だ。今後、これがどう作用するのかは全くわからなかった。

    「他人に己のカラダいじられんのはもう真っ平やからな。せっかくの身体、ちゃんと使てやりたいし」

     そのとんでもない生き物と一緒に生きようというのだ。使えるものは何でも試したかった。だから、ウルフウッドはシップを通して地球のプラント研究を学んでいる。勿論シップからも自分とヴァッシュに必要な技術や知識を得るつもりだ。

    「たくさん手伝ってくれるんでしょう? 楽しみだわ」
    「おてやわらかにぃ……」

     ルイーダは微笑んで言うけれども、きっと冗談ではない。ここにしばらく滞在していたときに彼女が目的を遂行するために一切手を抜かないのをウルフウッドは身をもって知っている。

    「ヴァッシュにも随分ごねられたんじゃない?」
     
     それはもう。
     アレを口説き落とすことの大変さと言ったら、これまでに感じたことのないままならなさだった。赤ん坊の方がまだわかりやすい。
     ここ数年の苦労がまざまざと蘇ってきて、長いため息をつきたくなった。本当に──あの笑った顔が、ようやく見られるようになったのだから我ながらよく頑張ったと褒めてやっていいと思う。

    「……トンガリが、明日何するって聞いてくんねん。特別なことは何もあらへんけど、嬉しそうにする。それが一日でも長く続くように足掻くだけや」
     
     観察は終わったのか、立ち上がったルイーダがようやく振り返った。「それにあのねえちゃんにどやされんようにせんと」と舌を出せば、「あらやだ」とわざとらしく頬に片手を添える。

    「盛大に惚気られたわ。今からしごいていいかしら」
    「何でやねん」
     
     早速何か言いつけられそうな雰囲気を感じ取って肩をすくめる。今日からは客ではないということだ。
     一度部屋に戻って、まだ眠っている頬におはようのキスをするくらいの時間は許してもらいたい。
     
     あの天使はああ見えて、かなりの寂しがり屋なのだ。    
                            



     Wolfwood × Vash
     「きみと明日の話を」
     I want to talk about tomorrow with you

      ……forever.

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